人気タイトル『ベヨネッタ』シリーズの新作、『ベヨネッタ オリジンズ: セレッサと迷子の悪魔』が3月17日(金)にリリースされた。シリーズ作とは一線を画す絵本をモチーフとした温かみのあるビジュアルの開発について、プラチナゲームズに聞いた。
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スピンオフ作品ならではの独特なルックをつくる
本作の開発はこれまで同様プラチナゲームズが手がけており、内容は同シリーズの前日譚。最強の魔女ベヨネッタと呼ばれる以前の、見習い魔女時代のセレッサの冒険を描いている。
開発の経緯についてプロデューサーの田中孝治氏は、「企画段階では、ベヨネッタの何か特別なストーリーを描く少しコンパクトな作品はどうかと考えていたんです。任天堂さんからも“ベヨネッタの過去を描く”という提案があり、それを基に開発を進めていきました。いざ進めてみると、1つのタイトルとして十分ボリュームもある魅力的なものにまとめられると考え、途中から開発体制を切り替えたんです」と話す。
本作のルックは手描きの風合いのある絵本のような質感で、『ベヨネッタ』シリーズの過去作とはまったく異なる。このルックのアイデアは、アートディレクターの西井智子氏によるものだ。
「ゲームのプロットやシステムの説明を受けたときに、絵本のような世界観で構築したら面白い絵面になるんじゃないかと思い、このようなルックを提案しました。個人的に、『ベヨネッタ』のスピンオフ的な作品であれば、このようなルックを見てみたいと思ったんですね」(西井氏)。
また、ディレクターのティナリ・アビビ氏は「これまでのシリーズの3作はリアルなルックの中で映画のような壮大なアクションを見せるゲームです。本作はそれらとは立ち位置がちがいますから、本作ならではのアピールポイントが必要だと思っていました。
それと、本作ではプレイヤーがカメラ操作を行えないようにすることを早い段階から決めていたので、西井さんのルックのアイデアは好都合でした」と話す。自社開発のゲームエンジンに独自の機能や仕様変更を加えて開発した本作の裏側を見ていこう。
Point 01:わかりやすさを重視した見習い魔女セレッサのデザイン
心がけたのは、大人向けの絵本に登場するおしゃれでキャッチーなデザインのキャラクター。テクスチャやシェーダを駆使して手描き感の表現にこだわった。
セレッサのモデル制作のながれ
セレッサのキャラクターデザイン。デザイン全般は西井氏から『ベヨネッタ』シリーズ生みの親であり本作のスーパーバイジングディレクター・神谷英樹氏にイメージを提案し、アドバイスを返してもらうかたちで進めたという。
「絵本のような世界観といっても幼児向けのものではなく、大人向けのおしゃれな印象を目指してクラシカルなイメージや装飾写本なども参考にしました。 キャラクターデザインとしては、絵心がなくても似顔絵が描けるような、誰が落書きしてもわかるようなキャッチーなデザインを心がけました」(西井氏)。
キャラクター用の各種テクスチャ
イメージ画の忠実な再現に注力して、手描き感にこだわったキャラクターモデルの各種テクスチャ。影ひとつとっても、機械的なグラデーションで処理せずにペンのタッチを活かして描いているほか、肌の部分は綺麗になりすぎないように意識したという。用意したのはアルベドマップとマスクテクスチャの2種類。
手描きルックを表現する各種シェーダ
セレッサに使用している各種シェーダ。セレッサのルックには基本的に落ち影表現はなく、影の中に入るとキャラクター全体が暗くなる。キャラクターの輪郭に表示されるアウトラインは、従来のメッシュを使ったライン出しとポストプロセスの2種類を、場所によって使い分けている。
Point 02:鮮やかなモーションと味わい深いカットシーン演出
本作のモーションとカットシーンの演出は、『ベヨネッタ』シリーズのコンセプトを背景にしつつも、スピンオフ作品としての確固たる世界観を感じさせるものだ。
モーションキャプチャを活用した滑らかなアクション
セレッサの滑らかなアクションには、モーションキャプチャを活用している。制作にはMotionBuilderを用いており、HumanIKでリグをセットアップしたキャラクターアセットを使用し、モーションキャプチャデータを編集している。髪の毛などパーツ単位でベースのスケルトンとHumanIKが交互に切り替え利用できるようにしてある。
