CGWORLD主催の学生CGトライアル「WHO'S NEXT?」2022年第1弾で見事に優勝を勝ち取った中江葵氏。CG制作を始めたきっかけや受賞作品『NASCERE』の制作秘話を語ってもらうとともに、マウスコンピューターのデスクトップPC「DAIV Z7-3060Ti」の使い勝手も検証してもらった。
FF14の世界観に感動してCGアーティストを志す
CGWORLD(以下、CGW):まず、これまでの経歴を簡単に教えてください。
中江葵氏(以下、中江):デジタルハリウッド大阪校(以下、デジハリ)に入学する以前は、2年ほど法律関係の企業で事務職として働いていました。また、学生の頃からデジタルツールを使ったイラスト制作を趣味程度に嗜んでいたのですが、当時はそれを「仕事にしよう」という考えはまったくありませんでした。
しかし、ちょうどその頃、友人に勧められた人気ゲーム『ファイナルファンタジーXIV』を遊んでみたら、CGで描かれた圧倒的な世界観の素晴らしさに感激し、「クリエイティブな職種に就きたい!」と強く思うようになったわけです。
さらに、当時は仕事面や将来のことで悩んでいた時期でもあったので、熟考の末に一念発起し、まずは仕事をしながらデジハリに通い始めました。その後、卒業を機に事務職を辞め、デジハリでティーチングアシスタントを務めながらさらなるスキルアップや就職活動を行い、スクウェア・エニックスに入社しました。
中江葵氏
デジタルハリウッド大阪校を卒業し、その後、同校のティーチングアシスタントを務めていた時期に参加した「WHO'S NEXT?」2022年第1弾で優勝。現在はスクウェア・エニックスの背景アーティストとして活躍している。
CGW:現在は背景アーティストという肩書ですが、あえて背景を専門にした理由は?
中江:デジハリではキャラクターづくりやアニメーションから、コンポジット、動画編集まで、基本となる行程はひと通り学びましたが、とりわけ「世界観を構築していく過程が好きだ」と感じました。また、例えばゲームの場合は複数の要素が組み合わさって1つの作品になりますが、プレーヤーの印象に強く残りやすいのは、そのゲームの世界観を大きく形づくる「背景」ではないかと考え、背景制作の道を選びました。
CGW:デジハリ在学中はどのような生活をされていましたか?
中江:働きながらだったので、本当に「寝る間も惜しんで死ぬ気で頑張った」という感じでしたね。実際、仕事はほぼフルタイムだったので、夕方まで仕事をし、その後、デジハリで授業を受けていました。家に帰り着くのが深夜0時前ということも珍しくなく、帰宅後に個人制作などをしていると、寝るのは朝方というのもザラでした。
また、土曜日の午前中からもデジハリの授業がありましたし、休みの日も基本的にはCG作業に充てていました。そのため、デジハリに通っていた1年間は「すべてがCG優先の生活」でしたね。
CGW:相当な苦労と努力を重ねてきたことがうかがえますが、そこまで頑張れた理由は?
中江:なにより、CGに対しては「自分が思い描く世界観を自在に作り出せる」というところに“この上ない楽しさ”を感じていたので、それは本当に大きな原動力でした。さらに、楽しいからこそ「もっと上手くなりたい」と思って勉強に前向きに取り組めたので、「楽しい」という要素はとても大事だと痛感しました。
仮に叶えたい夢があったとしても、そこまでの行程が苦痛だとなかなか続けられないことも多いですから。
工房の職人を実際に訪ねてリアリティある表現を追求
CGW:「WHO'S NEXT?」2022年第1弾 受賞作品『NASCERE』について教えてください。
中江:DCCツールはMayaをメインに、テクスチャの制作などでPhotoshopやSubstance 3D Painterを使いました。制作期間は3ヵ月半になります。
題材にバイオリン工房を選んだ理由は2つあります。1つは自分が「職人に憧れている」から、そしてもう1つは「物量の多い作品を作りたかった」からです。とくに物量に関しては、シンプルで格好いい作品ももちろんありますが、自分はいつまでも見ていたくなるような「見ごたえのある作品」を作りたかった。だから、物量にこだわった感じです。
CGW:作品づくりにあたって、実際にバイオリン工房を訪ねたそうですね。
中江:私はデジハリ在学中から、作品制作では「絶対に手抜きや妥協はしたくない」という思いがありました。さらに、テーマや対象を十分に理解しないままの状態で制作を始めることができず、必要な情報をしっかり理解して100%納得した状態でないと、自信をもって制作に取り掛かれない性分だったりします。
ですから、今回もたくさんのリファレンスを集め、さまざまな情報も調べました。しかし、それだけではどうしても不十分で、これでは「この作品は作れない」と感じてしまったのです。
ただ、だからといって「バイオリン工房」というテーマを諦めるのは絶対に嫌でした。そのため、実際に見学できる工房を探し、職人からもいろいろな話を聞かせてもらいました。おかげで、バイオリンの色が「ニスを塗る回数によって変わる」ことや、日差しがバイオリンに与える影響を考慮して「工房は北向きに造る場合が多い」ことなど、調査だけでは知り得ない情報を収集でき、それらはアセットづくりやライティングなどに活かされました。
さらに、バイオリン工房が醸し出す独自の空気感を体験できたことは、整合性の取れたリアリティを表現するうえで非常に役立ったと感じています。
CGW:NASCERE以外に、これまでどのような作品を作ってきたのですか?
中江:CGを学び始めて3ヵ月ぐらいで初めて作ったのが、蝶の標本を題材にした『Specimen』です。もちろん、標本に関してはまったくの素人だったので、この作品の制作でも標本については事前にいろいろ調べました。
ただ、ここでもそれだけではどうしても細部まで作り込める自信がなかったので、このときはYouTubeで標本の作り方に関する動画を視聴することで、標本に関する理解を深めました。
このように動画を活用した情報収集は個人的にとても有益だったので、それ以降の作品づくりでは、“欠かせない行程”の1つとなりました。その意味で、Specimenは動画活用が習慣化したきっかけの作品といえます。
CGW:そのほかはどうでしょうか。
中江:デジハリの卒業制作で作った動画作品として『CHRONUS』があります。これはギリシャ神話の時の神「クロノス」をテーマに、ある架空の死刑囚の体験を映像化した作品です。映画のようなフォトリアルな映像を目指したほか、神殿内部の天井に複数のオブジェクトを吊るし、その影によって床に魔方陣のような時計が映し出されるといった仕掛けも入れ込んであります。
ちなみに、時計の仕組みについてはまったく知らなかったので、前作と同じように徹底的に調べました。そのため、例えば冒頭で出てくる時計では、回転する歯車の位置やスピードなどにもこだわっており、本物に準じた動きを再現しています。
また、この作品は動画形式ということもあり、Unreal Engineを使って制作しました。フォトリアルな画づくりに適していますし、高速にレンダリングできるため大変役立ちました。
CGW:作品制作のために努力していることや役立てているものなどはありますか?
中江:1つ挙げるとするなら、私は写真共有サービスの「Pinterest」を活用していて、個人的に「いいな」と感じた写真は片っ端から保存し、制作時にいろいろと役立てています。
ただし、ここで気を付けているのは「建物などの建築物だけにこだわらず、装飾やファッション、食器など、分野の異なる写真もチェックする」ということです。なぜなら、例えば衣装のデザインや色味などが、建物を作る際に活用できるケースもあるからです。ですので、常識に捉われることなく、幅広い情報を集めるように心がけています。
DAIV Z7-3060Tiで完成度がさらに向上
CGW:今回、マウスコンピューターのDAIV Z7-3060Tiを検証してもらいました。印象はどうでしたか?
