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自分が本当に使いたいアプリを自分でつくる~シネマトグラファー倉田良太のデジタル仕事術

自分が本当に使いたいアプリを自分でつくる~シネマトグラファー倉田良太のデジタル仕事術

今やすっかり撮影現場に定着したデジタルツール。しかし、仕事に必要なツールを自分自身でつくるクリエイターは少ない。その数少ない例外がシネマトグラファーとして活躍する倉田良太氏だ。iOS向けに4本のアプリをリリースし、中でも「AR Finder」はNHKスペシャル『恐竜超世界』の制作にも使われたほど。映像業界とアプリ開発の世界をシームレスに行き来する倉田氏に、これまでのキャリアとアプリ開発について聞いた。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

<1>北海道の田舎でパソコンと映像に触れた中高生時代

CGWORLD(以下、CGW):今日はよろしくお願いします。映像業界歴は何年目になるのですか?

倉田良太氏(以下、倉田):撮影助手を24歳くらいからやったので、25〜26年くらいになりますね。

倉田良太/Ryota Kurata
北海道北見市出身。今はなき東京映像芸術学院卒。フィルムの撮影助手を経てシネマトグラファーとして独立。最近の仕事は、西川貴教&ASCA『天秤-Libra-』MV撮影。2014年からiOS用アプリを開発。FeelShot(カメラ)、ShotsData(撮影データ記録)、台本ビューア、AR Finderの4本を軸に鋭意開発中
rkLab.net



CGW:撮影を志したきっかけや、感銘を受けた作品はありますか?

倉田:もともと映画が好きだったこともありますが、仕事との関連性でいえば『ゴットファーザー』でしょうね。もちろん、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか、『時計じかけのオレンジ』とか、好きな作品はたくさんあります。ただし絵として迫力があって、見る人間に訴えかける意味では、『ゴッドファーザー』ですね。

CGW:『ゴッドファーザー』はいつ、どんなシチュエーションでご覧になったのですか? テレビの洋画劇場で観たとか?

倉田:どういう順番で観たのか、今となっては記憶が定かではありませんが、『III』の公開前に『I』と『II』の内容を再編集した『ゴッドファーザー・サーガ』というテレビドラマが、アメリカで放映されたんですよ。それがむちゃくちゃ好きでしたね。高校の頃にビデオで観たのかな?

『ゴッドファーザー・サーガ』トレーラー

倉田:余談ですが、僕らの子供の頃って映画は本当に映画館で、1回きりで見るものだったから。スクリーンに対する集中度合いがすごかったと思うんですよ。今みたいにスマホを見ながら......なんて信じられないですよね。

CGW:その感覚はよくわかります。ちなみに『ゴッドファーザー』で好きなシーンなどはありますか?

倉田:特定のシーンというわけではありませんが、『ゴッドファーザー』はトップライトが多用されていて、目がちょっと隠れて見えるんですよね。あのへんの迫力の付け方が......見ていて重いんですね。そのときは迫力がちがうなと思って見ていた程度でしたが......これがライティングのせいだと気づいたのは、相当後のことでした。あのとき、ギャングものの映画をけっこう見ていたんですが、何か全部絵が軽かったんです。『ゴッドファーザー』だけちがっていました。

CGW:そこはプロならではの視点ですね。

倉田:いえいえ、すごく素人的な説明で恐縮ですが。そういえばこれも余談ですが、『ゴッドファーザー』のアスペクト比って、『I』〜『III』まで4:3のアカデミーサイズなんですよ。ちまたに出ている映像コンテンツは上下を切って16:9のビスタサイズにしているんです。

CGW:ええっ!? それは気づきませんでした。もったいない感じがしますね。

倉田:そうですね。機会があったら、昔のビデオなどで確認してください。

自主映画制作時代

CGW:ちなみに、学生時代から自主映画の作成などはされていたのでしょうか?

倉田:高校のときに、少しだけやっていました。北海道の北見市で、知る限り周りに8ミリなどの文化が全然なくて......。ベータマックスのビデオカメラやビデオデッキを使っていました。高校のときに編集室があって、ベータマックスで編集ができたんですよ。

CGW:創作活動に力を入れていた高校だったんですか?

倉田:そんなこともなく......北海道北見北斗高等学校という、ラグビーが強いことで有名な学校ですが。最近ではカーリングで有名になった北見市です。

CGW:一方でプログラミングの経験はありましたか? 遊びで何かゲームをつくってみたとか。

倉田:それは中学生の頃からやってました。はじめて触ったパソコンはNECのPC-8001です。年がばれちゃうけど、僕が中学生の頃って、今のカラオケボックスみたいな感じで、パソコンを1時間三百円とかで、時間貸しで使わせてくれる場所があったんです。北見の駅前にありました。

CGW:それは知りませんでした。その後もパソコンは触っていらっしゃったんですか?

倉田:そうですね。パソコン通信の時代からネットもやってましたし。NiftyServeもPC-VANも入っていましたし、最初に買ったモデムの通信速度は1200bpsでした。たしかPC-8801SRだったかな。

CGW:とてもシネマトグラファーの原体験をお聞きしている感じはしないんですが(笑)。そこで大半のパソコン少年のようにゲーム業界に行くのではなく、映像業界に行かれた理由はなんでしたか?

倉田:電気的・電子的なことも好きだったんですが、映画はもっと普遍的じゃないですか。コンピューターは今でも進化してますけど、もっと普遍的なことやりたいっていう欲求は、今でもありますね。

CGW:なるほど。プログラムは刹那的な面がありますよね。スマホがなくなったら、アプリも動かないですからね。

倉田:そうですね。もうちょっと後生に残せるようにしたいなと思ってるんですけどね。

CGW:明確に映像業界に入りたいと思われたのはいつでしたか?

倉田:大学時代に、映像の撮影のアルバイトをしてたんですよ。大学は北見工業大学の工学部でしたが、中退して東京に出てくるんですよね。電気系・電子系が好きだったながれで、そのまま地元の国立大学に進学しましたが、実はあんまり向いてなかった気がしますね。

CGW:数IIIとかできるだけで、大したものかと。

倉田:いや、もうできないですよ。ただ、「AR Finder」は行列をけっこう使いました。それで少しは役だったかな。ただ、ARの部分はアップル純正のフレームワーク「ARKit」を使っているので、そんなにたいしたことをやっているわけじゃないです。むしろ「AR Finder」の誇れるところは、動画を撮影できるところなんです。そこの開発には一番時間を費やしました。

CGW:話を戻しますが、上京されたきっかけは何でしたか?

倉田:やりたいことをやりたいってことですかね。特にツテなどはなかったので、東京映像芸術学院という専門学校に行きました。今はもうなくなっちゃったんですが、校舎が赤坂と北千束にあって。卒業生でいえば、後に仕事でご一緒する故・市川 準監督などが有名ですね。

CGW:そこで撮影の勉強をされて?

倉田:学校で何かを具体的に学んだという意識はないのですが、同じような奴らがいっぱいいたので。みんなで自主映画をつくっていました。今の環境だったら、もっと簡単に、良いクオリティのものがつくれるだろうなって思いますけどね。

CGW:当時は8ミリで撮影されていたんですか?

倉田:そうですね。Hi8もありましたが、ほとんど8ミリで撮ってましたね。

CGW:何か当時から好きなジャンルや、好きなモチーフはありましたか?

倉田:その頃は......がむしゃらだったから。何でもやったかな。とにかく、まわりに死ぬほど映画を観ている学生が多くて、驚きました。

撮影助手時代

<2>デジタルシネマカメラの上陸でプログラミングを再開

CGW:当然、その頃はプログラムとかやっていなかったと思います。

倉田:やってないですね。東京に出てきてから、撮影助手をはじめて3年目くらいまでは、パソコンの類はいっさいさわらなかったです。ひたすらアナログな環境で生きていました。

CGW:プロになられてから、ジャンルとしてはどのようなお仕事を中心に?

倉田:コマーシャルと映画です。35ミリのフィルムを使う現場ですね。今から20〜25年前くらいだと、ビデオ撮影の現場と、フィルム撮影の現場では、働く人たちが完全に別れていました。テレビ業界はビデオで、映画とコマーシャルはフィルム中心でしたよね。映画を年に1〜2本やって、その合間にコマーシャルをやって。そんな感じで11年くらい、撮影助手をやっていました。

CGW:現在はいかがですか?

倉田:撮影助手のときよりは忙しくないので......一番多いのはWeb広告系ですね。最近だと西川貴教さんのミュージックビデオの撮影をやりました。もうすぐ公開されると思います。

西川貴教+ASCA「天秤-Libra-」Music Video (Short ver.) (TVアニメ『白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE』OPテーマ)

CGW:今はデジタルカメラが主流になっているわけですか?

倉田:99%デジタルですね。自分自身でいえば、フィルムの仕事は映画『散り椿』(2018)でCカメをやったのが最後です。

CGW:映像業界での仕事と、プログラミングが交差するのは、いつくらいでしたか?

倉田:初代iMacが出る直前だから、1997〜8年くらいですね。撮影助手をやって、多少お金ができた頃で、Windows PCを買いに行ったんですよ。それまでマニアックなパソコンばかり使っていたので。話に出しませんでしたが、X68000も使っていました。

CGW:それは業が深いですね。

倉田:なので、いちばんメジャーなPCを買おうと思って。ただ、お店でちょっと触って、全角と半角が入り交じったデスクトップ画面に耐えられなくて......。結局Power Macintosh 7600を買いました。

CGW:購入の主な用途は何でしたか?

倉田:特に何かってわけじゃないけど、インターネットかなあ......。ブラウザがNetscapeの時代で、HyperCardが現役の時代でしたね。そこから相当、Macに無駄な金を使っています。次に買ったのが、たぶんPowerBook 2400cで、そこからiMacを買って......十数台は買ってますね。仕事場にはPower Mac G3やG4が転がっています。今から考えれば、買い替えるタイミングをまちがってましたね。まだ高いうちに下取りに出していけばよかった(苦笑)。

倉田氏が購入した歴代アップル製品たち

CGW:プログラミングを再開されたのはいつ頃でしたか?

倉田:そこから10年くらい経って、Red Digital Cinemaの「RED ONE」を使うようになったことがきっかけでした。この製品が日本に入ってきたのが2008年で、当時は今のように個人で使えるDaVinci Resolveなどがなかったので(※)、撮影した素材を「REDCINE」でデジタル現像する必要がありました。

※2009年にブラックマジックデザインが当時の開発元であるda Vinci Systems社を買収。2010年9月に公開されたVersion 7.0にて、Macintosh版(ソフトウェア版)がリリースされる以前は、ポストプロダクション向けのカラーコレクションシステムであり、ユーザーは限られていた

倉田:そのうちFinal Cut Proでオフライン編集したXMLデータをREDCINEにエクスポートする手段がどうしても必要になって、「TestPiece」という専用のMac用アプリを開発したのです。プログラミング言語のObjective-Cでつくって3,000円で販売したら、あっという間に30万円くらいの売上になりました。

CGW:そんな成功体験があったんですね。Objective-Cは独学で学ばれたのですか?

倉田:独学ですね。もともと数学的な思考みたいなものは好きなんですよ。ただ、今になって思うと、もうObjective-Cでコードを書きたくはないですね。

CGW:ちょうどプロの現場がデジタルに移行する過渡期だったんですね。その後も倉田さんがつくられているアプリは、「FeelShot」(後述)以外は、プロ向けに開発されたものだと思います。

倉田:そうですね。ニッチな分野向けというか。

CGW:最初に開発されたTestPieceは、どれくらいの期間でつくられたのですか?

倉田:3ヵ月くらいだったと思います。当時はMacしかなかったし、Swiftもなかったから、Objective-CでmacOS向けアプリをつくるための情報が、けっこう潤沢だったんですよ。技術書とか、Webとか......。今は逆にiOSアプリ開発向けの本はたくさんあるんですが、macOS向けの情報はほとんどないので、逆に大変ですね。

CGW:反響は如何でしたか?

倉田:ネスト化されたシーケンスでも対応してほしいなど、海外も含めて、いくつか要望がありました。その後、REDCINEがXMLデータの読み込みに対応したので、自作アプリの存在価値が良い感じでなくなったので、サポートを終了しました。昨年リリースした「AR Finder」(後述)もそうなるかもしれませんね。アップルが今、純正のフレームワーク「Reality Composer」を開発していて、そこに組み込まれる可能性があるので。

CGW:倉田さんからすれば、わざわざ自分で手を動かしてつくらなくても、アップルやツールベンダーが理想のものをつくってくれれば、そっちの方が全然いいっていう感じでしょうか?

倉田:まさしくそうですね。逆に公式でサポートされない、ニッチな機能をいかに提供していくかが、僕のアプリの存在価値になるので。

CGW:ただ、誰もつくってくれないから、自分でつくるしかない。

倉田:そのとおりですね。これまでに4つのアプリをリリースしました。カメラアプリの「FeelShot」、撮影データ記録アプリの「ShotsData」、台本をiPhoneで読むための「台本ビューア」、そして「AR Finder」です。「台本ビューア」だけ日本限定で、その他はワールドワイドで出しています。

CGW:アプリ開発の知識も完全独学ですか?

倉田:そうです。ただ、アプリ開発のうちの9割ぐらいは、労働感がすごいんですよ。1割ぐらいは数学的思考でけっこう楽しいんだけど、9割ぐらいは頭脳労働って言うのかな。労働感が半端ないですね。プログラム言語はSwiftを使っていて、コード部分は全てコピペできるんですが、それとは別に周辺に機能があって、1つずつ関連付けていかないといけなくて。そういう作業が無尽蔵にある感じです。

自主映画制作時代

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<3>アップルが公式で開発してくれるなら、それでいい

Profileプロフィール

倉田良太/Ryota Kurata

倉田良太/Ryota Kurata

北海道北見市出身。今はなき東京映像芸術学院卒。フィルムの撮影助手を経てシネマトグラファーとして独立。最近の仕事は、西川貴教&ASCA『天秤-Libra-』MV撮影。2014年からiOS用アプリを開発。FeelShot(カメラ)、ShotsData(撮影データ記録)、台本ビューア、AR Finderの4本を軸に鋭意開発中
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