怖くて、笑えて、最後はホッとする、「こわいけど、おもしろい」おばけの童話シリーズ「おばけずかん」が、1話2分(OP除く)のTVアニメシリーズとなり、テレビ東京系列の『おはスタ』で放送中だ。After Effects(以下、AE)による2Dアニメーションと3DCGを組み合わせたアニメ『おばけずかん』の制作過程を、イワタナオミ監督ファンワークスのスタッフに語ってもらった。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 265(2020年9月号)掲載の「TVアニメシリーズ『おばけずかん』累計75万部突破の人気童話をイワタナオミ監督がアニメ化」を再編集したものです。

TEXT_野澤 慧 / Satoshi Nozawa
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲【公式】アニメ『おばけずかん』第1話「もくもくれん」


  • ◀左から、プロデューサー・高山 晃氏(ファンワークス)、絵コンテ/演出/第3話・第7話ほか・松井久美氏(ファンワークス)、監督・イワタナオミ氏、制作進行・西山裕美氏(ファンワークス)、アシスタント・山田 裕季氏(ファンワークス)、アニメーション進行・難波佑季氏(ファンワークス)


キャラクターアニメ界の最強タッグ "イワタナオミ監督×ファンワークス"

子供たちからの絶大な人気を誇る童話「おばけずかん」をアニメ化した本作。制作を担うのはキャラクターアニメの大家ファンワークスだ。『やわらか戦車』に始まり、最近は『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』『ざんねんないきもの事典』など、数多くの作品をヒットさせてきた。そんな同社に対し、『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のプロデュースなどを手がけるEGG FIRMが本作の制作を打診。

それを受けたファンワークスの高山 晃氏(プロデューサー)は、イワタナオミ氏に監督をオファーしたという。イワタ氏といえば『GREGORY HORROR SHOW』、『ペコラ』、『ピングー in ザ・シティ』などを手がけてきた3DCGアニメーションの第一人者。ポップな色遣いと、個性的でかわいらしいキャラクターたちが生み出す独特の世界観が、アニメファンに留まらない多くの人々を魅了し続けてきた。そんなイワタ監督の創作活動の出発点は、実は絵本だったというから、本作との相性は言うまでもない。イワタ作品を初期から追いかけてきた高山氏は「最初から、本作の監督はイワタさん以外ありえないと確信していました。イワタさんが受けてくれるなら、当社でやれる、むしろやりたいと思っていました」と語った。イワタ監督としても、数多くのキャラクター(おばけ)が登場する原作にとても魅力を感じたため、トントン拍子に企画が進行したという。

▲アニメ『おばけずかん』の作中カット。【左】の「おばけずかん」は3DCGアニメーション、【右】のおばけ(第7話に登場するノーマン・バス)は2Dアニメーションで表現されている。本記事の後半では、これらのカットのメイキングを紹介する


企画を練り上げる中で、原作のおばけのデザインをイワタ監督がアレンジして再構築すること、毎話新規のおばけを登場させること、2Dアニメーションを主軸としつつ3DCGも織り交ぜて制作することなどが決定。それに対応できるフットワークの軽い少数精鋭の制作チームが編成され、効率的な手法と柔軟なワークフローが構築された。以降では、具体的な制作の裏側を覗いていこう。

Topic 1:イワタ版『おばけずかん』ができるまで 〜デザイン〜

前述の通り、本作のアニメーション制作は17名ほどの少数精鋭が担っている。キャラクターデザインはイワタ監督、シリーズ構成・脚本は『ピングー in ザ・シティ』の脚本も手がけた田辺茂範氏、美術監督は白佐木和馬氏が担当。さらに美術 1名、絵コンテ/演出 5名、作画 2名、3DCG 1名、2Dアニメーター 5名が脇を固める。制作進行の西山裕美氏らを加えても20名程度という少なさだが、「力のあるスタッフが揃っているので心強い」とイワタ監督は語った。

童話をTVアニメにするためオリジナルの主人公を提案

本作用の設定は2019年の夏頃から検討が始まり、TVアニメシリーズとして成立させるため、ヒロシというオリジナルの主人公を立てるというアイデアをイワタ監督が提案した。ヒロシは小学生の男の子で、帽子の姿をした化け猫のボーニャンをかぶっている。さらに「おばけずかん」を投影するスマホとして、プロップのバケホもデザインされ、ヒロシはバケホを操作して、出会ったおばけを「おばけずかん」に記録していくというストーリーが考え出された。これらのアイデアは原作者や製作委員会にもすんなり受け入れられ、10月以降は前述のスタッフを集めつつ、キャラクター・美術・ストーリーなどの細部を詰めていったという。

TVアニメシリーズを支える、オリジナルキャラクターや美術

▲ヒロシとボーニャンのデザイン決定稿


▲バケホのデザイン決定稿


▲イワタ監督によるヒロシの部屋のイメージ。最終的にはさらに明度が抑えられ、キャラクターの誘目性が高められた。本作の美術はイワタ監督のイメージを基に制作されており、輪郭線を描かないフラットなデザインで、ライトなトーンが選択された。ビビッドなトーンのキャラクターとのコントラストが明確で、キャラクターに視線が集まる設計となっている

原作のおばけのもち味を、ポップでかわいらしいデザインへとアレンジ

宮本えつよし氏による原作のおばけをアレンジするにあたり、イワタ監督は「ガラッと変えるのではなく、宮本先生の味のある絵をポップ寄りのテイストに置き直すことを意識しました」と語った。キャラクターとして成立していることを重視しつつ、量産に耐えられるか、動かしやすいかといった部分も考慮したという。例えば、途中段階では太さが変化するラインの使用も検討されたが、最終的には量産が容易な均等な太さのラインが選択された。なお、本作では美術の方向性もイワタ監督が提示している。西山氏は「本作のキャラクターと美術はまったくちがうテイストなのに、合わせるとしっかり調和します」と、そのすごさを語った。

▲【左】原作の「よなかなまず」©斉藤洋・宮本えつよし/講談社/【右】イワタ監督によるラフ


▲ライン・デザイン・配色を試行錯誤している


▲本作用のデザイン決定稿。モブも含め、本作のキャラクターは全てイワタ監督がデザインしている。先に紹介した試行錯誤段階では太さが変化するラインも使われているが、量産や動かしやすさの点で不安があったため、上の決定稿では均等な太さのラインに変更された


▲ 【左】原作の「じんめんかぶとむし」©斉藤洋・宮本えつよし/講談社/【右】本作用のデザイン決定稿


▲ 【左】原作の「れいぞうばばあ」©斉藤洋・宮本えつよし/講談社/【右】本作用のデザイン決定稿。「じんめんかぶとむし」と「れいぞうばばあ」は比較的大胆なアレンジが加えられており、よりポップでかわいらしいデザインになっているが、原作のもち味は維持されている


©斉藤洋・宮本えつよし・講談社/「おばけずかん」製作委員会 

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Topic 2:イワタ版『おばけずかん』ができるまで 〜カット制作〜

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Topic 2:イワタ版『おばけずかん』ができるまで 〜カット制作〜

キャラクターや美術と並行して、11月からはシリーズ構成・脚本の制作も始まった。12月には第1話の絵コンテ制作もスタートし、Vコンテ制作、カット用のキャラクターおよび美術の素材制作、3DCG制作、AEによる2Dアニメーションやエフェクト制作にも順次着手していった。その間、要所要所でイワタ監督や製作委員会によるチェックも行われ、第1話が完成したのは2020年の3月だった。「第1話は本作のつくり方や演出の方向性を試行錯誤するパイロットフィルムのような側面ももっていたので、特に時間をかけました」と高山氏は語った。なお、第2話以降は第1話で定まった指針の下、スピードを上げつつ制作しているという。

