オーストラリアのCGアーティストChris Jones氏が7月11日(火)、X(Twitter)で公開したこちらの投稿が非常に話題を呼んでいる。

Blenderで作成した、非常に滑らかでリアルな「腱」のシミュレーションについての投稿で、リツイートは1万超え。Blenderユーザーを中心にモデラーやリガー、アニメーターまで、広く興味をもたれたことが窺える。

CGWORLDではこのデモ映像制作の裏側を探るべく、Jones氏に独占インタビューを実施した。

CGWORLD編集部(以下、CGW):今回、腱に着目してセットアップした理由と経緯を教えてください。

Jones氏:私は今、人体全体の3DCGモデル制作に取り組んでいまして、この腱のシミュレーションはあくまで途中経過を発信するためのデモです。

私の能力の範囲内で、私が使えるツールを使ってモデルやテクスチャ、アニメーションを手づくりし、最高レベルのリアリティをもったキャラクター制作の基礎をつくることが、デモの目的です。その点、皮下の動きのシミュレートは実現可能だと判断できるものでしたし、手というパーツにはかなり明瞭で可動性のある腱が存在するので、テストとして取り組む対象として良い選択だと思いました。

シミュレーションは、Blenderのシュリンクラップモディファイアーをベースにして、皮膚メッシュを内部の骨と腱のメッシュに沿わせることで実現しています。

CGW:とてもリアルでスムーズな動きですが、技術的に工夫した点はどこでしょうか?

Jones氏:正しく変形するメッシュは鑑賞者がリアリティを感じるために不可欠で、その実現には自然な折り目やシワを付けやすいトポロジー設計がカギとなります。しかしBlenderのウェイトペイントだけではトポロジーの設計に限界を感じたので、補正用のシェイプキーを追加しました。これによって指の関節がボリュームを維持し、指が曲がったときに五指の中央にまとまるようになりました。

リグについては、デモ用動画のリアルタイムのポージング部分で実演している通りIKモードを採用していますが、FKモードへの切り替えも可能です。FKモードは、指の動きを自然にするためにキーフレームを打った部分で使っていて、滑らかな動きづくりに貢献しています。

また、指の骨と指の関節はヘルパーボーンに対してウェイトを付けているので、指の動きに応じて自動的に腱が動くようになっています。

CGW:シュリンクラップの調整で苦労した点は?

Jones氏:シュリンクラップモディファイアーはおそらく今回のような使い方を想定していないので、影響を受けていないスキンから変形したスキンへの移行をスムーズにする方法を探しました。

解決策としてスムーズモディファイアーの使用を思い付いたのですが、モディファイアーがメッシュ全体に影響してしまうという欠点がありました。それを補うため、頂点グループでスムージング範囲を変形の周辺だけに制限したのですが、それでも腱全体が滑らかになってしまいます。これはメッシュをさらに細分化すると回避できますが、スムージング量を増やす必要があります。そのため、最終的には精細感の喪失を選択せざるを得ませんでした。

そのほか、腱が皮膚の下に収まるように腱の位置やボーンウェイト、ヘルパーボーンを微調整したり、それらがシュリンクラップの影響範囲外にはみ出した際に削除する最適なポイントを探り当てたりするのに、かなりの時間を費やしました。

CGW:この手のモデルに関して、今後どのような改良や追加を行う予定ですか?

Jones氏:ダイナミックなシワを含むテクスチャの作成を考えています。その準備段階としてすでに、手のプロポーションをより正確にして、UVマップと変形機能を改良しました。そのほか、 Blenderのヘアノードの問題が解決したら産毛を追加したいですし、筋肉や骨格のシステムもさらに発展させていきたいです。

CGW:Blenderのリギングについて、実装してほしい機能はありますか?

Jones氏:まず、私はBlender以外の3DCGソフトのリギング機能に詳しくありません。今思い付いたことで、Blenderにすでに実装されているかどうかを調べていませんが、肌のひだや、腱と筋肉のコリジョン検出機能があったらなと思います。

CGW:キャリアについて、現在取り組んでいるリアルな人体表現を活かして今後やりたいお仕事はありますか?

Jones氏:この人体モデル制作は、もともと自分の映画やミュージックビデオのプロジェクトで使うつもりでサイドプロジェクトとして始めたものです。ただ、進捗をSNSなどで公開してみたら、見た人たちから「使わせてほしい」という声が届いたのでGumroadでデータを公開して、それ以来このプロジェクトに専念しています。

映画やミュージックビデオのプロジェクトを実行に移す時間が取れるかどうかはまだわかりません。ですが、もしそれができれば、現状のデモアニメーションよりも厳しいストレステストをプロジェクト内で実施できるという利点もあります。いずれにせよ、まずはテクスチャ、髪、服を仕上げる必要がありますね(笑)。

・Chris Jones氏のWebサイト

https://www.chrisj.com.au/

・Chris Jones氏のアセット販売ページ(Gumroad)

https://cjones.gumroad.com/

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