Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。
TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony Pictures Imageworks)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
今回のお題
こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、新しい学期の3週目のお題から、「賢い」というテーマでのポーズの添削をします。
「賢い」というお題は感情表現ではないので、普段のポーズよりも表現の幅が広く、4つのアイデアを出すのが難しかったと思います。ポーズのどのような要素を使って賢さを出すのか、というのが今回大きなポイントと言えます。
作品01:「賢い」
投稿作品左側にいるキャラクターと右側にいるキャラクターのわかりやすい印象の違いを利用して、左側のキャラクターの賢さが良く表現できています。2人のキャラクターが均等にならないようにレイアウトもしっかりと考えられていてとても良いポーズだと思います。
今回は、キャラクターが2人いるのでコントラストをどのようにつけるかという部分と、左側のキャラクターはカメラに近く表情が良く見えるため、表情や目のデザインに注目して解説します。
この作品はキャラクターのコントラストが良く出ているので、その部分をもっとわかりやすくできたらさらに見やすいポーズになると感じました。また表情も細く見えるので、そのあたりについてもお話ししていきましょう。
Point 1:シルエットとタンジェント
「シルエット」については前回紹介しましたね。今回は、そのシルエットに関連した「タンジェント」という要素を説明していこうと思います。 タンジェントというのは日本語に訳すと「接線」という意味で、特にアートでは視覚的に接しているかのような錯覚を作るデザインのことをタンジェントと言います。つまり、本当はぶつかっていないのに視覚的にぶつかったように勘違いさせてしまうことを言います。
例えば左側のレイアウトでは普通にキャラクターが立っているように見えますが、良く見てみると、頭がフレームの枠にぶつかっているのがわかると思います。その部分で切ると、キャラクターの頭が天井などにぶつかっているように見えてしまいます。これが「タンジェント」で、見ている人が混乱してしまう可能性が出てきます。
また必ずしもフレームの枠でなくても、例えば奥と手前にそれぞれキャラクターがいる場合に、キャラクターの一部がぴったりと重なってしまっているとこれもまた視覚的にぶつかっているように見えてしまいます。
これらのタンジェントは、基本的には少しスペースを空けることで簡単に回避することができます。回避方法は簡単ですが、そこにしっかりと意識をもって見ておくことが大事だと思います。
今回のポーズではそこまで違和感を生んでしまうタンジェントはないのですが、女の子のキャラクターの指の端が、若干男の子の頭にぶつかっているように見えてしまいます。このあたりは少しスペースを空けてあげると安全かもしれません。
Point 2:目のバランス
キャラクターのポーズを考えるときに、一番気をつけないといけないのが目のエリアです。それはなぜかと言うと、どんなポーズだとしてもキャラクターの顔が見えている限り最初にお客さんの視線が行くのがキャラクターの目だからです。つまりそれだけデザインの面で注意してポーズを作らないといけません。
カートゥーン作品では特に目が大きいキャラクターが多いので、左右のデザインのバランスがかなり難しくなってきます。バランスというのは、白目と黒目の割合のバランスのことです。どれくらい黒目が見えてどれくらい白目が見えているのかの割合を左右で変えてしまうと、右側と左側で異なる感情をもっているように見えてしまいます。
ただし気を付けてほしいのは、意図的に左右で違うデザインにしている場合(例えば片方の眉毛だけ上げていたり片方だけ目を細めていたり)には、必ずしもぴったりと同じデザインにする必要はありません。少し難しいのですがイメージとしては、デフォルトの状態で左右対称にし、そこをスタート地点として眉毛を上げたり左右で少しデザインを変えたりすると、左右でデザインがちがいながらも同じ印象を残すことができると思います。
フェイシャルリグで、目のハイライトまで動かすことができるものはほとんどありませんが、今回のリグはたまたまハイライトまでアニメーションさせることができるリグです(ちなみに『スパイダーマン:スパイダーバース』のリグも同じくハイライトまでアニメーターが動かしていました)。その場合も同じく、左右対称に作るように気をつけています。特にハイライトは演技などで使う場合もありますがそれはかなり上級編なので、 基本的なルールとしては左右同じ位置に入れておいた方が無難だと思います。
Point 3:キャラクターのデフォルトポーズ
キャラクターはただ立っているだけということはなく、それぞれデフォルトのポーズというものがあります。このデフォルトのポーズでキャラクターの性格などを伝えないといけません。このポーズのことを「パワーセンター」と言ったりします。パワーセンターに関しては長くなってしまうので、また次回お話ししようと思います。ただ簡単に言うと体のどの部分に一番力が入っているのか? どの部分を中心にキャラクターが動くのか? ということを定義したものをパワーセンターと言います。
今回の場合は、左側の少し自信ありげな女の子に対して、少しおどおどしたような印象の男の子のキャラクターが右側にいます。自信ありげな女の子ということなので、パワーセンターを胸に置き、胸を張ったような印象を作ると良いと思います。逆におどおどしたキャラクターの場合は、不安げな印象を出すためにパワーセンターを腰に置いて少し前屈するようなポーズにするとわかりやすいです。
添削後のポーズ
今回は、キャラクターがカメラに近かったりコントラストのある2人のキャラクターがいたり、ストーリーを伝える上で大事な要素がきちんと入っていてとても素晴らしいポーズだったと思います。そこにちょっとしたアイデアを少し足すだけでさらに印象を誇張できたり、よりわかりやすいポーズが作れるようになるのではないでしょうか。
今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!
「エイド宿題」とは?
「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。
●参加方法とやり方
・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。
・エイド宿題とは?
https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/
・エイド宿題 これまでのお題
https://ryowaks.com/category/aidshukudai/
Profile.
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若杉 遼/Ryo Wakasugi
2012年にサンフランシスコの美術大学Academy of Art Universityを卒業後、Pixar Animation StudiosにてCGアニメーターとしてキャリアを始める。2015年にサンフランシスコからカナダのバンクーバーに移り、現在はSony Pictures Imageworksに所属。CGアニメーターとしての仕事の傍ら、CGアニメーションに特化したオンラインスクール「AnimationAid」を創設、現在も運営のほか講師としてクラスも教えている。これまでに参加した作品は『アングリーバード』(2016)、『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スマーフ スマーフェットと秘密の大冒険』(2017)、『絵文字の国のジーン』(2018)、『スモールフット』(2018)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)など
●若杉遼 ブログ わかすぎものがたり
ryowaks.com
●AnimationAid
animation-aid.com