イワタ監督のデザインをしっかり再現できるしくみを構築

本作の指針のひとつとして "イワタ監督のデザインをしっかり再現する" ことが掲げられた。2Dアニメーションの制作ツールにAEを選択したことも、この指針が関係している。AEであれば、イワタ監督がIllustratorで描いたデザイン画をそのまま2Dアニメーションの素材に転用できる。足りない素材は前述のデザイン画を参考に作画スタッフが新たに作成した。その結果、イワタ監督のデザイン画の絶妙なバランスを崩すことなく、効率的に各話のカットを量産できるしくみが構築できた。なお、各素材はIllustratorのレイヤーで管理されており、素材名がレイヤー名にもなっている。打ち合わせやディレクション時にも前述の素材名を用いることで、情報伝達に齟齬が起きないよう配慮されている。

イワタ監督が描いたデザイン画を、2Dアニメーションの素材に転用

▲イワタ監督によるヒロシの表情集。初期の試行錯誤の段階で描かれたものだが、本作の方向性に合わないという理由でボツになったもの以外は、2Dアニメーションの素材として転用されている


▲バケホ、ヒロシ、ボーニャンの表情差分を含む全素材を格納したIllustratorデータ


▲各カットで用いる素材を打ち合わせで決定した後、その素材を先の全素材格納データからコピーして、カット制作用のデータがつくられる


▲カット制作時のAEの作業画面。先のカット制作用のデータや美術のデータをAEにインポートし、各パーツにアニメーションを付けている。カット制作用のデータは黒目・白目・シワ・口などのパーツ単位に細かく分かれており、表情やポーズの差分も格納されているので、組み合わせや移動・変形によって様々な表情とポーズを付けることが可能。打ち合わせでは、目パチのタイミングにいたるまでイワタ監督が細やかな指示を出している

ポップなデザインであると同時に、懐かしさも内包している美術

美術に関しても、初めて登場する場所はイワタ監督がデザイン画を描き、それを基に美術監督の白佐木氏と美術スタッフが各話の美術を作成している。昨今のアニメは写実的な美術が主流で、写真をトレスすることも多い中、手描きのような柔らかさをもつ本作の美術は異質だ。白佐木氏は本作の独特の作風をしっかり理解し、アニメの美術として展開してみせた。余談だが、白佐木氏は『ウゴウゴルーガ』のCGアニメーションコーナーに登場した「ミカンせいじん」の生みの親でもある。こうした敏腕クリエイターたちがイワタ監督のイメージをズレなく再現していく体制が、本作の魅力を支えている。

▲ 【上】イワタ監督による音楽室のデザイン。デザイン画であると同時に、イラストレーションとしても成立する画になっている/【中】先のデザイン画を基に描かれた第2話の美術/【下】先の美術を使った作中カット


▲ 【上】イワタ監督による病院のデザイン/【下】先のデザイン画を基に描かれた第3話の美術。ポップなデザインであると同時に、昭和を彷彿とさせる懐かしさも内包している


©斉藤洋・宮本えつよし・講談社/「おばけずかん」製作委員会 

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「おばけずかん」の投影シーンでは、3DCGによる印象的な画を実現

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「おばけずかん」の投影シーンでは、3DCGによる印象的な画を実現

▲ バケホで「おばけずかん」を投影するシーンは3DCGで制作。立体的なカメラワークにすることで、ほかとはちがう印象的な画を実現している。【上】Mayaの作業画面/【下】先のシーンのレンダリング画像


▲ 背景はAE上で合成しており、様々な色とデザインのアイデアが出された。最終的に【下】の青地に火の玉が浮かぶ背景が選ばれた


▲ 背景を設定中のAEの作業画面


  • ◀完成映像

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メリハリのある動きで、ヒロシの驚きとおびえを表現

▲ 【左列】第1話のヒロシのアニメーションの初期テイク/【右列】完成テイク。前者は手足をバタバタと上下に動かすことで驚きを表現している一方、後者は足だけを動かして椅子ごと後ずさり、最後にギュッと手足を縮め、涙目になって上唇を咬むことで驚きとおびえを表現している


本作ではメリハリのある動きが重視された。第1話では前述のようなアニメーションや演出の方向性が試行錯誤されたので、とりわけ長い制作時間を要した。「3DCGは素材をつくらなくても柔軟にカメラワークを変更できるメリットがある反面、間延びしたカットをつくりがちです。一方、2Dアニメーションは素材制作の手間がかかるからこそ、カットを計画的に切るようになり、結果としてテンポの良い映像になるというメリットがありますね。カットのつくり方がシンプルなので、リテイクに応じてもらいやすいというメリットもあります」(イワタ監督)。

名作映画へのオマージュをはじめ、数多くのこだわりが詰まったノーマン・バスの飛翔カット

▲ 第7話で、ノーマン・バスが真夜中の商店街を走行した後に飛翔し、月を横切るカットの絵コンテ


▲ 先のカットの美術


  • ◀先のカットのアニメーション

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イワタ監督はスタッフの意見に耳を傾けながら制作を進める性格で、いつもは強く主張しないが、本カットでは珍しく「ぜひ月を横切ってほしい」と譲らなかったという。「映画『E.T.』をリアルタイムに観ていた世代は "月があったら横切らなくてはいけない" と刷り込まれているんです。親世代の視聴者の中には、共感してくれる人もいると思います」とイワタ監督は笑った。商店街を走行していたノーマン・バスが、その直後に月を横切る演出は無理があるのではとスタッフは危惧していたが、美術の月の高さや大きさ、ノーマン・バスの飛翔時の角度やタイミングを細かく調整し、違和感のない映像がつくられた。加えて、絵コンテ段階では真横を向いていたノーマン・バスの顔の角度が途中で変更され、常に顔が見える角度で描かれるようになった。「物理的には不正確ですが、キャラクターの描き方としては正解なんです」とイワタ監督は解説した。よく見ると、ヒロシと運転手の位置関係にも2Dならではの噓が含まれており、細部までこだわり抜いた渾身のカットに仕上がっている。

今も制作が続いている本作について、西山氏は「本作で培ったノウハウが、次の作品につながるだろうと期待しています」と話った。さらに高山氏は「子供たちの間で話題になるような作品にしたいです」と続け、イワタ監督は「1話完結のお話ですが、シリーズ全体を通してヒロシとボーニャンの成長も描く予定です。子供はもちろん、お母さんやお父さんも共感してくれる物語にしたいです」と話してくれた。


©斉藤洋・宮本えつよし・講談社/「おばけずかん」製作委員会 

info.

  • TVアニメシリーズ『おばけずかん』
    テレビ東京系列『おはスタ』にて毎週水曜日あさ7時20分頃から絶賛放送中!
    原作:斉藤 洋・作/宮本えつよし・絵「おばけずかん」シリーズ(講談社 刊)
    監督:イワタナオミ
    脚本:田辺茂範
    プロデュース:EGG FIRM
    アニメーション制作:ファンワークス
    製作:「おばけずかん」製作委員会
    www.shopro.co.jp/tv/obakezukan/



  • 「レストランのおばけずかん ふらふらフラッペ」
    斉藤 洋・作/宮本えつよし・絵
    発売日:2020年7月28日
    本体価格:1,100円
    累計75万部突破!大好評の「おばけずかん」シリーズは、たのしいおばけがいっぱい登場する、「図鑑」という名前の童話です。それぞれのおばけが、どんなふうに怖いのか。そうならないためには、どうしたらだいじょうぶなのかを、ユーモラスな短いお話仕立てで紹介しています。登場するおばけはちょっと怖いけど、ちゃんと対応してあげると、意外になさけなくて、かわいいところもあったりします。怖くて、笑えて、最後はホッとする、「こわいけど、おもしろい」おばけの童話シリーズです!
    book-sp.kodansha.co.jp/obakezukan/lineup.html



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.265(2020年9月号)
    第1特集:どこまで使える? Blender
    第2特集:ワンランク上の建築ビジュアライゼーション
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年8月7日
    cgworld.jp/magazine/cgw265.html