Eveのライブとアニメーションや実写映像が一体となった音楽映画『Adam by Eve』。「廻廻奇譚」パートでEve独特の世界観をCGで表現したkhakiに直撃取材。

※本記事はCGWORLD286号(2022年6月号)の記事を一部再編集したものです

『Adam by Eve: A Live in Animation』
監督・脚本・編集:依田伸隆
「廻廻奇譚」監督:佐伯雄一郎
「廻廻奇譚」VFX:khaki
企画・プロデュース:STORY inc.
企画:川村元気
adam-by-eve.com
©2022「Adam by Eve」製作委員会

フルCGで描く魑魅魍魎の世界

独自の世界観で人気を博す新世代のシンガー ソングライター・Eve氏が楽曲を書き下ろした音楽映画『Adam by Eve: A Live in Animation』が3月15日より全国の東宝シネマズおよびNetflixにて世界同時配信された。本作はライブとアニメーション、実写映像を融合したクリエイティブな映像作品となっており、いくつもの楽曲パートと実写パートから構成されている。今回は大人気のTVアニメ『呪術廻戦』第1クールの主題歌にも起用された楽曲「廻廻奇譚」パートに注目していく。

左上から、CGディレクター・赤澤希望氏、CGアーティスト・田崎陽太氏、CGアーティスト・高金幸司氏、CGアシスタント・伊藤太一氏、CGアシスタント・池野登生氏(以上、khaki)

本パートはフルCGの映像作品となっており、制作はVFXディレクション/デザインを得意とするkhakiが担当した。「THINKR inc.の佐伯雄一郎監督と以前から交流があり、今回お話をいただききました」(CGアーティスト・田崎陽太氏)。制作が始まったのは2021年の10月中旬で、11月にプリビズが完成した後に順次CG制作に入り、最終的に12月末の納品だったという。制作期間はおよそ2ヶ月、担当パートは105カット・計4,106フレームとなった。短い期間でフルCG作品をつくり上げるため、4DviewsCinema 4D×Redshiftを活用した効率的なワークフローが採用されている。

また、khakiではメンバー全員がディレクターでありVFXアーティストである点にも注目したい。本パートは監督である佐伯氏のコンセプトから具体的なデザインに落とすところもkhakiが担当しており、1曲の中でもおおまかに田崎氏が担当した序盤、CGディレクターである赤澤希望氏が担当した中盤、CGアーティストの高金幸司氏が担当した終盤で、曲に合わせてガラッと雰囲気が変わる仕掛けも用意されている。「自由につくれた分、アーティストたちがそれぞれの作家性を見出してくれたので、作品の幅を大きく広げることができました。結果として楽曲の魑魅魍魎の世界観とEveさんの世界観を上手くかけ合わせて表現できたと思います」(赤澤氏)。3つに分けて分担できるkhakiならではのクリエイティブ制作手法と、効率的なフル3DCGワークに大注目の作品だ。

<1>コンセプトとアセット制作

こだわりで魅せる映像表現

本作は企画の段階でサイバーパンク・ごちゃごちゃ・和のテイストで裏渋谷の地下を描く、といったベースのコンセプトは決まっていたが、基本的には自由にデザインと画づくりができたという。「コンセプトをふまえた上で、暗い世界観でありながら美しく見えることを目指しました。特に後半では明るい希望のイメージに合わせて美しさに振った画づくりにしています」(田崎氏)。前述の通り、本作の映像は楽曲中で大きく3つ

のパートに分かれている。余裕のないスケジュールの中、曲のイメージに合わせてパートごとに大きく印象を変えてほしいというオーダーがあったため、ベースの舞台は変えずに配置する小道具の変化で雰囲気を大きく変える方法が採られた。

田崎氏の担当した序盤パートは電車や踏切、電柱、信号機などの街のプロップが所狭しと並び、比較的ダーク寄りな世界観となっている。「無機質な空間にぽつんと人物を配置すると画が寂しくなってしまうので、物量で画づくりしつつ、まずEveさんに目が行くようにレイアウトとライティングで視線誘導することを意識しました。それからモニタ含め、色を意識的に多めに使っています。原色に近い鮮やかな色を取り入れることで、美しく見えるように心がけました」(田崎氏)。


