>   >  構想10秒、制作1年半! pixiv×ROBOTが放つキュートなのにちょっぴりキモいショートアニメーション作品『オニズシ』
構想10秒、制作1年半! pixiv×ROBOTが放つキュートなのにちょっぴりキモいショートアニメーション作品『オニズシ』

構想10秒、制作1年半! pixiv×ROBOTが放つキュートなのにちょっぴりキモいショートアニメーション作品『オニズシ』

約4分間という短時間にぎゅっと濃縮された世界観と濃厚なキャラクター陣が見る人をあっという間にトリコにするショートアニメーション作品『オニズシ』。現在は第3話まで公開中、スマートフォン向けのゲームアプリも発表されている。気鋭のイラストレーター、サッカン氏がキャラクターデザインを担当し、イラスト投稿サイト・pixivと映像制作プロダクション・ROBOTがタッグを組んだオリジナルキャラクタープロジェクトである本作品。監督・脚本の庭月野議啓氏、アニメーション監督の横原大和氏に、制作秘話を聞いた。

<1>pixivの人気絵師・サッカン氏が描くキャラクターがスタートライン

『オニズシ』プロジェクトが生まれたきっかけは、pixivでトップクラスの人気を誇るイラストレーター、サッカン氏の存在にある。pixivは周知の通り、月間約36億PVを誇る国内最大規模のイラストレーション・マンガ・小説に特化したSNSだが、サッカン氏はpixiv黎明期から独自のポジションを確立し、今やpixivを代表する名物絵師の一人だ。

サッカン氏といえば、高い画力から織り成される「おふざけ」たっぷりのネタ絵であろう。pixivには主に二次創作を投稿し、卓越したパロディセンスは誰もが評価するところ。しかし時折、それらとは全く真逆のテイストである本気のオリジナル作品を発表し、あまりのギャップから作品に「きれいなサッカン」というタグがつくこともすっかりおなじみだ。

実は『オニズシ』のキャラクターの大元をたどると、この「きれいなサッカン」の作品群から誕生したものである。新たな試みとしてアニメーション作品を手掛けようと考えていたpixivがサッカン氏の妖怪や鬼をモチーフとした作品に注目し、彼をキャラクターデザイナーとして起用。アニメーションやゲームアプリの制作・開発をROBOTが担当し、2014年、本格的にプロジェクトが始動。企画段階で「寿司や鬼といった日本的な要素を盛り込んだカートゥーン風の作品」という大枠までが決まった。

▲『オニズシ』第1話「絶品!鬼マグロ」
「カエデ」と「サクラ」はカクカクのスシを握る「タイショー」が営む「角寿司」の看板姉妹。ある日「オニ」たちが襲来し、スシネタをすべて食べ尽くそうと大暴走。「カエデ」と「サクラ」は「角寿司」を守るべく、「オニ」たちに立ち向かうのであったが......。

『オニズシ』の監督として迎えられたのは、庭月野議啓氏、横原大和氏の二氏。庭月野氏は絵コンテとシナリオを、横原氏はアニメーションという共同監督のスタイルがとられた。過去に同じプロジェクトに関わっていたことがあり、10年来の付き合いがある二人。絶妙のコンビネーションのもと、着々と作品づくりは進んでいった。

▲〈左から〉横原大和氏(Khaki)、庭月野議啓氏。写真中央の画面に映る男性キャラクター「ロリコン」は、二人の大のお気に入り。「サッカンさんから上がってきたキャラデザをはじめて見た時、『こいつ、相当キモイ』って思いました(笑)」(横原氏)

『オニズシ』制作にあたって両氏が最も意識したことは、サッカン氏の作品世界に渦巻く強烈な作家性をアニメーション作品に落とし込むこと。そのため、庭月野氏はサッカン氏の作品はもちろんのこと、彼のTwitterの発言までこまめにチェックした。「サッカンさんは言葉のセンスもある。いかにもサッカンさんらしい笑えるつぶやきをセリフに混ぜたりといったこともしています」と語る。

アニメーションに関しては「カットごとにサッカンさんにも意見を出してもらい、動画コンテをつくっては修正してという作業を何度も繰り返しました。効率的なやり方とは言えませんが、結果として、彼のテイストを色濃く表現できたと感じています」と、横原氏は振り返る。

<2>キャラクターデザインからストーリーを構築

実制作のスタート時点では、ストーリーやキャラクター設定は何も決まっていなかった。原案となったのは、サッカン氏がつくったメインビジュアルとキャラクターデザインのみ。庭月野氏はさっそく絵コンテとシナリオの作成に取りかかり、徐々に世界観を構築していった。

▲サッカン氏によるメインビジュアルとキャラクターデザイン

企画段階では、子どもをメインターゲットとして据えた展開案もあったそうだが、絵コンテが進むにつれてサッカン氏らしいハチャメチャ加減に比重が置かれるようになり、子どもも大人も楽しめるストーリーに自然とシフト。子どもはキャラクターのインパクトで笑えて、大人は行動やセリフで笑えるという、いわばハイブリッドな構造で全年齢を対象とした作品へと昇華した。「例えば、大人にしかわからないような笑いのツボなら、キャラクターの動きにアクセントをつけたり、セリフにわざとバカバカしいキーワードを入れたりと、違う角度からもユーモアを投入して子どもにも楽しんでもらえるように意識しました」と、庭月野氏は語る。

▲庭月野氏による第1話の絵コンテ。「いかに『サッカン色』を出すか、それが最大のテーマでした」(庭月野氏)

1話あたりわずか4分程度の作品ではあるが、随所にちりばめられた見せ場やネタの効果に加え、この作品の持ち味であるテンポの良さによって、見ごたえたっぷりに仕上がった。「要素は詰め込みすぎると、視聴者が展開についていけずに違和感を抱いてしまう。いかに伝わるものにするか、何度も動画コンテをつくってテストしました。疾走感は強調できてもスピーディーすぎて理解しにくくなってしまったり、展開が不自然になってしまったりといったこともあり、テスト段階では微調整を繰り返しました」と、横原氏。たたみかけるようなストーリー展開の裏側には、地道な努力があった。

ネタがふんだんに盛り込まれているからこそ、何度見ても飽きないことも『オニズシ』の魅力であろう。キャラクターの表情や動きはもちろんのこと、小物や背景といった細部も丁寧につくり込まれ、「見るたびに新しい発見があるはず。特にキャラクターが大勢登場するシーンは、一時停止して見るとそれぞれの個性がありありと感じられます。ぜひフルスクリーンで見てほしいですね」と、庭月野氏は笑った。

▲コメディタッチのシナリオを手掛けたのは本作品が初となった庭月野氏。「エログロテイストもサッカンさんらしさの一つ。描写がどこまで許されるのか、サジ加減がわからなくて......。地上波で放映されている作品をチェックしては『ここまではオッケーなんだ、ウェブならもっと行けるかも!』なんて勝手に思ったりしてました」(庭月野氏)

さらに両氏は、起承転結に対するこだわりも強く持っていた。「ベタな流れにはしたくない」との思いから、終盤まで同じペースで進むように見せかけてそれまでの流れを断ち切るような展開でひとひねり加えたり、NGギリギリの描写で理不尽な結末にしたり......。ショート作品であっても見過ごされず、視聴者にどれだけ強烈なインパクトを残せるか、試行錯誤が重ねられた。

▲第3話のラストシーン。〈画像左〉「マグロ(赤鬼)」は巨大なスシネタを飲み込んだ「コハダ(青鬼)」の胃袋へ侵入し、スシネタを取り戻そうとする。〈画像右〉スシネタと共に無事生還すると思いきや、スシネタは単なるグロい塊と化し、「マグロ」もなぜかドロリと溶けた状態に。キャラクターの愛らしさとオチの過激さのコントラストによって、サッカン氏の世界観がうまく表現されている。〈画像右〉の造形は「とにかく気持ち悪い感じにしたくて。サッカンさんが音を上げてしまうほど、何度も何度もリテイクをオーダーしました。おかげで満足のいく出来栄えです」(庭月野氏)

▶︎次ページ:
<3>3DCG作品ながら、ノスタルジックな雰囲気をしのばせる︎

Profileプロフィール

庭月野議啓/Norihiro Niwatsukino、横原大和/Hirokazu Yokohara(Khaki)

庭月野議啓/Norihiro Niwatsukino、横原大和/Hirokazu Yokohara(Khaki)

庭月野議啓氏
実写をメインフィールドに、ディレクターとして活動中。アーティストのMVなども手掛ける。主な作品に短編映画『イチゴジャム』、長編時代映画『仁光の受難』など。
http://www.niwatch.com/

横原大和氏
デジタルアーティストチーム「Khaki」に所属するVFXアーティスト。アニメーションから実写、CMまで幅広いジャンルの制作に携わる。サカナクション『years』のMVではCGを担当。
http://www.khak1.tv/

スペシャルインタビュー