オーストラリアのCGアーティストChris Jones氏は5月22日(水)、自身のYouTubeチャンネルに「Glitter」(キラキラ)というタイトルで動画を投稿し話題を呼んでいる。煌びやかに輝くメイクアップが施された女性のフェイシャルアニメーションで、BlenderKritaを使って制作された作品だ。

CGWORLDでは昨年7月、Jones氏による腱のシミュレーション動画についてインタビューを実施している。

●Blenderでリアルな腱のシミュレーションを実現したChris Jones氏にインタビュー! プロジェクトの経緯から技術的なこだわりまで詳細に迫る

https://cgworld.jp/flashnews/202307-CJones-Blender.html

そこで今回もJones氏への独占インタビューを実施。制作の経緯や発生した問題、今後について伺った。

CGWORLD編集部(以下、CGW):まずは本作制作の理由や経緯を教えてください。

Chris Jones氏(以下、Jones)私はかねてから、キラキラと輝くグリッターマテリアルの作成方法について取り組んでいました。それで、関連するBlenderのチュートリアルをいくつか見て考えた結果、あらかじめメイクアップ用のグループノードを作成しておいて、スキンシェーダの一部としてグリッターを組み込むべきだと思い至りました。

一般的に、3DCGでのメイクアップは、肌の領域を分離するマスクとして使うグレースケール画像でつくられています。そこにカラーをはじめ、様々なサーフェスの特性を与えることができるわけです。そして基本となるグリッターはノーマルマップに変換したボロノイテクスチャで、メイクアップマスクの形状に限定しています。今回アップした動画は、そのエフェクトの精巧な最終テストという位置付けのものです。

CGW:本作はいつ頃から準備していたのですか?

Jones:実は約1年前にレンダリングの準備をしていました。でも、アニメーションするとジオメトリノードのヘアにジッターが出てしまうという、Blenderのバグに悩まされていたのです。それ以降、バグの修正を期待していったんプロジェクトを延期していたのですが、なかなか修正されませんでした。そこで、別の方法で回避する方向に舵を切ったのです。

CGW:なるほど。どういった方法を模索されたのでしょう。

Jones:グリッターのかけら(ボロノイ・セル)、特に大きなものを効果的に光らせるためには、滑らかで平らな肌の毛穴のディスプレイスメントを上書きして、細かい毛穴がエフェクトを拡散しないよう工夫する必要がありました。

ファセット化されたボロノイとスキンのディスプレイスメントを組み合わせて、破綻なくシェーダに統合するという取り組みですが、これは大きな挑戦で、予想よりもずっと難しいものでした。

CGW:何が難しかったのでしょうか。

Jones:Blenderの機能的な制限と思われる障害です。接続ノードの数が一定数を超えるとディスプレイスメントがオフになったり、メッシュが黒くなったりしたのです。具体的には、同時に4つのメイクアップまでは適用できましたが、それを超えるとテクスチャがオフになってしまいました

ひとつのメイクアップエリアの構造は、シワマップのノードの大きなグループがスキンのノードグループに接続し、それが6つの重複ノードグループに接続するというものです。このノードのスタック数の多さが問題となったようです。

そのため、レンダリング処理が正常に行えるよう、複雑なノードの再構成や合成処理を行いました。

CGW:なるほど。今回のメイクアップについて、今後改良する予定はありますか?

Jones:メイクとしては当初の意図をはるかに超えたと自負していますし、ノードの制限がある以上、今はこれで完了だと考えています。

CGW:では、今回のような雰囲気のものではなく、また別のメイクアップに挑戦する予定は?

Jones:理論的にはデュオクロームシェーダやマルチクロームシェーダなどを追加できるかもしれません。でも私には他の優先度の高いタスクがありますから、そちらに取り組む予定です。もちろん、私が突然「シェーダを追加したい!」という圧倒的な衝動に襲われたら、挑戦するかもしれないですが(笑)。

CGW:今回のようなメイクアップを実現するにあたってBlenderに追加または改善してほしい機能はありますか?

Jones:ノードのスタック制限の解決策だけで、他は今のところありません。

CGW:こうしたリアルな人体表現の取り組みを今後どういう仕事に繋げていく予定ですか?

Jones:私はどちらかというと自分のプロジェクトに取り組むのが好きなので、理想としては、自分自身で手がける映画で取り入れてみたいですね。

・Chris Jones氏のWebサイト
https://www.chrisj.com.au/

・Chris Jones氏のアセット販売ページ(Gumroad)
https://cjones.gumroad.com/

・Chris Jones氏のプロジェクト「Human Progress」ページ(Blender Artists)
https://blenderartists.org/t/human-progress/1143224

※掲載画像・動画は全て当該YouTube動画からの引用

CGWORLD関連情報

●Blenderでリアルな腱のシミュレーションを実現したChris Jones氏にインタビュー! プロジェクトの経緯から技術的なこだわりまで詳細に迫る

Chris Jones氏への前回のインタビュー記事。
https://cgworld.jp/flashnews/202307-CJones-Blender.html

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Blenderの劇場長編アニメーション映画での活用の様子がわかるメイキング記事。
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https://cgworld.jp/special-feature/blendefes2024report.html

●BlenderでCGをはじめよう!ゼロから学ぶ3DCG教室

株式会社ブルームスキームの實方佑介氏によるBlenderのチュートリアル。
https://cgworld.jp/course/online/blender/