赤澤氏の担当した中盤パートはまほろば衆やひとつめ様が登場し、魑魅魍魎が跋扈する怪しげな世界観へと変化する。「Eveさんがつくった世界、Eveさん自身が神のような世界に見えたらなと。それから個人的に辻褄が合わないものが苦手なので、あらゆるオブジェクトの存在に理由付けをしました。ファンタジーの世界ではありますが、物理的な要素を入れ込むことで精神的にもフォトリアルになると考えています」(赤澤氏)。


そして高金氏が担当した終盤パートは目玉のモンスターが登場するなど、より怪しげでおどろおどろしい世界へと変化するが、最終的には朝日が街を照らしてゆく。フォグで赤と青の色を街全体に広げることで、怪しげな世界観になるよう心がけました。個人的にリアリティのある画が好きなので、ラストカット含め光学的にリアルな表現を目指しています」(高金氏)。

3Dモデルは主に購入したアセットやスキャンモデルをベースに、組み合わせたり改変したりすることでつくり上げた。特に販売されているアセットのテクスチャはクオリティ面で不足しているものが多いので、ほぼ全てSubstance Painterで描き直している。「特にSubstance Painterのスマートマテリアルは素早くそれなりに良いテクスチャがつくれるので、物量とクオリティのバランスを見ながら活用しています」(田崎氏)。

キービジュアル

本作のキービジュアル。ダークかつ美しい、魑魅魍魎のテーマに沿った画づくりになっている

  • 後光モチーフによって浮かび上がるひとつめ様と、信号や看板といった日本の街並みのプロップが配置されている
  • 廃墟となった渋谷上空からの風景。怪しさを演出するため、赤と青のライティングが採用された

作成したアセット群

渋谷廃墟カットのレンダリング画像
  • 同カットのメッシュ表示
  • 同カットのワイヤーフレーム表示
ZBrushで作成された上空に浮かぶ目玉のモンスターのモデル
  • 陥没した渋谷のモデル
  • スキャンモデルを改変して作成された巨大樹のモデル

Subtance Painterでの作業の様子

  • 渋谷109モチーフの建物。スマートマテリアルメインで効率的に描き込まれた
  • 朽ちた電車

<2>プリビズとアニメーション

CGと現実の動きをミックスする

絵コンテのタイミングに合わせ、赤澤氏がプリビズを作成した。「プリビズの制作にあたって、MVでありつつも、作品全体のコンセプトである“ライブ映像”の雰囲気を意識しました」(赤澤氏)。khakiが担当したカットはフルCGのため、ラフモデルでプリビズを作成しカメラワークを詰めた上で、モデルを置き換えていくワークフローが採られた。途中からは4Dviewsのデータも組み合わせてアングルを調整したという。「4Dviewsのクオリティでは寄りには耐えられずCG感が隠しきれなかったため、後からカメラを離したカットもあります」(赤澤氏)。そのほか、ハイポリゴンの背景を置いていく中で人物と重なってしまった部分や、周りで踊るまほろば衆の見映えが良くなる画角などの細かい試行錯誤が行われた。

カメラワークは、CGならではの動きと現実ライクな動きを意識的に混ぜて組まれたという。「個人的に、CGのカメラワークは完璧すぎるがゆえに冷たい印象がありまして。実際のカメラで本当に撮ったような、クレーンの機構、手持ちのブレなど意味をもたせたカメラワークが好きです。とはいえCGならではの動きもカッコいいので、あえて半々程度入れています」(赤澤氏)。

アニメー ションはメインツー ルであるCinema 4Dで付けられた。「ひとつめ様や魚、目玉のモンスターなどは手付けで動きを付けています。Eveさんが主役なので、変に目立たず、かつ生きているように感じる動きを目指しました」(赤澤氏)。瓦礫の上昇や植物が広がるアニメーションはCinema 4D内の機能であるMoGraphが使われている。「MoGraphはあくまでも配置ツールなので、複雑な動きや大量のオブジェクトの制御はできませんが、こうしたシンプルな動きであれば最も効率的に扱えます」(田崎氏)。地面からワイヤーが伸びていく動きはより高度な制御が必要なため、Cinema 4Dと親和性の高いパーティクルシステムのX-Particlesが採用された。「パーティクルを上方向に飛ばして、Trail Objectでワイヤーにしています。ひねりを入れて幹のような形になるよう意識しました」(CGアシスタント・池野登生氏)。渋谷のカットは3ds Maxで作成されていたため、地面が崩れるカットは3ds MaxのプラグインであるtyFlowが用いられた。そのほか、目玉のモンスターが液体化して爆発、雨になるアニメーションはHoudiniを用いて作成されている。

