CGアニメーターに求められる役割は、本来の動きを付けることに加えてカメラまわりや演出的な部分など、非常に多岐にわたります。これらの複合的な要素を、ひとつのアニメーションとして求められるクオリティで実現するには、やはり基本的な技術を積み重ねることが重要です。それらについて作例を基に解説していきます。

[Profile]

ノブタコウイチ

神央薬品代表取締役/CGプロデューサー/ディレクター。20代後半まで自動車工場にて工員として勤務。フォークリフト免許あり。パソコン好きから一念発起してTVアニメシリーズでCGアニメーターとしてデビュー、その後に数々のCM、映画、ゲーム作品に参加し、2012年に独立。現在はCGプロデューサー兼ディレクターとして多方面で活躍中。呑んべぇJAPAN代表、VES(米視覚効果協会)会員。

  • みうら

    スーパーアニメーター。オリジナルアニメシリーズでCGアニメーターとしてデビュー、その後に数々の CM、映画、ゲームにおける難関のCGアニメーショ ンに携わり現在にいたる。難易度の高いアニメーションと長尺のライド感あふれるカメラワークには定評がある。www.zinou.jp/




主な作品

『アシュラ』、『ONE PIECE FILM Z』、『ドラゴンボールZ 神と神』、『キャプテンハーロック』、『劇場版 SPEC~結~』、『映画プリキュアオールスターズ NewStage3 永遠のともだち』、『悪夢ちゃん The 夢 ovie』、『聖闘士星矢 Legend of Sanctuary』、『暗殺教室』、『寄生獣 完結編』など

基本的な技術を身につけて違和感を取り除こう!

アニメーションとは、キャラクターに命を吹き込むことです。命を吹き込むために、アニメーターはカメラマンであり、役者であり、演出家でなければいけません。単に動きを付けるのではなく、前後カットのつながりや見え方、音のイメージまでも意識してアニメーションさせる必要があります。ただ、CGアニメーションではそれらを伝えるのが大変難しく、硬い表現になってしまったり、中途半端な動きになってしまうことも多いです。そのようなアニメーションは「CGくさい」とよく言われます。

CGアニメーションではCGだということを見ている人に意識させないことが大事で、下手なCGアニメーションは初見で何かちがうなという違和感を感じます。そこには「魂」や「愛」が入っていないのです。大げさなようですが、この表現が一番しっくりきます。作り物の人形がただ動いているだけのように感じるので、まずはそれらの違和感が何に起因するものなのかを分析し、それらを払拭することから始めるのがアニメーション上達への近道だと思います。

初中級レベルのアニメーターを見ていると、自然なポーズをとれていない人が多いです。ポーズが硬かったり重心がちがったりと様々ですが、まずはキャラクターを左右非対称にすることと、カメラのど真ん中にキャラクターを配置することを意識的に行なってみてください。もうひとつ基本的な技術として覚えておいてほしいのが予備動作です。物が急に動いたり止まらないのと一緒で、パンチを打つ前には構えなくてはいけないし、ジャンプするためにはしゃがまなくてはいけません。この予備動作は非常に大事で、ここで力の入っていないポーズや動きそうもないポーズにしてしまうと全てが台無しになってしまいます。アニメーションの質を上げるには、まずはこういった基本をきちんと押さえることが重要なのです。

Q&A Animator 01

自身のアニメーターとしての豊富なキャリアをベースに、多くのアニメーションの良し悪しを判断してきたノブタ氏。経験に裏打ちされた含蓄ある言葉に耳を傾けてみよう。

Q1:アニメーションが上手くなるためには、経験上どのようなトレーニングを積むのが有効だと思いますか?

A1:反復練習をすることです。走り、歩き、ジャンプ、パンチ、キックなどのいろいろなポーズをくり返し練習することによって、アニメーション制作のスピードは格段に上がります。スピードが上がれば、考える時間や迷う時間、悩む時間、そして何と言ってもやり直す時間を作り出すことができます。作るのが大変なアニメーションのショットはどうやっても時間がかかるので、簡単な部分を早く終わらせて、難しい部分についてイメージしたりトライ&エラーする時間をどれだけ確保できるかが、限られた時間の中でクオリティの高いアニメーションを作り上げるためのカギです。

Q2:手を動かすこととは別に、普段の生活の中で意識的にやっておくとアニメーションづくりに役立つことはありますか?

A2:現実世界のものの動きを常によく観察し、再現方法を具体的にイメージすることです。もちろん映画やTVアニメを観て学ぶのも良いのですが、リアリティを追求する場合は、屋外なら電線に止まっているカラスのポーズのとり方、電車の中なら人の動き方や窓から見たときの近景と遠景の流れ方など、とにかく身近なものに注目してみてください。ここで重要なのが単に観察するだけではなく、具体的にイメージすることです。例えば、飛んでいるツバメの動きは何フレームなんだろう、モーションブラーをどうやって付けたら上手く表現できるかとか、実際にアニメーションにしたときのことを考えながら観察しましょう。

Q3:実際の仕事において、アニメーションのポイントとして意識していることは何ですか?

A3:監督などからのオーダーは、アニメーターにとってわかりやすい場合もありますが、フワッとした場合もあります。「バンッ」とか「ドォーーーンッ」とか、音でイメージを伝えられることも多いので、普段から音のイメージをアニメーションとして的確に表現できるように意識しています。それとリズムも重要です。単調なテンポにならないよう、どこかで必ずテンションを変えるようにしています。走りだったら「タッ、タタッ・・・」のように一定にせず、走っている最中にどこかで1回つまずくなど、ループでもループに見えないようにすると、一気にアニメーションの質は上がります。

Q4:アニメーションを付ける上で、CGソフトの便利な機能やオススメのTipsがあったら教えてください。

A4:何と言っても、Mayaの標準機能で使えるマーキングメニューでしょうか。直感的にオペレーションできるので、使っていない人にはオススメです。これを使うだけで見た目もカッコいいですしね(笑)。私の場合、オペレーションは常に「1秒でも速く!」をモットーにしているため、ショートカットのカスタマイズを積極的に心がけています。たかが1秒でも、それを1万2千回やれば1万2千秒。ちりも積もれば何とやらですぐ1日分の作業量になるので、長くアニメーターをやっていくつもりであれば、オペレーションの速度を上げることには特に気を遣うべきだと思います。

<2>Basic ベーシック 手を上げる~身体全体を使ってアニメーションさせる

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Basic ベーシック

手を上げる~身体全体を使ってアニメーションさせる

身体の部位だけを動かすのは、CGくさくなる原因のひとつです。試しに自分で手を上げてみてください。肩は上がり、腰も動いて重心が移動し、足まで動いていることさえあります。何か動作するときは、身体全てが連動するということを理解しましょう。アニメーションは身体全体を使って行うことが重要なのです。それでは、どのようにアニメーションを付けると自然に見えるか、実際にやってみたいと思います。キャラクターデータはトランジスタ・スタジオ様からこっそりお借りしました。このことは内緒にしておいてください(笑)

▲このポーズのように、止まっている画像でもきちんと自然にポージングできているかはとても重要です。自然なポーズのコツは重心の位置。リラックスした雰囲気で立っているように見えることを心がけてください

▲ちょっと大げさに付けていますが、予備動作のポーズです。上に上げるためにまず下に1回下げるというように、逆の動きを入れてあげるのは非常に効果的です(※1)

※1:リアル系の動きだと、ほんの少し逆に入れるくらいでちょうどよいと思います

▲これもわかりやすく大げさにポージングしていますが、重心の移動です。ここはキーポーズ以上に、動きのながれをどう繋ぐかが非常に重要になります。重心が左に移動し、その力を利用して右手を上げるようなながれです。ここで、胸と肩も使って手を上げている点と、肘を使って手首をもっていくところを注意して見てください

▲いよいよ手を上げました。ここでは目一杯、手を上げてみてください。重心は左にいき、腰から胸、肩を伝って手が上がっています。キャラクター性や作品のニュアンスによって変わってきますが、基本は身体全体を動かして手を上げるということが理解できたと思います

▲これも意外にできていない人が多いのですが、何でも急には止まれないということを理解しましょう。例えばクルマでブレーキを踏んだら反動で戻る動きが出て、ピタッと止まることはありません。この止まったときの反動をアニメーションに入れてあげると、一気に動きのリアルさが増します(※2)

※2:このサジ加減はとても難しく、誇張しすぎてしまうとCGくさくなってしまうので慣れが必要です

壁にもたれての会話~足を積極的に動かす

間(ま)のもたせ方や仕草にもコツがあります。特に必ず足を動かすクセをつけると効果的です。腰から上は凄い演技をしているのですが、足がまったく動いていないアニメーションをよく見かけます。気持ちはわかります。足を一歩動かすということは重心の移動も伴うため、意外と手間がかかるんですよね。でもあえてそこで足を組み替えることによって動きの質や説得力が一気に上がるので、どんな動作のときでもステップを踏み替えるタイミングや、着地して足を踏み替えることなどを意識しながらアニメーションを付けると良いと思います

▲愉快そうに話しているポーズですね。すこしムカつきすら覚えそうな表情ですが、そう感じるということはアニメーションに命が吹き込まれているということでもあります

▲話に何か良くない展開があったのでしょうか。少し顔が引きつったように見えます。手も力が入っておらず、少しきょとんとしているように感じます。そして思わず足を動かしてしまいました。このように、たじろぐときには半歩ステップを入れてあげると大きな効果が出ます

▲足を少し動かすとバランスが若干ずれるのと、ずっと同じポーズをしていると人は疲れるという理由からポーズを変えます。寝返りと一緒です。ここで体勢を変えて画面に大きく変化をつけるため、左足を組み替えてレイアウトを変えて間をもたせます。こちらはその間のポーズです

▲足の組み替えが完了した状態です

▲最後に反動を入れることも忘れずにやっておきましょう。改めて1枚目のポーズと見比べてみると、足を組み替えることで印象がだいぶ変わったのがわかると思います。このようにレイアウトを変えるのはとても大事です。足を動かすことは、少しの動きで画面構成を大きく変化できる、かなり便利なテクニックと言えます(※3)

