「超現実」を表現することの価値を、誰もが理解できるようにしていく
現時点での本研究室の構成は、博士課程1名、修士課程8名、学部4年11名、3年12名です。私の専門に近い3Dモデリング、レンダリング、アニメーションに関する理論技術の研究や、ゲームAIの研究を行う学生に加え、ゲームデザインやUI、コンテンツ分析などを行う学生もいます。就職先は、ゲーム制作企業やCGプロダクションなどのコンテンツ系の業界と、プログラミングの技術力を活かせるITシステム系業界が半々です。学会発表の場は、芸術科学会や情報処理学会などの学術会議が中心で、NICOGRAPH InternationalやVRCAIなどの国際会議でも発表しています。
ゲームを研究対象とする場合、「現実にはない現象を実現する」という、リアルなCGやCADとは異なるスタンスが存在します。ある時期まで、CG研究は「とにかくリアルに」という目標を追求しており、現在もそれが主流であることはまちがいありません。もちろん、SFやアクション映画などでは現実にはありえない現象が数多く描かれますし、それを実現する上でCG技術は欠かせません。しかしながら、その映像を生み出すために必要な理論は、現実世界を模倣したものが多いです。光学現象や流体表現などの多くは、現実世界の記述を目的とする物理学から取り入れられてきました。
その一方で、本来はまったく現実世界の現象とは無関係な数学理論によって、リアルな自然現象の様子を表せる場合もあるのは、とても興味深いことです。代表的なものとして、フラクタル理論による自動地形生成などがあります。
先にも述べましたが、プログラミングは数学理論による法則・概念を具現化するという、まさに現代の魔法と言える魅力的な存在です。コンピュータが誕生した当初から、技術者はゲーム制作を楽しんできましたが、その真髄はまさに「世界の記述」にほかならないと言えます。それが、私が深くゲーム研究に傾倒するようになった大きな理由です。ゲームプログラマーの多くが、この魅力に賛同してくれるのではないかと考えます。
しかしながら、ゲームのもつ「なんでもあり」という側面は、研究として扱う上で悩ましい点でもあります。現実世界の模倣が目標ならば、いかに現実に近いかを指標にできますが、ゲームを含むコンテンツ全般では、「どちらが良いのか」の基準が定められないことが多いためです。実際、後述するエネルギー波の研究を学会で発表したときには、「現実に起こり得ない現象を表現することに意味があるのでしょうか?」という身も蓋もない質問が飛んできたこともあります。単純に理論技術を高度化するだけでなく、「超現実」を表現することの価値を誰もが理解できるようにしていくことが、コンテンツを研究する人々の大きな課題のひとつであると言えるかもしれません。