Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。
TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony Pictures Imageworks)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
今回のお題
こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今月も、先月に引き続きエイド宿題の3週目のお題から、「ごまかす」というテーマでポーズの添削をさせていただきます。
「ごまかす」は感情ではなく動作を表す言葉なので、ポーズをつくるときにキャラクターの感情面で自由度が高く、難しいテーマであることは前回お話ししました。またいくつか面白いポーズを投稿してもらったので、添削をしてみようと思います。
作品01:「ごまかす」
投稿作品このポーズはなかなかユニークで面白いですね。「ごまかす」というテーマが難しいのは、自由度が高いぶん自分で設定やキャラクター性、ストーリーを具体的に決めないといけないからです。その点においてこのポーズはかなり具体性が高く、あいまいな雰囲気まったくないので素晴らしいと思います。
Point 1:コメディかシリアスか映画の仕事では、アニメーションの作業に入る前に大前提となることがあります。それは映画におけるアニメーションのスタイルです。アニメーションはジャンルではなくメディアなので、ひとくちにアニメーションと言っても、コメディやシリアスなドラマ、ホラーなど、作品によって映画全体の雰囲気をかたちづくるために必要なスタイルがまったく変わってきます。全体のスタイルを意識すると、雰囲気がより具体的になり良いポーズをつくりやすくなります。
僕は最初にこのポーズを見たとき、後ろにいるキャラクターが可愛いデザインだったので、そこまでシリアスではなく、コメディのような感じなのかなという印象を受けました。ただ、ポーズをつくってくれた方の話を聞くと、実はもう少しシリアスな内容で、後ろにいるクリーチャーを必死で隠そうとしている設定ということでしたので、そのあたりに重点を置いて添削してみました。
ドローオーバー Point 2:具体性良いポーズをつくる秘訣は何ですか? と良く聞かれますが、サブテキストやポーズの左右非対称などいろいろある中で何よりも大事なのは、先ほど出てきた「具体性」という考え方だと思います。ポーズをつくるときに、より具体的に細かい部分まで考えておけばおくほど、ポーズの「答え」が明確になり迷いがなくつくりやすくなります。また、何よりもお客さんに対して様々な解釈をさせ、誤解を生んでしまうことを避けるという目的もあります。
今回のポーズで例を挙げるとすると、隠しているクリーチャー的なものは一体何でしょうか? 今はデザイン的に可愛いので両手を広げて立っているポーズが合っていると思いますが、これが仮に獰猛で自分でも戦えるくらいのクリーチャーだったら、同じように立っていても両手を広げたりしないほうが良いかも知れないですよね。
逆に守ろうとしているクリーチャーがもっともっと小さくて守ってあげないといけないような場合には腰が中腰になったり、もっと両手を使ったポーズの方が合う気がしますね。
このように、後ろにいるクリーチャーが一体どのような大きさやタイプなのかを具体的に決めることで、手前にいるメインのキャラクターのポーズも具体的に決まってきます。観客はこれらのポーズを見て無意識のうちにストーリーや情報を認識するので、このあたりをどれくらい明確に表現できるかがこの具体性という話に大きく関わってくるわけです。
[[SplitPage]] Point 3:サブテキストと具体性具体性を考えるときには、その場の状況やキャラクター性だけでなく、キャラクターが何を考えているか、も具体的に考えてみましょう。これがサブテキストです。今回の作品とドローオーバーを並べてみます。
特に表情は可動域が狭いぶん、ポーズをつくるときにはより繊細な判断が必要になってきます。顔は観客の目線が最初にいくところなので、表情がちがうだけでまったく別の印象をつくってしまうこともあります。最初にお話しした、コメディなのかシリアスなのか、というお話にもつながってきますが、左のキャラクターは表情からどんなサブテキストが読み取れるでしょうか?
眉は若干力が入って下がり気味なので心配しているような要素を表しつつ、左の口角が上がっていることで、気まずく笑ってごまかすような印象になっています。もちろんそういう意図であれば問題ないのですが、今回はもっと真剣に後ろにいるクリーチャーをごまかしているという設定なので、上がっている口角を逆に下げるだけで全体的な表情の印象を大きく変えることができます(左)。さらに下のまぶたを上げることで、目にもっと力を入れることができます(右)。
Point 4:力の入れ方と方向
目に力を入れるときには、内側方向へ力を入れる場合と外側方向に力を入れる場合との両方があります。今回の場合は顔がこわばって力が入っている状態(緊張状態)を表現できれば良いと思うので、目を見開くパターンと目を細めるパターンのどちらでもある程度は成立すると思います。
それでも若干のニュアンスのちがいがあるので、そのあたりはキャラクターの性格やサブテキストによって変えてみると良いでしょう。今回はどうしても守らないと! という少し痛みを感じるような表情がピッタリくる気がしたので、添削の方のポーズは内側に目を細める表情に落ち着きました。目の緊張と緩和に関しては、ブログの方に詳しく書いているので、そちらも参考にしてみてください。
Point 5:リアルな演技とシルエット普段アニメーションや絵を制作されている方は、シルエットを綺麗に取るというルールをどこかで必ず聞いたことがあると思います。ただし、それを正しく使うのは意外と難しかったりします。人間の動きに近づけてリアルな表現や演技をつくりたいときなどは、シルエットを意識しすぎると少し大げさで不自然なポーズになってしまいがちです。自然なポーズとシルエットへの意識のバランスが大事というわけです。
それではいつシルエットを意識してポーズをつくり、いつシルエットよりリアルな体の使い方を意識すれば良いのかというと、僕がひとつ目安にしているのは観客の目線です。見ている人の目線を特定の部分にもっていきたいときやポーズの意図がより明確に伝わると思ったときは、きれいなシルエットを取れるように気をつけています。
今回のポーズは、画面の手前にいるキャラクターに対して、背後の弱いクリーチャーを守るため制止しようとしているポーズです。この場合は両手を真っ直ぐにきれいに伸ばした方が伝えたい意図がはっきりと伝わると思ったので、腕も完全に真っ直ぐにしてみました。最後にもう一度ドローオーバーを載せておきます。
今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!
「エイド宿題」とは?
「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。
●参加方法とやり方
・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。
・エイド宿題とは?
https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/
・エイド宿題 これまでのお題
https://ryowaks.com/category/aidshukudai/
Profile.
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若杉 遼/Ryo Wakasugi
2012年にサンフランシスコの美術大学Academy of Art Universityを卒業後、Pixar Animation StudiosにてCGアニメーターとしてキャリアを始める。2015年にサンフランシスコからカナダのバンクーバーに移り、現在はSony Pictures Imageworksに所属。CGアニメーターとしての仕事の傍ら、CGアニメーションに特化したオンラインスクール「AnimationAid」を創設、現在も運営のほか講師としてクラスも教えている。これまでに参加した作品は『アングリーバード』(2016)、『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スマーフ スマーフェットと秘密の大冒険』(2017)、『絵文字の国のジーン』(2018)、『スモールフット』(2018)など
●若杉遼 ブログ わかすぎものがたり
ryowaks.com
●AnimationAid
animation-aid.com