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    連載の第5回第6回では、ポートフォリオのフォーマットと制作ツールについて解説しました。第7回は再び話題を表紙に戻し、アニメーター志望者による表紙のブラッシュアップ過程をご紹介します。動きを扱うアニメーターの場合は、ポートフォリオではなく、デモリールがメインの作品集となります。そんなアニメーター志望者にとって、ポートフォリオはどんな価値があるのかも含めて解説していきます。

    SUPERVISOR_斎藤直樹 / Naoki Saito(コンセント
    TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
    取材協力_室橋直人(東京工芸大学)、東洋美術学校
    作例提供_なな

    Bipedの見せ方を工夫し、動きのある表紙へとブラッシュアップする

    4番目に紹介する実例は、アニメーター志望のななさんのポートフォリオです。ななさんは2018年3月まで東洋美術学校に在籍し、3DCG制作を学んでいました。

    • 左はブラッシュアップ前の表紙です。3ds Maxに標準搭載されているBipedという人型のリグにポーズを付け、アニメーター志望であることを表現しています。加えて動的な印象の画にすべく画や文字を斜めに配置していますが、まだまだ改良の余地はありそうです


    ななさんのポートフォリオの総ページ数は39ページ。パンチ、キック、歩き、走り、荷物の移動などのアニメーション作品が序盤から中盤にかけての約1/2を占めており、それ以降はモデリング、実写映像、絵コンテ、イラストレーションなどが掲載されています。冒頭のプロフィールにも「3DCGアニメーター志望」と書いてあるため、パラパラとめくるだけで志望職種が誤解なく伝わる構成になっています。

    ▲ポートフォリオの前半を占めるアニメーション作品のページ。キーフレームを並べて掲載することで、動きが伝わるように工夫しています。キャプションではこだわった点、見てほしい点などを解説。さらにQRコードも掲載することで、デモリールにアクセスしてもらう導線をつくっています


    アニメーター志望者にとってのポートフォリオは、採用担当者に「この人のデモリールを見てみたい」と思わせるための道具だと言えます。あくまでメインはデモリールですから、デモリールだけで就職活動をする学生もいます。プロのアニメーターにいたっては、ほとんどの人がデモリールだけで転職活動をします。しかし筆者の知る範囲では、アニメーター志望の学生の多くがポートフォリオも制作しています。特に紙のポートフォリオは一覧性が高く全体像を把握しやすいので、作者の能力や培ってきた経験をデモリール以上にわかりやすく短時間で伝えます。そのため、教育機関での指導のしやすさ、会社での選考のしやすさの両面から、ポートフォリオ制作を勧める傾向があるように思います。また、学生の間はアニメーション以外の工程も一通り経験しますし、モーションスケッチやライフドローイングを描く場合もあります。それらを掲載するためにポートフォリオが必要になるという事情もあるようです。

    ななさんにも、第2回の鳴海さん、第3回の小林さん、第4回の堀内さんと同様に、「YWT」というフレームワークを使ったポートフォリオ制作のふり返りをやっていただきました。

    Y=やったこと
    
W=わかったこと
    
T=つぎにすること

    Y=やったこと
    ・がんばってソフトウェアの使い方を習得した
    ・モーションに手応えを感じたので、アニメーション作品を多めにつくった

    W=わかったこと
    ・表紙のインパクトが弱い
    ・さぼってしまったことは、ポートフォリオに顕著に現れる

    T=つぎにすること
    ・表紙をつくり直す
    ・履歴書の内容と、ポートフォリオの内容を一致させる
    ・アニメーション作品の数を増やす

    Tの中でななさんは「履歴書の内容と、ポートフォリオの内容を一致させる」と書いていますが、現時点でもアニメーター志望であることは十分に伝わるため、履歴書の内容との大きな不一致は起こっていないと思います。「アニメーター志望であること」が今以上のインパクトでもって伝わるように表紙をブラッシュアップし、中に掲載するアニメーション作品自体もブラッシュアップしていけば、自ずとより魅力的なポートフォリオへと仕上がっていくでしょう。ポートフォリオで採用担当者をぐっと引き込んで、デモリールを見てもらい、履歴書などどこかに忘れさせてしまうくらいが理想だと思います。

    また、Wの中で「さぼってしまった」と書いてありますが、過去は変えようがないので「次に何をするのか」を考えることが大切です。闇雲に作品の数を増やすのでなく「何が足りないのか」まで考え、まずは言葉にまとめてみましょう。使える時間は有限なので、効率的にやることも大切です。何かをひらめくのは、歩いているときでも、お風呂に入っているときでもできるはずです。

    • 左はななさんがつくった表紙のサムネイルです。ななさんがポートフォリオに掲載した作品の中で、一番見てほしい、一番上手くできたと思えたのはパンチ、キック、回し蹴りなどの格闘アニメーションでした。それらと自身の努力する姿勢を結び付け、ポートフォリオのタイトルは「FIGHT」としました。サムネイルを見ると、動的な印象を強めるべく矢印や線を配置して試行錯誤していることが伝わります。しかし3体のBipedはグラフィック的に弱く、まだまだ画面が静的で、見てもらいたいポイントが散漫になっています。突破口を見つけるまでには時間がかかりそうだと感じました


    • ななさんのポートフォリオでは「アニメーション制作にどれだけ自分の気持ちがこもっているか」をわかりやすく表現することが重要です。そこで本連載の監修者である斎藤氏に左の作例をつくっていただきました。ななさんのYWTとタイトルを受けて、斎藤氏は「立ちはだかる壁を突破する」という言葉を連想し、そのイメージをグラフィックで表現しました。Bipedの画はそのまま使うとインパクトが弱いため、重ねることで印象を強めています。最後のキーポーズ以外は色を薄くして残像のように見せることで、一連の動きを想像させる工夫もしています。加えて「壁の突破」を表現するため、図形によって画面を大きく分割しました。パンチのインパクトを強調すべく黄色のあしらいを加え、その横にタイトルである「FIGHT」を配置することで絵の中の焦点に視線を集める工夫もしています。一方でタイトル以外の文字要素は角に寄せ、画面を引き締めるようにもしています


    • ななさんがさらに試行錯誤を重ね、たどり着いたのが左のサムネイルです。最初の表紙と比較すると、はるかに動きを感じるデザインになりました。ただし初期設定のBipedではサムネイルのような印象の画にならず、手足の細さが目立ってしまうのでは......という不安を感じました。加えてタイトル横の空間も気になりました。直下の文字が右寄せになっているため、四角く閉じた空間が目立っています。「セオリー通りのセンター揃えにすると画面の動きを止めてしまうので、不向きだと思います。タイトル横の空間に『ワンポイントとなる何か』を入れ、下の画に視線を誘導しつつ、画を引き立てられれば理想的ですね。フォントも絵柄に合わせて選び直しましょう。もっと太くするか、動きのある字形の方が似合いそうな予感があります」というのが斎藤氏からの助言でした


    • 先の助言を受けて制作されたのが左の表紙です。Bipedはデフォルトから設定を変え、気になる箇所のレタッチもしています。タイトルは右寄せに変更し、課題となっていた空間には矢印をあしらいました。さらにタイトルの背景色の赤色を右端のBipedにも適用したことで、2ヶ所の赤色が響き合い、前に進んでいく印象の画になりました



    今回は以上です。次回もぜひお付き合いください。
    (第8回の公開は、2018年7月を予定しております)

    プロフィール

    • 斎藤直樹(グラフィックデザイナー)
      株式会社コンセント

      神奈川県横浜市生まれ。1987年東京造形大学造形学部デザイン科I類卒。広告企画制作会社、イベント企画運営会社を経て、1991年株式会社ヘルベチカ(現コンセント)入社。HUMAN STUDIES(電通総研)、日経クリック、日経パソコン(日経BP社)などの制作に関わる。東洋美術学校ではグラフィックデザインの実習を担当。

    Information

    • 採用担当者の心に響く
      ポートフォリオアイデア帳

      発売日:2016年2月3日
      著者:中路真紀、尾形美幸
      定価:2,000円+税
      ISBN:978-4-86246-293-0
      総ページ数:128ページ
      サイズ:B5判


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