「制作進行概論」は、東洋美術学校 クリエイティブデザイン科 高度グラフィックアート専攻でCGを教えるフレイムの北田能士氏が企画した連続講義で、デジタルコンテンツ制作に携わる会社から多彩なゲストが招かれる。CGWORLD Entry.jpでは、過去4回(No.01No.02No.03No.04)にわたり講義の模様をお伝えしてきた。以降では、『けものフレンズ』(2017)、『てさぐれ!部活もの』シリーズなどの制作で知られるヤオヨロズの福原慶匡氏(取締役プロデューサー)が、プロデューサーの仕事や人生観について語った講義の模様を紹介する。

記事の目次

    福原慶匡氏(取締役プロデューサー) ヤオヨロズ株式会社

    1980年生まれ。神奈川県出身。早稲田大学 教育学部を卒業後、2002年に有限会社ドラを設立。以後、音楽とアニメの関連ビジネスを幅広く手がける。株式会社つばさエンタテインメント取締役(2003年〜)。株式会社アイエヌジー取締役(2012年〜)。ヤオヨロズ株式会社取締役(2013年〜)。株式会社ジャストプロ社外取締役(2014年〜)。株式会社つばさプラス代表取締役(2015年〜)。株式会社DMM.futureworks執行役員(2015年〜)。デジタルハリウッド大学院修士課程に在学中。

    ヤオヨロズ株式会社

    2013年設立。CINEMA4Dを使った3DCGによるセルルックのアニメーション制作を行うアニメ事業部と、プロデュースを主体としたプロデュース事業部で構成されている。近年の作品は『ラブ米-WE-LOVE RICE-』(2017)、『けものフレンズ』(2017)、『てさぐれ!部活もの』シリーズなど。
    http://yaoyorozu.info

    北田能士氏(取締役) 株式会社フレイム 株式会社冬寂

    デジタルハリウッドにて1年間CGを学ぶ。2003年、大林 謙氏(代表取締役)と共にフレイムを起業。CM、映画、Web、ゲームなど、様々な媒体のCG・映像制作に携わる。2013年には自身が代表取締役を務める株式会社冬寂を設立。デジタルハリウッド、東洋美術学校ではCGの講師も務めている。
    www.flame-design.co.jp
    www.w-m.co.jp

    何のプロでもないことに、ものすごいコンプレックスをもっていた

    北田能士氏(以降、北田):現在、福原さんは6社で取締役や執行役員をなさっており、デジタルハリウッドの大学院生でもあります。非常に肩書きの多い方ですが、この場ではヤオヨロズの取締役としてご紹介するのが一番通りが早いと思います。

    福原慶匡氏(以降、福原):多分そうですね。ヤオヨロズでは、取締役プロデューサーを務めています。ほかに、つばさプラス(レコード会社/歌手の川嶋あい、山根康広などが所属)、ジャストプロ(芸能事務所・声優事務所/女優の真野 恵里菜、声優の潘 恵子などが所属)、アイエヌジー(広告代理店)、DMM.futureworks(CGスタジオ・ホログラフィックシアターを運営)でも、経営やプロデュースをしています。ところで皆さんは何歳くらいですか?

    北田:20歳くらいの人が多いです。

    福原:何の仕事に就けばいいのか、自分に向いている仕事は何か、悩む年頃だと思います。プロデューサーの仕事について、細かく突っ込んで解説しても眠くなってしまうと思うので、今日はやわらかい内容を中心にお話していきます。その前に、最初に伝えたいことがこちらです(下図参照)。

    ▲福原氏が講義の冒頭で提示したスライド

    福原:皆さんの多くは、親に学費を出してもらっていると思います。僕の場合、自分で大学院の学費を出しているから、必死で学ぼうとするんです。先生がちゃんと講義をしていなければ、怒ったりもします。今、僕は皆さんに教えていますが、皆さんが学ぶかどうかは、皆さんが決めることです。今は学ぶ気にならなくても、先々で悩みにぶつかったとき「昔、あんなこと言ってるおっさんがいたな」というように思い出してくれればと願っています。

