>   >  ゲームデザイナーの真の仕事、そして業務で80点を取るための秘訣とは?/『FGO』塩川洋介氏が上梓した『ゲームデザインプロフェッショナル』が語るもの
ゲームデザイナーの真の仕事、そして業務で80点を取るための秘訣とは?/『FGO』塩川洋介氏が上梓した『ゲームデザインプロフェッショナル』が語るもの

ゲームデザイナーの真の仕事、そして業務で80点を取るための秘訣とは?/『FGO』塩川洋介氏が上梓した『ゲームデザインプロフェッショナル』が語るもの

PCゲーム『Fate/stay night(フェイト・ステイナイト)』に始まり、小説・アニメ・マンガ・ゲームと、メディアを越えて成長を続ける『Fate』シリーズ。その中でもスマートフォン向けゲーム『Fate/Grand Order(フェイト・グランドオーダー)』(以下、FGO)と派生シリーズの存在感は圧倒的で、多くのファンに愛されている。そんな『FGO PROJECT』のキーパーソンともいえるのが、ゲーム会社のディライトワークスでクリエイティブオフィサーを務める塩川洋介氏だ。一介のゲームデザイナーからキャリアを重ね、今やプロジェクトの舵取りに重要な人物となった。

そんな塩川氏が2020年9月に上梓した初の著作が『ゲームデザインプロフェッショナルー誰もが成果を生み出せる、『FGO』クリエイターの仕事術』(技術評論社)だ。10月30日(金)には、刊行にあわせたトークイベント「『ゲームデザインプロフェッショナル』集中講座」がBook & Cafe Bar BAG ONE(東京都渋谷区)で行われ、同著のエッセンスを紹介。会場とオンラインで数十人が受講し、講義終了後も熱心な質疑応答が続いた。本稿では、後日行なった塩川氏へのインタビューも含め、その概要をレポートする。

INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE


ゲームデザインの8割はマニュアル化できる

はじめに塩川氏は、本の構成を紹介しながら講演のテーマについて説明した。

第1章:ゲームデザインに才能はいらない
第2章:ゲームデザイナーの「本当の仕事」
第3章:ゲームにおもしろさをもたらすゲームデザイン術
第4章:ゲーム開発を成功に導くリーダーシップ術
第5章:ゲームデザイン力を高めるレベルアップ術
第6章:ゲームデザイナーとしての戦いに挑む

ここからもわかるように、同著は一般的なゲームデザイン本とは大きく内容が異なっている。多くのゲームデザイン本が「ゲームの面白さとは何か」、「企画の立て方」、「アイデアの出し方」、「企画書の書き方」など、ゲーム業界に就職するための指南書といった様相を呈しているのに対し、同著はゲームデザイナーが実務を行う上で注意すべき点やノウハウの解説が中心になっている。象徴的なのが第1章で、塩川氏は「ゲームデザインの8割はマニュアル化できる」と言い切る。

もっとも、これにはゲームデザイナーの職務内容が正しく理解されていない点もあるという。一般的にゲームデザインというと、ゲームの企画書を書いたりゲームの目玉となる新システムを考案したりと、華やかな仕事が連想されがちだ。しかし多くの場合、これらはプロデューサーやディレクターの職分で、現場のゲームデザイナーが担当することは少ない。それよりもゲームデザイナーの仕事は、「ゲームの構成要素を1つずつ考案し、面白くするための作業」となる。

しかしこうした要素を各自がバラバラに考案していては、ゲームが空中分解してしまう。そのためには、プロデューサーやディレクターが設定したゴールに即して作業を進めていくことが求められる。仮にゴールが「世界一怖いホラーゲームをつくる」ことであれば、ステージ・敵・キャラクター・武器・エフェクト・UIなど、あらゆる要素でこの条件を満たすことが求められる。塩川氏は「どれだけ画期的なアイデアでも、ゴールに貢献しないものは意味がない」と強調した。

その上で塩川氏は、「5つのステップを身に付けるだけで、ゲームは誰にでも面白くできる」と指摘する。同著の内容でいうと、第3章の「ゲームにおもしろさをもたらすゲームデザイン術」に相当する部分だ。続いて塩川氏は、パレートの法則(※1)を引き合いに出し、この章が同著で最も重要な部分であること、そしてこの内容を理解することで、講演テーマである「どんなゲームでも普遍的に活かせるゲームデザインの最強スキル」が身に付けられると話している。

※1:イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した、全体の2割が8割の要素を規定するという冪乗則。80:20の法則などとも呼ばれる。「売上の8割は、全従業員のうちの2割で生み出している」「住民税の8割は、全住民のうち2割の富裕層が担っている」など、さまざまな事象を説明する上で用いられている。


ゲームを面白くするための5つのステップ

1:ゴール設定
2:アイデア出し
3:発注
4:実装
5:調整

この中で最も重要な部分が「ゴール設定」だ。ゴールとは「成し遂げたいこと」であり、ゲーム全体から個々の仕様にいたるまで様々なレベルでゴールが存在する。そして、全てのゴールが1つの方向に向かって、向きを揃えていることが求められる。裏を返せば、下位のゴール設定は上位のゴール設定に影響を受ける。その上で具体的なアイデアを出し、グラフィック素材などを発注し、プログラマーに実装してもらい、調整を重ねていく。これが徹底できれば、必ずゲームは面白くなるというわけだ。

講演では具体的なエピソードも明かされた。塩川氏が新人のころにかかわったアクションRPGの敵キャラクター考案や、『FGO PROJECT』の一環として制作されたアーケードゲーム『Fate/Grand Order Arcade』(2018)のティザービジュアル制作。そしてRPGシリーズの主要キャラクターが1対1で戦うアクションバトルゲームのバトルシステム発注などだ。いずれも書籍には盛り込まれなかった内容で、受講者には嬉しいサプライズとなった。

アクションRPGのプロジェクトでは、バトルシステムができあがる前の段階で「最初に戦う敵キャラクター」を考案することが求められた。ここで塩川氏は、RPGにおける「最初の敵」に必要な要素を洗い出し、整理することから始めた。モーション数、主人公とのサイズ比、攻撃を受けたときのリアクションなどだ。こうして生まれた敵キャラクターは、以後のシリーズにも登場する、印象的な存在となった。

▲『Fate/Grand Order Arcade』ティザービジュアル

また『Fate/Grand Order Arcade』のティザービジュアルは、発注に必要な「要件と裁量を明確にする」についての具体例として紹介された。このとき、塩川氏が提示した3つの要件は、それぞれに細かな条件はあるものの、大きくわけて「一目見て『FGO』に見えること」、「敵と味方がわからないように戦いあっていること」、「スマートフォンの『FGO』の新規イラストに見えないこと」だ。これらは、いずれもティザーイラストならではのゴール設定だったという。その上で、これらの要件やキャラクターの造形などを満たしていれば、イラストのタッチやキャラクターのポーズなどの細部はイラストレーターの裁量に任せたと説明された。

逆に失敗談として語られたのが、過去に携わったアクションバトルゲームの件だ。本作でディレクターを担当した塩川氏は、バトルシステム制作を担当ゲームデザイナーに発注した。バトルシステムは半年後に完成したが、採用されることはなかった。完成度は高かったが、アクション要素が強すぎて、原典となるRPGシリーズの既存ユーザーが楽しめるものではなくなっていたのだ。塩川氏は「本作のゴールは『原典となるRPGシリーズの既存ユーザーに楽しんでもらえるゲームにすること』だった。今から思えば、正確に発注できなかった自分のミスだった」とふり返った。

最後に塩川氏は「ゴールを制するものはゲームデザインを制する」と改めて指摘した。ゲームデザインで大切なことは、正しいゴールに基づいて正しく運用すること。ゴールありきのゲームデザインができるようになれば、仕事の上で80点が取れるようになる。そこで役に立つのが同著というわけだ。「本書の目的は、そのために下駄を履いてもらうことです。ゲームデザインにとっての『当たり前』をマニュアルとして学び、早く80点が取れるようになることを目指して執筆しました」(塩川氏)。


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ゴール思考ベースのゲームデザイン本がなかった

Profileプロフィール

塩川洋介/Yosuke Shiokawa

塩川洋介/Yosuke Shiokawa

ディライトワークス株式会社
クリエイティブオフィサー

スペシャルインタビュー