6月14日(金)公開の『数分間のエールを』は、“ぽぷりか” “おはじき” “まごつき” の3名で構成されるHurray!(フレイ)と、100studio(ワンダブルオースタジオ)が共同制作した68分のオリジナル劇場アニメーションだ。Blenderをメインツールにしたことでも注目を集めている本作の舞台裏を、全3回に分けてお届けする。

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    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.312(2024年8月号)掲載の「映像制作チーム Hurray! が送る初の劇場アニメーション『数分間のエールを』」を再編集したものです。

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    『数分間のエールを』

    公開:6月14日(金)
    監督:ぽぷりか
    副監督:おはじき
    アートディレクター:まごつき
    脚本:花田十輝
    アニメーション制作:Hurray!×100studio
    配給:バンダイナムコフィルムワークス
    yell-movie2024.com
    ©「数分間のエールを」製作委員会

    Hurray!の画づくりの再現は、至難の業だった

    100studio代表の堀口広太郎氏が「MVをつくりませんか?」とHurray!に打診したことが発端となり、本作は生まれた。「そのMV企画は条件が折り合わずながれたのですが、後日、2分×9話の短編アニメーションの企画を提案してくださいました。それが二転三転して "60分の劇場アニメーションにしましょう!" という話になったのです。3分前後のMVや短編の制作経験しかなかった僕らは尻込みしたのですが、こんなチャンスは二度と来ないと思い、"やらせてください" とお答えしました」とぽぷりか氏(監督)はふり返った。

    ぽぷりか氏

    監督/Hurray!

    同氏は本作の原案からBlenderやAfter Effects(以下、AE)を用いた実制作まで幅広く担当しており、おはじき氏(副監督)、まごつき氏(キャラクターデザイン・アートディレクター)の両名も、ワークフローの各工程で重要な役割を果たした。例えば本作の背景は、まごつき氏のコンセプトアートを基に両名が3Dレイアウト用のラフモデルをつくり、その後のクオリティアップはHurray!の3名で分担している。

    おはじき氏

    副監督/Hurray!

    まごつき氏

    キャラクターデザイン・アートディレクター/Hurray!

    一方で、キャラクターとプロップのモデリング、リギング、モーションキャプチャ後のアニメーションデータのブラッシュアップ、一部のモーショングラフィックスなどは、100studioの約15名のスタッフと、その協力会社が担当した。「第4、第5のHurray!になれるスタッフをアサインできれば良かったのですが、そのレベルのBlenderの使い手を探すのは難しく、画づくりは完全にHurray!の皆さんにお任せすることになりました」と100studioの森 弘光氏(アニメーションプロデューサー)は語った。本作の制作ではHurray!の3名の慣れたやり方を貫いており、その画づくりの再現は至難の業だった。

    森 弘光氏

    アニメーションプロデューサー/100studio

    「100studioさんは僕らに引きずり回されながらもついて来てくださったので有り難かったです。そんな中で、田中祐輔さん(モデリング・リギング スーパーバイザー)は特にBlenderに精通していたため、技術まわりの問題解決の多くを引き受けてくださって頼りになりました」(ぽぷりか氏)。

    田中祐輔氏

    モデリング・リギング スーパーバイザー/100studio

    既存のアニメの後追いをしても、その劣化版にしかならない

    本作の内容は、ストーリーから、ルック、キャラクターにいたるまでHurray!に一任された。「脚本は花田十輝さんに依頼しましたが、その原案は僕が考えました。今のHurray!がつくるべき、Hurray!らしいものにしたくて、本作には僕が思ってきたことを詰め込んであります。端的に表すなら、"クリエイターに対して賛辞を送りたい" という言葉に集約されると思います」(ぽぷりか氏)。本作では、MVの制作に没頭する男子高校生の朝屋彼方(あさや・かなた)と、音楽の道を諦めた女性教師の織重 夕(おりえ・ゆう)の出会いを軸に、現代のモノづくりの楽しさや苦しみが存分に描かれている。

    ▲『数分間のエールを』本編映像第2弾。朝屋と織重が出会う、物語のきっかけとなる1シーン

    特に目を引くのはまごつき氏のイラストがそのまま動いているような独特のルックで、観る人に瑞々しく新鮮な印象をもたらしてくれる。「既存のセル調アニメの後追いをしても、その劣化版にしかならないことは明白だったので、MVをつくり続けてきた僕らだからこそ可能なルックにしたいと思いました。ただし、"変わったルックにするけど、すごく変わったルックにはしない" という方針も大事にしました」(ぽぷりか氏)。過去に手がけたMVの中には、色数を3色程度に絞ったルックもあったが、そういう画を1時間も観続けると観客が疲れてしまうため、基本的には素直な画づくりを心がけ、少しだけ本作ならではの表現を盛り込むことにした。

    キャラクター原案に関しては、朝屋と織重はぽぷりか氏が考え、それ以外は花田氏が担当している。「キャラクターデザインは全てまごつきに任せており、2021年11月に、まずは織重から着手してもらったのですが、ものすごく難航しました」(ぽぷりか氏)。煮詰まった頭を冷やすために途中で朝屋のデザインを挟んだものの、対照的にあっさり決まったため、再び織重のデザインに頭を悩ませることになった。「当時は脚本制作も進行中で、最終的に織重がどんな結論を出すのかは決まっていなかったので、デザインの着地点も容易には見つかりませんでした。いくつもの案を描き続け、2022年7月にようやく決定稿が完成しました」(まごつき氏)。

    織重 夕のデザインとモデリング

    ▲初期案。儚い、努力に疲れた、などの第一印象を意識した
    ▲3月の案
    ▲4月の案
    ▲決定稿。下マブタ付近の線で疲労と諦念を表現しつつ、メインキャラクターらしい力強さも備えたデザインになっている
    ▲100studioが制作した織重の3Dモデルに対する、まごつき氏のレタッチ。左はレタッチ前、右はレタッチ後
    ▲先のレタッチの10日後に描いた補足資料。斜めから撮った際に奥の目が隠れすぎないよう、鼻のカーブを調整している
    ▲完成した3Dモデル
    『数分間のエールを』No.2:ルックデベロップメントと、「未明」MVの制作
    ©「数分間のエールを」製作委員会

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.312(2024年8月号)

    特集:『パルワールド』
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年7月10日

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue