7月8日(日)から放送がスタートする3DCGアニメーション『スペースバグ』。実験のために宇宙に連れてこられた虫が、人間がいなくなった宇宙ステーションの中で工夫して生き延び、地球への帰還を目指す姿を描き出す、笑いと感動の物語だ。監督を務めるのはNHKで放送後映画化もされた『タイムスクープハンター』などの代表作をもつP.I.C.S.の中尾浩之氏。本作がTVアニメ初挑戦となる。キャラクターデザインはマーベル作品の作画や、ディズニー/ピクサー作品の絵本を手がける日本人イラストレーターユニット・グリヒル。ビジュアルから演出からもこれまでにないアニメーションを表現してくれることはまちがいない。今回、キャラクター開発と作品づくりについて、両者に対談で語っていただいたので前後編にてお届けする。

INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota


  • オリジナルTVアニメーション『スペースバグ』
    7月8日(日)TOKYO MXにて放送スタート!
    毎週日曜あさ10時30分
    脚本:中尾浩之
    監督:中尾浩之/YOON Yoo-Byung
    キャラクターデザイン:グリヒル
    アニメーション制作:W.BABA/P.I.C.S.
    企画:トムス・エンタテインメント
    製作:SPC/トムス・エンタテインメント/W.BABA

    【配信情報】
    ・「dアニメストア」7月8日(日)より配信開始
    ・「dTV」7月8日(日)より配信開始
    ・「FOD」7月8日(日)より配信開始
    ・「あにてれ」7月8日(日)より配信開始
    ・「J:COMオンデマンド」「ビデオパス」7月9日(月)より配信開始
    ・「バンダイチャンネル」7月9日(月)より配信開始
    ・「U-NEXT」7月9日(月)正午より配信開始

    www.spacebug-special.com


オリジナルTVアニメーション「スペースバグ」予告編


<1>「虫」と「宇宙」をテーマに独特のテイストで描くSF冒険劇

CGWORLD(以下、CGW):事前に6話まで見させていただきましたが、アクションの楽しさはもとより、お話もロジカルで要所要所に科学的なお話も挿入されていたりと、とても面白い内容だと感じました。

中尾浩之監督(以下、中尾):ありがとうございます。子どもに向けた作品ではありますが、媚びないつくりにしたので、大人の方が見ても面白い作品になったと思います。アクションの構築は自分の好きなヒッチコック作品を手本にして、毎回いろんなアイデアを出してドキドキできるようにつくっています。


  • 中尾浩之/Hiroyuki Nakao(P.I.C.S.

    日本大学芸術学部放送学科卒。実写とCGを組み合わせた独自のスタイル"ライブメーション"による『スチーム係長』が1998年MTV Station-IDコンテストにてグランプリを受賞。2000年カンヌ広告祭におけるニューディレクターズショーケースで世界の新人監督8人に選出される。2004年オリジナルショートフィルム『ZERO』が、アカデミー賞登⻯門でもあるショートショートフィルムフェスティバルにてグランプリ・審査員賞・学生審査員賞をトリプル受賞。2009年脚本・演出を手がけた『タイムスクープハンター』がNHK総合にて放送開始。以後6年に渡りSeason1~6が放送される。2013年夏には『劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日』が公開。2018年春に放送された日本テレビ深夜ドラマ『卒業バカメンタリー』でも監督を務めた
    www.pics.tokyo/people/hiroyuki-nakao/

CGW:本作は企画は5年前とのことですが、どのようなながれで組み立てていかれたのでしょうか?

中尾:最初にいただいたお題は「虫と宇宙」ということだけで、それ以外は何も決まっていませんでした。ただ、ストーリーはすぐに思いついたんです。昔から僕は、宇宙実験に連れて行かれた動物や虫に興味があり、人間がいなくなったら彼らはどうなってしまうのだろうかと想像していました。置いてきぼりにされてしまったら、地球に戻りたいんだろうなと思って、彼らが地球に戻るまでの冒険モノのストーリーを考えました。

CGW:宇宙を舞台にということで、科学的なリサーチもされましたか?

中尾:はい。宇宙ではどんなことが起こるのかといったことや、宇宙ステーションでの設備の問題から、食料問題、テラフォーミング、植物工場といった先端的な話題まで盛り込んでいます。とはいえ、あまり勉強中心にはならないようにエンターテインメント性を打ち出すことには、気をつけています。僕はエンターテインメントSFも大好きですから、いろいろな作品に影響を受けていますね。『銀河ヒッチハイクガイド』とか、エドガー・ライト監督の映画とか、要はイギリス的な、知的さとユーモアの両立みたいな作品。この作品もそうなっていると良いのですが(笑)。


©W.BABA & TMS

CGW:グリヒルさんにはどのタイミングでキャラクターデザインをお願いされたのでしょうか?

中尾:ストーリーが決まってからでしたっけ?

グリヒル・ササキ(以下、ササキ):そうですね。お題が虫で、しかも主人公がネムリユスリカということに驚きました(笑)。

中尾:今回、トムス・エンタテインメントさんからお2人をご紹介いただいて、はじめて作品集を拝見したのですが、その絵がことごとく僕のツボで、どのキャラクターもみんな好きになりました。ちょうど日本とアメリカのテイストの間のような感じがすごく良くて、一目惚れでした(笑)。今回、主人公をネムリユスリカに決めて、可愛く親しみのあるキャラクターにというオーダーをしたら、それもまた驚くほど素晴らしい仕上がりでした。

CGW:ここでグリヒルさんのこれまでのお仕事を簡単にふり返りたいと思います。アメコミの作画やディズニー/ピクサー作品のイラストレーションを担当されているんですよね?

ササキ:はい。それまでは会社員をしていたのですが、2000年頃、MARVELが日本人アーティストを募集していたのでポートフォリオを送ったところ、「描いてみないか?」というお話をいただけたんです。

グリヒル・カワノ(以下、カワノ):タイミングも良かったんだと思います。当時はマーベルで日本のマンガスタイルのコミックスがすごくウケていた時期で、それならば日本人に描かせればもっと良いだろうと考えたんでしょう。そこに私たちがポッと入っていける隙間があったという。


  • グリヒル
    グリヒルは作画担当のササキとカラリストのカワノのユニット名。主にアメリカのコミックアーティストとして執筆する傍ら、日本国内では書籍、ゲーム、アニメなどのイラストレーターとして活動中。MARVELでの代表作『グウェンプール』、『パワーパック』のほかウルヴァリン、スパイダーマン、キャプテンアメリカなど人気作品の作画を手がける。また、ピクサーによる映画『メリダとおそろしの森』のその後の話を描いた児童小説のカバー・挿絵やディズニー映画『ズートピア』のコミックを担当するなど、数多くの作品を手がける。8月公開予定のピクサー映画『インクレディブル・ファミリー』の絵本でもアートを担当しており、同作は現在発売中
    gurihiru.com

ササキ:私はもともとディズニーがすごく好きでめちゃくちゃ影響を受けていて、ディズニーのアーティストの方たちがどんな絵の勉強をしているかを調べて、自分でも実践したりしていました。だからディズニーの影響を強く受けつつ、日本的な絵柄もあって、結果的に和洋折衷になっていたと思うんですよね。それがアメリカの人にとってもすんなり受け入れられたのでしょう。

CGW:監督はグリヒルさんの絵に一目惚れされたとおっしゃいましたが、具体的にはどんなところが?

中尾:まさに今おっしゃったようなところですね。日本のマンガ的良さとアメコミ的良さを併せもっていらっしゃる。僕はディズニーの動物キャラクターが好きなのですが、最近の日本ではそうしたキャラクターのアニメ作品があまりなかったので寂しく思っていたんです。


ササキ:昔は動物が主人公の作品って結構ありましたよね。ハッチ(『昆虫物語 みなしごハッチ』/1970)とか、ロッキーチャック(『山ねずみロッキーチャック』/1973)とか。

中尾『みつばちマーヤの冒険』(1975)とか、『ガンバの冒険』(1975)とかね。

ササキ:この企画をいただいたときに、最近にしては珍しいなと思いました。

中尾:昔観ていたアニメの復興ではないけれども、僕自身もめったにできないチャンスだなと思ったんです。対象年齢は何となくはありましたが、ストーリーも自由に書かせてもらえました。


本作の主人公、ネムリユスリカのミッジ ©W.BABA & TMS

CGW:主人公のキャラクターを、ネムリユスリカという虫にしたのはどういう発想からでしたか?

中尾:先ほどの、実験で連れて行かれた生きものについて調べていく中でユスリカを見つけたら、この生態がとてもおもしろかったんです。アフリカなどに生息していて、乾燥した仮死状態から水分を与えると生き返るとか、タフにサバイバルしていく。ちょうど主人公にはポジティブで勇敢で、少しやんちゃな感じのキャラクターを想定していたので、これは使えるんじゃないかと思って。僕は『タイムスクープハンター』でも、有名な戦国武将ではなく、懸命に生きている庶民や名もなき人を描いていたので、そういう存在がツボなんですよね。だから今回の主人公がカブトムシのような主人公然とした虫ではなくネムリユスリカになったのは、必然だったと思います。

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<2>CG作品でも実写作品と変わらない制作スタイル

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<2>CG作品でも実写作品と変わらない制作スタイル

CGW:監督は今までアニメーション作品を手がけられたことは?

中尾:今までは実写ばかりでしたので本格的なアニメーションは初めてです。

CGW:実写であればキャラクターづくりにおいて、その役者の存在感や雰囲気からも確立されていく部分があるかと思いますが、アニメーションでは、ある程度の設定を決めてイラストレーターに託すことになります。今回のキャラクターづくりはどのように進めていきましたか?


©W.BABA & TMS

中尾:性格づけを文面で書いてお渡しして、あとはもうグリヒルさんの第一印象でとおまかせしました。なにしろツボに入った絵だったので(笑)。

ササキ:ほとんどNGがなかった記憶がありますね。言われなさすぎて心配になるくらい(笑)。

中尾:作品が上手く転がるときって、得てしてそういうものなんですよ(笑)。

CGW:制作体制とフローはどのようにされていますか?

中尾:プレスコをした音源データを基にVコンテをつくり、カメラポジションとか動きを全部僕の方で指示し、それを韓国のCGスタジオW.BABAに渡して、ラフなCGが上がってきてそれをチェックして、最終的なCG映像にというながれですね。僕のつくり方としては実写と同じです。


中尾:『タイムスクープハンター』はフェイクドキュメンタリーでしたから例外ですが、基本的にいつも絵コンテを描いて計算して演出していくので、アニメと実写のちがいは僕の中であまりない感じですね。セットデザインもCGではデジタル上で置き換えて同じように考えますし、ストレスなくできました。

CGW:コンテを切るときに時間はかかりましたか?

中尾:実写のときはへのへのもへじで簡単に描くんですけれども、今回は言葉の問題もあるから詳細に描く必要があって、そのぶん結構時間がかかりましたね。

CGW:仕上がりはいかがでしたか?

中尾:最初こそ、少しぎこちないところがあったのですが、すぐに良くなりました。それに、僕もどんどん上を求めてしまうところがあって(笑)。TVシリーズなのに、大がかりでつくった舞台セットをあっさり壊してしまったり(笑)。

CGW:演出上、実写作品とちがいはありましたか?

中尾:実写の場合だと、現場でこれにトライしてみようとかこのテイクをやってみようとか相談して、何が出るかわからないような化学反応の面白さがあるのですが、アニメーションの場合は全てこちらでコントロールできるので、そのあたりは全部自分でシミュレーションして決める必要がありました。どちらが良いかということではなく、そのちがいにおける面白さはありましたね。今回はプレスコだったので、そこでアドリブをやってもらったりして、それをそのままCGに置き換えています。


©W.BABA & TMS

CGW:声のディレクションはどのようにされていたのでしょうか?

中尾:まず1回自由にやらせて、感情が乗りやすいところがあったら変えても構わないようにやってもらっています。実写の芝居と同じように、アニメのセオリーを考えないように演じてもらっています。多少、音が被ったとしても構いません。僕自身、作風としてリアルな会話が好きなので。

CGW:音の面からいうと、本作は日本のTVシリーズには珍しいフィルムスコアリング(※)で音を付けられているそうですね。

※:フィルムスコアリング
映像作品の劇伴音楽において、あらかじめ制作した曲をシーンに当てはめるのではなく、各シーンの尺や見せ方に併せて作曲する手法のこと。ハリウッド映画の劇伴制作によく用いられる

中尾:いつも僕の作品でお願いしている戸田(信子)さんに、この作品でも音楽を担当してもらっています。フィルムスコアリングをすることで、アクションのドキドキやキャラクターのエモーションが直感的に伝わります。贅沢に使っていますので、堪能してもらいたいですね。


©W.BABA & TMS

<後編に続く>
後編は7月6日(金)公開予定です。