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No.014:山梨大学 工学部 茅・豊浦研究室

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RESEARCH 1:織物デジタルファブリケーションの研究

・研究目的

織物パターンは、各格子点で経糸(たていと)と緯糸(よこいと)のどちらを上にするかを示す二値画像として表現できます。適切な二値画像データを、ジャカード織機と呼ばれる高機能な織機に入力すると、二値画像で表現された織物パターンを反映した織物を織ることができます。二値画像が織物パターンとして成立するためには、それぞれの糸が一定間隔内で1回以上交差している必要があります。また、格子点が直線を保つためには、交差回数に空間的な粗密がないようにしなければなりません。加えて、使用する糸色の数を増やすと、再現される解像度が下がることも考慮する必要があります。

任意画像を織物パターンに変換する処理は、画像の色、境界、周波数、方向性などをできるだけ保ちながら、前述の制約を満たすよう、データを最適化することに帰着します。一方で、織物パターンの設計は、入力画像をモチーフにしたデザイン作業であるとみなすこともできるので、対話的デザインシステムの設計も重要な課題だと考えています。


・任意画像を入力し、織物が完成するまでのながれ

  • ◀任意画像の入力


▲パターンの自動解析と特徴が一致する織物パターンの割り当て


▲デザイナーによる、対話的パターン修正


▲【左】ジャカード織機による製織/【右】織物の完成


・織物パターンの入力の自動化

私たちは、任意画像を織物パターンの二値画像に変換できる、織物デジタルファブリケーションの実現を目指しています[1][2][3]。前述の制約を満たしつつ、滑らかな陰影と明確な境界をもつ織物を織るためには、従来の画像処理にはない、新たな技法の提案が必要でした。そこで、私たちは織物パターンの対話的デザインシステムを開発し、画像内の各領域に、個別のパターン化規則を適用できるようにしました。提案手法の一部技術は連携企業に移転され、滑らかな陰影をもつ傘が製作・販売されました。滑らかな陰影は、コンピュータによる支援なしには作成できないものでした。

▲提案手法によって製作・販売された滑らかな陰影をもつ傘


当初は全ての織物パターンを手動で入力させていましたが、その後、自動化を試みました。本手法では、画像内の各領域に対してGaborフィルタを適用し、反応を求めます。同様に、利用可能な全ての織物パターンの反応も求めておきます。各領域の反応に、最も一致する反応をもつ織物パターンが、当該領域を再現するのに最適であることが確かめられました。

また、本システムを通して織物パターンをデザインすれば、入力画像に対してパターン化規則を適用したときのログが取得できるため、特徴抽出が可能となります。本システムを利用するには、織物に関する最低限の知識を必要としますが、そのおかげで、利用者が織物に関する説明を受け、地域の織物産業に興味をもってもらえる効果も得られました。


・カラー画像を基にした多色織パターンの二値画像の生成

織物の経糸は織機にかけられており容易に変更できませんが、緯糸は1本ごとの変更が可能です。ただし、前述したように糸色の数を増やすほど、再現される解像度が下がるため、最小限の糸色で表現することが望まれます。従来の手法では、グレースケール画像のみを対象にしたり、カラーチャンネルごとに独立した処理を施したりしていたため、入力画像の色調や陰影を十分に保つことができませんでした。

私たちは、2つの手順を経ることで、前述の課題を解決しました[4]。最初に、カラー画像内の任意の画素値に対する、経糸色と緯糸色の近さを実数値で表せるように定式化し、多色織パターンの二値画像を生成しました。続いて、データベースに登録された保有する糸色の集合から、前述の二値画像を再現するのに最適な緯糸の色を上位から順番に選択できるようにしました。2色目以降の糸色については、すでに選択されている糸色で再現できない場合のみ、新しい糸色を選択できるようにしています。

▲カラー画像を再現するのに最適な糸色の選択


・導電性繊維を用いた加圧位置を検出する織物

新たな展開として、電極や導電性繊維を織り込むことで、電気的機能をもたせた織物の実現も目指しています。最近のスポーツウェア開発においては、心拍数や筋肉の状態を把握できる製品が発表されています。また、救急救命の領域では、心電計の機能をもつ、電極が縫い込まれた帯が発表されています。

私たちは、織物の立体構造を位置によって変えることで、電気的な特性も変えることができると考え、加圧位置を検出する織物を提案しました[5]。導電性繊維の経糸と緯糸が交差する点では、静電容量が発生するため、織り方を変えることで静電容量を変化させることができます。これにより、加圧位置の検出が可能となります。

▲加圧位置を検出する織物の構造


・参考文献

[1]豊浦正広, 五十嵐哲也, 庄司麻由, 茅 暁陽: "ジャカード織物作製のための制約付き画像二値化", 芸術科学会論文誌, Vol. 13, No. 3, pp. 124-133, 2014
[2]Tetsuya Igarashi, Masahiro Toyoura, Xiaoyang Mao: "Dithering method for reproducing smoothly changing tones and fine details of natural images on woven fabric", Textile Research Journal, Vol. 88, No. 24, pp. 2782-2799, Article. 0040517517732087, 2018
[3]Masahiro Toyoura, Tetsuya Igarashi, Xiaoyang Mao: "Generating Jacquard Fabric Pattern with Visual Impressions", IEEE Transactions on Industrial Informatics, 2018
[4]豊浦正広, 五十嵐哲也, 齋藤 豪, 寺田貴雅, 茅 暁陽: "写真からの多色織パターン生成", 情報処理学会 グラフィクスとCAD研究会, Arcticle 1, 2016(情報処理学会 山下記念研究賞(優秀研究発表賞))
[5]Takamasa Terada, Masahiro Toyoura, Takahide Sato, Xiaoyang Mao: "Functional Fabric Pattern -Examining the Case of Pressure Detection and Localization-", IEEE Transactions on Industrial Electronics, Vol. 66, No. 10, pp. 8224-8234, 2019

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