アートもテクノロジーも結局は人の手が作り出すもの

エンジニア向け特集、アーティスト向け特集の2構成、W表紙の構成で臨んだCGWORLD Entry vol.13。表紙のグラフィックを手がけたのは、本誌連載「Softimage ICE Garden」も担当した株式会社フレイムの山崎伸浩氏。

「Creation」と題された本作。お互いを求めあうような二本の白い手を中心とし、鮮やかな絵の具ときらびやかなワイヤーがダイナミックな弧を描く構図の作品だ。編集部から今号のテーマである「アートとテクノロジーの融合」と「W表紙で対をなし上下反転しても成立する両面にまたがるグラフィック」という条件を提示された山崎氏はビジュアルのコンセプトとしてまず"手"を着想したという。

「アートもテクノロジーも人の手がつくり出すものですよね。アーティストとエンジニア双方の手が相まってうねりをつくり出すことで、想像を超える"何か"が生み出される、そんなイメージを作りたいと思いました。片側の表紙だけでも画として成り立ちますが、広げてみると、実は向こう側で創造を手伝っている別の手があった......という仕掛けも取り入れています。自分ひとりでは作品はつくれない、ちがう立場の人が作品づくりを支えている、そんなメッセージも織り込みたかったんです」。まさにCG制作の本質を突いた作品と言えよう。

取材を通じ最も驚かされたのは、最終イメージに達するまでの圧倒的な早さだ。アイデア出しからコンポジットに至る仮完成までの実作業時間はわずか2日だという。できるだけ早期に最終イメージをつくることで、納期までの限られた時間の中で、何にどれくらい時間を割くべきか検討できることを利点としてあげる。

「決められた条件の中で、最良のクオリティが求められるプロの現場では、良い意味で最小限の苦労で最大限のクオリティを目指す『クオリティ/苦労』に対する意識が重要です」。「物理や数学などの学問で培った思考プロセスは自然現象や人間の認知を一度理論的に置き換えて表現するCGの分野で確実に活きます」と語る山崎氏。理工系学科出身であることのアドバンテージは相応にあると言えるだろう。

PROCESS-01 なるべく早期に完成イメージを形にする

本作のラフイメージ制作のながれを見ていこう。

A:Photo shopを用いてレイアウトのラフスケッチを行う。最初は「お互いが助け合う」イメージで、両腕が互いの手首を掴み合うような構図が想定されていた。しかし、これでは片表紙では画として成立しないことが判明。各々の手が互いに円弧を描くという、完成形のスタイルができあがった。
B:イメージ素材を用いながら色彩やモチーフのイメージを膨らませていく。光のイメージを中央に配置する意図から、背景色は黒を選択。
C:腕のモデル素材、Softimageで制作した流体素材を追加し、大まかなイメージが完成。

▲ラフの段階では手はモデリングせず、自分の手をデジカメで撮影して取り込むというアイデアもあった。しかし山崎氏によると、「気分転換も兼ねて、ZBrushで作成した」とのことだ。もっとも、これも最初からあまり作り込まず、後からブラッシュアップするつもりで、ざっくりと形が作られている

PROCESS-02 CGの利点を駆使して、最適なアングルやレイアウトを探る

完成に向けブラッシュアップする過程を紹介しよう。

D:まずは画全体の雰囲気を決める質感やライティングの調整を行うためV-Rayを用いて3D素材の仮レンダリングを行う。
E:イメージしていたものを3Dで起こしていく。この時点ではエンジニア向け特集の手は"機械"をイメージした黒色の予定だった。
F:しかし、エンジニア特集側の手が黒系だと画として映えなかったことやUV展開が期限内に完了できない可能性を加味し白色を選択することに。ここからさらに、視認性を考慮した手のアングルの変更や、After Effectsを用いたエフェクトの追加などの調整が行われ、本表紙のグラフィックは完成した。

▲コンセプトから完成形まで、ブレがないことがわかる。「最終的な画をイメージする想像力が大切で、これがないと迷走してしまう(」山崎氏)。絵の具、ワイヤーの表現にはシーンのパラメータを変更することで、プロシージャルな画づくりを実現するSoftImageのICEが活用された

TEXT_小野憲史
PHOTO_弘田 充