AMD×旭プロダクションコラボPC第2弾! レンダリングを伴うすべてのCGプロダクションにお勧めするRyzen Threadripper搭載マシンが誕生
昨年9月、アニメーション制作の老舗・旭プロダクションと半導体メーカーAMD、BTOパソコンの老舗・TSUKUMOの3社が協力し、AMD Ryzen搭載のコラボPCを4モデルをリリース。
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これが業界内で反響を呼んだこともあり、今回はAMDのハイエンドCPU・Ryzen Threadripper 7970Xを搭載したコラボPCがリリースされる運びとなった。Ryzen Threadripper 7970Xは32コア64スレッドというずば抜けたスペックを備えるモンスターCPUだが、実のところ、CG・映像制作の現場ではどのように活かせるのだろうか。そうした制作現場の関心に応えるべく、実務レベルで試用した旭プロダクションの経験を、ここでつまびらかにする。
3DCG制作におけるRyzen Threadripper活用の最適解を求めて
今回、AMD Ryzen Threadripper搭載のコラボモデル「旭プロダクション アニメーション制作特注機 VFX/レンダリング 使用スペックモデル|WX9A-E241WB/AP」のスペックや検証を主導したのは旭プロダクションの本田拓望氏。前回のAMD Ryzen搭載コラボモデルでも中心的な役割を果たした人物だ。主業務は社内のシステムインテグレーターで、情報システムのマネジメントを一手に担っている。
「前回の4モデルは私が把握している範囲でも多数の問い合わせがあり、反響は大きかったですね。実際に導入されたプロダクションさんも複数あり、好評だと聞いています。(本田)」
旭プロダクション
管理本部 人事総務部 システム班
マネージャー
本田拓望氏
3DCG制作における実用性の検証は、同社CG部の中島 豊氏が担当。CG部をまとめ、作品のディレクションから各案件のスターティング、レンダリング状況の管理まで担うスーパーバイザーである。
旭プロダクション
技術本部 CG部
3DCGI スーパーバイザー
チーフディレクター
中島 豊氏
旭プロダクションは、近作としてはTVアニメ『SYNDUALITY』や『ワンルーム、日当たり普通、天使つき。』などがあり、アニメーション制作の老舗として多数の作品を世に送り出している。
今回、Ryzen Threadripper搭載モデル(以下、検証モデル)をリリースするきっかけとなったのは、すでに旭プロダクションに導入していたRyzen Threadripperマシンの存在。
「以前から旭プロダクションでもRyzen Threadripper搭載マシンは導入していて、パフォーマンスのすごさは体感していました。これまでのRyzen Threadripperって”特別な人が使う特別なCPU”という位置づけで使用されている事例がほとんどでしたし、当社でもそのように使用していました。ただ、AMDのカタログやサイトの解説を読んでいると、マルチコア・マルチスレッド性能を活かした"レンダリング性能"についての記述が気になって……。
それで、3DCG用途におけるRyzen Threadripperのフォーカスポイントは、クリエイターの制作パフォーマンスだけなんだろうか、と疑問を感じるようになったんです。そこでAMDさんとTSUKUMOさんに相談したのが始まりです」(本田氏)。
CPUレンダリングテストで 3~8倍という驚愕の結果に
AMDとTSUKUMOの協力を得て、中島氏を中心としてCG部での1ヶ月弱の検証が始まった。「結論から言えば、当社の一番高速なレンダリングマシンと比較して3倍から最大8倍というスピードでレンダリングが終わるという、すごい結果が出てしまいました」と中島氏。
旭プロダクション アニメーション制作特注機 VFX/レンダリング 使用スペックモデル|WX9A-E241WB/AP
旭プロダクションレンダリング検証用モデルスペック
- OS
Windows 11 Pro 64bit版
- CPU
AMD Ryzen Threadripper 7970X
- CPUクーラー
SilverStone製 280mmラジエーター
- 水冷クーラーファン
Noctua製 NF-A14 PWM×2
- M/B
ASUS Pro WS TRX50-SAGE WIFI
- メモリ
128GB (64GBx2枚) DDR5-4800 ECC Registered
※通常構成は256GB
- GPU
NVIDIA® GeForce RTX™ 4070
※通常構成はNVIDIA® GeForce RTX™4090
- SSD
2TB Seagate FireCuda540
- ケース
Corsair 4000D Airflow Black (CC-9011200-WW)
- ケースファンオプション
Noctua製 静音ファン×3 (フロント)
- 電源
Thermaltake PS-TPD-1200FNFAPJ-3
現行マシンで24分かかったジョブが検証モデルでは8分。「CG部のスタッフが検証モデルのジョブ処理を見届けていたのですが、3倍、8倍と高速で処理を終えるたびにどよめきが起こりましたね(笑)。『このマシン、何なんだ!』なんて声も。それからは、検証モデルなのにレンダリングジョブが次々このマシンに飛んでくる始末です(笑)」(中島氏)。
「ただ、注意点があります」と本田氏。旭プロダクションでは大規模案件はMaya、中小規模案件はBlenderと使用ツールを切り分け、後者では高速なGPUレンダラEeveeをメインで使用している。しかし今回、Eeveeによるレンダリングでは検証機の優位性は確認できなかったというのだ。
「あくまでCPUレンダラの処理が高速だということです。BlenderではCPUとGPUのハイブリッドレンダラのCyclesとGPUレンダラのEeveeのふたつが代表的で、従来はEeveeが速かった。ですが、検証モデルではこれが逆転したのです」(本田氏)。
中島氏も検証モデルのレンダリングパフォーマンスに触れ、ワークフローの改善に期待を滲ませる。「デザイナーがひとつのカットを仕上げるためには、方向性や品質確認のために、複数回のレンダリングが欠かせません。ジョブを投げて返ってくるまでの時間が短ければ、当然手数を増やすことができます。それは質と量の両面でメリットが大きいですね」(中島氏)。
本田氏は今回の検証を終えて、検証モデルを単なるハイスペックなクリエイター向けマシンとして扱うべきではないと考える。「もちろん、HoudiniやUnreal Engineなど、CPUベースのシミュレーションを多用する場合には、これまで通りRyzen Threadripperのメリットが活きるでしょう。ただ、クリエイターマシンとしてはオーバースペックになる場面も多いはずです」。
その理由は、前回リリースしたコラボモデルの『3DCG制作 使用スペックモデル』とRyzen Threadripper機で、MayaやBlenderのモデリング・リギングなどのパフォーマンスを比較した際に、有意な差が出なかったためだ。また、Avid Media ComposerやAfter Effectsでのエンコーディングテストでも、効果は感じられなかったという。
「つまり、CPU性能を使いこなせるようにアプリケーションが設計されていなければ、Ryzen Threadripperが活きてこないということです。だから、マルチコア・マルチスレッドへの対応がしっかりしているシミュレーションやレンダリングが最良、ということになります」(本田氏)。
“レンダリング”が必要な全てのCG制作に大きな価値をもたらす
今回、コラボモデルのスペック選定では、CPUのグレードをRyzen Threadripper 7970Xとした。それは現場レベルでのコストパフォーマンスを考慮した結果だ。「アニメーション業界では、7980XやRyzen Threadripper PROはオーバースペック、コストが合わないように思いますし、逆に7960Xではコストパフォーマンスが低い。7970Xがいちばんバランスが良いです」(本田氏)。また、CPUの良さを引き出せるよう、最高峰のマザーボード「ASUS Pro WS TRX50-SAGE WIFI」を採用した点もポイントだと話した。
本コラボモデルのスペックは、本来Houdiniなどでシミュレーションを行うスペシャリスト向けの構成だ。しかし「ここからが重要なのですが」と本田氏、「カスタマイズでメモリを256GBから128GBに、GPUをGeForce RTX 4090から4070にダウングレードして価格を抑えると、先ほどから推奨しているレンダリングに特化したマシンになります」と強調する。
Ryzen Threadripper搭載マシンながら価格をある程度抑え、レンダリング専用機として推す。これにより本田氏は、現在CGプロダクションのマネジメント層が抱える“生産性と業務時間のバランス問題”の改善に繋げたいと考えている。
「たいていのプロダクションでは60〜80万円程度のレンダリング用のマシンをそこそこの台数揃えていて、クリエイターの制作マシンを使って夜間にレンダリングするワークフローも多いです。でもそのやり方ではレンダリングの試行回数が減りますし、電気代もかかる。
実は、計算してみたところ、Ryzen Threadripperマシンと当社従来のレンダリング専用マシンの消費電力はほぼ同じ。レンダリングスピードが3〜8倍ということは、検証モデルを1台で、電気代を含む従来の3〜8台のコストを吸収できるということです。
これはもう、アニメ制作はもちろん、"レンダリング"が必要な全てのCG制作で効果のあることで、全プロダクションのマネジメント層、みんなニッコリですよ(笑)」と本田氏は説明する。
中島氏も、検証モデルを導入することにより、アニメーション制作におけるカットの量産フェーズでの"妥協"を減らせると話す。「TVアニメーションは放送の締め切りがありますから、凝ったカットや複雑なカットで品質と速度のどちらを取るか、判断を迫られることが多いです。その検討材料のひとつに“レンダリングによる試行回数”がありますから、Ryzen Threadripper搭載の本マシンがあれば、これまでは妥協せざるを得なかったカットでも、もっと上を目指せるようになるでしょう」。
旭プロダクションでは今回の検証を機に、CG部のレンダリングマシン全5台を全てこの検証モデルにリプレイスすることにしたという。同業のプロダクションに対して、広くその効果を体感してほしいと考えている。
「前回に続いて旭プロダクションコラボモデルとしてこのモデルができたことにより、アニメ制作現場で満足できるモデルが一
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