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専用スタジオを必要とせず、手軽にモーションキャプチャができる慣性式モーションキャプチャ。プロ市場で世界的に高いシェアを獲得してきたMVNが満を持して3年振りのメジャーバージョンアップを行なった。磁気の影響をはじめとするこれまでの課題をクリアし、プロダクションユースでのニーズに応えた大幅なアップグレードとなっている。担当者インタビューと共に、デモイベントの内容を取材した。
▲メジャーアップグレードを行ったMVNのプロモーションムービー。磁場耐性の他、高さ情報や接地情報も取得可能になった
"不可能を可能へ"と導いたソフトウェア開発の技術力
今や3DCGコンテンツ制作に欠かすことのできない存在となったモーションキャプチャ。映画、ゲーム、ライブエンターテインメントから製造業、教育現場に至るまで、幅広い分野で活用されている。その二大潮流とも言えるのが、光学式と慣性センサー方式だ。特に後者は専用の収録スタジオを必要とせず、手軽にデータを取得できるとあってプロダクションユースの製品から、精度は落ちるが安価なものまで様々なラインナップが登場している。もっともこれまでは、慣性センサー式ならではの弱点、つまり高さ情報や接地面情報を正確に取得できない、磁場に弱いなどの課題も多かった。
こうした中、慣性センサー式モーションキャプチャシステムの代表例とも言える「MVN」シリーズが「MVN 2018」にバージョンアップした。同シリーズの開発元・Xsensでアジア太平洋地域のセールスマネージャーを務め、2018年11月28日(火)・29日(水)に都内で開催されたデモイベント「Xsens MVN Road Tour Japan」のために来日したニック・ホラック氏によると、「これまで慣性センサー式でみられた課題を一気に解消した自信作」だという。
ニック・ホラック氏/Nick Horak(Xsens アジアパシフィック部門セールスマネージャー)
実際、従来の製品には「磁気の影響を受けやすい」「高さ情報や、複数点の設置情報(地面を転がる動きなど)取得が困難」「皮膚や筋肉の動きによってマーカーの位置がずれる」「フットスライドの再現が困難」などがあった。特に磁気の影響を受けやすい点は問題で、鉄筋コンクリートを使用した建造物では、鉄骨の近くにアクターが立つだけで取得データに影響がみられるほどだ。石造りの建物が並ぶヨーロッパと異なり、鉄骨設計ビルの多い日本ではこの点が大きな課題となってきた。
しかし、ニック氏は「MVN 2018ではこれらの問題をほとんど改善できた」と胸を張った。ポイントは、これらをハードウェアではなくソフトウェア側で対応したことだ。そのため大半の既存ユーザー(MVN製品には3年間の保守期間が設けられている)は無償アップデートで、この恩恵が受けられる。同社はこれを契機に、従来エンタメ業界向けに「MVN STUDIO(PRO)」としていたアプリケーション名を「MVN Animate(PRO)」と変更。名実共にメジャーバージョンアップであることを示した。
このように、弊社のコアテクノロジーはソフトウェアであるとニック氏は補足する。慣性式モーションキャプチャで重要なのはセンサーの性能ではなく、そこで得られた情報をいかに統合化し、アプリケーション側で活用可能なデータにできるかだというわけだ。これにはスポーツ・リハビリ・人間工学・ロボティクスなどの研究分野向けの組み込みデバイス向けセンサー開発からスタートした同社の背景も大きいという。「弊社ではこれをセンサーフュージョン技術と呼んでいます。ここで得たノウハウがMVNシリーズの開発に応用されました」(ニック氏)
▲Xsensのコアテクノロジーは、ジャイロ・加速度・地磁気などの各種センサーによって得られる情報を1つにまとめる「センサーフュージョン」技術だ。どれだけセンサーが進化しても、そこから得られる情報を統合し、的確に活用できなければ意味がない。その意味で同社はハードウェアではなく、ソフトウェアの企業であることがわかる
MVN 2018の開発では全世界の主要企業がβテスターとして参加。ゲーム業界ではUbisoftなどの大手スタジオ。そのほかモーションキャプチャスタジオのNGHSTやCGスタジオのPost23などがある。CGスタジオのHappy Finishは専用スーツを使って、ラグビーのタックルを収録。激しい動きのキャプチャにおいても完璧なソリューションだったという。
日本でMVN総代理店を担うゼロシーセブンの池田隆行氏によると、国内企業の反応も非常に良かったという。
池田隆行氏(ゼロシーセブン 取締役 センシングプロダクツ事業部)
「3時間近く使っても、最初にキャリブレーションをしただけですんだ」「アクターが正座した際、足のデータがねじれたがしばらくすると自然に直り、感動した」などだ。「既存ユーザーなら、ぜひバージョンアップして、効果のほどを確かめてほしい」と池田氏はコメントした。
▲Xsens製品は産業用途からエンタメ用途まで、幅広く活用されている。エンタメ用途ではゲーム・映画、映像・ライブパフォーマンスなどが中心で、ハリウッドの大作映画からAAAゲームまで、多くのコンテンツ開発現場で活躍中だ
MVN 2018は2017年11月にバージョンアップされたが、Xsensでは引き続き改良が進んでいる。究極の目標は光学式と同様に、慣性式で完全な3次元座標情報を取得することだ。「MVN 2018の開発は『不可能を可能にする』ことをテーマに、2014年から3年間にわたって行なってきました。今後も継続的に改良を続けていきます」(ニック氏)。慣性センサー式のこれまで課題が着々と克服されつつあるという事実に改めて驚かされた。
▲「不可能を可能にする」ことを目的に掲げて2014年から2017年まで行われてきたミッションの数々。「完全な3次元座標情報の取得」については道半ばだが、他のミッションは全て達成できたという。特にこれまで慣性センサー式モーションキャプチャシステムのアキレス腱とされてきた、磁気による干渉をほとんど排除できた点は大きい
次ページ以降ではインタビューの翌日から2日間にわたって、ゼロシーセブン社のセミナールームで開催された製品デモイベント「XSENS ROAD TOUR User meeting Japan 2017」の模様をお伝えしよう。
[[SplitPage]]「MVN 2018」で改善された主要な機能
インタビューの翌日から2日間にわたって、ゼロシーセブン社のセミナールームで製品デモイベント「XSENS ROAD TOUR User meeting Japan 2017」が開催された。2日間に分けられたのは、MVN 2018の主要顧客がエンタメ業界と産業界の双方にわたるため。ここでは初日にエンタメ業界向けに開催された「MVN Animate」の内容をレポートする。セミナーではニック氏と共に、シニアプロダクトスペシャリストのステファン・ベウカー氏も加わり、アクターを用いたデモも行われた。
▲ステファン・ベウカー氏(左)。Xsens シニアプロダクトスペシャリスト
まず動画デモでは、MVN 2018の改良が様々なかたちで示された。前バージョンとの違いが顕著だったのが、「前方宙返り」におけるキャプチャの様子だ。MVN 4.4ではアクターの上下高速移動でキャプチャデータが破綻していたが、MVN 2018では正しく収録されていた。
また、地面を10m程度走ってから、元の位置まで戻ってくる動きの収録でも大きな違いが見られた。MVN 4.4ではスタートとゴール位置がずれてしまっていたが、MVN 2018では両地点がきちんとそろっていたのだ。このように水平面のトラッキングでも改良が行われていた。
続いてアクターを用いたリアルタイムデモでは、ステファン氏によってキャリブレーションのやり方から解説された。はじめにセンサー群が装着された専用スーツを着用したアクターが、Nポーズ(直立)で4秒間制止。続いて5秒間前進し、そこで回転して元の位置に戻り、再びNポーズで制止。これだけでキャリブレーションが終了するという。その後、十数秒間ほど周囲を歩き回るだけで、周囲の磁場耐性が完全にとれるとされた。
その後、屈伸や腕立て伏せ、走りながらジャンプ、ステップを刻みながらシャドーボクシングといった動作と共に、キャプチャが行われた。ここでステファン氏はキャプチャされたデータを再生しながら、「屈伸をした際に足が広がったり、腕立て伏せをしたら手が接地面から浮いていたり、ステップ時に足首のひねりなどが破綻したり、多少のフットスライドが発生する」と指摘した。いずれも従来の慣性式モーションキャプチャで弱点とされてきた部分だ。
ここでステファン氏はリプロセスHDエンジンによる後処理を実施。処理済みのデータを再生すると、こうした問題が一気に解消されていた。ステファン氏は「MVN 4.4でもボーンの構造と動きから、将来どのような動きになるか予測して、データの修正が行われていた。MVN 2018ではこのアルゴリズムが進化し、過去の動きも参照しながら、動きや姿勢がどのようになっていくのか、自動処理するようになった」と説明した。これによりジャンプなどの動きもより綺麗に取得できるようになったという。
▲MVN 4.4(旧バージョン)とMVN 2018の比較動画で、工場の製造ラインで働いている作業者の動きをキャプチャしたもの。MVN 4.4では足や腕にねじれや交差が発生しているが、MVN 2018ではクリアなデータがキャプチャできている。磁場の影響によるものだが、磁場体制が強化されたMVN 2018では、リプロセスHDエンジンによる後処理も併用することで、この問題を解消できた
▲同じく両腕を左右に振っても、旧バージョンのMVN 4.4では両腕の動きに合わせて、両足までもが不自然にスライドしてしまっていることがわかる。MVN 2018では両足が地面に固定されたままになっている。これが従来はモーションデザイナーが手作業で修正していたが、MVN 2018ではリプロセスHDエンジンの活用で修正作業を自動化できる
高さレベルの取得と修正についても実演が行われた。アクターが椅子に座っている状態から立ったり、脚立を昇降したりといったデモだ。脚立の昇降では高さ情報を保持しているため、最初の接地面とずれずに降着する様子が示された。もっとも、実際の収録現場では高さ情報まで求められないことも多いという。データ量が肥大化し、リプロセスHDエンジンによる後処理の時間も超過することから、収録時には高さ情報取得のON/OFFが切り替えられるしくみになっていると補足された。
このほかに強調されたのが、モーションキャプチャにおけるアバターとGUIの刷新だ。アバターではMVN 4.4より、より人体や筋肉の動きがわかりやすくなるように修正された。データの出力形式の設定なども、従来はプリファレンスの設定画面で一括して行われていたものが、MVN Animateでは個々の出力ウインドウからその都度、設定できるようになった。さらにスーツに付けられたセンサーの状態がアバター上のアイコンでわかるようになるなど、より直感的に使用できるように改良されている。
また、周辺ツールとの親和性についても補足された。MVN 4.4と同様に、MVN 2018でも主要ゲームエンジンやDCCツール向けにプラグインやツールが用意されている。Unity、Maya、MotionBuilderなどにはプラグイン経由、Unreal Engine 4ではIKinema経由でキャプチャデータの流し込みがリアルタイムで可能だ。パートナー企業にはBlenderやHoudini、Cinema 4Dなどの大手が名を連ねており、必要に応じてデベロッパーがプラグインなどを自社開発することもできる。
▲MVNシリーズは主要ゲームエンジンやDCCツールと高い連携を誇っている。動画はゲーム『Hellblade』における使用事例だ。フェイシャルキャプチャツールDynamixyzと、ゲームエンジンのUnrea Engine 4をMVN 2018と連携させ、顔と人体の動きを同時にキャプチャしつつ、アバターの動きにリアルタイムで反映させている。Unreal Engine 4とMVN 2018はIKinemaを経由してデータ転送が行われている
このように、慣性センサー式モーションキャプチャの問題点を一気に解決してきた印象が強いMVN 2018。場所を選ばずに手軽にモーション収録ができる強みが、より身近なものになりそうだ。特にライブエンターテインメントの分野で、様々な可能性を広げる製品のように感じられた。また映像・ゲーム分野においても、プロダクションレベルのデータが手軽に収録できるソリューションが、さらに洗練された意味合いは大きい。今後も様々なシーンで活用が期待できそうだ。
▲映画『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラム役で知られるアンディ・サーキス氏。彼がロンドンに設立した特殊効果スタジオがThe Imaginarium Studiosだ。MVN 2018では開発段階から同社と協業し、シェークスピア劇を題材にした次世代ライブエンターテインメント『テンペスト』を作り上げた。そこでは、Xsensのモーションセンサーを内蔵した専用スーツを着用した俳優の演技をリアルタイムでCGキャラクターに反映させ、スクリーン上に投影させている
TEXT_小野憲史(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充(INTERVIEW)、蟹 由香(EVENT REPORT)
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