    最初に、僕が皆さんに近い年齢だった頃から、今にいたるまでの経緯をお話します。大学時代は、アルバイトと、サークルと、部活と、会計の専門学校をかけもちしており、大学の講義を一番おろそかにしていました。その結果、卒業までに6年もかかったのです。当時は「ほかの人と同じように、急にスーツを着て就職活動をするなんてカッコ悪い」と思っていて、サークルの友達と一緒に会社を設立しました。自分で会社を経営してみると、わからないことが多々あって、それを学ぶために他学部の講義に勝手にもぐり込むこともありました。

    でも社長だった友達は「こんな小さな会社でやっていくよりも、大企業に入ったほうがいい」と言って、就職してしまいました。僕に内緒で、会社経営をしながら就職活動もしていたのです(苦笑)。副社長だった僕が会社を引き継ぐこともできたのですが、起業した目的は「就職しないため」だったので、当時の事業を続けたいとは思えませんでした。そんなとき、路上ライブでがんばっていた川嶋あいさんに出会いました。サークルの友達が声をかけて、僕がマネージャーをやっていたら、とんとん拍子に売れ、『明日への扉』という曲がオリコン1位になったのです。自分の好きなエンターテインメントの仕事ができて、面白い人やすごいプロに出会えて、とても嬉しかったです。28歳くらいまでは、次から次へと音楽関連の大きな仕事を手がけていました。

    その一方で、自分が何のプロでもないことに、ものすごいコンプレックスをもっていました。僕は会計も、営業も、おしゃべりもできるから、めちゃくちゃ重宝されていました。でも会社が大きくなってくると、経理や営業の部長が雇われ、次第に僕の価値が失われていったのです。「何でもできる福原さん」よりも「経理はこの人」「営業はあの人」が頼られるようになり、何のプロでもない自分は器用貧乏なだけのお飾りになっていきました。だから、一歩引いた位置からみんなを動かす、プロデューサーという役割で再起をかけようと思ったのです。

    より深くアニメ制作に関わりたいという思いが強くなり、ヤオヨロズを設立

    福原:僕が28歳のとき、父が亡くなり、実家の会社が火事で燃え、仕事でミスをして、個人的に借金を背負いました。「調子に乗っていたから天罰がくだったんだ」と毎日自問自答していましたね。本当にお金がなくて、弁当をつくって会社に行き、やる気もないから最低限の打ち合わせだけをして、粛々と日々を過ごしていたのです。

    当時は仲のいい友達のシェアハウスに居候しており、友達はアニメが大好きだったので、一緒にいると強制的にアニメを見せられました。僕はそれまで全然アニメを見ていなかったので最初は苦痛だったのですが、次から次へと見せられるうちに、すごく面白いと思うようになったのです。『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006)あたりから見始めて、『School Days』(2007)や『ひぐらしのなく頃に』シリーズを見るにいたり、「アニメって、こんなに振れ幅があるんだ。すごく面白い!アニメの仕事をやりたい!」と思うようになりました。

    でも、レコード会社のプロデューサーとしてアニメの仕事に関わっても、あまり深い関わり方はできませんでした。シナリオを読み、内容に合わせた曲をつくって納品したら、役割は終わってしまいます。川嶋あいさんは、新海 誠監督の映画(『雲のむこう、約束の場所』2004年)や、『ワンピース』の映画(『劇場版ワンピース エピソード オブ アラバスタ 砂漠の王女と海賊たち』2007年)の主題歌を歌っていますが、打ち上げに行っても、僕は「一緒につくった」という気持ちになれませんでした。

    より深くアニメ制作に関わりたいという思いが強くなっていき、秋葉原に出入りしたり、ニコニコ動画で活動するクリエイターたちとつながったりするようになりました。そのながれでMikuMikuDance(以降、MMD)というフリーウェアの3DCGソフトを使っている人たちと仲良くなり、『直球表題ロボットアニメ』(2013)という1話15分、全12話のアニメをプロデュースすることになったのです。

    北田:僕を含め、MMDが気になっているプロは多かったですが、仕事に投入する人はほぼ皆無でした。ニコニコ動画のクリエイターがMMDでつくった映像を、あのタイミングでいち早く電波に乗せたことに、多くの人が衝撃を受けたと思います。

    福原:そうですよね。MMDを使う方の多くは、ほかに本業をもっていたこともあり、納期を守ってもらうことが大変なんだと勉強になりました。その一方で、やりがいを感じると自ら新しい提案をしてくる方も多かったです。僕自身、アニメをつくるのは初めての経験だったので、提案を受けると「おう、わかった!じゃあ使うよ、せっかくだし」といった感じで、受け入れていました。

    北田:あり得ない制作のながれを経験なさっていますね。

    福原:この頃は、自分がつくった人脈にお金を付けて、作品や番組という形で世に送り出していくことが、すごく楽しかったです。それと同時に、すごく大変でもありました。通常、アニメの製作委員会には10人くらいのプロデューサーが関わっていて、アニメ制作、音楽制作、DVD販売、TV放送、海外配信などの役割を分担しているのです。ところが『直球表題ロボットアニメ』では、僕1人でほとんどの役割を担っていました。何もかもが手探りで、納期は毎週やってくるので、週に2〜3日は会社に泊まる暮らしでした。おかげでアニメ製作のしくみを全て理解できたし、クリエイティブな仕事をする人たちの考え方を学ぶこともできたので、いい経験をしたと思っています。

    2013年8月にはアニメ制作会社のヤオヨロズを設立し、アニメや番組の制作にプロデューサーとして関わるようになりました。一方で、音楽の方はマネージメントやプロデュースといった現場から、経営者へとシフトしていきました。たつき監督と出会ったのもその頃です。彼は10年くらい前からニコニコ動画に作品をアップし続けていて、僕は5年くらい前にそれを見つけたのです。まずはTwitterで声をかけ、「コミケに出します」と言われたので会いにいきました。

    たつき監督と最初につくった作品が『てさぐれ!部活もの』シリーズです。本作では、アニメーション監督として参加してもらいました。たつき監督は、3ds Maxをはじめ、色々なCGソフトを使ってきたそうですが、最終的に「CINEMA 4Dがいい」という結論にいたったそうです。だから当社ではCINEMA 4Dを使っています。

    ▲『てさぐれ!部活もの』シリーズは、2013年〜2015年にかけ、3クールが放送された。本作はCINEMA 4Dで制作されている ©てさぐれ製作委員会

    北田:普通は選ばないソフトですよね。CINEMA 4Dを使っているアニメ制作会社は、ほぼないと思います。

    福原:そうなんです。私も一応リサーチしましたが、Mayaか3ds Maxのどちらかを使う会社ばかりで、CINEMA 4Dでアニメーションをつくっている人は1人だけでした。でも、職人の道具は職人に選んでもらった方がいいと思うので、たつき監督のこだわりは大事にしたかったのです。そんなわけで、ヤオヨロズは少人数でアニメをつくるスタイルへと特化していきました。

    まずは、自分の「好きなこと」と「得意なこと」をちゃんと把握する

    福原:皆さんに近い年齢だった頃の自分をふり返り「20歳の自分にしたいアドバイス」としてまとめてきました(下図参照)。まずは、自分の「好きなこと」と「得意なこと」をちゃんと把握した方がいいと思います。人は、好きなことにはお金を払います。例えば、旅行に行くときや、新しい服を買うときには、お金を払いますよね? 逆に、得意なことはお金をもらえます。例えば、絵を描くのが得意、肩もみが得意、片付けが得意など、何でもいいです。それらを他人にしてあげると、お金をもらえます。だから、好きなことと得意なことは、真逆のベクトルをもっているのです。

    ▲「好きなこと」と「得意なこと」のちがいと、見分け方を解説するスライド

    福原:好きなことと得意なことの見分け方もお話しておきます。好きなことは、他人に指示されていないのに、最もお金と時間を使っていることです。僕の場合は、飲み代がそれに相当します。お酒が好きというわけではなく、飲み屋で人と話すことが好きなのです。サバイバルゲームが好き、人にほめられることが好き、注目されることが好きなど、何でもいいですが「最もお金と時間を使っている」というのが1つの判断基準になると思います。

    一方で、得意なことは、自分はそんなに努力していないのに、周りからほめられることです。「手先が器用だね」「字が上手いね」など、自分は張り切ってやっていないのに、みんなにほめてもらえることが得意なことだと思います。

    得意なことからやると、早く評価されてお金をもらえます。ポジションができれば意見が通りやすくなって、好きなことができるというサイクルが生まれます。多くの人に評価され、喜ばれるものを生み出す人になれるでしょう。

    好きなことだけをやると、進みは遅いですがストレスはありません。他人の評価を気にせず、自分の好きなことをやるからこそ、みんながびっくりするような個性的なものが生まれるでしょう。アーティストと呼ばれる人は、このタイプが多いと思います。世の中には売れていないアーティストが数多くいますが、本人が満足しているなら、それでいいのです。「そんな売れないものをつくっても意味がない。アルバイトしろ」と言ったところで、それは他人の価値観の押し付けでしかありません。でも、その人が「自分のアートでもって世界一の金持ちになるんだ」と思った場合には、人の評価が必要になります。

    先ほども言いましたが、たつき監督の場合は、仕事で3DCGをつくる傍ら、10年くらい前からニコニコ動画に作品をアップし続けていました。彼の根底には表現したい画があったので、誰にほめられるわけでもないのに、ずっとつくり続けてきたのです。それが商業とくっつき、『けものフレンズ』というTVアニメとして世の中に出た結果、すごく評価されました。『けものフレンズ』を見た人の多くは、たつき監督の個性的な表現に触れて「変わった雰囲気の個性的なアニメだな」と感じたと思います。

    「好きなことだけをやると、進みは遅い」と言いましたが、たつき監督の進みを早くした要因は、僕やスタッフとの出会いだろうと思います。僕たちとたつき監督が出会い、共に作品をつくったことで、ネットからTVの世界へとステージが上がり、進みが加速したのだと思います。この出会いは運としか言えませんから、常に感謝を忘れてはいけません。もちろん、僕たちと出会っていなかったとしても、たつき監督の努力と才能は、ほかの誰かに見出されていただろうとは思います。

    それから、エンターテインメントの仕事をしていると「好きなことを仕事にすると嫌いになる」という話をよく聞きます。皆さんは聞いたことがありますか? 僕は、これは噓だと思います。人は自分の過ごした人生を否定されたくないので、好きなことを仕事にして失敗した人に質問すると、先のような回答が返ってくるのです。ちゃんと成功した人は「最高だよ」と答えるでしょう。僕自身「好きなことを仕事にしてよかったですか?」と聞かれたら、「めちゃくちゃいいよ!」としか言えません。周りに面白い人たちがたくさんいて、自分がいいと思うものが世の中に評価されるのです。最高に決まっています。だから、自分の夢の相談は、その業界で成功している人にするのがいいと思います。

    ▲「好きなことを仕事にすると嫌いになる」という話の真偽を解説するスライド

    仲間がいることと、仲間に頼ることは全然ちがう

    福原:もう1つ、個人的に重要だなと思っているのが「幸せになるためにないといけないもの」と「幸せになるためにしたらいけないこと」です。幸せになるためには、「お金」「時間」「健康」「仲間」が必要だと思います。全然、制作進行と関係ない話ですが、この4つがなければ何もできません。しかも1つなくなると、必ずほかもなくなっていきます。健康がなくなれば、お金もなくなります。お金がなくなれば時間もなくなります。だから僕は、1つを失いかけていると思ったら、残りの3つを使い、一生懸命に4つのバランスを取り戻すようにしています。

    加えて、幸せになるためには、人と自分を比較してはいけません。そして、人に頼ってはいけません。これは僕の仕事の重要なテーマでもあります。仲間は必要ですが、仲間がいることと、仲間に頼ることは全然ちがいます。仕事のコアの部分は、必ず自分の手でもっていることが大切です。例えば音楽の場合、この数年間でビジネスモデルが激変しています。10年くらい前は「着うた」というサービスが流行っていて、着うたのダウンロード数を増やすことがすごく重要でした。でも、当時着うたに関わっていた人たちが、その後どうなったのか僕は知りません。

    ▲「幸せになるためにないといけないもの」と「幸せになるためにしたらいけないこと」を解説するスライド
    ▲講義中の福原氏

    福原:川嶋あいさんは、当時も今も、音楽の仕事の真ん中にいます。ビジネスモデルが移り変わっても、アーティストは真ん中にい続けるのです。けれども外側にいればいるほど、ビジネスモデルの変更によってポジションから外されてしまいます。アニメの場合は、様々なクリエイターと、アニメ制作会社が真ん中にいると僕は思っています。そういう真ん中の存在の近くに、自分の仕事のコアを確立することが大切です。仲間に完全に依存していると、仲間が病気になったり、裏切ったりしたタイミングで、コアがなくなってしまいます。仲間に頼らなくても大丈夫な、コアになる能力を、1つはもっている必要があるのです。

    相手には見えているゴールが、自分には見えていないということが多々ある

    福原:プロデューサーの仕事についても、お話しておきます。プロデューサーの仕事をシンプルに説明すると「お金を集めて、お金を増やして、返す仕事」です。プロデューサーに必要なことは、経済産業省の「ブロードバンド時代におけるコンテンツ産業の人材育成について」や、「コンテンツプロデューサー育成カリキュラム」で詳しく解説されています。ほかにも、様々な専門書があります。これらを読めば、プロデューサーの仕事に必要な知識は手に入ります。僕の場合、音楽の仕事を始めたときも、アニメの仕事を始めたときも、必要な知識は本を読んで学びました。知識は本を読めばなんとかなると、僕は思っています。

    ▲プロデューサーの仕事を解説するスライド

    じゃあプロデューサーに1番必要なことは何かというと、「情熱」だと思います。知識は教えることができますが、情熱は教えることができません。「こだわり」も同様です。ものづくりをしていると、「あいつはこだわりが強い」といった言葉をよく聞きます。こだわり、情熱を別の言葉に置き換えると「当事者だけに理解できているゴール」となります。

    ▲プロデューサーに1番必要なことを解説するスライド

    例えば、日本人は寿司というものを知っています。でも寿司を知らない外国人は、容易に寿司を理解できないでしょう。「酢が必要だ」と言っても、「バルサミコ酢でいいですか?」というような、ずれた答えが返ってくると思います。「いや、そうじゃない。寿司というのは......」と説明しても、相手の頭の中には明確なゴールがないから、ギャップは容易に埋まりません。「あいつ、すごいこだわるな」と言われても、日本人にとってはこだわりでもなんでもない、当たり前のことですよね。

    それが、こだわり、情熱という言葉の実体だと思います。アニメ制作においても、相手には見えているゴールが、自分には見えていないということが多々あると思います。僕がクリエイターと接するときには、この人は何が成立したら売れると思っているのか、一生懸命に理解しようと努めます。この姿勢が、制作進行やプロデューサーにはすごく必要だと思います。

    一方で新しい企画を通すときには、そのゴールを出資者などに伝える必要があります。「伝わらないから勝手につくる!」という場合もあるかもしれませんが、映像制作には時間とお金がかかります。僕の場合は『けものフレンズ』のヒットによって実績ができたので、かなり意見が通りやすくなりました。でも、誰もがそういう状態にあるわけではないので、それぞれに工夫をしていると思います。

    願いを叶えてくれる流れ星は、人の形をしている

    福原:最後に、少しロマンティックな話をします。夢をもつことは非常に大事です。とはいえ20代の頃の僕は「お金もちになりたい」といった程度の漠然とした思いはあれど、明確な夢をもっていませんでした。でも30歳を過ぎた頃から、自分で学校をつくりたいという夢をもつようになったのです。

    ▲大きな夢をもつことの大切さを解説するスライド

    クリエイターは、作品を通じて自分の名前を世に残すことができます。僕もプロデューサーとして作品に関わっていますが「クリエイターがつくったもの」としか思えないのです。作品から一歩引いた立ち位置にいるというのが僕の体感です。そんな僕の得意なことは、クリエイターを世に送り出すことだと思っています。だから、クリエイターやプロデューサーを育てる学校をつくりたいのです。今日の講義も、僕にとっては夢を実現するための気付きをもらう一環というわけです。

    皆さんも、荒削りでもいいから夢をもった方がいいと、今はすごく思っています。そして、夢はなるべく大きなものの方がいいです。「海賊王に俺はなる!」と言えば、周りの人は「すげえな。スケールの大きい奴だな」と思い、共に夢をみたいと協力してくれます。でも「瀬戸内海で10番目の海賊になる!」では、誰も付いてきません。大きな夢をもつ方が色々な人と出会えます。

    皆さんは若いです。「若い」ということは、実績のある年長者たちに対して、圧倒的に勝っていることなのです。今現在の皆さんと僕の実績を比較して、話をしないでほしいと思っています。「僕は、『けものフレンズ』の10倍すごい作品をつくります!」と言われたら、僕はその可能性を否定できません。「私には無理です」と言ってしまうようでは、瀬戸内海で10番目の海賊にしかなれません。

    ちなみに「流れ星に願いごとを言うと叶う」という伝説を信じている人はどのくらいいますか? 僕はこの伝説を信じています。流れ星が消え去るまでの一瞬で言えるくらい、常に願いごとを考えているという状態になることが大切だと思うのです。僕は学校をつくりたいと思っているから、いつも学校のことを考えて、人にもどんどん話しています。そういう状態でいると、次から次へと情報や出会いが飛び込んできて、アイデアがひらめくようにもなります。

    ▲夢について、常に考え続けることの大切さを解説するスライド

    そしてたいていの場合、流れ星は人の形をしています。チャンスの大半は、人がもってきてくれます。だから出会いを大切にしてください。

    5年前に僕がコミケでたつき監督と出会えたのは、僕が常に「どうやったら、もっといいCGをつくれるだろうか......」と考え続けていたからなのです。だから、たつき監督の作品を見たときに「この人だったら、僕に足りない何かを埋めてくれるかもしれない」と思ったのです。流れ星に願いごとを言えれば、その願いは叶う。そして、流れ星は人の形をしているということを、ぜひ覚えておいてほしいと思います。

    というわけで、まとめです。自分の好きなことと得意なことを理解して、大きな夢や目標をもち、いつ流れ星が来ても対応できるように、いつもそのことを考え、信頼できる仲間に語り、イメージを具体的にすることが大事です。いい話でしたね(笑)。

    ▲講義内容の骨子をまとめたスライド
    ▲本講義は、2017年5月25日、東洋美術学校にて実施された

    北田:本当にいい話でした(笑)。有難うございます。学校で教えていると、毎年新しい出会いがあるし、カリキュラムを見直せます。多くの若い人の成長していく姿が見えるし、その成長を後押しする楽しさも味わえます。人を育てることに終わりはないので、とても面白いと私も感じています。

    TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
    PHOTO_弘田