プリビズの変遷

  • 初期のバージョン。簡易的なラフモデルでカメラワークが付けられている
  • 中期のバージョン。人物モデルがEve氏の4Dviews素材に置き換えられた
後期のバージョン。目のモデルが本番用に置き換えられたほか、構図も微調整している

パーティクル系オブジェクトの制御

地上に伸びていくワイヤーはX-Particlesで制御した
植物が生える動きはCinema 4DのMoGraphで制御した

手付けアニメーションの様子

ひとつめ様モデルのリグ表示
同モデルのアニメーションカーブ

エフェクト系のアニメーションの作業の様子

  • ガラスが崩れる様子はMoGraphで制御した
  • 渋谷の地面に穴が空き空中に舞うカットは、3ds MaxのプラグインであるtyFlowによるもの
目玉のモンスターが破裂する動きはHoudiniで作成された

<3>4DviewsとRedshiftによる効率化

4DviewsとRedshiftの良い点・悪い点

本作では、効率的にEve氏・まほろば衆を3D空間上に描き込むため、4Dviewsが用いられた。4Dviewsとは仏4D View Solutionsが開発しているボリューメトリック・ビデオ・キャプチャシステムで、国内ではクレッセントが同システムを導入したスタジオを展開している。4Dviewsは32台のカメラに囲まれた専用のグリーンバックスタジオで撮影することで、毎フレームテクスチャありの3Dメッシュを構築できるシステムだ。「最

大のメリットは役者さんそのままの動きになるので、後から動きを付けなくて良いことです」(田崎氏)。4Dviewsにより、ハイクオリティな人物の3Dデータをスピーディに得ることができる。あらかじめマーカーを付けておけば、顔の位置なども完全ではないがリグデータとして出力することもできるという。

とはいえ、4Dviewsならではの問題点もある。「髪の毛や半透明なもの、細かいものは苦手です。データもAlembicの連番で、3K程度のテクスチャも大量に生成されるので、ボーンモデルと比べると圧倒的にデータが重くなってしまいますし、撮影後の調整は基本的に不可能です」(田崎氏)。立ちで歌っているカットでは3,600フレーム(2分30秒)の4Dviewsカットで3Dデータが8GB、3Kのテクスチャデータが26GBとなっている。「まほろば衆が大量に出てくるカットは、リアルタイムプレビューができなかったので、レンダリングしたものをAfter Effectsでオフライン編集のように切り貼りして並べたりもしました」(赤澤氏)。

また、効率化の観点からレンダラにはRedshiftが採用された。「他のプリレンダー系と比較するとクオリティを出すのが難しいですが、ダントツでレンダリング速度が速く、特にボリュームはノイズも出ず綺麗なので今回はRedshiftを使いました。フォグを入れたままハイポリモデルを大量に配置しても現実的な時間でレンダリングできるのは非常に魅力的です」(田崎氏)。レンダリングは社内サーバで並行して行われたが、フレームあたり平均して2分、長くて5分程度で完了したという。このスピード感で出力できるため、本作ではコンポジットで素材を組み合わせることはなく、3DCG上でフォグ含め画がほぼ完成している状態でレンダリングするワークフローを採った。


コンポジットはAfter Effectsで行われたが、グローやカラーグレーディング等の軽いエフェクトのみに留めている。これらのレンダリングやコンポジット作業のカラースペースはACEScg、納品はlinear-sRGBで行われた。

4Dviewsを用いた制作の様子

撮影風景
  • 読み込んだ連番のAlembicデータ
  • マーカーを付けることで、特定部位の動きをリグとして読み込むこともできる
  • デー タが重かったため、After Effects上でプレビュームービーを作成しタイミングを決めた
  • 連番の3Kテクスチャ群

Redshiftプレビューの様子

レンダリングの段階で最終に近いクオリティが出るよう画づくりされている

Cinema 4Dでの作業

各カットのCinema 4Dでの作業の様子。大量のオブジェクトも一度にレンダリングしている

地下カットのコンポジット

Cinema 4Dでの作業画面
After Effectsでコンポジットした画面

渋谷の廃墟の制作の様子

Cinema 4Dでの作業画面
  • Redshiftでレンダリングされた画像
  • After Effectsでコンポジットされた画像

TEXT_三宅智之(38912 DIGITAL)
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada