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No.008:東京工科大学 メディア学部 渡辺研究室

No.008:東京工科大学 メディア学部 渡辺研究室

RESEARCH 1:リアルタイム3Dにおけるエネルギー波表現

・研究目的

アニメーションや漫画などの創作コンテンツの中で、エネルギーの塊が強く発光し、移動するという表現があります。古くはアメリカの1940年代のアニメ『スーパーマン』シリーズから用いられているこの表現は、『ゴジラ』『ウルトラマン』シリーズなどの特撮映像や、『宇宙戦艦ヤマト』『ガンダム』シリーズなどのSFアニメの世界で大きく発展してきました。漫画『ドラゴンボール』の中では、この現象を「エネルギー波」と呼称しており、それ以来日本国内ではエネルギー波と呼ばれることが多いです。

エネルギー波はゲームにおいても欠かせないエフェクトですが、視点が固定されないゲームでエネルギー波を表現する場合には、現状の技術では様々な制約が生じます。われわれは、このエネルギー波をゲームの中で表現するための理論技術の研究を行なっています。


・関連研究

エネルギー波をCGで表現する方法は、大きく3種類に分類できます。第1に、流体力学やボリュームレンダリング、フォトンマッピングを用いて実現する方法です。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオが制作する映画などでも用いられており、質の高い映像を生み出せますが、計算が複雑でゲームなどのリアルタイムレンダリングには不向きです。

第2に、アニメーションテクスチャを用いる方法です。事前にエネルギー波のアニメーションを作成しておき、それをテクスチャに適用して表現します。実際のゲームの大半は、この方法が用いられています。この方法でも質の高い映像を実現できますが、状況に応じた変化に対応できない、任意の視点からの表現に対応できないといった問題があります。

第3に、3Dテクスチャを用いる方法です。縦横に加え、高さ方向の情報ももつボクセルデータをリアルタイムに表示する技術を使います。高い表現力を有する技術ですが、解像度を高くしようとすると膨大なメモリを要するため、エネルギー波自体を間近から見るような状況だと粗さが目立ってしまいます。


・手法概要

われわれが提案する手法[1][2]の基本的な処理のながれは、次の2段階に分かれます。

【1】空間中のエネルギー分布関数を定める
【2】視線直線上のエネルギー分布値を計算し、エネルギー値が高いほど明るく表示する

【1】のエネルギー分布関数は、3次元空間中の位置ベクトルを入力し、その箇所のエネルギー値を算出する関数です。この分布関数は、エネルギー波の形状により様々な関数を用います。研究を始めた頃は球型と円柱型のみでしたが、現在はトーラス型や自由曲線型など、様々な形状を表す関数を用意しています。【2】の段階では、各画素に実際に表示される輝度を計算します。この計算には、線積分と呼ばれる数学手法を用いています。任意のエネルギー分布関数に対して線積分関数を解析的に求積できない場合には、近似値計算を行います。

▲【左】球型と円柱型を表す関数を利用したエネルギー波をキャラクターが放っています。研究の初期段階では、単純形状を組み合わせ、漫画の一場面にあるようなエネルギー波を表現することを目指しました。視点を変更すると、エネルギー波の形状(その視点から見えるエネルギー量)が再計算され、リアルタイムに再描画されます/【右】自由曲線型を表す関数を利用した螺旋形状のエネルギー波。初期段階に比べ、エネルギー波の形状表現の幅が広がりました。複雑なエネルギー分布関数を用いているため、近似値計算を行うといった工夫を必要とします


▲【左】エネルギー分布に対して、1本の視線直線上のエネルギー量を解析的に求める様子。エネルギー場の外側は値が低く、エネルギー場の中心に近づくほど値が高くなっています/【右】画素ごとに視線直線を作成し、各視線のエネルギー量を求めることで、エネルギー波の形状を表示することが可能です


積分計算を全ての表示画素に対して行うのは大変な計算量となるのですが、近年のGPUは並列計算が大変高速になっているため、GPUの計算パワーをできるだけ効率的に利用することで、リアルタイム3Dでのエネルギー波の表現を可能にしています。これにより、状況に応じた変化や、任意の視点からの表現にも対応できるようになりました。

別の観点として、エネルギー波を細かなパーティクルの集合だと定義し、パーティクル群を操ることでエネルギー波の複雑な変形を表現する研究[3]も行なっています。本研究では、エネルギー波がほかのオブジェクトに衝突した際の形状構成要素を大域的形状(円状・不規則状)、連続性(連続型・分離型)、飛沫形状(粒状・棒状)、飛沫先端形状(丸型・鋭利型)の8パターンに分類し、パターンごとのパーティクルの運動方程式とレンダリング手法を定義することで、多彩なエネルギー波の衝突形状を簡易なパラメータ設定のみで生成できるようにしました。

▲パーティクル群を利用したエネルギー波。エネルギー分布関数を用いて表現する場合にはほかのオブジェクトとの衝突の表現は困難ですが、本手法を用いると多彩な衝突形状を表現できます。上の作例の場合は、円状分布確率、連続確率、飛沫サンプリング数、飛沫の丸みからなる4つのパラメータを設定することで、エネルギー波とほかのオブジェクトとの衝突を表現しています


・今後の展望

現時点での研究成果はまだまだ限定的な表現力に留まっており、実用化のためには多くの技術的問題を解決する必要があります。例えば、エネルギー分布関数を用いて形状を制御する場合には数学的素養が必要なため、デザイナーが自由に形状をデザインできません。数学的素養がなくてもデザインが可能なインターフェイスが必要だと考えています。また、エネルギー波同士や、エネルギー波とほかのオブジェクトとの衝突・干渉が生じた場合の相互作用も、あまり表現できていません。大抵の場合、エネルギー波は大きな衝撃を意味する表現なので、物理挙動シミュレーションや破壊シミュレーションなどと組み合わせていく必要性が高いと言えます。


・参考文献

[1]阿部雅樹, 渡辺大地: エネルギー波表現のリアルタイムレンダリング, 芸術科学会論文誌, Vol.9, No.3, pp.93-101, 2010
[2]Taichi Watanabe, Masaki Abe, Kouichi Konno: Real-Time Rendering Technique for Visual Expression of Arbitrary-Shaped Energy Wave, 芸術科学会論文誌, Vol.15, No.2, pp.99-111, 2016
[3]仁藤将輝, 渡辺大地, 柿本正憲, 三上浩司: リアルタイム3DCGにおける衝突を考慮したエネルギー波表現, 芸術科学会論文誌, Vol.13, No.3, pp.144-153, 2014

 

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