『ストリートファイターV』(2016)のアップデート版として1月18日(木)にリリースされた『ストリートファイターV アーケードエディション』。世界中のファンの熱狂的な支持を得たゴージャスなオープニングムービーは、制作面からみても白組とカプコンの信頼関係を軸として非常に円滑に進行した理想的なプロジェクトとなった。そんな本作のキャラクター制作とワークフロー構築について紹介していこう。
TEXT_UNIKO
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
the English version is available from following link.
https://cgworld.jp/interview/201804-sfvae-op2-en.html
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『ストリートファイターV アーケードエディション』NEW OPENING TRAILER
<1>ゲームのイメージを維持しつつリアルな質感を与えたキャラクターモデル
企画編で触れた通り、当初はゲームに登場する34キャラクター全てを描いてほしいとの"お題"がカプコンから寄せられた本作だが、最終的には新登場のキャラクターやこれまでオープニングに登場してこなかったキャラクターを魅力的に紹介していくという方針の下、18キャラクターに絞った上で制作が始まった。
キャラクター制作は、本作の主役であり登場回数が最も多いリュウをベースにルックが詰められた。カプコンから支給されたインゲーム用のモデルをベースに、ローポリ感を緩和したり格闘ゲームらしいデフォルメされたボディバランスを調整したりと、映像用モデルへのブラッシュアップを実施。まず支給されたMaya形式のモデルデータを白組側で3ds Maxにインポートし、「格闘ゲーム感」を残しつつよりリアルさとリッチな質感を加えるため、全体のバランスを意識しながら映像映えするキャラクターになるよう磨きをかけていった。
中でもキャラクター制作を任された韮澤 光氏が特にこだわったのが「眼球」だ。「ライトを当てたときにリッチな質感が出るよう、『白目+角膜』、『虹彩』、『水晶体(黒色にして使用)』の三層構造にしています」(韮澤氏)。まずリュウの眼球モデルを作成したのち、それをベースに虹彩の色を変えるかたちで他のキャラクターの眼球も全て入れ替えられた。毛髪に関しても、リアルに表現するべく全てつくり変えることが検討されたが、「リュウの瞑想の世界=我々の住む現実世界」と言う本映像のコンセプトにたち返り、あくまでも本映像は「リアルとゲームの世界の折衷」であるため、支給されたインゲーム用モデルデータに細い髪の毛をニュアンスとして追加し、髪の毛らしい質感を加える程度に留まった。
Topic 1:キャラクタールックのベースとなった「リュウ」前述の通り、カプコンより支給されたモデルは格闘ゲームなだけあってバトル中でもヒットしたときにわかりやすいよう手足が大きめにつくられていたり、シャツの襟をはじめ引きの画面で見映えが良くなるよう各所がデフォルメされていたりと、ムービーになった場合に違和感がないバランスになるように調整する必要があった。また、質感を追求してリアルにつくり込みすぎると、ゲームの世界観とかけ離れて別物になってしまう恐れがあるため、あくまで『ストリートファイターV』という格闘ゲーム感を残しつつ、ちょうど良いさじ加減でリッチかつリアルな質感を与えるべく、キャラクターそれぞれにベストなバランスが探られた。
・リュウのルック
本作で最も登場回数が多い「リュウ」をベースモデルとしてルックが決められた。上段:最初にカプコンのチェックに出された初期のルック。こちらでカプコンのOKをもらい方向性が固まった。中段&下段:3点照明のチェックライトでレンダリングした最終ルック
・モデルとテクスチャ
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- ムービー用のモデルと、調整したディフューズマップ。チェックカメラでレンダリングして解像度的に問題がなさそうなキャラクターに関しては、V-Rayで扱えるようテクスチャの色味を調整することが主な作業となったという。テクスチャ制作にはPhotoshop、MARI、Substance Painterが使用されたとのこと
眼球は、画面左から「水晶体(黒色にして使用)」、「虹彩」、「白目+角膜」の三層構造になっている。リュウの眼球をオリジナルモデルとして制作し、虹彩の色味を変えるかたちで各キャラクターに流用された
・髪のディテールアップ
短髪であるリュウの髪は、インゲーム用データのローポリ感を緩和させるため、板ポリで細かい毛を足してニュアンスを出し、毛先をアルファマスクで抜いている。さらに奥行きを出すためにレイヤーにして髪の毛らしい質感を演出
Topic 2:以前の作品より成長した「さくら」『ストリートファイター』シリーズの大ファンだという韮澤氏は、各キャラクターの背景やストーリーをはじめ特徴となるポイントを熟知しており、本映像の制作において社内監修役を任された。「さくらを例にすると、今は高校を卒業して ゲームセンターでバイトをしているという設定なので、以前の作品よりメイクは少し強めで、ゲームセンターで使うインカムを頭にセットしているなど、キャラクターのイメージ像が自然と頭に浮かんできました。キャラクターをよく知っていて頭の中に明確なイメージがあると、制作がずいぶんやりやすくなるものだなと実感しました」(韮澤氏)。目に光が入ったときの虹彩の反射が生み出すリッチ感やリップのツヤ感など、照明を当てたときにキャラクターの魅力がひときわ際立って見え、ファン目線で見ても違和感のないルックを実現した。
・ルック
前作より大人になった「さくら」は、やや化粧を強めにしている。衣装はアルバイト先のゲームセンターの制服
・モデルとテクスチャ
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- さくらのムービー用モデルと顔のディフューズマップ。インゲーム用のテクスチャは全体で4Kのサイズがあるが、顔部分は500ピクセルもなかったため、カメラで寄りになる部分に関しては別途高解像度版のテクスチャを用意した。MARIのTransfer機能を使い、インゲーム用テクスチャをムービー用テクスチャにベイクして作業のベースとしたとのこと
さくらのムービー用モデルを表示した3ds Maxの画面。左がチューブ状の髪の毛モデルのディフューズ表示、右が板ポリモデルのアルファマスク表示。さくらのような髪が長めのキャラクターは、インゲームモデルではメインとなるチューブ状の髪モデルの上に板ポリゴンをアルファで抜いた髪を重ねる構成になっていた
左:ムービー用にMARIを用いて高解像度化したチューブモデルのディフューズマップ、右:ムービー用に描き直したチューブモデルのアルファマスク。解像度自体は4Kのまま変更していない
・インゲームモデルならではのデフォルメの解消インゲーム用のモデルでは、引きの画面でもキャラクターが映えるようパーツがデフォルメされている。さくらが着ているシャツの襟も、映像用には違和感があるほど厚みがあったため、Morpherモディファイヤで薄くし、バランス良く調整した
同様のパーツ調整がよくわかるのが、春麗が口紅を塗るシーン。インゲーム用のモデルは引きで動作がわかりやすいよう手がかなり大きくつくられているため、違和感がないよう調整している。左はインゲームの手の大きさそのままの状態、右はムービーで使用している、70%スケールをかけた状態
手足のスケーリングは、CATリグに直接スケールをかけると見た目に不具合が出てしまうため、社内ツールが使用されている。画像左が社内ツールでスケールをかけた状態、右がCATリグに直接スケールをかけた状態
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<2>プロジェクトに合わせた最適なワークフローの構築
<2>プロジェクトに合わせた最適なワークフローの構築
本作では短期間でハイクオリティな作品を制作するため、綿密なワークフローの構築と、自動ツールの作成等スタッフが効率的に作業できるようテクニカル面のサポートも充実していた。大規模な制作プロダクションでは社内で固定のワークフローが運用されているケースが多いが、白組・三軒茶屋スタジオではフルCG、セルアニメーション、実写、ストップモーションと制作案件の性質が多岐に渡り、規模も案件ごとに異なるため共通のワークフローは存在せず、案件ごとに最適なワークフローを構築していくことが慣例なのだという。
テクニカル面の多くを請け負ったCGテクニカルスーパーバイザーの初鹿雄太氏は、本プロジェクトがスタートした4月当初からカプコンとの打ち合わせに同席し、プロジェクトの性質を理解した上でワークフローの構築を進めていった。「納品までの4ヶ月という時間の中でいかにクオリティの高い作品を効率的に制作するか、まずは早急にワークフローを決める必要がありました」(初鹿氏)。
ディレクターの小森啓裕氏と話し合いを重ね、"キャラクターを強調したムービーをつくる"という部分に焦点を絞り、モデリング、モーションキャプチャ、レイアウト、ルックデヴ、エフェクト制作など並行に走る全ての作業の終着地点を1つに集約するため、社内のソフトウェアの環境とスタッフの意向をヒアリングしながら丹念にワークフローを構築。初鹿氏は「今回はモーションキャプチャを使用し、また、舞台らしさの演出表現のために床面への映り込みに気を配るという前提があったため、リアルタイムのリフレクション描画がMayaや3ds Maxよりも格段に速いMotionBuilderをレイアウト~アニマティクス完成までの工程に全般的に活用することにしました」と語る。また、プロジェクト効率を上げるため、リガー以外のスタッフでも簡易的な筋肉表現やフェイシャルセットアップが行えるよう自動化するツールの整備など、普段ボトルネックとなりがちな工程の排除を行なったとのこと。
・ワークフロー初鹿氏が本作のために組んだワークフロー。作業のながれに加え、Maya、3dsMax、MotionBuilderのツール間の連携がわかりやすい。「Tool」アイコンは内製ツールを表す
・インゲームアセットを3ds Maxに読み込みCAT化カプコンから支給されたMayaデータを3ds Maxにインポートし、そのモデルとボーンデータを、内製ツールを併用しながらCATに変換、同時にスキンウェイトも継承していく。こうしてCAT化されたリグをMotionBuilderにもっていき、再び3ds Maxに戻せるよう調整されている
・MotionBuilder上でのレイアウト
MotionBuilder上でのレイアウト作業の様子。本作では、「実際の舞台と同じ手法を使った演出をする」というコンセプトの下、キャラクターが黒塗りの映り込みが入る質感の床面に立って演技をしているようなカットが数多くある。床面への反射が構図に大きく関わるため、リアルタイムで反射を描画可能なMotionBuilderが重宝された
・ブラッシュアップしたモデルとリグを統合する内製ツール
左:リグとブラッシュアップしたモデルを統合する内製ツール「BodyAddon」のUI。簡易的な筋肉表現の構築もこれに含まれている/右:ブラッシュアップしたモデルに自動的にフェイシャルリグを構築する「FacialAddon」のUI
上記2ツールの使用イメージ
「BodyAddon」ツールによって構築された簡易的な筋肉表現のためのリグの例。腕を曲げたときなどに生じる筋肉の膨らみのON/OFFと、膨らみ具合の調整が可能。本来ならばリガーと連携する、もしくは作業者自身でリグを構築しなければ対応できない部分だが、このツールによりモデラーでもリグを調整できるようになり、ポーズごとに筋肉表現のセットアップを行なった。アニメーターもこのリグを使用してショットごとに筋肉の誇張表現が行える。そのほか、肘・膝の尖り具合なども動的に調整できるようになっている
・モーションとフェイシャルのライブラリ
制作にあたってゲーム内の表情や動きについても全て再現可能な環境にするため、カプコンから提供されたインゲームのフェイシャルアニメーションおよびモーションを全てライブラリ化。フェイシャル、インゲームモーション、モーションキャプチャデータは全て同じフォーマットのアニメーションデータとして読み込みが可能となっている。上段はフェイシャルライブラリのUIと使用画面、下段はモーションインポーターのUIと使用画面
・SHOTGUNによる進捗管理
シーケンス管理にはSHOTGUNが使用された
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『ストリートファイターV アーケードエディション』
開発・販売:カプコン
リリース:発売中
価格:4,990円+税(パッケージ版)、4,620円+税(ダウンロード版)
プラットフォーム:PS4、PC(ダウンロード版のみ)
ジャンル:対戦格闘アクション
www.capcom.co.jp/sfv/