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お題その29:「すこし怖い」

お題その29:「すこし怖い」

Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。

TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony​ Pictures​ Imageworks
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



今回のお題

こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、「すこし怖い」というテーマでポーズの添削をさせていただきます。

「すこし怖い」というお題では、何気ない様子やポーズから「いかに"怖い"という印象をつくり出せるか」がポイントになります。例えば、「とても怖い」という感情を表現する場合、誇張表現として多少大げさにポーズをつくることで成立するため、比較的容易につくれることが多いはずです。一方で「すこし怖い」というポーズでは、「怖いという感情の入口」となる雰囲気を表現することが大切なので、どこか自然な様子を残しつつポーズをつくる必要があります。

また、「怖い」という感情を表現する場合、体に力が入っている印象が求められるかと思いますが、「怒り」という感情もまた身体に力が入るポーズです。「怖い」という感情が「怒り」に見えてしまわないよう、気をつけなければなりません。眉の微妙な形状や表情のつくり方で、この2つの感情のちがいを区別していきましょう。

そういう意味では、添削前のポーズの方向性はかなり良いポーズだったと思います。ただ、若干怒っているように見えてしまうかな、と感じました。また、カジュアルなポーズの中でも細々とした要素を加えることで、「怖い」という印象をもっと明確に表現できるかもしれないなと思い、添削していきました。


作品01:「すこし怖い」

投稿作品


●力が入ったポーズ

本連載で、これまで何度も取り上げている「緊張と緩和」というルールがあります。「緊張と緩和」とは「力が入っているか、抜けているか」ということです。「怖い」というポーズは、基本的には身体に力が入っているポーズなので「緊張と緩和」の考え方が当てはまります。このポーズを基に、目と肩のデザインについて解説していきます。

Point 1:力が入ったポーズ/目

人間の目は、リラックスしてるときは上まぶたが瞳の上に被さっています。これが「人間のリラックス状態の目」です。逆に、力が入っている状態を表現したい場合は、瞳の周りに白目が見えるようデザインすると、緊張した表情になっていきます。特にカートゥーンのキャラクターなどは目が大きいため、「伝わる印象」に目のデザインが大きく影響します。十分に注意しましょう。


Point 2:力が入ったポーズ/肩

肩に関してはとてもシンプルです。力が入っているときは肩が上がり、力が抜けているときは肩が下がるという動きをつけることで、「緊張と緩和」を伝えることができます。しかし、初心者のアニメーターのほとんどは、肩のポーズをあまり重要視していないように感じることが多いです。

昔、Pixarのアニメーターに「肩は第2の眉」だと教えてもらったことがあります。肩の動きやポーズは、感情表現のツールとして非常に有効だということです。これは、顔のないキャラクターなどでアニメーションをつけてみるとよくわかります。肩の上げ下げだけでキャラクターの感情が表現できることに驚くはずです。

ポーズをつくるときは、「相対的に肩が上がっているかどうか」を見ることが重要です。コントローラの上げ下げよりも、 頭と身体の関係性で「肩が上がっているように見えるか」を判断すると良いでしょう。もっと簡単に言うと、シルエットで見たときに、頭と首の間に「ネガティブスペース」があるかを確認するということです。実際に自分で動いてみるとよくわかります。肩の可動域はかなり広いので、思いきり肩を上げると肩と首のスペース(ネガティブスペース)がなくなるのがわかるはずです。

CGキャラクターのリグの場合は、リギングの経験がある人はわかると思いますが、肩の周辺はつくり込むのが意外と難しかったりします。実際、肩甲骨や肩の動きはかなり複雑なので、人体構造と同じように動かすのはとても難しいのです。アニメーター目線で言うと、本来であれば回転だけで正しいポーズがつくれたら理想的ですが、先ほどの理由でなかなか思い通りのポーズがつくれなかったりします。そんなときは回転だけでなく、移動や拡大・縮小を使って「シルエット的に正しく見える」ことを意識したポーズを目指していくと良いです。

ネガティブスペースについては前回の記事でも少し紹介しましたが、ポーズをつくるときの肝になるので、常に頭の片隅に入れておきましょう。


Point 3:セカンダリアクション

ここからは「セカンダリアクション(セカンダリ・アクション)」というアニメーションルールについて解説していきます。セカンダリアクションとは、メインとなるアクションや表現において、直接的に表現するのではなく、別の動きやポーズを介してニュアンスを伝える方法です。

「怒り」の表現を例に考えてみると、そのまま怒っている表情をつくるのも良いのですが、仮にキャラクターが料理をしているシチュエーションだとすると、包丁でダンダンと必要以上に大きな音を立てながら料理をしていたりすると、「怒っているんだな」というニュアンスが伝わって来るかと思います。このように、意図を間接的に表現することで自然な演技やポーズをつけることができ、「アニメーションの12原則」の1つとして昔から使われています。

「セカンダリアクション」という名称から、アニメーションの動きで使われることが多 いと思われがちですが、ポーズをつくるときにも同様に扱うことができます。ちょっと した腕のひねりや指の形などから、キャラクターが何を考えているのか、何を感じているのかを表現することができるのです。

今回のポーズの場合は、表情は全体的にとても良くできていたのですが、座り方が少々普通だったのがもったいなく感じました。そこで、少し内股気味にすることで、怖がっているニュアンスがもう少し自然に演出できるような気がしました。指も同様です。指は表現力が豊かなパーツなので、クッションをギュッと握っているようなポーズにすると、少し怖くて体がこわばっているような印象を表現できると考えました。

ちなみに「セカンダリアクション」という単語について、多くの人が本来の意味をまちがって使っているようなので、この単語を使うときには注意が必要です。例えば、日本のCGの現場では、メインとなる動きのアニメーションのことを「プライマリ」、付随する動きのことを「セカンダリ」と呼んだりします。この「セカンダリ」と「セカンダリアクション」を同じ意味だと解釈している人が多いように思います。

添削前のポーズ


添削ノート


添削後のポーズ

今回は少し難しいお題でしたが、添削前のポーズは方向性も合っており良くできたポーズでした。ということで今回は、その状態からさらに良くするためのポイントを紹介しました。「セカンダリアクション」というアニメーションのルールを基に、いかに進めていくか。「伝えるべき意図が視聴者にしっかりと伝わるか」が最も重要なポイントです。

プロセスについては、実際はかなり論理的に進めていく必要があります。感覚だけでポーズをつくっても良いのですが、そうすると「どうしてそのように伝わったのか」、「どうして伝わらなかったのか」という理由と原因が見えてきません。それでは行き詰まったときに、自分がつくったアニメーションやポーズが「どうすればもっと正確に伝わるのか」という解決策が浮かばなくなってしまいます。

アートに関わる仕事でも同様で、「どうすれば伝わるのか」を考え抜いてアイデアを出さなければなりません。今回紹介したアニメーションのルールは論理に則っていることが多いので、様々な場面で使えると思います。

今回の添削はこんな感じです。最後まで読んでいただきありがとうございました。 最後に、いつも#エイド宿題 に参加してくださってありがとうございます!皆さん、本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。 ぜひまた今後も#エイド宿題に参加してくださると嬉しいです!


「エイド宿題」とは?

「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。

●参加方法とやり方

・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。

●参考

・エイド宿題とは?
https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/

・エイド宿題 これまでのお題
https://ryowaks.com/category/aidshukudai/

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