※3:上半身だけの演技で大きく重心を動かしたりシルエットを変えると、アニメーションとしておかしいものになってしまうので注意しましょう

<3>物を取る~キーポーズを入れてリアリティを出す

[[SplitPage]] 物を取る~キーポーズを入れてリアリティを出す

次は間のもたせ方の別バージョンです。キーフレームを何も考えずにただ打ってしまうと、キーポーズがただ繋がっただけの単調でつまらないアニメーションになってしまいます。リニアな動きになってしまうのが嫌でよくやりがちなのが、イージーイーズでIN-OUTしてしまうことです。これはとてもCGくさい動きに見えてしまうので、例えばAからBにいくまでにA'というキーポーズをはさんであげることで、単調な印象を軽減することができます

▲スマホを見ながら、何か操作しようとしているポーズですね。Twitterに言ってはいけないことなどを呟いてしまわないように注意してから呟きましょう。不用意な呟きは炎上の元ですから

▲コーヒーカップに向けて手を伸ばします。携帯を見ながら熱いコーヒーを持つのは危険ですね。このとき、さり気なく足も動かしたりして、ポーズのシルエットに少しだけ変化をもたせるようにします

▲ここが今回のポイントです。まっすぐコーヒーカップを取りにいくのではなく1回間をつくり、コーヒーカップを見るという動作を入れました。これによってアニメーションに説得力が出ます。さらにこの間によって、単調な動きになってしまうことも回避できます(※4)

※4:コーヒーカップを取るときにちゃんと物を見たので、小さなお子さんにも安心して見てもらえますね。子ども向けの作品などでは意外と重要です

▲コーヒーカップをやっと手にできました。もし3枚目のキーポーズがなければ、まっすぐコーヒーカップを取りにいって、アニメーションはどこかで間延びしてしまうでしょう。A'のキーポーズの入れ方はいろいろあるので、状況に応じて工夫してみてください(※5)

※5:間延び対策として、コーヒーカップを取るのを躊躇したり迷っている仕草を入れたい場合は、2枚目の前に少しだけ手を伸ばして止めたりすることで間をもたせるのも効果的です

▲やっと美味しいコーヒーが飲めました。今回は止まらずに最後飲むところまでの動きなので、反動はありません。ここは口に近づけながら徐々にスピードダウンして、最後口に近づいてカットチェンジ、みたいなイメージです

Summary 回し蹴り~これまでの集大成

これまでやってきた基本の総まとめとなるアニメーションです。自然なポーズからしゃがんでジャンプしつつ、身体をひねりながら回ってキック、というながれになります。回転を伴う動きは速すぎると何をしているかわからないので、シルエットに気を遣いつつも動きの緩急をつけなくてはいけないという意味では、難しいアニメーションの部類に入ります。ジャンプやキック系の動きで重要なのは、縮んでいる状態と伸びている状態の差分をしっかり見せてあげることです。これによってメリハリのついた良いアニメーションになります

▲しっかりと相手を見てポーズをとります。このときに不自然なポーズだったり、力が入っていないポーズをとってしまうと全て台無しになってしまうので気をつけてください

▲次のジャンプに向ける予備動作です。しっかりと身体全体を使ってしゃがみ、次のジャンプへのアニメーションへ繋げます。戦闘系のアクションの場合は、こういったとき相手にきちんと視線を向けることも重要です

▲ジャンプした瞬間。忘れがちですが、この一番伸びきったポーズも大事です。縮んだ後にきちんと伸ばしてあげましょう。そのコマをしっかりと見せることによって、"跳んだ"という記号的な印象を見ている人に与えることができます

▲蹴る前の予備動作。ここもしっかり縮ませて、力を溜めているポーズにします。この縮んだ状態から、キックのときに大きくポーズの変化をさせるこ とで、力強いキックを表現できます

▲予備動作のときに目一杯溜めておいた力をここで開放するイメージで、足をできる限り伸ばします。ここでは重心を乗せることを意識したポーズづくりが重要です。また、4枚目と5枚目の足のポーズの差をできるだけ大きくして、身体全部ではなく効果的な部位に変化をつけることでイメージが伝わりやすくなります

▲キックから自由落下へとアニメーションが移り、着地する直前の状態を表した重要なレイアウトです。ここでポーズが不自然だったり、いきなり着地してしまうと非常に繋がりが悪いので、こういった移り変わりのポーズは大事にしたいところです。着地するにあたり、接地した足を伸ばして見せてあげることもポイントになります

▲着地のポーズ。前の足を伸ばしたレイアウトを活かして、しっかり着地させましょう。重心の移動もきちんと行うことで自然な動きのながれになります

▲着地の後のもう一歩を付け加えて完成。激しく大きな動きをしたときにはすぐには止まれないので、足の踏み直しや体勢の立て直しのポーズを入れてあげると、アニメーションにグッと説得力が増します

TEXT_ノブタコウイチ
作例_みうら