社会では実行しづらい新規性のある研究、制作を心がける
芸術工学部では4年生から研究室に所属し、卒業研究、制作に着手します。卒業研究は論文、もしくは作品と論文形式に準拠した作品解説書の提出をもって行われ、作品は口頭発表に加え展示も行います。
本研究室は2004年に開設し、毎年10名前後の日本人学生と、オランダ、フィンランド、トルコ、中国などからの数名の交換留学生が在籍しています。研究テーマは映像コンテンツデザインとしており、現在は6割がゲーム、メディアアート作品などのインタラクティブコンテンツ、3割がアニメーション、1割がグラフィックデザインを志望する傾向にあります。具体的にどのような研究を行うか、どのような作品をつくるかは、数回のディスカッションを経て、最終的には学生自身が決定します。問題解決を含んだデザイン活動、自身の興味関心を追求していくアート活動、それらの融合型など、卒業後の進路も含めて方針を決めた上で、1年間(修士課程への進学希望者は3年間)の計画を自ら立てて実行します。基本的に、企画から制作、検証まで一貫して実施することを必須としています。また、大学という社会や経済に大きく囚われない自由な場に身を置くからこそ、反社会的な行為は除き、社会では実行しづらい新規性のある実験的な研究、制作を心がけています。
学生は日々、自分や社会の中から新規性のあるテーマを見出す難しさを実感しながら活動を進めています。そこで得られた成果は、学会、会議、作品コンペティションなどで発表することを推奨しています。主な参加学会や会議は、アジアデジタルアートアンドデザイン学会(日本、および国際)、日本デジタルゲーム学会、情報処理学会、CEDECなど、作品コンペティションは、アジアデジタルアート大賞展、福岡ゲームコンテストGFF AWARD、学生CGコンテストなどです。2019年には、東京ゲームショウのセンス・オブ・ワンダー ナイトのファイナリストにも選出されました。
▲東京ゲームショウ2019 センス・オブ・ワンダー ナイトでの発表の様子
就職先は、昨今はゲーム会社を志望する学生が増えています。ほかには、映像制作、メディアアート系の企業、広告会社などです。今はネットを介して個人での仕事のやり取りもしやすいため、中には企業への就職はせず、フリーのクリエイターとして活動する人もいます。このような状況を鑑み、知的財産の講義は必ず受講するように勧めています。志望職種は学生によって様々です。芸術工学部は理系カテゴリに属していますが、芸術という単語を冠していることから文系寄りの学生も入ってきます。よって、キャラクターや背景などを制作するアーティスト、プログラマー、システムエンジニアなどが多いですが、最近は全体を俯瞰するディレクター、プロデューサー、アイデア主導のプランナーを志望する学生も増えています。
これまでの学生は、就職活動時に芸術工学という単語自体の認知度の低さから、人事担当者に理解してもらえず苦労してきた経緯があります。芸術なのか工学なのか中途半端な印象を与えがちでしたが、昨今は両方の知見をもつ人材を育成する重要性を企業も認知しはじめており、ここ数年で求人が増えている印象をもっています。同時に、学生にとってはテクニカルアーティストやエフェクトアーティストといった職種での活躍の場も広がっているのではと感じています。
メディアアート作品を評価するアジアデジタルアート大賞展
アジアデジタルアート大賞展は、2001年にクリエイターの発掘、育成の場として福岡で始まったメディアアート作品の公募展です。発足以来、テーマである「論理的な思考を基盤にした高い芸術的感性」を実現した作品を高く評価するコンペティションとして開催を続け、2016年に前述の源田先生から事務局長を引き継ぎました。また、国内外でアート、デザイン、工学系の学会との連携も強化しており、アジアデジタルアートアンドデザイン学会では台湾とマレーシアにて展覧会も併設開催しました。今後は福岡の地の利を活かしつつ、アジアの名にあるとおり、東アジア、東南アジアのクリエイター、研究者との交流も活性化していく予定です。日本も含め、アジアではメディアアート系の公募展は少ないため、芸術工学部をはじめ、作品制作を行う学生クリエイターの発表の場としても機能していきたいと考えています。
▲【ライブ配信アーカイブ】2020年11月22日 メディア芸術振興シンポジウム
2020年に20年目を迎えたアジアデジタルアート大賞展の審査員を迎え、デジタルアート&デザインの変容とその未来、クリエイターを支援するコンペティションの役割について、2部構成で熱く議論したオンラインシンポジウムのアーカイブ映像