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    こんにちは。ビジュアルデベロップメントアーティスト(Visual Development Artist)の伊藤頼子です。連載 第14回(※)では画の中のスケールとディテールについて学びました。今回は、ダイナミックな動きのある画を描く方法について学びましょう。

    ※ 本連載の第1回∼第13回までのバックナンバーはこちらで総覧いただけます。

    TEXT&ARTWORK_伊藤頼子 / Yoriko Ito
    EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

    広角レンズの効果を動くオブジェクトに適用する

    連載 第7回では、三点透視図法と合わせて広角レンズの特徴についても触れました。三点透視図法を使うと上下方向の遠近感が強調されるため、ダイナミックな印象の画づくりができます。また、広角レンズは撮影できる範囲が広い一方で、画の中心から遠い被写体ほど歪曲するという特徴があります。これらの効果を動くオブジェクトに適用し、ダイナミックな動きのある画を描きましょう。

    Lesson31:望遠レンズと広角レンズのちがいを実感する

    写真や映像を撮影するとき、同じ被写体であっても、カメラのレンズを変えることで異なる印象の画になります。この効果を利用すると、より良いストーリーテリングが可能となります。まずは望遠レンズ(Telephoto lens)と広角レンズ(Wide lens)による写真撮影を実践し、その効果のちがいを実感してみましょう。

    ▲望遠レンズで撮影しています。レンズによる被写体の歪みはなく、三点透視図法のような遠近感の強調は見られません。安定感があり、見た目に近い自然な画づくりができます。大きな被写体、広大な風景などの撮影が可能なため、シーン全体を映すことで状況を説明するエスタブリッシングショット(Establishing Shot)に向いています


    ▲広角レンズで撮影しています。画の中心から遠い被写体ほどレンズによる歪みが発生し、三点透視図法のような遠近感の強調が見られます。手前の被写体は大きさが誇張されるため、ダイナミックで緊張感のある画づくりができます。この効果を利用したアクションショットなどに向いています

    Lesson32:望遠レンズと広角レンズの効果を描き分ける

    絵を描く場合も、前述のようなレンズの効果を適用してみましょう。同じ風景であっても、望遠レンズと広角レンズの効果を描き分けることで、異なる印象の画になります。広角レンズの効果を動くオブジェクトに適用すると、ダイナミックな動きのある画になります。

    ▲望遠レンズの効果を適用し、シーン全体を歪みなく描いているため、何が起こっているのか状況を説明するのに適しています。ただし、画に緊張感はありません


    ▲三点透視図法と広角レンズの効果を適用し、手前のオブジェクトを歪め、大きさを誇張して描いています。このとき、画の手前から奥にかけてのパースを強調し、動くオブジェクトを手前に配置すると、ダイナミックな動きのある画になります


    ▲望遠レンズの効果を適用し、シーン全体を歪みなく描いています。安定感があり状況はわかりやすく伝わりますが、緊張感や躍動感はありません



    ▲三点透視図法と広角レンズの効果を適用し、手前のオブジェクトを大きく描いています。これにより手前のバイクの前輪が誇張され、バイクが画から飛び出してくるような効果を生み出しています




    今回のレッスンは以上です。第16回も、ぜひお付き合いください。
    (第16回の公開は、2018年5月を予定しております)

    プロフィール

    • 伊藤頼子
      ビジュアルデベロップメントアーティスト

      三重県出身。短大の英文科を卒業後、サンフランシスコのAcademy of Art Universityに留学し、イラストレーションを専攻。卒業後は子供向け絵本のイラストレーション制作に携わる。ゲーム会社でのBackground Designer/Painterを経て、1997年からDreamWorks AnimationにてEnvironmental Design(環境デザイン)やBackground Paint(背景画)を担当。2002年以降はVisual Development Artistに転向し、『Madagascar』(2005)でAnnie Award(アニー賞)にノミネートされる。2013年以降はフリーランスとなり、映画やゲームをはじめ、様々な分野の映像制作に携わる。2013年からはAcademy of Art UniversityのVisual Development Departmentにて後進の育成にも従事。2017年以降は拠点をロサンゼルスに移し、現在はアートディレクターとしてアニメーション長編映画を制作中。
      www.yorikoito.com