Mayaゲーム開発カジュアルトーク〜カプコン、バンダイナムコスタジオ、セガのテクニカル担当がオートデスクにも色々聞いちゃいます~CGWORLD JAM ONLINE 2023レポート(2)
10月6日(金)と7日(土)の二日間にわたってCG・映像に特化したスキルアップ&就職フェス「CGWORLD JAM ONLINE 2023」がオンラインにて開催された。
初日の10月6日(金)には、いますぐスキルアップに役立つ技術情報から、これから就職をめざす方のヒントとなる座談会企画など全11セッションを配信。
ここではセッションのひとつ、「Mayaゲーム開発カジュアルトーク 〜カプコン、バンダイナムコスタジオ、セガのテクニカル担当がオートデスクにも色々聞いちゃいます~」のレポートをお届けする。
イベント概要
CGWORLD JAM ONLINE 2023
CG特化型CGスキルアップ&就職フェス
開催日程:2023年10月6日~10月7日
開催時間:<10月6日> 14:00~21:00
<10月7日> 11:00~19:00
会場:完全オンライン
参加費:無料
主催:CGWORLD
cgworld.jp/special/jam/vol5
Mayaを中心に据えたTAの業務
本セッションでは、オートデスクの築島智之氏を司会に、カプコンの塩尻英樹氏、セガの麓 一博氏、バンダイナムコスタジオの沼上広志氏という大手ゲームメーカー所属のテクニカルアーティスト(TA)によるTAの業務内容の解説・Mayaに対する要望などの意見交換が1時間にわたって行われた。
オートデスク築島智之氏(以下、築島):まずはゲーム開発でどうMayaが使われて、どうゲームエンジンに渡っているか、一般的なワークフローを図にしてみたのでご覧ください。
築島:プロの現場では、1本のゲームに関わるスタッフは全体で数十名から数百名となりますので、ファイルとデータの管理が非常に重要になります。そこで、この図の中の「内製アシストツール」や「内製エクスポートツール」をTAの方々が開発することになります。ヒューマンエラーを防止するために用意する各種ツールですね。
カプコン塩尻英樹氏(以下、塩尻):エクスポートツールは欠かせませんね。モデルデータにマテリアルがアサインされていないとか、どのジョイントにも影響していない頂点がないかとか、データそのものにエラーがないかチェックするのはもちろんですが、ゲームタイトル内での仕様に沿っているかどうかをチェックする役割もかなり重要です。
例えばメッシュやジョイントのIDはタイトル固有のものなので、タイトル規定の命名規則に沿っているかどうかをチェックして、必要があればツールで修正します。
築島:効率化とエラー防止のために必須ですね。
ここで、そもそもTAさんがなぜ必要なのかを簡単に説明しておきたいと思います。例えば3Dモデルデータの命名規則は、デザイナー主体でinu A*と決めるとプログラマーとしては扱いにくく、逆にプログラマー主体で決めるとデザイナーには扱いにくくなってしまいます。
築島:お互い作業上の常識が違うので、その齟齬を埋めるためにTAさんが間に入って、それぞれの役割を理解してスムーズなフローになるように仕様を決めていくわけです。最近、プロの現場ではプロジェクトにTAが入ることが一般的になってきています。
築島:ではここからは、各社TAさんにお仕事内容を紹介していただきます。
TAの業務内容:バンダイナムコスタジオ
バンダイナムコスタジオ沼上広志氏(以下、沼上):私たちパイプライン系TAの仕事において重要なことは、「いかに開発効率を上げるか」です。開発効率の向上を可能にするのが、コマンドベースで動いていて、その上にUIが乗っているようなつくりになっているMayaのしくみです。
Mayaの場合、UIでできることはだいたいツール化できるので、私たちはMayaを単なるDCCツールではなくて統合開発環境として見ています。Maya以外のツールは、現場からツール開発を依頼されても「これはできるけど、これはできない」というのをその都度調べなくてはいけません。でもMayaなら、わりとどうとでもなっちゃう。MayaとTAは最強のタッグだなと思っています。
いくつか具体例を紹介します。こちらは社内の複数のプロジェクトで使用しているエクスポートツール「tecExporter」で、FBX出力時にパラメータやファイル名を確実に正しい値に設定してくれます。
沼上:こちらの画面は『BLUE PROTOCOL』で使われたときのものです。大規模開発での効率化を図るためには欠かせないツールになっています。
もうひとつ、こちらは汎用的なMayaの作業用のツールで、スキンウェイトをアシストする「TecSkinWeightEXIM」です。スキンの値をエクスポート・インポートできるツールで、オプションを上手く設定して読み込めば、スキンをほぼ自動で転写できます。
沼上:Mayaにも似たツールはあるんですが、社内のフローやデータのつくり方などが固有なので、標準ツールでは少しやりにくくなるんです。ただ、「ここの部分はどう考えてもみんな使うのでは?」というところはオートデスクさんに「こういう機能、標準で入りません?」とリクエストを出しています。
築島:皆さんからのリクエストに基づいて世界中で使える機能をつくっていけるので、ご意見をいただけるのはありがたいです。
沼上:リクエストを出してもすぐには入らないので、社内でまず開発して、Mayaに標準搭載されたらタイミングを見て標準機能に入れ替えるようにしています。標準機能のほうが安心して使えるという部分もある一方で、社内で開発したほうが自由度が高いので、状況によって使い分けですね。
TA・ツールエンジニアの業務内容:カプコン
塩尻:TAの業務内容はバンダイナムコスタジオさんとほぼ一緒ですので、ここでは少し角度を変えて、ツールエンジニアという仕事を紹介します。
カプコンの場合、TAはタイトルや組織に特化した業務を行うんですが、ツールエンジニアは社内の汎用的なツール開発や保守運営をする職種で、社内で「DCCサポート」と呼ばれるグループをつくって業務を行なっています。
Mayaについては、全社的な共通基盤として「MayaDev」という統合開発環境を保守運用しています。ゲーム開発を効率化する社内ツール群を、開発者が使いやすいようにまとめたものです。
塩尻:その他、ツールを2つ紹介します。
「FBXExporter」は、ゲームエンジン(カプコンが開発する内製ゲームエンジンであるRE ENGINE)にデータをエクスポートする際に使うツールです。開発タイトルごとに設定ファイルでルールを設定して読み込むと、ツール内に設定UIが構築されるしくみです。
「Preset Material Assign」は、MayaでRE ENGINEのマテリアル(シェーダ)を設定できるようにするための、マテリアルアサイン用のツールです。
TA・ツールエンジニアの業務内容:セガ
セガ麓 一博氏(以下、麓):どの会社でもそうだと思いますが、アーティストに対してTAは絶対数が少ないので、TAはツールをつくって終わりではなくて、ツールを使うための環境とか、ツールを便利に使うためのツールを開発するということも多々あります。
例えば以前、CEDEC 2015で講演した「SEGA Batch Framework」というしくみです(CEDEC Digital Libraryより閲覧可能)。TAをしていると、何度も似たようなツールをつくることがあるのですが、それは無駄だということで、機能レベルで切り分けられた小さなツールを組み合わせてカスタムツールをつくり上げることができるツールをつくりました。「SEGA Batch Framework」があることで毎回同じ実装をするのを省けますし、ユーザーはいつも同じ環境で動かせるのでノウハウの共有にもなります。
麓:もうひとつ、「KF_iShelfy」というカスタムシェルフもつくりました。
TAがつくったいろんなツールをシェルフに集めてここから呼び出せるランチャーです。
築島:沼上さん、塩尻さん、麓さん、ありがとうございます。
Mayaの一番の強みはツールをつくる機能が充実しているところです。ゲーム開発ではアーティストは実はデータをつくっていて、それを補うためにTAさんが様々なツールを用意しているわけですが、大ざっぱに見て似たツールも、実際は全て、異なる必要性があります。そういう微妙なツールの違いを支える3Dのフレームワークとして皆さんにMayaを使っていただいているんですね。
オートデスクにいろいろ聞いちゃいます
セッション後半は、3名のTAがユーザーとしてオートデスクに対して率直な質問を投げかけ、それに築島氏が回答するという内容となった。USDに対する取り組みから学生版の申請方法の改善まで、最新のMaya周辺事情に切り込んだ。
質問1:Maya USDはどのくらいの本気度で取り組んでますか?
麓:まずは私からですね。USDは業界内に普及しつつあって、TAの腕次第ではいろいろな可能性を秘めていると思うのですが、Mayaでの対応は今どのような状況かなと。
築島:開発の現場ではどうでしょう、USDを使い始めていますか? まだ調査段階でしょうか?
麓:まだ試す前、試そうかなと考えている段階です。USDについては、先日AOUSD(Alliance for OpenUSD)が発足しましたよね。
築島:AOUSDはPixar、Adobe、Apple、NVIDIAと共同で結成しました。もちろんただ名前を並べただけではなくて(笑)、実際に各社の開発チームの方々と密にミーティングをしながら進めています。
築島:GitHubにもUSD for Mayaのコードが上がっていますし、ここのIssueタブではユーザーの皆さんが機能についての要望や不具合報告などを書き込めるようになっています。オートデスクの開発メンバーはもちろん、Pixarの方が書き込んでいることもあります。
麓:弊社でもUSDは社内各所で検証しています。どうやら実運用しようとしているプロジェクトもあるという噂も聞いています。うちだけでなく、皆さん調査していますよね?
