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2020年1月から3月にかけて放送されたTVアニメ『ドロヘドロ』は、アニメーション制作会社・MAPPAが初めて3Dベースの体制で挑んだ話題作だ。本記事では8月29日(土)に開催された「CGWORLD JAM Online Vol.1」のセッション「『ドロヘドロ』3D×作画の融合 ワークフロー解説&メイキング座談会 <野球回篇>」の模様をレポートする。

なお本セッションはマウスコンピューターのスポンサードによって行われた。MAPPAは3DCGスタッフの使用機にマウスコンピューターのPCブランド「DAIV」シリーズを採用しており、『ドロヘドロ』の制作にも使用されている。

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TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

TVアニメ『ドロヘドロ』
Blu-ray BOX上下巻発売中!
価格:各17,800円+税

原作:林田球/ 監督:林祐一郎/ シリーズ構成:瀬古浩司/キャラクターデザイン:岸友洋/美術監督・世界観設計:木村真二/ 画面設計:淡輪雄介/色彩設計:鷲田知子/3DCGディレクター:野本郁紀/撮影監督:朴孝圭/編集:吉武将人/音響監督:藤田亜紀子/音楽プロデュース:(K)NoW_NAME/制作:MAPPA
dorohedoro.net
©2020 林田球・小学館/ドロヘドロ製作委員会

原作者からの要望でアニメ化が決まった野球回

セッションには画面設計・クリエイティブプロデューサーの淡輪雄介氏、3DCGディレクターの野本郁紀氏、3DCGアニメーションディレクターの奥納基氏、演出・作画監督の小松寛子氏が出演。3Dチームの編成やワークフローの策定、作画表現との線引きについて解き明かしていった。

まずは『ドロヘドロ』の企画の経緯について説明した。本作のアニメ化は、2017年3月に東宝から企画書が届いたことがきっかけである。『ドロヘドロ』のファンだった淡輪プロデューサーは、MAPPAの大塚 学社長に嘆願して自ら作品を担当した。

2017年6月には監督に林 祐一郎氏、脚本に瀬古浩司氏、背景美術に木村真二氏と、メインスタッフ案が固まる。『ドロヘドロ』の原作は描画が非常に細やかだが、このメンバーならハードルの高い要求にも応えられるだろうと考えての起用だった。

11月にはシリーズ構成案が提出され、原作からどのエピソードをアニメ化するのかを決めたものの、この段階では野球回は選ばれていなかった。しかし12月中旬に行われた原作者の林田 球氏との打ち合わせで、「野球回はファンから人気が高いエピソードなのでぜひ映像化してほしい」というリクエストを受けて、7話として制作することが決まった。

翌18年4月にはキャラクターデザインの岸 友洋氏がメインキャラクターのデザインを提出し、8月に3Dキャラクターモデル制作がスタート。この時点で放送開始まで約1年4ヶ月。3DCG作品としては比較的短い準備期間で作業を進めることになった。

作業の効率化が求められる中で重要になったのは、キャラクターの衣装を整理することだった。『ドロヘドロ』はキャラクターの服装が頻繁に変わる作品のため、衣装モデルを事前に用意する必要がある。そのため、脚本を基に各キャラクターの登場頻度を整理し、どのような衣装が必要になるのかを確認した。そこであまり登場しない衣装であれば新規モデルはつくらず、3DCGの上から作画で直接加筆する「CG+作画かぶせ」というハイブリッドな手法で対応することを決めた。

▲CGモデルに作画で別衣装を加筆した例

セッションではキャラクターの衣装を作画によってどう変更したのかという実例も紹介。作画が必要な衣装ごとにベースとなるCG衣装を選定し動きをつける。カイマンの例では、ぴっちりとしたTシャツの上に浮き出た鎖骨のラインなどを活かしたまま、新たな衣装をデザインできた。淡輪プロデューサーは「腕の太さなどを作画で調整することはありましたが、基本的に使える線はCGのものをそのまま流用しています」と解説を加えた。なお、CGモデルの制作についてはこちらの記事で解説しているのでぜひ参照してほしい。

3D×作画のハイブリッドカットは40%

MAPPAは自社の3D班で1話、6話、7話、12話の3D制作を担当。通常の制作期間は1話数あたり13週ほどだったが、7話は全話でも最長となる18週のスケジュールを要した。野球回は作画ベースの可能性があったが結果3Dベースとなり、MAPPA内で他話数と並行作業になったためだ。

ワークフローは「3Dセル」、「作画セル」、ハイブリッドの「3Dセル+作画セル」の3種類に分けて、演出の打ち合わせ時にコンテを見ながら、どのカットがどれに分類するのかを判別していった。「3Dセル+作画セル」の場合は、2Dのアニメーターにタイムシートを渡さなければならないが、3Dアニメーターがわざわざ紙のシートに書き込むのは手間がかかる。そのため2Dのアニメーターには、セル番号とタイムコードが表示されたCGムービーを渡し、作画作業時にそれを見ながらシートを打つ方式が採られた。

