RESEARCH 2:コンテンツ制作環境の構築
・概要
私は自分が学生だったときから、Fine Kernel Tool Kit(以下、FK)という3D用オープンソースライブラリの開発を続けています。前述の企業内でのインターンシップを経験した際、ライブラリを用いて異なるアプリケーション間で機能を共有するという考え方に感銘し、当時はほとんど存在しなかったリアルタイム3D技術の研究開発やコンテンツ制作を支援する目的で開発を始めました。
FKの開発においては、3Dライブラリとしての機能に加え、様々な支援システムも主に本研究室に所属する学生が中心となって構築しています。例えば、モーション作成システムのFK Performer[1]や、スカルプトモデリングツール[2]などがあります。以前はFK Performerを用いた演習科目も実施していましたし、前述の「オタ芸」の動きを自動生成するツール[3]もFKを用いて開発しています。
▲モーション作成システムのFK Performerの実行画面
▲FKのライブラリを用いて開発されたスカルプトモデリングツール。柔軟な操作履歴の編集が可能です
・他システムとの比較
現在では、大規模なものを除くと、ゲーム制作にはゲームエンジンを用いることが多くなっています。本研究室での研究においても、ここ数年はUnityを用いる学生が多くなってきました。次の2点の条件を満たしている場合は、研究にゲームエンジンを用いても問題ないと思います。
【1】ゲームエンジンの利用方法を、研究遂行に支障がない程度に習得している
【2】ゲームエンジンがサポートしていない外部システムを使用しない
逆に言えば、これらを満たさない学生は別の方法を検討する必要があります。リアルタイム3D用のAPIとしては、OpenGLとDirect3Dが多用されてきました。近年はこれらに加え、VulkanやMetalといったライブラリも台頭してきています。これらのAPIを使うメリットは、ハードウェアの機能を最大限に活かしやすいことでしょう。ただし、技術的難度が高く習得にかなり苦労をともなう、APIを用いてスクラッチから記述したコードの他プロジェクトへの転用は困難をともないがちといった問題もあります。
FKと似たような目的をもつライブラリも、多く発表されています。本研究室の場合は、本学サークルでの利用実績が高いDXライブラリを用いる学生が一定数います。経験上、前述の条件を満たしていれば、これらの使用も問題ないと思います。近年では、Siv3DというC++用ライブラリを用いる事例もでてきました。現在も活発に開発が進んでいるライブラリであり、個人的にも発展を楽しみにしています。
これらのシステムに対し、学生がFKを用いる最大のメリットは「自前で開発している」ことでしょう。何か疑問点や不具合が起きたとき、当事者同士で解決できることは研究の場では非常に有効に働きます。また、最初から他システムとの連携を考慮して設計してあるため、別のライブラリと連携させる、FKの一部の機能のみを用いるといった利用も可能です。何らかの研究成果を機能(クラスライブラリ)として実装し、ほかの利用者が容易に使用できる点も大きな特徴です。
▲学部の演習科目で実施したFK Performerを用いたアニメーション作成において、学生がつくった作品
▲FKのライブラリを用いて学生が制作したゲームの実行画面。ゲームエンジンが普及するまでは、本学のゲーム制作演習での制作環境としてFKが多用されていました
・実装の詳細
FKは最初のバージョンからマルチプラットフォームを念頭に設計しており、様々なOSで利用できることからC++言語のクラスライブラリとして開発を進めてきました。私自身はUNIX環境が好きなのでMac OS上で開発を行うことが多いのですが、学生の大多数はWindows上で開発を行なっています。FK上で記述したコードは、Mac OSであっても Windowsであっても同様に動作します。この背景には、OpenGL、OpenAL、FLTK、freetypeといったマルチプラットフォームのシステムを用いてFKの開発を行なっているという理由があります。
さらに、近年ではマイクロソフトが提唱した.NET環境をサポートするC++/CLI言語による移植も進め、.NETがサポートする言語(C#、F#、Visual Basic)であれば全て利用可能となっています。
CG、ゲーム、および開発環境は、どれも日進月歩の勢いで発展しており、FKも少し間を置くとすぐに時代遅れな部分がでてきてしまいます。現在、特にリアルタイム3D技術を最新のものに対応させるべく開発を進めています。
・今後の展望
ゲームエンジンが台頭してきたここ数年間は、自前でライブラリを開発することの意義について不安になることもありました。しかしながら、教育と研究を続けていく中で、何が適しているかは、結局は研究内容や当人の素養によること、FKを用いた研究が最も適している場合も多々あることがわかってきました。個人的な信条として、研究者は学生も含めて「自由」であるべきであり、自由であるためには、われわれ自身で開発環境を構築していくことも重要であると、改めて再認識している次第です。
・参考文献
[1]渡辺大地: 独自ツールキットを用いたゲーム制作教育への取り組み, 情報処理学会学会誌, Vol.56, No.12, pp.1206-1209, 2015
[2]R.Takeuchi, T.Watanabe, M.Kakimoto, K.Mikami, and K.Kondo: Stroke History Management for Digital Sculpting, 芸術科学会論文誌, Vol.11, No.4, pp.108-117, 2012
[3]オタ芸モーションの誇張表現に関する研究, 学部卒業論文, 東京工科大学メディア学部渡辺研究室, 2017
info.
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