『ストリートファイターV』(2016)のアップデート版として2018年1月18日(木)にリリースされた『ストリートファイターV アーケードエディション』。世界中のファンによる熱狂的な支持を得て長年築き上げられてきた『ストリートファイター』の世界を崩すことなく、これまでの印象をガラリと変えたゴージャスなオープニングムービーをつくり上げた白組による制作の舞台裏を3回に渡って紹介する。

TEXT_UNIKO
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充

the English version is available from following link.
https://cgworld.jp/interview/201803-sfvae-op1-en.html

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『ストリートファイターV アーケードエディション』NEW OPENING TRAILER

<1>「キャラクターと世界観をしっかり見せたい」カプコンからの7つの"お題"

対戦型格闘ゲームとして1987年に産声を上げ、今もなお世界中で根強い人気を誇る『ストリートファイター』シリーズ。爽快感のあるゲーム性はもちろんのこと、国際色豊かで魅力的なキャラクターたちの存在もまた人気を支える重要な要素となっている。今回発売された『ストリートファイターV アーケードエディション(以下、ストV AE)』は、2016年に発売された『ストリートファイターV(以下、ストV)』のアップデート版として、新たな機能やプレイアブルキャラクターが追加されたものだ。

そのオープニングムービー(以下、OP)は、リリースを目前に控えた昨年末、「PlayStation Experience 2017」内で開催された『ストV』の国際大会「CAPCOM CUP 2017」の会場で『ストV AE』の発表とともにサプライズ上映され、その日集った熱狂的なファンたちの大きな歓声が会場に響き渡った。OPを制作したのは株式会社白組。ディレクターを務めたのは映画『GAMBA ガンバと仲間たち』(2015)などを手がけてきた小森啓裕氏だ。理想的なまでにトラブルがなく非常にスムーズな進行により、カプコン側からの修正がほぼゼロだったという本プロジェクト。本稿では「企画編」として、円滑で効率的なコミュニケーションとファンの心を掴む映像表現が両立した制作の舞台裏を紹介していこう。


  • 小森啓裕/Yoshihiro Komori
    白組 ディレクター/CGスーパーバイザー

『ストV AE』には、リュウや春麗といったお馴染みのキャラクターをはじめ、本作で新たに登場するキャラクターも含め総勢34キャラのプレイアブルキャラクターが登場する。今回のOP映像制作にあたり、『ストV』のディレクターを務めるカプコン・中山貴之氏は、「キャラクターと世界観を余すところなく紹介する映像にしたい」という考えの下、白組に制作をもちかけた。「白組さんに声をかけたのは、当社のタイトルで以前やっていただいた『MARVEL VS. CAPCOM: INFINITE』(2017)のプリレンダームービーが社内外で好評だったことと、僕自身白組さんが手がけた『鬼武者2』(2002)のOP映像がすごく印象に残っていて、こういうのをやりたい、と思ったからです」(中山氏)。


  • 中山貴之/Takayuki Nakayama
    カプコン 『ストリートファイターV』ディレクター

中山氏から相談を受けた白組のプロデューサー・井上浩正氏は次のように語る。「カプコンさんから方向性やコンセプトの説明を受けた上で、演出・ディレクションも込みでの制作を依頼されました。プリレンダーの技術が高く、『MARVEL VS. CAPCOM: INFINITE』のプリレンダーパートを担当した小森をディレクターに据え、チームを編成しました」。


  • 井上浩正/Hiromasa Inoue
    白組 プロデューサー

また、当初より中山氏からは「格好良く」「格闘表現」「登場キャラクター(34キャラ)を全員しっかり紹介」「ゴージャスな登場(ショーアップ感)」「ボスとの闘い」「キャラクターのルック(ゲームのキャラクターは油絵的なルックだが、そこに寄せるかどうか)」「楽曲はHIPHOP系で」といった"7つのお題"が出されたという。こうした中山氏の意向を汲みつつ『ストリートファイター』の世界観を構築するにはどうすれば良いか、小森氏率いる白組の徹底した世界観の追求が始まった。

