2020年12月12日(土)、モーショングラフィックスファンが毎年心待ちにしているイベント「Motion Plus Design World | Japanese edition」が開催された。日本選りすぐりの7人のモーションデザインアーティストが登壇した同イベントから、冠木佐和子氏田島太雄氏稲葉秀樹氏の講演を紹介した中編に続き、本稿ではポール・ラクロワ氏辻川幸一郎氏の講演の見どころを、ファウンダーであり主催者のクック・イウォ氏のコメントを交えながら紹介する。

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TEXT&PHOTO_山本加奈 / Kana Yamamoto
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

フランス人のメディアアーティストが日本で生み出すフェイス・プロジェクションマッピングのグローバルトレンド/Paul Lacroix氏

流暢な日本語でプレゼンテーションを行なった日本在住15年のポール・ラクロワ氏は、テクニカルディレクター、エンジニア、プログラマー、メディアアーティストの肩書をもつフェイスプロジェクションマッピングの第一人者。キャリア初期の段階ではポリゴン・ピクチュアズで『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊2.0』(2008)の制作に携わった。その後、プログラミングのスキルとデザインをかけ合わせ、徐々にインタラクティブコンテツやプロジェクションマッピングを手がけるようになっていった。

Paul Lacroix/ポール・ラクロワ
paul-lacroix.com

日本ではまだまだプロジェクションマッピングが未開の頃、ポール氏はコンテンツだけでなく、ワークフローやノウハウをも構築していた。東京ジョイポリスのリニューアルの際には3Dバーチャルキャラクターを使ったオリジナルシステムを開発。「OptiTrackのモーションキャプチャシステムで、赤外線カメラを使って体の上のマーカーをセンシングし、処理をするとステージにキャラクターが出てきます」。この経験から人の身体にプロジェクションマッピングをするというアイデアが沸いてきたそうだ。

しかし「人体には骨や筋肉、肌がありそれらが全て動いている」ため、技術的にはかなり難しいともわかっていた。そんなときに舞い込んだ仕事が、顔にプロジェクションマッピングをするというもの。「これならできるだろう」と開発に着手。OptiTrackを再び採用し、3Dスキャンをしたデータと2Dのビデオテクスチャをリアルタイムにレンダリングする仕様だ。テストを重ね人間の顔でテストをしたときには、自分自身そのインパクトに驚いたそうだ。

▲『OMOTE』(2014)/ポール氏が「天才!」と全幅の信頼を置くメイクアップアーティストのクワハラヒロト氏とコラボレートした作品。一週間で500万ビューとなった世界初のフェイスプロジェクションマッピング

この作品はリアルタイムのフェイストラッキングとプロジェクションマッピングを組み合わせた世界初のプロジェクトとなる。その後、2014年には『SMAP×SMAP』番組内で行われた『FACE HACKING』、Empara MiのMV、海外での大規模なイベントなど広い舞台へと繋がっていくことに。そうして昨年、映像ディレクター橋本大佑氏、プロデューサー土井陽絵氏と共に挑んだのは、難しいとしていたボディ・プロジェクションマッピング作品『Parted』。開発に1年ほどかけている。

▲『Parted』(2020)

「結果は大事ですがクリエーションプロセスもとても大事。テクニカルの制約、物理的な制約もあって難しいですが、頭の中のアイデアに至る道を見つけるためにチャレンジすることが好きです」と語るポール氏の作品は、最新のテクノロジーを使いながらも、身体的であり精神世界や体温さえも感じられる。

クック氏のひと言:「ポールはフェイスマッピングの第一人者でありオリジネーター。そして次に何が来るかを知る人です」。

辻川幸一郎を形成する5つのモチーフ/辻川幸一郎氏

「日常のふとした瞬間に浮かぶ妄想や幻覚を子供の手遊び感覚で映像化している」と、自身の活動を説明する辻川氏は、22年にわたり映像ディレクターとして活躍し続けている。デビューからしてタイムレスな映像作品を生み出しているのだが、そんなスーパースターが20年以上のキャリアで見えてきたものを、分析して語ってくれたことは、多くのクリエイターの参考になったのではないだろうか。

