美しい直線と曲面で構成されたメカは見る人を惹きつけますが、その複雑な造形やメカらしさを上手く表現するのは難しいものです。ここでは、メカならではのカッコよさを出すためのコツを紹介します。

[Profile]

  • オガワコウサク
    チームグリグリ代表。2D・3Dデザイナー/プログラマー。大阪芸術大学映像学科卒。映画・TV・ゲーム・アニメなど、多岐にわたって映像制作を手がける。本誌で2004年~2008年までモデリング連載を担当。オリジナルコンテンツとして、ホラーアドベンチャーゲーム『コープスパーティー』シリーズがある。

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  • メタセコイア4標準テクニック-ローポリキャラクター制作で学ぶ3DCG-
    人気イラストレーター齋藤将嗣氏の描く美少女キャラクターを、汎用的なポリゴンモデラーであるMetasequoiaを用いて3Dモデル化する過程を解説した一冊。関連データ付き、電子版あり。
    価格:2,800円+税総
    ページ数:192ページ
    サイズ:B5版

大切なのは全体のバランスとディテールを両立させること

私はこれまで、ゲームにおけるローポリでのメカモデリングとアニメのメカモデリング(飛行機、変形ロボ、サブメカなど)を数多く経験してきました。メカものというとどうしても細部のディテールに目が行きがちですが、全体がカッコよければシルエットで魅せることが可能なので、まずはカッコいいバランスや雰囲気を重視することが大事です。モデリングにあたってはデザイン画などを参考にしながら立体化するケースが多いと思いますが、基となる絵からその全体像や雰囲気を汲みとって、3Dモデルとして再現するようにしましょう。今回の作例ではトレースから3Dモデルを制作していることもあって、絵のポーズのままモデリングを進めました。多少慣れが必要ではあるものの、これによって絵の雰囲気をそのまま3Dモデルに反映させやすくなります。

もちろん、メカの醍醐味である金属質のような素材感や機能性をもったパーツなどのディテールも重要です。これらのようなメカらしさを表現する上で、最も基本的な処理が「面取り」になります。現実世界でも、硬質な物体のエッジは扱いやすいように角が丸めてあるのと同様に、メカを作る場合にも同じ処理を施すことで現実感を増すことができます。

今回の作例はMetasequoia4を使って作成しましたが、厚み付けやべベル機能などはほとんどの3Dソフトに標準で付いているので、これから紹介するテクニックはどのツールを使っていても活用することが可能です。ローポリでのモデリングは、少ないポリゴン数で効率的に見映えの良い形状を作る技術を磨くことができます。それによって必然的に出来上がったデータは軽くなり、ソフトウェアの処理やレンダリング時間が短くてすむので、仕事で非常に重宝されました。メカモデリングのスキルアップ方法としても非常に役立つのでオススメです。

Q&A Modeler 02

メカモデリングのプロの考え方を知る機会は意外と少ない。ここでは、ゲームやアニメの現場経験で培われた知見や普段の生活におけるメカとの関わり方について聞いた。

Q1:2Dのデザイン画から3DCGでメカをモデリングしていく際に、特に大事だと考えていることは何ですか?

最近は『トランスフォーマー』のフィギュアにハマっていて、いろいろと変形をさせながらよく眺めています。クルマや飛行機などの乗り物がロボットに変形するのですが、各モードのカッコよさだけでなく、変形する過程で移動するパーツの構成や、キャラクター性を表したりケレン味を出したりするパーツひとつひとつが意味をもっていて、それらのパーツを組み合わせることで新たなものができるわけです。それと同様に、デザインに起こされたパーツの意味を汲みとり、いかに組み合わせていくかを念頭に置きながら立体化することが大切だと考えています。

Q2:普段の生活の中で、メカモデリングのリファレンスやアイデアの源泉としているものには、どのようなものがありますか?

私の場合は映画を観たり、玩具やフィギュアをいじくりながら、メカモデリングの参考にすることが多いです。最近では、映画にしても玩具にしてもほとんどが3DCGや3DCADによって作られており、いずれにしろ「モデリング」という根本は変わりません。なので、映画の造形・造作や玩具のモールドを見ては、ここはモデリング、ここはテクスチャなど、いかに自分の使うソフトウェアで再現するかを常に考えています。また、造形が面白い玩具などは常に机の上に置いておき、暇なときにガチャガチャといじくることも多いです。

Q3:発注側とのやり取りの中で、手戻りを少なくするために工夫していることはありますか?

最近はSketchBookProでまずテンプレートを作成し、それを基にクライアントとやり取りをしながら納得いくまで調整した後に、モデリング作業を行うようにしています。テンプレートの方がやり取りのレスポンスも早く、クライアント側も3Dモデルになったものよりも指示が出しやすいからです。3Dモデルでは作業が長くなっていくにつれてバランス等が麻痺してしまうことがありますが、先にテンプレートで詰めておくことで、クライアント側もテンプレートでOKを出している分、やり直しも少なくなります。また、自分で描いた絵なら、3Dモデルとして完成したときに自ずと似てくるものです。

Q4:メカモデリングを効率的に行うために、オススメのプラグインやツールなどはありますか?

私は基本的にMetasequoiaのみでモデリングしており、プラグインはほぼ使わずにテンプレートから辺をなぞるように生成し、それに面を張っていく方法をとっています。なので特別なツールは使っていません。数をこなしてスピードを鍛えたり、効率化できる形状を探す力を見につける方が近道です。ただ、マウスについてはゲーミングマウスを使うようにしています。通常のカウント数のマウスよりも、ゲーミングマウスだとカウント数が多いため、頂点を拾ったり微妙な修正などがしやすく、マウスのスピードなどもボタンで調整でき、作業がしやすくなります。

<2>Robot ロボット

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Physical law ロボット

面取りでメカらしさを出す

ロボットは駆動系のフレームを樹脂製のカバーが覆っているという設定のため、外観も別パーツで作成しました。これにより、シェーディングをかけたときに内部のフレームが影になってメリハリがつきます。

▲<左>はトレースしたラインに面を張ったのみの状態です。味気なく、存在感も薄く感じます。<右>は厚みを付け、面取りをしたカバー部分です。裏面ができて存在感が増しているのがわかるでしょう。このようにメカらしさを増す必須の処理として「面取り(べベル)」があります。メカを構成する金属パーツは、角が尖っている部分を扱いやすいように面取りの処理がされているのが普通だからです。

▲<左>はトレースしたままの状態、<右>は凸になっている部分を選択してべベルを適用した状態で、見た目の印象が大きく変わったことがわかります

トレースからの立体化

▲デザイン画から立体化する際は三面図をトレースするだけではなく、なるべく絵の雰囲気を加味してモデリングするように心がけることが重要です。今回はデザイン画から線をトレースし、それに厚みを付けて立体化するというプロセスで作成しました。この時点で、正面のバランスをアタリにしながら側面の配置によるバランスもとっていきます。まずデザインについては人型の軍事用ロボという設定で、あえて直線と曲面を組み合わせてデザインしました。

▲説明用にポリゴンとサブディビジョンのメッシュを混ぜて使っていますが、実際の仕事の際はどちらかで統一するのが基本です。次にデザイン画を正面図からトレースし、厚みを付けていきます。

▲厚みを付ける際には、側面を見ながら前後の位置も調整します。

対称部分を見つけて作業を効率化する

ロボットなどメカもののパーツは左右対称となっている形状が多いので、その対称部分を探し出して作業しやすいように正対させて半分だけつくり込むことで、ディテールアップなどを効率良く進めることができます。この左右対称の処理は、メカモデリングにおける最も汎用的な効率化の手法です。対象となる形状をよく観察して、意識的に作業に取り込むようにしましょう。

▲<左>はデザイン画のポーズをそのまま3Dモデルに起こした状態です。足の位置が斜めになっています。これを回転ツールで正面に合わせるようにし、対称ツールで編集できるように真ん中に配置しました<右>。この状態で、べベルをかけたりディテールの追加を行なっていきます

サブディビジョンによる曲面にメリハリをつける

ポリゴンメッシュによる曲面では、基本的にポリゴンのエッジを出したり緩めたりしながら形状にメリハリをつけ、曲面で構成されたパーツを仕上げます。特にクルマや飛行機などのメカではサブディビジョンを使って滑らかな曲面を表現することが多いので、そこで失われてしまったメリハリをポリゴンの密度を操って形状をまとめていくことになります。

▲ポリゴンで面を張った元の状態<左>に対して、サブディビジョンをかけただけの状態<中>では、形状のメリハリがなくなってしまいました。そこで、端や折り目の部分などに細く分割を入れることで形状のメリハリを再現します<右>

<3>内側のパーツを露出してディテールを上げる

[[SplitPage]] 内側のパーツを露出してディテールを上げる

▲デザイン画をトレースして3Dモデルにした際にどうしても隙間ができてしまうので、内部構造を加味して、内側にある駆動系フレームがむき出しになるというディテールを追加することにしました。<左>は外観のカバーのみの状態です。間が埋まらないので、中身を作っていきます。<右>はフレーム用のパーツです。設定画は用意せず、作成したパーツをいくつか組み合わせて足りない部分を補うかたちにしています。

▲<左>はパーツを複製しながら、必要な部分に配置した状態です。余計な部分に配置せず、主にカバーからむき出しになっている関節の部分に配置しています。<右>は内部にフレームを入れた状態です。浮いたパーツがなくなり、現実感が増しているのがわかります

メカパーツを追加してディテールを上げる

メカらしさを出すためには、細かなパーツを追加するのも有効です。ここではカバーにあたるパーツをフレームに固定する金具という設定で、面取り処理を施した小さな直方体や、ネジを想定した丸いパーツを配置しました。

▲<左>はパーツを配置していない元の状態です。今回は等身大のロボなので、このままでも成立はします。<右>は直方体のパーツを配した状態です。カバーを留める金具ということを考え、なるべくカバーを固定できる位置に配置することを念頭に置きましょう。このように素材や組み立て方法などを考慮し、それに則したパーツを加えてあげることで現実味が増します

表情を付けやすい手の作成

ロボットもので必ず作成するのが手(マニピュレータ)です。今回は巨大ロボではなく、あくまで等身大のロボということで、手先に表情が付くようなデザインにしました。特に手の甲は曲面にして丸みを入れることで指の並びが一直線にならず、より手の表情を付けやすくなります。

▲<左>手の甲を平らにした状態。指が直線的に並ぶため、指による手の表情が豊かになりません。ただ、この状態だと"ロボット感"が増すので、巨大ロボなどではあえてこのようにすることもあります。<右>手の甲を曲面にした状態。指が手のひらの方に寄るので、人間の手に近くなり、より手の表情が豊かになります

全体のバランスをとるコツ

今回はトレースから立体化するということもあって、ポーズをとった状態でモデリングしています。ロボットは直立の状態だとカッコよさが伝わりにくく、全体のバランスもわかりづらいからです。ツールによってはポーズを付けたりデフォルトの状態に戻したりといったことが可能なので、気に入ったポージングをさせながら作業を進めると、必要となるつくり込みがわかりやすくなります。

▲<左>直立した状態。作業はしやすいものの、カッコ良さはわかりにくいです。<右>ポーズが付いた状態。テンプレートにしたデザイン画と見比べながらの作業だったのでこのままつくり込みましたが、あえて斜めの状態で作業するのはある程度の慣れが必要になります



TEXT_オガワコウサク(チームグリグリ)