3DCGコンテンツの制作を手がけるプロダクションや教育機関にインタビューを実施し、オートデスク製品の導入理由やその魅力を聞く本企画。「教育機関編」となる今回は日本電子専門学校に話を聞いた。時代の変化が著しい昨今、教育の最前線で3DCGについてどのように考えているのだろうか。
Why not 3DCG? 〜むしろなぜ3DCGじゃないの?〜
以前、CGWORLD.jpで紹介した「海と日本PROJECT」による3DCG教育「海洋研究 3Dスーパーサイエンスプロジェクト」もそうだが、今後3DCGはエンターテインメントの領域のみならず、基礎教養となっていくだろうという見解が広がっている。あらゆるところに3DCG表現が使用され、「3DCGかアナログか」について議論の余地がないほどに日常生活に溶け込んでいる。いや、「溶け込んでいる」という表現は適切ではない。「日常生活に不可欠となっている」と表現した方が正確かもしれない。ゆえに、未来の日本を作り出していく若い世代を教育する立場にある教育機関において、3DCG教育は重要なミッションの1つといえる。
1951年に創立し、70年以上の歴史をもつ日本電子専門学校。約3,000人の学生を抱える同校では、ゲーム、CG、映像、アニメ、デザインなどの「クリエイター教育」と、情報処理、AI、ネットワーク、電気、電子、Webシステムなどの「エンジニア教育」と、大きく2つの領域に分かれて幅広く日本のものづくりを支える工業系の専門学校だ。同校では3DCG教育にも力を注いでおり、ルーツを遡るとプログラミング教育にたどり着くと、同校のクリエイター教育 部長を務める五十嵐淳之氏は話している。
「オートデスク製品が生まれるずっと前の話になりますが、初期の3DCGはプログラミングによるものでした。私が本校で教育に従事しはじめた1998年は、本校コンピュータグラフィックス科にMaya1.0が導入された年でもあります。入社して最初の仕事がMayaのインストール作業だったのを覚えています」(五十嵐氏)。五十嵐氏がそう話すように、以前は特殊技術であった3DCGだが凄まじいスピードで技術革新が行われ、今では小学生でも挑戦できるほどに敷居が下がっている。
五十嵐氏が携わるクリエイター教育の領域では、ゲームをはじめアニメ、VFXなど各業界での活躍を目指す学生に対して3DCG教育を行なっている(※)。もう少し詳しく紹介すると、ゲーム分野では「ゲーム制作研究科」「ゲーム制作科」「ゲーム企画科」の3学科、アニメ分野では「アニメーション研究科」、CG・映像分野では「コンピュータグラフィックス科」「CG映像制作科」「コンピュータグラフィックス研究科」の3学科で3DCGを扱った授業が行われていることになる。
※アニメーション科およびグラフィックデザイン科では3DCGを扱った教育を行なっていない(2022年6月現在)
「本校では1クラスあたり40名程度の学生が在籍しており、ゲーム分野だけでも800名近く、CG・映像分野でも580名ほどの学生が3DCGを学んでいます」と五十嵐氏。同校における3DCG教育の特長は、何といっても豊富なオリジナル教材が取り揃えられている点だ。「専門学校ということもあり入学試験を行なっていないため、入学してくる学生の知識や経験にばらつきがあります。全くの初心者でも授業についてこられるよう配慮しつつ、3DCGを学ぶ過程でつまずきやすいポイントや業界で活躍するにあたり、確実に押さえておきたいポイントなどを網羅した教材を用意しています。0から3DCGを学び始める学生も安心して勉強できる環境を用意しているのが特長です」(五十嵐氏)。
また、CG・映像分野の「コンピュータグラフィックス科」の試みとして、モデリング、セットアップ、アニメーション、テクスチャ作成の要素を同時に学べるカリキュラムへと見直しを行い実施している。本来であれば「モデリング→テクスチャ作成→セットアップ→アニメーション」と王道とも言える順番で3DCGを教えるのが一般的なのだが、学びはじめた初期段階で学んだことは最もインパクトがあるものだ。また、このように学びのフローを見直すことで、モデラーを志望する学生が多くなりがちな現状を打破し、業界ニーズに対するミスマッチやバランスを取ることも見込めると言う。「かつてのカリキュラムでは、ほとんどがモデラー志望となった時期がありました。やはりモデリングは楽しいですからね(笑)。
しかし業界のニーズとして見てみると、アニメーターの人材不足が深刻です。3DCGの基本となるこの4工程をバランス良く同時に学び、1年の終わりにショートムービーを制作する。このように現場のニーズを踏まえた教育を行なっています」(五十嵐氏)。
さて、そんな教育の現場で大きな悩みの種となっているのは「コロナ禍における学びの在り方」という課題だ。五十嵐氏は、3DCGを学ぶ上で学校という場を選んだ以上、「ひとりで勉強しないこと」を重視していると話している。「作品を作ったら友達や先生に見せ、そこで得たフィードバックを活かしてさらに制作を進めていったり、隣の学生の作品を見て刺激を受けたり。学校という場だからこそ得られるそういった学びの醍醐味をぜひ味わってほしいものです」(五十嵐氏)。現在、同校では座学はオンラインでの授業、実習は対面での授業といった具合のハイブリッド方式を基本とした授業を行なっている。1/3程度はオンライン授業のため、毎日放課後に学校に残って楽しく制作するという機会は減ってはいるが、可能な限り「みんなで学ぶ機会」の創出に力を入れているようだ。
専門学校は大学とは異なり、即戦力として企業で活躍できるプロフェッショナルを養成することを使命としている。もしこれから専門学校へ進学しようとしているのであれば、「就職してからのクリエイター人生の方が長い」ということを心得ておいてほしい。「就職させることが専門学校の使命ではありますが、就職できさえすれば良いというものではありません。社会人としてスタートラインに立たせても、そこから先のクリエイターとしての人生の方が長いわけです。学生が自分で考え、自分で学んでプロフェッショナルとして生きていけるだけのマインドを身に付けさせることが我々の責任だと考えています」(五十嵐氏)。
時代が変わればツールも変わり、求められるスキルも変わる。学生時代に身に付けたものはあっという間に古くなってしまう。いかに環境が変わろうとも、自分で学び切り開いていけるだけのサバイバル能力を身につけなければ、プロフェッショナルの現場で活躍し続けるのは困難だ。視野を広くもち情報や技術の更新を常に行うなど、日常生活を通して自ら気づく力を養っておくと良いだろう。
さて、日本電子専門学校でもMaya、3ds Max、Mudbox、MotionBuilder、Arnold、FBX Reviewといったオートデスク製品を使った授業が行われている。「Mayaをメインツールとしている企業が大多数なため、CG、映像、ゲームの領域ではMayaをメインに教えています。ただ、アニメ業界では3ds Maxをメインツールとしている企業が多いため、アニメ学科では3ds Maxを使った授業を行なっています。やはり業界によって使用されるツールが異なるので、フレキシブルに対応していく必要があります」(五十嵐氏)。FBX ReviewやMotionBuilder、Mudboxに関しては主にゲーム制作研究科(3年制)のゼミで必要に応じて学ぶことができるとのこと。他にもZBrushなどCG・映像、ゲーム業界の導入事情に合わせたツールを活用した授業が行われている。
日本電子専門学校をはじめ多くの教育機関でオートデスク製品が導入されている背景について、五十嵐氏は次のように話している。「今もなお制作の現場でオートデスク製品はメインツールとして使用されています。そんな中、あえて教えないという選択肢は考えられません」。加えて五十嵐氏は、学生版ソフトが無償化されたのは非常に画期的な出来事だったと言う。「オートデスク製品の学生版が無償化されたことで、学校だけではなく自宅でもCGに触れるようになりました。学生に3DCGを学ぶ機会を与えてくれたことは非常に嬉しい出来事でした」。かつては必要に応じて特定のPCだけにインストールするという手段を取らざるを得なかったが、今ではどのPCでも気軽にオートデスク製品に触れることができ、新たな表現に挑戦することが可能になった。前述した「プロフェッショナルとして活躍していけるマインドを育てる」という点においても、学生時代になるべく制限を設けず挑戦できる環境が整っていることは重要なポイントである。
冒頭でも触れたように、3DCGは今後さらに求められる技術となっていくことはまちがいない。「コロナ禍により日本でもデジタル化が加速しました。PCでの作業環境がより一層充実し、PCやスマートフォンといったデバイスの技術的な進歩も伴い、人間はよりリッチな3D表現を求めていくでしょう。今はまだ、ゲーム業界やアニメ業界、映像業界に就職するために3DCGを勉強する方がほとんどだと思いますが、もうしばらくするともっと一般的なツールになっていくと考えられます。3DCGツールの経験について当たり前に問われる時代がくるのではないでしょうか」(五十嵐氏)。すでに日常生活のあらゆるところに3DCGの技術が活かされているわけだが、さらに3DCGを活用した製品やサービス、コンテンツは増えていくだろう。それは決してエンターテインメントの領域に限った話ではない。建築業界ではバーチャルショールーム、旅行業界ではバーチャル旅行、その他、製造業や医療、研究開発のあらゆる現場で3DCGの技術者が求められている。
また、非エンタメ領域での表現の幅が広がった事実に加え、エンタメ領域での3DCG表現が突き抜けてきたという事実もあると五十嵐氏は話す。「プロジェクションマッピングのような実際の空間をCGで埋め尽くすといった表現はこれまでも存在しましたが、よりリアルな体感型のCG表現が増えてきましたよね。通信環境や端末の性能が上がるとさらに突き抜けた表現ができるようになるはずです。それこそXRやメタバースのような仮想空間でのCG表現もますます豊かになってくるでしょう。すでにモニターの中だけでCG表現をするのではなく、現実に存在するかのような3DCG表現が求められているわけです。そういった ”突き抜けた3DCG表現” ができる学生を育てていくことは、我々にとって1つの挑戦でもありますね」。
3DCGに限らずあらゆる分野で様々な知識と技術が掛け合わされ、それらが融合することで新たなサービスが生み出されている。コロナ禍によってリアルな触れ合いが減り、よりリアルなバーチャル体験が求められるようになった。それらバーチャル空間を作り出しているのが3DCGであり、それを生み出すメインツールがオートデスク製品であることを考えると、本シリーズのメインテーマ「Why 3DCG?」の問いの答えは「Why not 3DCG?(むしろなぜ3DCGじゃないの?)」ということでいかがだろう。
日本電子専門学校
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TEXT&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)