Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。
TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony Pictures Imageworks)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)
今回のお題
こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、「じょうず!!」というテーマでのポーズの添削をさせていただきます。
「じょうず!!」というお題では、これまで『エイド宿題』のポーズではあまり出てこなかったお題なのですが、アクションを扱ったポーズをつくってくれました! アクションポーズの解説に関しては、例えばゲームのアニメーションをつくりたかったり、実写的なアニメーションの仕事をしたい人にとってはとても参考になるはずです。アクションのポーズは動きが早い場合が多いので、ぱっと見ただけで状況が理解できるわかりやすいポーズが求められます。その上で、僕がポーズをつくる上で基本指針としている「緊張と緩和」や「体の線の扱い方」といった要素がポイントになってきます。今回の解説では、「いかに体の線を使ってダイナミックでわかりやすいポーズをつくれるか?」という点に注目してしていきます。具体的には、首の角度の使い方とポーズを扱う上でよく引き合いに出される「CSI(Cカーブ/Sカーブ、/Iカーブ)」と呼ばれる体の線の捉え方です。 最初に提出してもらったポーズでもその辺りがしっかりと意識されており、わかりやすいポーズになっていたのでその点をさらにわかりやすく、意図したポーズのコツやポイントがしっかりと伝わるようにするために、先ほど述べたポイントについて上乗せして解説していこうと思います。
作品01:「じょうず!!」
投稿作品Point 1:首の角度
僕のアニメーションのクラスで口を酸っぱくして言うことなのですが、学生や初心者のアニメーターの皆さんは、首の角度や動きを軽視する傾向があります。確かに、頭の角度は胸や腰の動きに比べるとたいして重要に見えないので、軽視しがちになるのもわかります。ただ、首の角度によって頭の相対的な位置が変わってくるので、首の角度でポーズの印象が大きく変わってしまったり、首の向きによってポーズが与える方向的な印象も変わってくるので、ポーズを考える上で実は首はとても大事なパーツです。
①頭の相対的な位置
さて、「頭の相対的な位置」とはどういうことでしょうか。簡単に言うと、首の角度が変わることによって、頭が前後左右に位置が移動するということです。特に気を付けて欲しいのは、前後に首の角度を変える場合に頭の位置が上下に移動するので、これにより体に力が入っているかどうか(緊張と緩和)に大きく影響してくるという点です。
首を前に傾けることで頭の位置が下がり、体により一層力が入った印象になっているのがわかるでしょうか?
②方向的な印象
「方向的な印象」というのは、首が横から見える場合に考えたほうが良いポイントです。 首の向きというのは、頭や目線が向いてる方向に合わせるのが自然です。つまり、シンプルにキャラクターが右を向いていたら右に向けて、首を傾けるようにするだけのことです。これはまた機会があればお話ししますが、体の一部分が動いたらそれに追従して他の部分も動いてくる体の繋がりというトピックになります。
ただし例外として、少し上級者向けの演技の話になってくるのですが、もしキャラクターが嫌悪感を抱くものを見ていたり、視線の先に嫌なものや人がいるといった場合には、それらの心理状態をポーズで表現するため、あえて首の方向を逆にすることもあります。この辺りは必要なストーリーに沿って、状況に応じて変えていくと演技の面ではとても有効な手法になってきます。
Point 2:上半身のCカーブ
ポーズを作る時によく言われる専門用語に、「Cカーブ」「Sカーブ」「Iカーブ」という言葉があります。これはキャラクターのポーズをつくるときに意識すると良いとされる線の引き方です。とても有用なので、僕も普段からアニメーションに限らず意識しています。
これらのルールは言葉や概要としてはとてもシンプルなのですが、自分がつくっているポーズに落とし込むとなると、実はかなり難しいものです。なぜかと言うと、実際にポーズをつくるときには、単にそれぞれのカーブをポーズの中に入れれば良いだけではなく「どの線を使うのか」、「ポーズの意図に沿っている使いどころはどこなのか」、「使う量はどれくらいが適切なのか」などを考えて使いこなさなければならないからです。
特に学生や初心者の方であまり経験がない状態でアクションのポーズをつくる必要がある場合には、とりあえず「Cカーブ」を意識してつくると良いでしょう。「Iカーブ」はポーズが硬くなりがちで、「Sカーブ」は方向性が中途半端で複雑になりすぎてしまう可能性があるので、思い切って避けても良いかもしれません。ポーズづくりが上手くなりアニメーションの経験が増えていくと、自然と使いこなせるようになるので心配しなくて大丈夫だと思います。
ひとつ補足ですが、Cカーブを意識するのは基本的には背中の線で大丈夫です。ここをさらに突き詰めていくと細かい部分まで見ていく必要があるのですが、ポーズの全体的な印象をつくる上で背中から腰にかけての線は大きな要素になるので、まずはそこをきっちりとおさえるという意味もあって、初心者のうちは背中の線だけでも意識しておきましょう。
添削前のポーズ
添削ノート
添削後のポーズ
ポーズというのは様々な捉え方があり、何が正解で何が不正解なのか、簡単にわからなくなってしまいます。そういう意味ではポーズというのはとても難しく、勉強するべきことがたくさんあるトピックです。その上で、今回も「緊張と緩和」の話が少し出てきましたが、自分の意図が伝わるポーズに近づけるための基盤があると、論理的にポーズを組み立てることができます。これにより、ただひたすらポーズをづくるだけではなく、自分の中での反省点や改善点を見つけることができるので、上達への近道になると思います。さらに今回は、具体的に首の使い方についても解説しました。先述した通り、首というのはそこまで目立つパーツではないのですが、最終的なポーズの印象をつくる上で大切な要素になるので、今回解説した内容はしっかりと押さえておきましょう。
今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!
「エイド宿題」とは?
「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。
●参加方法とやり方
・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。
・エイド宿題とは?
https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/
・エイド宿題 これまでのお題
https://ryowaks.com/category/aidshukudai/
Profile.
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若杉 遼/Ryo Wakasugi
2012年にサンフランシスコの美術大学Academy of Art Universityを卒業後、Pixar Animation StudiosにてCGアニメーターとしてキャリアを始める。2015年にサンフランシスコからカナダのバンクーバーに移り、現在はSony Pictures Imageworksに所属。CGアニメーターとしての仕事の傍ら、CGアニメーションに特化したオンラインスクール「AnimationAid」を創設、現在も運営のほか講師としてクラスも教えている。これまでに参加した作品は『アングリーバード』(2016)、『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スマーフ スマーフェットと秘密の大冒険』(2017)、『絵文字の国のジーン』(2018)、『スモールフット』(2018)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)など
●若杉遼 ブログ わかすぎものがたり
ryowaks.com
●AnimationAid
animation-aid.com