辻川幸一郎/Koichiro Tsujikawa
tsujikawakoichiro.com

「まとめてみたんですけど、この5つは何度も自分が企画する映像でテーマにしてきました」と辻川氏が語る5つのモチーフがこちら。

1:シンクロ
2:身体パーツ
3:液体
4:ストップモーション
5:子供

これらの魅力を語る前に、辻川氏が映像ディレクターを始めたきっかけを紹介したい。グラフィックデザイナーだった辻川氏に映像を勧めたのはコーネリアスの小山田圭吾氏。デザインの仕事を通じて知り合った2人は、意気投合し友人になる。小山田氏も相当の映像マニアだったようで「Videodeck Food」と呼ぶ映像をコレクションしたVHSを自作していたそうだ。ミックステープのごとくミックスビデオをつくって、お互い交換しあったりしているうちに、コーネリアスのMVを制作することになっていた。辻川氏は今でも映像をつくっていて一番楽しいのは、小山田氏に「どう?」と見せている感じで制作に向き合っているときだという。

では辻川幸一郎をつくる5つのモチーフを順番に紹介していこう。1つ目は「シンクロ」。影響を受けたアーティストの1人としてオスカー・フィッシンガーを挙げた。抽象アニメと音を完全にシンクロさせたフィッシンガーのスタイルは、水をフィッシンガーのように使った、コーネリアスの『Drop - Do It Again』などに色濃く見ることができる。「シンクロは音楽と映像のおもちゃみたいな感じ。中毒性が高い映像手法です」。

▲コーネリアス『Drop - Do It Again』MV

2つ目は「身体パーツ」。辻川氏の作品では感覚器に絞られたかたちで身体パーツがよく登場する。「身体的な運動を伝えたいというよりも身体的な感覚を伝えたい気持ちが強いんです」。辻川氏は、その理由を自身がミュージックビデオ制作出身ということに由縁があるのではと推測する。「MVは、映像の視覚と音の聴覚を響き合わせて増幅させる"感覚増幅装置"」というのは印象的な言葉だった。中でもプリミティブな「触覚」の象徴である"手"は辻川作品に多く登場する。

3つ目は「液体」。蛇口から出てくる一滴の水から、海まで幅広く液体が描かれる。「日常的に触れる水ですが、スローモーションで見てみると実はものすごい動きをしている。そこには意識覚醒の扉があるように感じるんです。何回も撮っても飽きないのが液体ですね」。

▲コーネリアス『Surfing on Mind Wave Pt2』MV

4つ目に挙げたストップモーションは手法だが、辻川氏にとってはもはやモチーフ的な存在と化しているそうだ。「1フレームごとに動かして撮影」をくり返してつくられるストップモーションに「手作業の圧力みたいなもの」を感じると話す。なかでもクレイアニメーションが好きで、グニャグニャと形を変えるモーフィング的な動きには「映像の魔術のようなものを感じます」と語っていて、辻川氏はその感覚をCG作品(コーネリアス『Omstart』)にもふんだんに採り入れているところが面白い。

▲コーネリアス『Omstart』MV

5つ目の「子供」は、辻川氏がこれまで語ってきた全てを体現する存在。映像の企画制作をするときには自身の子供時代の記憶をよく利用しているそうだ。「記憶」は、子供から今に至るまで何度も脳のスクリーンに投射され再生され続けてきた。それは映像的な経験だと語る。5歳の息子をもつ辻川氏にとって、子育てはさらに強烈な体験であり、「子供時代の記憶をもう1回再生産するようなところがあって新鮮」と、臨場感たっぷりにエピソードを披露してくれた。この体験は自分の子供の手を3Dスキャンしてつくった、ストップモーション作品『てっちゃん』にて集約されている。

「スケールのでかいこともやらなきゃなと思ってた時期もあったんですが、この年になるとつくづく好きなものってあまり変わらないんだなって。それはそれでもうしょうがないのでこれからも自然体でつくっていきたいなと思っています」。

クック氏のひと言:「辻川氏は日本のミシェル・ゴンドリー。五感で遊んでいるような映像の数々。ただただ素晴らしいです」。

「Motion Plus Design」ファウンダーのクック氏は、日本のアーティストに対してこうコメントする。「独自のカルチャーをもっていてオリジナリティが高いと感じています。他の世界とは違う視点をもっている。これからも自分らしい表現を続けてほしい。グローバルに仕事をしたいと考えているアーティストはぜひSNSで発信してください!」とメッセージを届けてくれた。

初のオンライン開催となった「Motion Plus Design World | Japanese edition 」いかがだっただろうか? コロナ禍という厳しい環境にも負けずグローバルスケールで盛況のうちに幕を下ろした2020年だが、2021年はオンラインの良さも採り入れながら、フィジカルイベントでモーションデザインファンと熱を共有したいものだ。