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No.018:九州大学 大学院芸術工学研究院 松隈研究室

No.018:九州大学 大学院芸術工学研究院 松隈研究室

RESEARCH 2:開眼片足立ち支援ゲーム『ロコモでバラミンゴ』

・研究目的

運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態をロコモティブシンドロームと言います。その予防策として、日本整形外科学会はスクワットと開眼片足立ちを毎日行うことを推奨しており、そのトレーニングをロコトレと呼んでいます[1]。健康状態を保つ上では毎日の運動が有効なものの、単にロコトレをするだけでは、動作が単調で、継続は困難です。そこでロコトレ自体を楽しむことで、訓練に対する積極性と持続性を向上すべく、開眼片足立ち支援ゲーム『ロコモでバラミンゴ』を開発しました。

現在の高齢者の多くは、デジタルゲームのプレイ経験が少なく、操作を苦手とする傾向にあります。そのため本ゲームでは、高齢者が円滑にプレイするための明快なインターフェイスが必要と考えました。また、リハビリやヘルスケアにゲームを用いる場合には、ゲームを面白くするための要素である、失敗やストレスを伴う体験を入れるかどうかという点が議論になります。失敗はゲームプレイの原動力になる[2]一方で、失敗によるストレスからゲーム、すなわちリハビリやヘルスケアを止めてしまう可能性もあります。そこで本研究では、ゲームのインターフェイスデザイン、およびゲームデザインが、高齢者のプレイにどのような影響をもたらすかを明らかにし、ヘルスケアにおけるゲームの有用性を示すことを目的としました。


・研究内容

本ゲームでは『リハビリウム起立くん』と同様に、対象者の動きのセンシングにKinectを使用しました。コントローラ、キーボード、マウスを用いた操作ではなく、対象者の身体を使った直観的な操作ができるインターフェイスをデザインしています。例えば後述するアバターのコントロールは、対象者の身体の傾きや手の動きを通して行います。

本ゲームでは、画面の奥に向かって進行するアバターをコントロールして、画面内に現れるハートを取得しながらゴールを目指します。なお、本ゲームの対象者は健康な高齢者としました。プレイ時には、同じ足を使い、1回につき60秒、3回連続で開眼片足立ちをします。ステージ1では、開眼片足立ちのポーズを維持し続けることで、画面中央に並んだハートを獲得します。ステージ2以降は、画面左右にもハートが出現し、これらは手を上げることで取得できます。ただしランダムに出現する爆弾を取ると減点になるため、爆弾出現時には手を下げる必要があります。つまりステージ2からは、失敗やストレスを伴う体験を加えたゲームデザインになっているわけです。また、ふらつくことなく開眼片足立ちを続ける動作と、状況に合わせて手を上下する動作は、認知機能維持トレーニングの要素である、2つのことを同時に行う状況をつくり出しています。

ステージ3では画面中央に並んだハートの間隔が狭くなるため、対象者はより多くのハートを取得できます。しかし進行スピードが速く感じられるのに加え、足の疲れが溜まってくるので、ふらつきがちになり、難易度はさらに高くなります。なお、ゲーム終了後は特別な操作を必要とせず、自動的に最初の待機画面に移行します。

▲【左】本ゲームのステージ1のプレイ画面。ハートが画面中央に並んでいます/【右】同じく、ステージ3のプレイ画面。画面中央に加え、画面左右にもハートが並んでいます


▲ロコモ運動サークルでの検証の様子


▲システム構成


・有用性の検証

前述のロコモ運動サークルに参加している健康な高齢者16名(男性1名、女性15名、平均年齢74.1歳)に本ゲームをプレイしてもらい、ゲームデザインに関するアンケートを実施しました。

アンケートでは、プレイ中の足の使用度(5件法)、プレイ後の疲労感(7件法)、プレイ後の再プレイへのモチベーション(5件法)を問いました。失敗やストレスを伴う体験がないステージ1と、その体験を付加したステージ2、ステージ3に対する回答を比較すると、プレイ中の足の使用度も、プレイ後の疲労感も、後者のステージの方が高いという結果が得られました。一方で、プレイ後の再プレイへのモチベーションも後者のステージの方が高いという結果が得られたことから、ステージ2、ステージ3では運動量が増したにも関わらず、積極性も増していたことがわかりました。

▲ロコモ運動サークルで実施したアンケートに対する回答。【上】プレイ中の足の使用度(5件法)/【中】プレイ後の疲労感(7件法)/【下】プレイ後の再プレイへのモチベーション(5件法)。ステージ2、ステージ3では足の使用度と疲労感が増したにも関わらず、再プレイへのモチベーションも増していたことがわかりました


個別に意見を聞いたところ「今さらゲーム? と思っていましたが、今はけっこう楽しいし、これからもがんばろうと思う」、「今までの運動のイメージとちがい、若干のゲーム感覚で行う運動は若さを感じ、とても良いなと思いました」といった前向きな声が多く得られ、ヘルスケアにおけるゲームの有用性が明らかになりました。


・考察

現時点では対象者から「ゲームの操作が難しい」という声は挙がっておらず、直観的な操作ができるインターフェイスが効果的に機能していると言えます。また、ヘルスケアに取り組む健康な高齢者にとって、失敗やストレスを伴う体験を加えたゲームデザインは、積極性の向上、すなわち運動促進に有効であると考えられます。シリアスゲームプロジェクトでは、今後もゲームを主軸とするICT利用による運動促進を一般に広く普及させ、世界の健康寿命拡大に寄与していきたいと考えています。


・参考文献

[1]"ロコモティブシンドローム", 日本整形外科学会, 2015, www.joa.or.jp/public/locomo/locomo_pamphlet_2015.pdf
[2]Jesper Juul, Bスプラウト 訳, "しかめっ面にさせるゲームは成功する 悔しさをモチベーションに変えるゲームデザイン", ボーンデジタル, 2015



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