塩尻:検証はしていますね。ただ、モデリングやアニメーションといった各セクションでのUSDの設計や、弊社で必要なカスタムスキーマをどうつくるかというところからちゃんと考えないと、なかなか利点を活かせないよねという話をしています。
築島:USDはこれから数年で頻繁に聞くことになる単語です。Mayaにもすでに入っていますので、どんなものなのか触ってみてほしいと思います。
質問2:Mayaについての社内アンケートで「Mayaが重い!」という声が。
塩尻:では次は私から。実は弊社内で4~5年目のアーティストとTAに、Mayaの学生版(無償版)を知っているかアンケートを取ったんです。こちらがその結果です。
塩尻:下の図は、知っていたのに使わなかったというスタッフ6名に、なぜ使わなかったのかを尋ねたものです。そこで4名が「重いから」と回答しました。
沼上:僕としては、扱うデータの量でも変わってくるので何とも言えないなとは思います。ただ、僕らはMayaを長い間使い続けて慣れてしまっているので、もしかしたらそこの感覚が麻痺してしまっているのかもしれないですね(笑)。
麓:それはあるかもしれないですね(笑)。
築島:アンケートの結果を受けまして、知名度が想定より高くてそこは良かったなと思ったんですが、「重い」という、予想とは違う方向の理由が多かったようで驚きました。そこで、今回は軽くするヒントをいくつか持ってきました。
まずは起動時の重さですが、プラグインの自動ロードがネックになります。デフォルトではいくつかのプラグインが自動ロードに設定されていて、弊社の検証用ノートPCではMayaの起動に24秒かかりました。これらを全てオフにすると、起動時間を11秒に短縮できました。メモリの使用量もかなり減ります。
設定方法は簡単で、[ウインドウ → 設定/プリファレンス → プラグイン マネージャ]で[自動ロード]のチェックを全て外すだけです。
築島:作業のところでもいくつかポイントがあります。Mayaは作業を進めると履歴を蓄積していくので、それが重さに繋がることがあります。タイミングを見て、作業履歴の削除([編集 → 種類ごとに削除 → ヒストリ])を実行すると良いと思います。
それと、シーンデータの中に不要なデータを残すとファイルサイズが大きくなって、ファイルを開いたり、保存したりが重たくなるので、いらないデータは削除することをオススメします。
ファイルサイズが大きいデータはハイパーグラフ([ウインドウ → 一般エディタ → ハイパーグラフ:階層])を表示して、[オプション→ ディスプレイ → シェイプノード]と[非表示ノード]をONにしてみてください。すると、隠れたノード(オブジェクト)が出てくることがあります。これは同じ形状が見えないところに何個も複製されてしまっていたという例で、削除して再保存すればファイルサイズが小さくなります。
塩尻:今の話に関連して、弊社では「なんだこのデータは!?」というデータに遭遇した場合、いったんFBXでエクスポートしてからインポートし直してみるということもたまにやります。これでけっこう解決することも多いですね。ただし、FBXで保持できないアトリビュートなどがあったりすると抜け落ちてしまうので注意が必要です。
それと、データのトラブルで多いのはアニメーションデータ内のリファレンス。そういうのは自動修正も各ツールで用意はしていますが、必要に応じてひとつひとつ、リファレンスパスを見ていって地道に解決したりもしています(苦笑)。
質問3:学生版の申請手順がわかりにくい。
沼上:では私からも話題をひとつ。今、Maya、3ds Max、MotionBuilderなどは学生であれば無料で使えるわけですよね。Mayaについては他にもMaya Indieもあると思うんですが、今そのあたりのラインアップってどうなっているんでしょうか?
築島:Mayaは通常の製品版に加えて、学生が無料で使える学生版、収益などに応じて制限のあるMaya Indieの3種類があります。Indieはレンダリングに少し制限がありますが、どれもMayaのソフト自体は同じものです。ファイルの互換性もあります。
沼上:実は最近入社した若手のスタッフから、「学生のときに学生版を使おうとしたところ、手順がわかりにくくて申請を止めてしまった」と聞いたんですよ。学生と教員の資格確認のハードルが高いようで。オートデスクに登録されていない学校の場合は特別な手続きがあるとのことで、そこがわかりにくかったと話していました。
塩尻:先ほどの弊社内でのアンケートにも同じ意見がありました。
築島:はい、おっしゃる通りです。実は皆さんからフィードバックをいただいて、社内で改めて確認したところ、「確かに大変だ」という話になりました。それを受けて、申請ステップのわかりやすさに注力して、以前よりもわかりやすく改善しました。つまずきがちな資格確認の部分は、AREA JAPANに解説動画とステップバイステップの説明も設置しています。
沼上:そうなのですね。ちなみに学生版は期限が1年ということですが、学生の間は何度も更新できるんですか?
築島:はい。更新していただければ学生の間は利用可能ですので、ぜひAREA JAPANにアクセスしてみてください。
築島:みなさん、本日はありがとうございました。
お問い合わせ
オートデスク株式会社
www.autodesk.co.jp/
CGWORLD関連情報
●カプコン・セガゲームス・バンダイナムコスタジオ 3社TA座談会 >>TAの仕事の「今」と「これから」
本セッションに登壇した塩尻氏、沼上氏、麓氏による座談会。TAの業務内容から新人育成の課題まで、深く切り込んでいる。
前編
cgworld.jp/feature/201811-ta1.html
後編
cgworld.jp/feature/201811-ta2.html
TEXT__kagaya(ハリんち)
EDIT_Mana Okubo(CGWORLD)