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いま体験しておくことが未来に続く大きな分岐点になる......近藤"GOROman"義仁氏に聞くOculus Quest 2発売の意味

いま体験しておくことが未来に続く大きな分岐点になる......近藤"GOROman"義仁氏に聞くOculus Quest 2発売の意味

米Facebook傘下のOculusから10月13日に発売されたスタンドアロン型VRデバイス「Oculus Quest 2」。2019年5月に発売された「Oculus Quest」の後継機種で、Wi-Fi環境さえあれば、いつでもどこでもVRコンテンツが楽しめる6DoF対応のVRデバイスだ。大幅な性能アップを果たした一方、価格を299ドル(64GBモデル/日本では33,800円+税)と1万円以上も引き下げたことで、大きな話題を集めている。

こうした状況を早くから予言していた人物がいる。VRエバンジェリストとして、日本のVRシーンを牽引してきたXVI代表のGOROmanこと近藤義仁氏だ。2018年4月に上梓した書籍『ミライのつくり方2020-2045』では、2020年がVRのターニングポイントになると予言し、見事に的中させた。6月には加筆・修正版の『ミライをつくろう! VRで紡ぐバーチャル創世記』も上梓し、改めてその先見性に注目が集まっている。

一方で広くXRシーンを俯瞰すると、LiDARセンサが搭載されたiPhone 12 Proや、次世代ゲーム機のPlayStation 5Xbox Series X/S、そして来年リリース予定のUnreal Engine 5と、立て続けに注目製品やサービスが登場している。こうした一連の新製品が3DCG制作のワークフローを揺さぶる中、3DCGクリエイターは、どのように対処していけば良いのか。現状と未来について聞いた。

INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

VRデバイスのコモディティ化を宣言したOculus Quest 2

CGWORLD(以下、CGW):お久しぶりです。Oculus Quest 2(以下、Quest 2)がかなり盛り上がっていますね。自分も発売日に購入しました。

近藤義仁氏(以下、近藤):確かに今までのガジェットとは、まったくちがう層にまでリーチしている印象がありますね。

  • 近藤義仁/Yoshihito Kondoh(GOROman)
    株式会社エクシヴィ代表取締役社長
    www.xvi.co.jp
    Twitter:@GOROman

CGW:個人ユーザーもさることながら、法人ユーザーが多いのも特徴です。発売日には何十台もパッケージを並べた写真をSNSで良く見かけました。

近藤:なんといっても、家電量販店で買えるようになったのが大きいですね。Quest 1のときはAmazonか公式サイトでしか買えなかったので、クレジットカードかPayPalでしか決済できなかったんですよ。そのため企業が請求書ベースで決済しにくい面があった。そこがQuest 2との最大のちがいだと思います。

CGW:セットアップも簡単で、まさに家電感覚でした。

近藤:自分も発売日に渋谷のビックカメラに行きましたが、ゲーム機コーナーの隣に並べられていましたね。今までだったらPCの周辺機器コーナーで販売されていたと思うんですよ。しかも価格が299ドルからで、Nintendo Switchを意識したような価格帯になっています。いろいろな要素をそぎ落としつつ、VRが初めてという人に向けて、できるだけ良質な体験を提供しようとしていますね。

CGW:スペック面では解像度が1,600×1,440ピクセル(230万画素)から1,832×1,920ピクセル(350万画素)と50%以上向上しました。コントローラも旧モデルを踏襲しつつ、人間工学を意識した新デザインになっています。RAMも4GBから6GBになりました。リフレッシュレートはQuest 1と同じ72Hzですが、近く90Hzにアップデートされる予定です。

近藤:SoC(※1)がQualcomm製のSnapdragon 835からXR2に移行したのが大きいですね。同社の865をベースに、VR/AR向けにカスタマイズされたもので、90Hzで動作する3K×3Kのディスプレイを可能にしたほか、7つのカメラの同時フィード機能などを備えています。

※1:System-on-a-chip、コンピュータの中枢となるCPUとメモリ、ビデオチップ、I/Oといった機能を統合したチップ

CGW:XR2はQuest 2にあわせて開発されたとも言える内容ですね。Qualcomm側としても相当な投資が必要になるわけで、両社の関係性が窺えます。

近藤:Quest 2が発表されたFacebookのイベント、Facebook Connectの基調講演では、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏の部下がQualcommの担当者と機能面で交渉するようなビデオがありました。Facebook側としても膨大な数のチップを発注するわけですから、大きな発言力があるでしょう。

CGW:2019年5月にはQuest 1と共に従来の機能を強化したOcuras Rift Sも発売されました。Facebookは販売台数を公表していませんが、両者の売れ行きのちがいはいかがですか?

近藤:圧倒的にQuest 1が売れました。Quest 1はPCに接続して、Oculas Rift向けのコンテンツも楽しめるからです。Oculus Linkケーブルで接続するだけでなく、サードパーティアプリのVirtual Desktopを使うと、ワイヤレスで飛ばすこともできます。両対応というのは大きいですね。

CGW:先ほどもSoCの話がありましたが、Quest 1にしろ2にしろ、デバイス単体ではハイエンドなスマートフォンと同等レベルの処理性能だとも言えます。それでも満足度の高い体験が可能になってきた、ということでしょうか?

近藤:スマートフォンではバッテリーセーバー機能が常時作動していて、不要な発熱や電力消費が抑えられています。通話するだけなら高性能なSoCは必要ないですからね。一方で3Dゲームなどを遊ぶときはハイパフォーマンスが出せるようにする。こんなふうに状況を踏まえた動作を行なっています。

これに対してQuestでは空冷ファンが内蔵されていて、常にSoCを冷却しながらハイパフォーマンスでの動作を可能にしています。ここが大きなちがいですね。

▲Oculus Quest 2(左)とOculus Quest 1(右)

CGW:それにしても、まさか1年ちょっとで新モデルが出るとは思っていませんでした。しかもスペックが上昇して、価格を下げてという。どういった経営判断からでしょうか?

近藤:経営判断は不明ですが、単純にスマートフォンと同じような進化だと思っています。iPhoneやPixelが毎年発売されるようなものですね。もしかしたら、Questも来年新モデルが出るかもしれません。そうなってくると買いどきが難しくなりますが、ハードウェアが日進月歩で進化していくことは、間違いないと思います。

CGW:VRデバイスの商品ジャンルが耐久消費財からコモディティ製品に変わるということですね。Quest 2はそうした変化の始まりでしょうか?

近藤:そうですね。そもそも、僕がFacebook Japanに入社した2014年の時点で、何億人もの人々をVRの世界に連れていくといったことをビジョンに掲げていましたから。そのためにはVRデバイスの価格を下げて、コモディティ化していく必要がありますよね。いわばFacebookは5〜6年前のビジョンを守り続けて、ここまで来たわけです。

CGW:製品がコモディティ化することで、スペック面以外での差別化が求められるようになりそうですね。

近藤:本体の色が黒から白に変わったのも、そうした現れではないでしょうか。ギーク向けのガジェットには黒色が多いんですが、白色になってそうしたイメージが薄れて、より家電色が増しました。これまではマニア向けにネットで売っていたのを、今回から一般向けに色を白くして、家電量販店で売りますよと。

CGW:なるほど。

近藤:今後はパーソナライズ化がキーワードになっていくと思います。カラーバリエーションの充実もそのひとつでしょう。iPhoneも当初は1色だけでしたが、次第に増えていきましたよね。Quest 2向けのケースなども出てくると面白そうです。スマートフォンも女子高生がいろいろなケースを買ったり、ストラップをつけたりしていく過程で、一気に広がっていきましたから。

CGW:眼鏡用のスペーサーが入っているなど、細かいところまで配慮されているのにも驚きました。

近藤:アクセサリが充実しているのもQuest 2の特徴ですね。本体と顔の間にはさむ「QUEST 2フィットパック」に広めと細めの2種類が用意されていたり、鼻梁が低めの人に対して遮光ブロッカーがあったり。かなりの力の入れようです。

また、より快適に使用するなら、「Quest 2 Eliteストラップ」の使用もオススメします。前後の重量バランスが是正されるだけでなく、ダイヤルでサイズを変えることで、頭をより確実にホールドできるようにもなります。これはQuest 1では標準で備わっていた機能で、コスト面を考えて削ったんだと思います。

CGW:確かに、1回使うと元には戻れないですね。発売後、破損しやすいというクレームがあったことから、現在は発売が停止されていますが、早く再発売されることを期待したいですね。

▲Quest 2フィットパック(左)とQuest 2 Eliteストラップ/電源なしモデル(右)

CGW:今後も進化していくと思いますが、これからさらに手を入れるとしたら、どんなところでしょうか?

近藤:なんだかんだいって、まだ重いと思うんですね。そのため、装着感の向上が求められます。すごく頑張ってるんですけどね。分解してみて、バッテリーがかなり軽いことに驚きました。

CGW:スマートフォンでは筐体のかなりの面積をバッテリーが占めていますが、Quest 2ではちがうのですね。

近藤:そうですね。ただ、常にスリープモードになっていて、被ったら自動的に起動するようになっている点は注目したいところです。この手のヘッドマウントディスプレイの欠点って、面倒くささだと思うんですね。いちど面倒くさいと思ったら、もう使わないので。被った瞬間、新しい体験が得られるとか、ソーシャル要素が得られるとか、そういったことが大切なわけで。それこそZoom会議が広まったのも、URLをクリックするだけで誰でもバーチャル会議に入れるところが大きかったですよね。他に同じようなアプリケーションがあった中で、圧倒的にUXが良かった。

CGW:一方でハンドコントロールには、まだ改善の余地がありそうです。

近藤:はい、まだストレスがありますね。ただ、これも機械学習ベースのAIが使われているので、みんなが使っているうちに改善されることが期待できます。もともとNimble VRという会社が開発していた技術がベースになっていて、2014年にKickstarterでOculus Rift向けのハンドトラッキングカメラの開発資金を募集中、Facebookに買収された経緯があるんですよ。僕も支援していたんですが、買収によってキャンセルされて、仲間内でちょっと話題になりました。その頃の技術がようやく形になってきた感じです。

CGW:UIのあり方も変わっていきますね。

近藤:コントローラが完全になくなることはないと思いますけどね。やっぱり、銃を撃つゲームなどでは、何かを握ってフィードバックがあった方が良いので。コンテンツ次第というか、コンテンツの幅が広がっていくと思います。

CGW:Quest 2のヒットによって、今後アプリの量も増えていくと思いますが、どのように見ていますか?

近藤:まだ全般的に大手パブリッシャーの参入は限定的ですよね。ゲームの成功事例といえば『Beat Saber』でしょうか。チェコのBeat Gamesが開発したVR音楽ゲームで、コアメンバーは3名でした。彼らは日本が大好きなんですよ。来日したとき、一緒にカラオケに行きました。200万本以上売れていて、しかも会社をFacebookに売却して。もう億万長者ですね。

CGW:大手企業が参入するにはスケールメリットが必要になりますが、どれくらいが分岐点でしょうか?

近藤:ここでもスマートフォンとまったく同じながれが再現されると思います。初代iPhoneが出たときは、まだApp Storeもなかったですよね。そこからApp Storeができて、まずインディや個人開発者が変なアプリをつくって、SNSでバズって。ジャンプすると加速度センサが反応して、iPhoneがチャリーンと鳴るとか。いろいろありましたよね。

CGW:ああ、懐かしいですね。

近藤:続いてコロプラさんみたいに、最初からスマートフォンをターゲットにした会社が入ってきて。最後に『パズル&ドラゴンズ』が大ヒットして、大手のゲーム会社が本格参入してきて。だから、今は『パズドラ』の登場前夜なんだと思います。全世界で数千万台の市場になったら、大手がIPを活用したコンテンツを投入してくるんじゃないでしょうか。

CGW:むしろ今は360度動画のような、映像系コンテンツに面白いものが多いですね。私の妻は野生動物や観光地の映像を見るコンテンツが気に入っていました。コロナ禍で旅行がしにくいので、これは良いと。

近藤:VRでGoogleストリートビューの画像を体験する『Wander』というアプリがあり、Questにも対応しているんですが、これがオススメですよ。子どものころに通っていた通学路などを表示させると、本当に懐かしい感じになります。しかもマルチプレイに対応しているので、ボイスチャットしながら世界中を旅行できるんですよ。写真ベースですが、解像度がそこそこ高いので、それだけで良質な体験になっています。

近藤:こんなふうに、いきなり『Beat Saber』のような激しいゲームではなくても、はじめてVRを体験する人には映像主体のライトなもので十分だと思いますね。他にNetflix(NetflixVR)も見られますし、Amazon Prime Videoにも対応(Prime Video VR)したので、映像コンテンツを見るのもいいと思います。1996年にソニーが発売した、グラストロンのような使い方ですね。

CGW:初心者向けという点では、本体同梱の『はじめてのクエスト2』の完成度が突出していますね。

近藤:そうですね。素晴らしいチュートリアルになっています。これを1回遊んでもらえれば、だいたい操作がわかります。まず、これを体験してもらいたいですね。

CGW:ちょっと意外だったのは、Facebookアカウントが必須にもかかわらず、Facebook自体のVR体験が今ひとつだったことです。従来のブラウザベースの体験に留まっていて、アプリに最適化されていないというか。

近藤:まあ、あまりやる気を感じませんよね。360度の写真をFacebookにアップロードしておけば、ワンクリックでVRで見られるとか、それくらいに留まっていて。あくまでネイティブのFacebookアプリを開発する気はなくて。たぶん、それはスマートフォンで良いよねという。

それよりもソーシャルVRサービス『Horizon』に向けた導線をつくっていくんじゃないでしょうか。アバターをつくってVR空間内で交流できるサービスで、ベータ版の登録受付が始まっています。

CGW:パーソナルデバイスとしては良くできているんですが、外部から操作を教えにくい印象も受けました。

近藤:ああ、それはスマートフォンやタブレットでミラーリングすれば良いんですよ。他にChromecastにも対応しているので、Wi-Fiがあればリビングの大画面テレビでもミラーリングできます。

CGW:なるほど、そうなんですね。他にOculus Linkを使った接続や、パススルーARへの切り替え方法(本体側面をダブルタップすれば起動するが、あらかじめ設定しておく必要がある)など、便利な機能がたくさんありますが、初心者にはわかりにくい点が気になります。

近藤:まだまだマーケティングやプロモーションが不足しているところはありますね。今回この記事を読んで、こんな使い方もできるんだと、知ってもらえるといいですね。ただ、日本市場を今回すごく推しているのは事実です。パッケージも英語以外では唯一、日本語だけにローカライズされているんですよ。

CGW:UIの表示なども、日本語になっていて驚きました。

近藤:この手のガジェットだと、最近は日本語対応がなされている方が珍しいですからね。日本はなんだかんだで、世界で2番目くらいに売れているそうです。日本市場はバカにできないので、ちゃんとやるべきだという戦略ですね。最近日本のプレゼンスが下がっているので、ありがたいなと。

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Profileプロフィール

近藤

近藤 "GOROman" 義仁/Yoshihito "GOROman" Kondoh(株式会社エクシヴィ代表取締役社長)

www.xvi.co.jp
Twitter:@GOROman

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