2015年の会社創立以来、3DCGをコアにした技術力を武器に日本のコンテンツ業界を支えてきたGUNCY’S。2023年のUnreal Festでは、Unreal Engine 5Houdiniによるプロシージャルワークフローを用いたオリジナル映像作品のR&Dプロジェクトを発表し、大きな話題を呼んだ。本連載では、日本語でまだ情報の少ない先端技術を積極的に用い、そのプロジェクトを通して得た検証結果を広く公開していく。

記事の目次

    小林哲朗/Tetsuro Kobayashi

    株式会社GUNCY’S所属テクニカルプランナーとして従事。普段はプロジェクト進行時にプランニングとディレクションを務める。今回はUEにおけるアートワーク全般とコンポジットをメインで担当。制作においてはDCCツールおよびUnityをメインに取り扱ってきたが、今回のこのプロジェクトからUEを使った制作にとりかかる。

    株式会社GUNCY’S(グンシーズ)は、3DCGをはじめとする最先端テクノロジーを熟知したメンバーと独自の戦略・ユニークな提案などで、人々が思い描くあらゆるアイデアやイメージを実現・成功へと導く、現代版”軍師”集団。プロジェクトコンサルティングやデジタルコンテンツ制作・開発、教育・執筆・講演など様々な事業を執り行う。
    guncys.com

    はじめに

    皆様こんにちは、株式会社GUNCY’Sテクニカルプランナーの小林です。前回に続き「プリプロダクション」のワークフローについてお話します。前回行なった本プロジェクトの説明をまだご覧になっていない場合、先に読んでいただけると今回の内容がよりわかりやすくなります。

    第2回:無から映像を生み出す挑戦 -プロシージャルワークフローで活路を見出す-【中編】

    プリプロダクション

    プリプロダクションとはプロダクション中にスムーズに制作を進められるように、ゴールを明確にする役割があります。

    前回は全体のフローとどのようにメタ設定を作成してきたかご説明しました。本記事はそれを具体的なイメージとして共有する方法についてご紹介します。

    コンセプトアート

    コンセプトアートとは、プロジェクトの視覚的なガイドラインを確立するためのイラストやスケッチのことです。

    絵コンテを描き終えたら、設定の作成と並行してコンセプトアートも描き始めます。具体的には、リファレンスを基に必要な場面をアートとして描き出していきます。物語の進行上、大正時代に繁栄していたときと現代の廃墟になったときの両方の場面を用意しました。

    今回はコンセプトアーティストの上野拡覚(うえのひろあき)さんに、アートおよび、動線やレイアウトの確認のための仮モデルの準備も一緒にしていただきました。

    この簡易的な洋館の3Dモデルを基に、物語内での登場人物の移動経路、光の入り方や什器のレイアウト、部屋の間取りに違和感や矛盾がないかを確認しながらデザインを決めていきました。このように3Dモデルも併用すると、アートとコンテを効率的に整理することができます。

    アセットリスト

    コンセプトアートやコンテが具体化すると、制作が必要なアセットが明確になります。その後、それらをアセットリストとして表にまとめ、プリビズ動画の作成に向けて、仮配置用のモデルを準備し始めます。

    アセットをつくる際は、命名規則やアセット制作の仕様書も準備します。ここを怠ると必ず事故が起きるので注意が必要です。

    カラースクリプト

    カラースクリプトとは色の台本のことです。シーンのつながり、全体のバランスを確認する目的で使用されます。具体的なイメージを共有し、最終的な画づくりに向けて制作を始めます。

    今回は色味のリファレンスとしてShotdeckというサービスを活用しました。Shotdeckは、様々な映像作品をカラーやシチュエーションなど任意で選択した条件に基づいて検索が可能なサービスです。

    カラースクリプトを用意するとき、絵コンテのコマや先に用意してあった簡易3Dモデルを使用してカメラを設置した画にしています。実際は制作効率を考慮して各カットではなく、もうひと回り大きい括り、場面に分けたシーンごとで監督が色味のコンセプトを決めています。

    プリビズ

    プリビズとはPre Visualizationの略語で、完成した状態を想像できるシミュレーション映像のことです。

    プリビズでは実際に、MayaHoudiniおよびUnreal Engineで仮のモデルをレイアウトし、人物やカメラに仮のモーションを割り当てていく作業を行います。最終的にセリフや仮の音、タイムコードを表示した状態で動画として出力して、監督のチェックが入ります。

    ここでは画づくりのバランス、オブジェクト配置やシルエットの違和感を確認し、スケール等のフィードバックも行います。プリビズでは、映像としての大枠が掴めるぐらいの完成度を目指します。

    上図のように、監督も初期の段階から参加し、仮の状態の要素を順次レイアウトしていきます。その結果、以下のような動画が完成しました。

    こちらの動画は、プリビズと呼ぶにはそこそこモデルのディテールが細かい状態になっています。本来はレイアウトや画角の確認をするため、シルエットがわかる程度のディテールでも問題ありません。

    レイアウトの段階でここまで細かいディテールのモデルを制作できていたのは、プロシージャルなモデルの制作フローを採っていたためです。

    また次回以降で詳しくプロシージャルワークフローの紹介を行いますが、今回かいつまんで説明すると、Houdiniを主体としてモデリングを進めました。

    まとめ

    さて、プリプロダクションのワークフローを3回にわたって説明しました。これらを進行していく際に重要なことは、監督および全チームが共通認識をもっていることです。チームメンバー内に、ゴールイメージが見えていない人がいる状態で進行していると、事故を起こす可能性が飛躍的に上がります。しかし、度重なる議論や共有に時間が取られすぎて、スピード感が損なわれるのは避けるべきです。適切な方法、時間をかけられるように、必要なプロセスのみを採り、スピーディかつ慎重に進行していくことが重要です。

    次回以降は、本制作に入り、映像を仕上げていく際のワークフローを説明していきます。ここからは、プロシージャルワークフローを活用し、少人数で高効率な制作をしていけるように、われわれが試したことや苦労したことをお話しできればと思います。

    ここまでお読みいただき、ありがとうございました。次回もぜひお楽しみに!

    TEXT_小林哲朗 / Tetsuro Kobayashi(GUNCY'S)
    EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada