7月16日(火)、Blender 4.2 LTSが正式にリリースされ、公式サイトからダウンロードが可能となった。LTS(Long Term Support)とは、リリースから2年間は仕様と互換性を維持し、バグフィックスのみ適用できる特別なバージョン。長期にわたるプロジェクトにおいて、互換性を保ちつつ安定した制作環境を提供する目的でBlenderが用意したものだ(LTSについて詳しくはこちら)。

Blender 4.2 LTS注目の新機能

ここからは、数多くの新機能と更新のうち、注目機能をいくつかピックアップする。全更新内容はこちらから確認してほしい。

●4.2 LTS - blender.org
https://www.blender.org/download/releases/4-2/

レイを別の場所に転送するRay Portal BSDFノード

Cyclesで利用できるRay Portal BSDFノードは、レイをシーン内の別の場所に転送するノード。くぐると別の場所に移動する異世界のポータル(門)をイメージしたノードで、実際にそのようなシーンでの活用や、シーン内のテレビスクリーンに別のカメラからの映像を表示する、カメラフィードでの活用が想定されている。詳細はこちら

  • Ray Portal BSDFの活用例1:ポータル
  • Ray Portal BSDFの活用例1:カメラフィード

将来的な進化を見据えコードを書き直された新しい「Eevee」

EEVEE in the 3D Viewport – “Tiger” by Daniel Bystedt.

コードの設計上、機能制限を余儀なくされていたレンダリングエンジンのEeveeが全面的に書き直された。全体としてはライティングとシャドウの品質が向上し、よりフォトリアルな表現をリアルタイムに近いスピードで実現できる進化。ただしフォトリアル表現では従来通り、パストレーシングによるCyclesが品質で上回るとしている。

新しいEeveeでは、BSDFやシーン内のライト数の制限がなくなり(ライトの同時表示は4,096個まで)、全BSDFに対してスクリーンスペースのレイトレーシングが使用されるようになった。影は仮想シャドウマップを使用してレンダリングされ、最大解像度の向上、バイアスの減少、セットアップの簡素化を実現。


さらに、太陽光の影響はHDRIライトからの自動抽出となり、最適化された新しいサブサーフェススキャタリング(SSS)や被写界深度(DOF)も実装。パネルやプロパティのUIはCyclesの見た目に近くなり、キャストシャドウのプロパティはEeveeとCyclesで共有化となった。詳細はこちら

最終レンダリングのコンポジットがGPUアクセラレーションに対応

コンポジットがGPUで高速化できるようになり、CPUベースのコンポジットも以前より数倍高速化。なお、最終レンダリングと3Dビューポートコンポジターの一貫動作のため、コンポジティングノードツリー内の一部ノードの動作に大きな変更がある。詳細はこちら

ジオメトリノードの処理高速化など

ジオメトリノード関連では、多数のノードが高速化。特にScale Elementsノードは4~10倍、Sample UV Surfaceノードは大きなメッシュに対して使われた場合、10~20倍高速化するという。また、ジオメトリノード特有のUIが整理・改善され、Rotationソケットのワークフローやノードツールも改善。さらに、新しいマトリックスソケットタイプと対応するノードが多数追加されている。詳細はこちら

スカルプトツールの追加

スカルプティングツールは4×4=16種が新たに追加。Box、Lasso、Line、Polylineの4種にTrim、Face Set、Mask、Hideの4種の挙動が組み合わさっている。また、TrimツールはFastまたはExactソルバを使用できるようになった。詳しくはこちら

その他、全リリースノートはこちらから。

●Blender 4.2 LTS Release Notes
https://developer.blender.org/docs/release_notes/4.2/

Blender 4.3では「Brush Assets」も利用可能に

また、次期バージョンのBlender 4.3はアルファ版のステージに入っており、こちらもデイリービルドからダウンロードして利用可能だ。

●Blender Builds
https://builder.blender.org/download/daily/

Blender 4.3では、かねてから開発が進められていたブラシワークフロー「Brush Assets」が搭載されている。従来、ブラシファイルは.blendファイルに個別に保存されていたが、4.3以降は文字通りブラシはアセットのひとつとなり、Blender内のライブラリのひとつとして利用できるようになる。

Essentialsアセットライブラリにバンドルされた多数のブラシアセット

そのため、メッシュ、グリースペンシル、スカルプト、ウェイト、テクスチャペイントなど、ブラシを使うBlender内のあらゆるツールからブラシを呼び出せる。従来のブラシをベースにしたツールは全て1つのブラシツールに置き換わり、ツールバーも整理された。

4.2以前は散在していたブラシ関連ツール群が(左)、4.3ではたったひとつに集約されている(右)
スカルプトモード時のアセットシェルフ

公式ドキュメントはこちら

●参考:Blender 4.0デモリール

CGWORLD関連情報

●Blender系YouTuber・びび氏直伝! ローポリプロップかんたん制作術

3DCG初心者向けの入門講座やモデリングのTipsなどで知られるびび氏が、自身の制作したモデルからローポリのプロップ制作のポイントを解説。
https://cgworld.jp/article/310-lowpoly.html

●え?! これ手塗りじゃないの?! David Lettier氏がBlenderで構築したアナログ風シェーディングが話題

David Lettier氏による温かみのある手塗りのイラストのような質感のシェーディングの作品とノード構成のヒントを掲載。
https://cgworld.jp/flashnews/202406-Blender-handpaint.html

●Blenderでキラキラ輝く女性のメイクを表現したChris Jones氏にインタビュー! 制作経緯から苦労したポイント、今後の展望まで

Chris Jones氏がBlenderとKritaで制作した、煌びやかに輝くメイクアップが施された女性のフェイシャルアニメーション「Glitter」(キラキラ)について、本人にインタビュー。
https://cgworld.jp/flashnews/202405-CJones-Glitter.html