中江:Arnoldのレンダリング時間とSubstance 3D Painterのファイル立ち上げ時間を比較しましたが、どちらも自分のPCより3~4割程度速くなる結果となり、待ち時間によるストレスを軽減できると感じました。とくに私の場合は、ルック確認で頻繁にレンダリングを実行するので、DAIV Z7-3060Tiであれば作業効率を大きく改善でき、作品の完成度をさらに高められるのはとても魅力的。全体的な動作もスムーズで、とても快適でした。
CGW:筐体デザインなどはどうでしょうか。
中江:一般的なデスクトップPCと違って、DAIV Z7-3060Tiは「デザインが本当にオシャレだな」と感じました。とくに、ダイヤル式の電源ボタンはお気に入りポイントです。さらに、筐体上面の取っ手も、女性としては嬉しい配慮だと感じました。重量のあるゲーミングPCなどは、移動する際に下から抱え込んで持ち上げる必要があるだけに、この取っ手のおかげで持ち運びがとても楽でしたね。
中江葵氏が検証した「DAIV Z7-3060Ti」のポイント
DAIV Z7-3060Tiは、インテル第12世代CPU「インテル Core i7-12700F プロセッサー」を採用し、水冷CPUクーラーも標準装備するクリエイター向けのデスクトップPC。GPUは「GeForce RTX 3060 Ti」、メモリは32GB、ストレージはNVMe接続1TB SSD+2TB HDDのデュアル構成を搭載し、無線LANやBluetoothも備えるなど、優れた性能と機能性を両立したモデルになっている。一方、中江氏の現行機は2018年に購入したデスクトップPC。インテル第9世代CPU「インテル Core i9-9900K プロセッサー」やGeForce RTX 2060 SUPER、32GBメモリなどを搭載し、コスパを重視したモデルとなる。
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DAIV Z7-3060Ti [ Windows 11 ]
- 価格
314,800円(税込)
- CPU
インテル Core i7-12700F プロセッサー(12コア【Pコア 8、Eコア 4】 / 20スレッド / Pコア 2.10GHz、Eコア 1.60GHz / TB時最大4.90GHz【Pコア 4.90GHz、Eコア 3.60GHz】 / 25MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 3060 Ti
- メモリ
32GB(16GB×2)
- ストレージ
NVMe接続1TB SSD+2TB HDD
- OS
Windows 11 Home 64bit
- 無線
IEEE 802.11ax/ac/a/b/g/n + Bluetooth 5内蔵
- 電源
700W【80PLUS BRONZE】
中江氏の現行機
- 価格
約24万円
- CPU
インテル Core i9-9900K プロセッサー(8コア / 16スレッド / 3.60GHz / TB時最大5.00GHz / 16MBキャッシュ)
- GPU
GeForce RTX 2060 SUPER 8GB
- メモリ
32GB(16GB×2)
- ストレージ
NVMe接続512GB SSD+2T HDD
- OS
Windows 10 Home 64bit
- 電源
650W【80PLUS BRONZE】
検証1:Arnoldでのレンダリング時間
CPU性能をチェックするため、Maya+Arnoldの組み合わせでCPUレンダリング時間を計測。設定1(サイズ1280×720、Sampling 2/2/2/2/2/2)、設定2(サイズ1280×720、Sampling 4/3/2/2/2/2)、設定3(サイズ1920×1080、Sampling 4/3/2/2/2/2)でNASCEREをレンダリングしたところ、現行機はそれぞれ「1分55秒」「8分14秒」「28分5秒」、DAIV Z7-3060Tiは「1分20秒」「6分」「19分49秒」となり、DAIV Z7-3060Tiが大きく差をつける結果となった。
検証2:Substance 3D Painterでのファイル立ち上げ時間
GPUのパフォーマンスを見るため、NASCERE で使用したチェロのデータをSubstance 3D Painterで開くまでの時間を計測。その結果、現行機は「約7秒」、DAIV Z7-3060Tiは「約4秒」となった。中江氏いわく、データが重くなると開くまでの時間も「ちょっとしたストレスになる」ため、検証1も含めたこのような時間短縮が「満足度につながる」と語った。
問い合わせ
株式会社マウスコンピューター
TEL(法人):03-6636-4323(平日:9~12時/13時~18時、土日祝:9~20時)
TEL(個人):03-6636-4321(9時~20時)
https://www.mouse-jp.co.jp/store/brand/daiv/
TEXT_近藤寿成(スプール)、EDIT_小倉理生