次ページ:
<2>お互いの熱意と信頼が生んだ円滑なプロジェクト進行

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<2>お互いの熱意と信頼が生んだ円滑なプロジェクト進行

中山氏からの「お題」を受け、小森氏はまず「キャラクターをじっくり見せる」、「格闘表現」、「ショーアップ感」というキーワードを掘り下げていった。「まず、34キャラ全員を見せるのではなくメインキャラクターに加えてこれまでのOPで登場してこなかったキャラクターや新登場のキャラクターにフォーカスして、カプコンさんと相談させていただきながら、 登場人物の数を18キャラまで絞りました。そしてファッションショーのランウェイ、試合前のボクシングのリングの雰囲気やTVショー、舞台表現『フエルサ・ブルータ』などのショーアップされた舞台演出に関する資料を徹底的に収集して参考にし、今までにないキャラクター紹介の表現を追求したかったので、敢えて映像内でも実際の舞台演出とまったく同じ手法を使った表現しか使わないという方針を固め、完成イメージの食いちがいが生じないようイメージボードをつくり込んで中山さんに提案しました」(小森氏)。




  • 白組側から提出されたイメージボードの一部。中山氏は特に上のブランカのイメージボードが気に入ったという

大阪―東京と地理的な距離があったものの、資料や企画書をただ送りつけるのではなく小森氏を含め直接顔を合わせてイメージのすり合わせをしたことが、リテイクがほぼゼロというスムーズな制作進行のために重要だったと中山氏を含め全員が口を揃えて語る。「早い段階で全体のイメージをしっかりと共有し、ブレが生じる前に随時顔を合わせてコンセンサスを取ることで、演出にこだわりつつも無駄なく効率的な作業を実現できたと思います」(井上氏)。

そうして「リュウの精神修行」をストーリーの中心に据え、モノクロで描かれるリュウにとっての現実世界(ゲームの世界)と、カラーで描かれるリュウの精神修行の世界(我々にとっての現実世界)という設定の下つくり上げられた本OP。見どころのひとつとして、ゲーム内では見られない各キャラクターの日常的な一面やキャラクター同士の関係性が垣間見える演出が挙げられる。さらにリュウVSサガットのバトルシーンでは、筋肉の表現にこだわりたかったと話す小森氏が、OPのクライマックスとして演出・CG両方の面で力を注いだという(詳しいメイキングは後日紹介予定)。




完成映像の一部

中山氏が演出・ディレクションも込みで白組にOP制作を依頼した背景には、人間が無意識に感じ取る非常に人間的な要素が作用していた。「一番初めのオリエンテーションで白組の皆さんに実際にお会いしたときの感触を大切にしました。当初から、つくってもらう人の温度感や人柄を考慮した上で自分がディレクションに関わる度合いを決めようと考えていましたが、白組の皆さんはタイトルへの理解度が高くどんどんアイデアを提案して下さり熱意を感じたので、ここは映像のプロに任せて良好な信頼関係の上で作品を磨き上げていくのがベストだろうと判断して全面的にお願いすることにしました」(中山氏)。

今回の制作を通して「きっちりとしたイメージボードを用意して提案してもらったおかげで現場の様子が想像しやすかったですね。白組さんはイメージを伝えるテクニックに非常に長けていると実感しました」と中山氏は続けた。白組の「意図を掴んでしっかりとイメージを伝える」という熱意と中山氏の「映像のプロに任せよう」という信頼が全体的なコミュニケーションを円滑にし、結果的にファンの心を強く掴む映像表現へと昇華されていったようだ。

次回更新ではキャラクター制作とワークフロー構築について掘り下げていく。





  • 『ストリートファイターV アーケードエディション』
    開発・販売:カプコン
    リリース:発売中
    価格:4,990円+税(パッケージ版)、4,620円+税(ダウンロード版)
    プラットフォーム:PS4、PC(ダウンロード版のみ)
    ジャンル:対戦格闘アクション
    www.capcom.co.jp/sfv/