2022年7月8日(金)、「CGWORLD デザインビズカンファレンス 2022 夏」が開催された。本イベントは、建築、製造、アパレルなど、各業界の最新のデザインビズが学べるカンファレンスイベントで、多数の企業や技術者たちが登壇。今回はその中で、株式会社高松伸建築設計事務所による「ORIGIN [建築×CGが創る大きな可能性]」の講演内容をお届けする。
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イベント概要
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CGWORLDデザインビズカンファレンス2022夏
開催日:2022年7月8日(金)
時間:13:00~18:30
場所:オンライン配信
参加費:無料 ※事前登録制
cgworld.jp/special/cgwviz2022/summer/
建築の最も美しい瞬間を切り取る
今回登壇した溝手颯太氏は、大阪芸術大学芸術学部建築学科を2020年に卒業後、同年4月に高松伸建築設計事務所に入社。現在、設計部の一員として国内、海外において多くのプロジェクトにおけるCG制作を担当している。
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溝手颯太氏
株式会社 高松伸建築設計事務所
高松伸建築設計事務所 設計部
1997年生まれ。2020年3月に大阪芸術大学 建築学科を卒業後、同年4月に高松伸建築設計事務所に入社。設計部として国内、海外において多くのプロジェクトのCG制作を行なっている。
takamatsu.co.jp
同事務所は全てのプロジェクトにおいてインハウスでの3DCG制作を行なっている。3DCGやビジュアライゼーションを専門に扱う部署や所員は存在しておらず、設計部の全メンバーが作業の全てを担う。
次に、設計部が制作したCG映像が流された。数分間の映像によって、様々なロケーションを背景にした多数の建築が紹介されている。
高松伸建築設計事務所では、現在は建築創作過程において3DCG制作を必須としているが、それ以前は過激な意匠の建築を手描きのドローイングで表現していた。
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次に紹介したのは、高松伸建築設計事務所が3DCGを採り入れた2000年代初頭の作品だ。建築の表現におけるCG制作の変化について溝手氏は語る。
「従来の建築パースは、一般的に青空を背景にした建築の3DCG表現が好まれるのですが、弊社では建築が一番魅力的に見える美しい瞬間を切り取って見せています。これがクライアントにプレゼンする際に最も効果的な戦略だと考えているので、まずは10カットほど用意して、そこからアングルの検討をしていきます」(溝手氏)。
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建築を3DCGで表現するという手法をいち早く採り入れた高松伸建築設計事務所だが、建築形態が変わることによって3DCGに求められる表現も常に変化したと溝手氏は語る。
「モノ」と「コト」高松伸建築設計事務所の思想
次に、溝手氏が手がけた3DCG作品について紹介された。
1作目は事務所に入所してから2カ月程度で手がけた作品で、建築物の手前にある植栽やクルマ、自転車などはPhotoshopで合成している。使用したソフトはこのときから現在まで変わらず、3ds Max、V-Ray Next、Photoshopだ。
ロシアのコンペで1位を獲得した作品の3DCGでは、人々が建物の中で自由に空間を楽しんでいる様子が描かれているが、人によって衣服の季節感がバラバラであったのが反省点だという。
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次の3DCGは、溝手氏が最も気に入っていると語るもので、コンペ最優秀作品を再プレゼンする際に作成した3DCGだ。
「これまでの3DCGでは、その建築が誕生することによってどのような体験が可能かということを表現できていませんでした。この3DCGでは、水盤が冬場に凍結することによって冬のアクティビティが可能になるということを表現しました。
近年、『モノ』ではなく『コト』が重要視されていますが、建築の変化に伴い3DCGで必要な表現も変化してきています。そもそも建築というものは心地いい空間、不気味な雰囲気、楽しい場所など、人間の感情を揺さぶる存在だと確信しています。
私が建築の創造を志した起点はイタリアサンピエトロ大聖堂での圧倒的な空間体験でした。美しい『モノ』が人それぞれの『コト』を創ると私は信じています。すなわち私の仕事は、そのような『モノ』すなわち建築がこの世界に降り立つ奇跡を描くことであると考えています。『建築』と『コト』の関係性を表現することが私のミッションだと考えています」。
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3DCGだからこそ可能となる、大規模建築
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セッションの後半では、高松伸建築設計事務所のワークフローが紹介された。同事務所では、全てのプロジェクトが高松伸氏のスケッチ(図面)から始まる。
高松氏が創造する細かなディテールはもちろん、スケッチ時点で描かれる素材感も解釈しながら3D化を図るという。
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モデリングはプレゼンの回数やシチュエーションにもよるが、場合によっては細かく作り込む場合もある。ほとんどのモデリングはAutoCADで行い、場合によっては他のモデリングソフトを使用するという。
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同事務所では、CADのモデリングを3ds Maxに読み込む際リンクによって読み込むが、これは後の修正が多いこと、常にスピードを重視するため作業期間が長くても2週間程度しかないことに起因している。
また、作業にはForest Packという、木や人、建物を配置できるプラグインを多用している。オブジェクトのスケールや方向をランダムにしたいときは、Forest Packが便利だという。
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さらに、3ds Maxを使用する理由の1つに「psd manager」というプラグインが関係している。
モデリングの段階でレイヤー分けを行い、3ds Max上で設定をする。設定後レンダリングを行うと、画面に映るオブジェクトを自動的にレイヤーごとにpsdデータとして書き出すという優れモノだ。
この機能により、レタッチ時の作業効率が飛躍的に向上しているという。
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最後に溝手氏は、3DCGによって建築の可能性が広がったと感じた事例として、約130回のプレゼンテーションを重ねながら、現在現場が稼働している建築を紹介した。
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「このプロジェクトは、全長が700mを超え、観音像だけで高さが70mほどあります。1週間単位でのプレゼンテーションを重ねながら設計を進め、現在現場工事が佳境に入っています。
『建築×CGが創る大きな可能性』と題してセッションを始めさせていただきましたが、設計事務所としてCGを扱いながら建築の提案を日々行なっています。建築界では現実的な建設のためのシミュレーションとしてCGが扱われることが多いわけですが、弊社では常に新しい建築概念の創造と効果的なプレゼン及びそれが可能にする大規模建築の創造、そしてその建築が創造する状況を見据えつつCGを制作しています。
CGというものを用いることによって、建築の大小に関わりなく、いかなる機能や形であろうと、建築の奇跡を紡ぐ可能性があると確信しています」。
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そして、「有限な世界を創る仕事をしているわけですが、メタバースや映画など他の業界へ参画することによって、建築創作の無限の可能性を追求していきたいと考えており、常にチャレンジしていきたいと思いますのでこれからの高松伸建築設計事務所にご期待ください」と述べ、セッションを締めくくった。
TEXT_江連良介 / Ryosuke Edure
EDIT_小村仁美(CGWORLD)/ Hitomi Komura、山田桃子 / Momoko Yamada