『ドロヘドロ』は全カット中、「3Dセル」が42%、「作画セル」が18%、「3Dセル+作画セル」が40%だった。「3Dセル+作画セル」は前述の作画かぶせのカットだけでなく、3Dモデルのないモブキャラクターがメインキャラクターと同じ画面にいるカットや、作画で描いたエフェクトを加えたカットなども含まれている。

レイアウトの割合は3Dが82%、作画が18%となっている。作画先行レイアウトの使用は、作画キャラクターしか登場しないシーンや、全セルで背景が見えないカットなど一部に限られた。

作画監督の修正率は47%。作画監督がほぼ全カットを見て修正する2Dのアニメと比べると少ない割合となっている。これは、本作ではモデリング時にキャラクターデザインの岸氏の作監修正を踏襲しているので、3Dキャラクターは作監修正を入れないフローになっているためだ。ただ野球回では演出の小松氏が作画監督も兼ねていたため、演出チェックの段階で画に手を加えた。その理由について、当初は3Dパートに対しては作監修正をしない予定だったが、今回が初演出だったため、どの程度直せばいいのか塩梅がわからなかったからだと明かす。結果的には3Dカットに対しても作監修正を兼ねた演出チェックを行なったため、約340カットほぼ全てに修正が入っている。

3Dをどれだけ作画に寄せていくのか?

後半のメイキング座談会では野球回制作時のエピソードが披露された。野球回のポイントについて奥納氏は、林監督から「サメダンスにこだわってほしい」という要望があったとコメント。しかしサメダンスは原作では読者に委ねるような描き方がされており、コンテでも細かな指示はなく、子どもっぽいユルめのダンスという方向性しか決まっていなかった。そのためアニメーターのアドリブによってどのようにも料理できる難易度が高い内容と言えた。

それに応えるため、小松氏はアニメーターに細かく指示をするのではなく、雰囲気を伝えて自由に動かしてもらったと話す。実際にできあがったカットは、キャラクターの歌声に合わせて動きがつけられており、このままでも十分に魅力的な出来映えだった。その後、小松氏がサメのシルエットの魅力が活きるように修正で微調整を加えてシーンが完成。その仕上がりを見た奥納氏は「面白い映像になって安心しました」と笑顔を見せた。

▲サメダンスのカット。動画の最初から順にCGアニメータが制作したTake 1、小松氏による修正、最終的な納品データの3段階

制作中に悩んだ点としては、小松氏が「3Dがメインの作品なので、作画監督としてどれだけ手描きに寄せれば良いのか」という判断の難しさに触れた。林監督からは「あまり遠慮をせずに、直したいと思ったら直していい」と言われていたため、積極的に手を入れる方針にして、3DCGが苦手とする口や顔は重点的にチェックを入れていった。

小松氏の仕事ぶりについて奥納氏は、修正がコメントだけでなく、実際にどのように直せばいいのか絵で示してあったことが非常に役立ったと語る。「3Dは業界的に文面だけ口頭だけで説明がまかり通ってしまってる部分があるが、今回のように絵でもらえるとわかりやすいし、作業者自身も納得しやすい」と利点を述べ、「リテイク率も各段に減るのでスケジュール面でもクオリティ面でも有効でしたね」と制作当時を振り返った。

また『ドロヘドロ』では表情を細かく調整するCGアニメーターも多かったそうだ。そのため担当者ごとの個性が生まれて、CGアニメながら顔にバラつきができたことも、本作のユニークな特徴となっている。

セッションではユーザーからの質疑応答の時間も設けられた。「アセットを購入して配置することはありますか?」という質問には、野本氏が「けっこうやっていますよ」と回答。3DCGのキャラクターが物をもつ場合、そのプロップは3DCGで表現しなければいけないという処理上の都合もあり、あまり目立たない小物に使うことが多いという。

例えば野球回では、グローブやボール、バットなどはこういった有料モデルを購入している。もちろん他のモデルに馴染ませるため、テクスチャを描き直すなどのリビルドをして、一見それとわからないような処理を施しているとのこと。

小物でもイチからモデリングをする場合は設定を起こす必要があり、参考資料も買わなければならない。しかしアセットを購入すればそういった手間はかからず、使えるモデルの一覧を監督に見せて演出の幅を広げることもできる。プリプロに時間が取られないという利点もあり、購入してしまった方が順調に進むことも多々あるそうだ。

最後にMAPPAのデジタル作画班についての話題に。小松氏は「3年前までMAPPAは紙がメインのスタジオで、パソコンや液晶タブレットもない状態からのスタートだった。そこでまずは新人の動画マンに、動画と仕上げをセットにして教えることにしました」と当時をふり返った。仕上げまでの作業を経験すると、その後のセクションである撮影がどのような素材を使っているのかや、セルワークなども具体的に学ぶことができる。そのため『ドロヘドロ』のような「CG+作画かぶせ」の作業も問題なく進めていくことができたのだという。

淡輪プロデューサーは「『ドロヘドロ』は作業内容的にも他の動仕会社に依頼しにくかったため、社内のデジタル作画班がいなかったら成立しなかっただろう」とコメント。社内での綿密な連携が作品づくりに役立つことも伝わってくるセッションとなった。