「そうすることで、ゲームモーションやキャプチャデータの使い回しがしやすくなるんです」とリードシネマティックアーティストの田中裕史氏。セレッサが魔法を使うときのモーションには、プロのバレエダンサーの踊りをキャプチャして利用しているが、幼少期ということもあってスタイリッシュになりすぎないように意識したそうだ。
2Dでの見え方にこだわった手付けのフェイシャル
絵本をベースとした作品のコンセプトに合わせて、フェイシャルも2Dでの見え方を意識して制作。西井氏がリファレンスとなるフェイシャルの設定画を用意してアニメーターが喜怒哀楽の表情を制作、それを西井氏がチェックして、OKテイクをフェイシャルの基準にするというながれで進めた。
フェイシャルのリグは通常のリグを少しカスタマイズする程度の改良に留め、ブレンドシェイプは使わず、ジョイントモーションだけで対応した。
揺れものはシミュレーションがベース
ゲーム内での髪の毛などの揺れもののモーションは基本的にシミュレーションで制作。ページをめくると画が順番に出てくる「絵本イベント」というカットシーンでは、手付けでポーズや揺れものを動かしている。
その他のイベントでは、プログラムで内部シミュレーションをかけて、綺麗な形になるフレームを抜き出して利用している。
カットシーン制作のながれ
カットシーンはMotionBuilderでカメラワークとモーションを作成し、Mayaでフェイシャルを調整。After Effectsで絵本のページをめくるタイミングを確認し、最終的にPremiere Proで音声タイミングを確認している。
カメラの動きはあえて抑え、画面の滲み表現をカメラワークや視線誘導の代替として利用。画面のレイアウトやテキストの配置も絵本を意識したものになっている。
絵本の滲みでカメラワークやキャラの動きを表現
絵本イベント特有の効果である滲みの表現は、画面に面白みをもたせるために採用したもの。カットシーンにおける滲み表現は基本的にVFXではなく、シネマティックセクションで組まれたシステムで設定と調整を行なっている。
絵本イベントにはキャラクターやカメラの動きが少ないため、滲みが開くタイミングや速度、順番で間をもたせ、プレイヤーが飽きないよう工夫している。
Point 03:絵本世界に溶け込む洗練されたUIデザイン
余白を大切にしたレイアウト、スタイリッシュな装飾、可愛らしいUI アニメーション。細部まで行き届いたUIデザインが本作のコンセプトをより強固に打ち出す。
あらゆる画面に絵本のエッセンスを散りばめたUIデザイン
「全ての画面で絵本を感じられるUIを意識してデザイン」したという本作のUI。リードUIアーティスト近藤知之氏は「海外のおしゃれな絵本をイメージして、絵とテキストが画面の主役になるようにデザインしています。余白の使い方にも気を付けながら、絵本らしい表現を目指しました」と話す。
イラストがない画面でもキャラクターをシルエットで入れるなど、あらゆる画面で本作のストーリーを感じられるよう配慮されているほか、メニュー内の階層構造をレイアウトに活かすことで、画面同士のつながりやながれがわかりやすいデザインになっている。
「ゲーム内のUIも絵本の一部だと思ってもらえるように、変にリアルにならないようデザインしていきました」(近藤氏)。
UIセクションが自ら用意した仮イラスト群
本作は開発スケジュールの都合上、UIを仮実装しておき、それをブラッシュアップしながら開発を進めた。仮実装の際には、イラストがないとイメージが掴みにくかったことから、なんとUIセクションが自分たちで仮イラストを描いて対応したという。
「本番のクオリティに近いイラストじゃないとUIのクオリティを判断しにくいということで、がんばって描きました」と近藤氏。
テクスチャアニメーションによる動くUIの表現
ゲーム画面内の吹き出しボタン表示に付いている尻尾のような部分の揺れや、ページめくりのアニメーションなど、動くUIはテクスチャアニメーションで実装した。これらはあえてコマ落ちで表示することで、可愛らしい動きのイラストになるよう演出している。
(2)背景・エフェクト編につづく。
CGWORLD 2023年6月号 vol.298
特集:映画『THE FIRST SLAM DUNK』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年5月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_大河原浩一(ビットプランクス)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada