8月10日(日)から14日(木)まで開催されたSIGGRAPH 2025。その数あるプログラムの中でも外せないのが、Electronic Theater(エレクトロニック・シアター)だ。ここでは、世界中から応募された膨大な作品の中から、審査員に選び抜かれた作品が一挙に上映される。全世界のVFX・アニメーション・ゲームなど、各分野における「過去1年間のハイライト作品」が楽しめる場である。今年度の傾向と、入選作品17作について紹介していこう。
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選定作品の特長は? 国別・ジャンル別に見る2025傾向とトレンド
Electronic Theaterは、アカデミー賞でお馴染み米国映画芸術科学アカデミー (AMPAS) より「アカデミー賞 短編アニメーション部門 ノミネート作品の選考対象となるフィルム・フェスティバルの1つ」として認可されており、1999年以降、このElectronic Theaterで上映された数々の作品が、アカデミー賞の短編アニメーション部門でノミネート、もしくは受賞を果たしている。
では、SIGGRAPH 2025のElectronic Theaterの傾向を、筆者独自の視点から解析してみることにしよう。
主催者によると、今年は世界中から409本の応募があり、その中から上映作品が選定された。ここ数年、上映本数は減少傾向にあり、一昨年は22本、昨年が21本、そして今年は昨年よりも4本も少ない17本であった。その一方で上映時間は昨年より6分長い、1時間33分。今年の入選作品には尺が長い短編が多く、それを調整するために作品数をあえて減らしたのかもしれない。
さて、今年の入選作品を国別に見てみよう。
国別入選作品
- 国名
作品数 ※()内は昨年
- アメリカ
7(11)
- フランス
3(6)
- カナダ
2(0)
- イギリス
1(1)
- ハンガリー
1(0)
- スペイン
1(0)
- ニュージーランド
1(0)
- デンマーク
1(0)
- 日本
0(1)
※2つ以上の国でクレジットされている作品は、最初に記述されている国でカウントしている
今年はアメリカからの入選が7作品と、昨年同様に第1位である。次いでフランスからは3作品が入選している。上位2国の入選本数は昨年より少なく、その代わりヨーロッパ諸国の入選が増えていることが見てとれる。
また、カナダのバンクーバーでの開催ということも影響しているのか、昨年0本だったカナダからの入選が2本に増えている点も印象深い。日本からの入選がなく残念だったので、来年のLAに期待しよう。
さて、入選作品をジャンル別に比較してみると、今年の傾向が見てとれる。
ジャンル別入選作品
- ジャンル
作品数 ※()内は昨年
- 短篇アニメーション
6(4)
- 短篇アニメーション(学生作品)
5(10)
- コマーシャル/キャンペーン
3(1)
- サイエンティフィック・ビジュアライゼーション
1(3)
- ゲームシネマティック
1(0)
- ゲーム映像から派生したドラマ
1(0)
- ハリウッド映画VFX
0(1)
- 長編アニメーション
0(1)
- 短編アニメーション(リアルタイム)
0(1)
Electronic Theaterは、冒頭でも紹介した「アカデミー賞 短編アニメーション部門 ノミネート作品の選考対象となるフィルム・フェスティバルの1つ」という性格上、短編アニメーション作品が多い。今年は、昨年の15本より4本少ない11本の短編が上映された。学生作品はSIGGRAPH常連校の作品が目立つが、過去数年の例と比較すると、今年は学生作品の入選本数が少ない。
コミカルな作品に交じって前衛的な作品が目立ったのも特色で、さらに前述のように尺の長い短編作品が多かった点も印象的だった。
ハリウッド映画のVFXリールからの入選は、今年は0。過去数年、ハリウッドのVFX業界がストライキの影響により動きが鈍いのは承知の上だが、それでも昨年から今年にかけてVFXヘビーな大作が何本も公開されており、入選0というのは、どうしたことなのだろう。そもそも、大手VFXベンダーから映画VFX作品がエントリーしていなかったのか、単に選定されなかったのか、まったくもって謎である。
長編アニメーションからの入選は、昨年に続き、今年も0本だ。ぱっと思いつくだけでも、『モアナと伝説の海2』、『野生の島のロズ』、『星つなぎのエリオ』などの話題作品が何本もあるはずだが……こちらも理由はわからない。
昨年はTVコマーシャル/キャンペーン映像が1本しか入選しておらず残念だったが、今年は3本に増えている。ゲームエンジンによるリアルタイムの短編作品は0本。しかしながらゲームシネマティックと、ゲームから派生したドラマ作品は各1本が入選していた。
サイエンティフィック・ビジュアライゼーションは、昨年より2本少ない、1本のみ。以上を鑑みると、今年のElectronic Theaterは、ラインナップに関しては少々アンバランスで、個人的にはやや物足りない印象であった。しかしながら見応えのある短編作品も多く、全体としては、それなりに満足感を得ることができる内容だった。
特別賞受賞作品
Electronic Theaterには特別賞が設けられている。最優秀作品に贈られる「Best in Show Award」、審査委員特別賞の「Jury's Choice Award」、優れた学生作品に贈られる「Best Student Project Award」、そして観客のオンライン投票によって選出される「Audience Choice Award」だ。受賞作品は以下の通り。
最優秀作品:Best in Show Award
『Trash』
審査委員特別賞:Jury's Choice Award
『Jour de vent』
最優秀学生作品賞:Best Student Project Award
『The Mooning』
観客賞:Audience Choice Award
『Wednesdays with Gramps』
17本を一挙紹介! SIGGRAPH 2025上映作品
では、今年のElectronic Theaterの上映作品を、筆者のひとことコメントを添え、一挙に紹介していこう。
本稿では、上映された映像のリンクを可能な限り紹介しているが、映像が公開されていない作品については、類似したクリップのリンク、もしくは関連リンクを掲載している(※リンクは2025年8月のもので、日数が経過すると、リンク切れが発生する場合もある)。
『Forevergreen』Nathan Engelhardt、Jeremy Spears(アメリカ)
孤独な子熊と、子熊を見守る常緑樹のほのぼのストーリー。200名を超えるアーティストとエンジニアが空き時間を使って参加し、完成まで5年もの歳月を費やした。アートとテクノロジーを駆使し、木彫り風の手づくり感ある作風と、ストップモーションのような独特のアニメーション、そしてユーモア溢れるストーリーに仕上げたという。
www.forevergreenfilm.com
『Perpetual Ocean 2: Western Boundary Currents』NASA Scientific Visualization Studio(アメリカ)
今年唯一入選していたサイエンティフィック・ビジュアライゼーション作品で、海洋モデル「海洋の循環と気候の推定(ECCO)」に基づき、世界中の海流に関する科学的なデータを可視化した映像。日本近海を流れる黒潮の紹介も含まれ、ナレーションで「Kuroshio」と日本語で呼ばれていた点が何気に興味深い。
svs.gsfc.nasa.gov/5425
●本編映像はこちら
svs.gsfc.nasa.gov/14745
『Surrounded』BUCK DESIGN(アメリカ)
Airbnb(エアビーアンドビー)のコマーシャル。後半の動物たちの演奏風景がかわいい。
『Corpus and the Wandering』Jo Roy(カナダ)
アーティストであるジョー・ロイ氏自身の身体のみで構成し、振り付け、iPhoneによる撮影、合成、ストップモーションを融合させた作品。緻密に配置された約5万枚にも及ぶビデオレイヤーで構成されているという。
www.nfb.ca/film/corpus-the-wandering
『Armored Core: Asset Management』DIGIC Pictures(ハンガリー)
Amazonプライムビデオのアンソロジーアニメ『シークレット・レベル』(全15話)は、各エピソードで異なる人気ゲームの世界が描かれている。そのエピソードの1つ『アーマード・コア』では、キアヌ・リーヴスがデジタル出演しており、VFXはDIGIC Picturesが担当。
『Diablo IV Vessel of Hatred Official Cinematic Trailer』Blizzard Entertainment(アメリカ)
ハイクオリティなゲーム・シネマティックで定評のあるBlizzard Entertainmentの作品。ちなみに、この作品には同社の五十嵐敦史氏がエフェクトアーティストとして参加しており、今年2月に開催された第23回VESアワードにて最優秀キャラクター賞[ドラマ部門/コマーシャル部門/リアルタイム部門]でクルー4名と共に連名でノミネートを果たしている。
『CNESST - Hanging By A Thread』See Creature Productions(カナダ)
職場でのハラスメントを防ぐため、積極的な解決策を促すことを目的としたキャンペーン・スポット。Rodeo FXとSee Creatureのチームが、多重レイヤーのストップモーション・アニメーションとコンポジットを駆使し、繊細でありながらも力強い効果を生み出している。
『CNESST - Hanging By A Thread』Skydance Animation(スペイン)
『トップガン マーヴェリック』で知られるSkydance傘下のアニメーション・スタジオ、Skydance Animationの作品。アニメーションの制作拠点はスペインにあるため、スペインからのエントリーとなった。
赤い木の実を食べると石に変わってしまう伝書鳩を救うために奮闘する、主人公フリンクを描いたコメディ。エンドクレジットには、Skydance Animationのトップを務める、ジョン・ラセター(元ピクサー)の名前もプロデューサーとしてクレジットされている。
『In Between』ARTFX(フランス)
フランスのARTFXによる学生作品。主人公である少女ノラの両親が別れたことで、地球が2つに分裂してしまった。彼女は両親を訪ねるため、両半球を行き来しなければならない。すると彼女が背負っているバックパックがどんどん重くなっていき、さぁ大変……というお話。
2Dアニメーションとコンポジットの組み合わせにより、2Dアニメーションの雰囲気を保ちつつ、Blenderによって3D風のダイナミックなカメラワークを演出しているという。
『Welcome to the City of Love』Nexus Studios(イギリス)
パリオリンピック中継に併せてつくられ、ロマンチックな愛とアスリートがスポーツに抱く情熱を対比させた、全58ショットで構成された60秒間のスポット作品。制作はNexus Studios。
nexusstudios.com/work/bbc-paris-olympics
『End Of Summer』Victoria University of Wellington(ニュージーランド)
ニュージーランドにあるヴィクトリア大学の学生作品。1990年代の中国南部を舞台とした、実験的な3Dアニメーションによる回想録。幼少期の友情と自身の感情を振りかえりながら、日記を模した画面分割のスタイルによって、時間と視点、そして感情のずれを、効果的に伝えている。
www.instagram.com/p/DL6vKfaR7G5/?
『Supper』Erick Oh(アメリカ)
食事する謎のキャラクターと、その給仕たちの謎の行動を追う、シュールかつ前衛的なアニメーション作品。給仕たちの独特な動きが笑いを誘う。
www.erickoh.com/supper
『Trash』ESMA(フランス)【最優秀作品賞】
SIGGRAPH常連校の1つ、フランスのCGスクールESMAの学生作品で、今年のBest in Showに輝いた作品。
捨てられたピザの切れ端を巡り、壮絶な争奪戦を繰り広げるネズミと鳩を、カメラが追い続ける。手描き風の力強い独特のルックが印象的な作品だが、3分間の尺の中に10人以上ものキャラクターが登場し、Houdiniによって各アセットに平面をスキャタリングさせるカスタム・セットアップを使用している……のだそう。
『Wednesdays with Gramps』DreamWorks Animation(アメリカ)【観客賞】
ドリームワークス・アニメーションが贈る短編で、Audience Choice Awardに輝いた作品。毎週水曜日に、介護施設へおじいちゃんを訪ねる少年。ある日、おじいちゃんと自分に、大きな共通点があることに気がつき、さぁ大変、というお話。全編セリフはなく、家族の繋がりやコミュニケーション、そして共通点について描いた、ほのぼのした物語。
www.imdb.com/title/tt37520781
『Turbulence』Tumblehead Animation Studio(デンマーク)
Houdiniでお馴染みのSideFXが贈る、短編コメディ。実制作はデンマークのTumblehead Animation Studioによるもので、SideFXのR&Dチームがそれを支援するかたちで実現した作品。
Houdini20のアルファ版で開発が始まったリギングツール APEXを初めて使用し、USDワークフローと連携したパイプラインによってSolarisとKarma XPUでレンダリングが行われた初の使用事例だそう。
●本編及び詳しい日本語解説はこちら
www.sidefx.com/ja/tech-demos/turbulence
『The Mooning』Ringling College of Art and Design(アメリカ) 【最優秀学生作品賞】
SIGGRAPH常連校、アメリカのRingling College of Art and Designの学生作品で、今年のBest Student Project Awardを受賞した短編作品。解説には「1969年の月面着陸の真実を明らかにするモキュメンタリー・アニメーション作品」とあり、人類史上初の月面着陸の際に起こった“衝撃の事実”を描いた、爆笑コメディに仕上がっている。
www.ringling.edu/news/080225-siggraph25award
『Jour de vent』ENSI(フランス)【審査委員特別賞】
フランスのENSI(École des Nouvelles Images)の学生作品で、今年のJury's Choice Awardに輝いた作品。
フランスの公園でくつろぐ、それぞれの人々を描いた、ほのぼのとしたコメディだ。グラフィックノベル風の詩的な作風にするため、2Dのアートディレクションで制作された。伝統的な絵画の雰囲気を大切に守りながら、ビジュアルスタイルを3Dで表現。衣服、植物、そして人々から発せられる動きや音を通して、風を表現したという。
www.miyu.fr/distribution/en/windy-day
以上、今年上映された全17作品を駆け足で紹介した。各作品の詳細情報は、こちらのページから一覧可能なので、興味のある方はチェックしてみると良いだろう。
今回のレポートで、Electronic Theaterの楽しさや雰囲気を、少しでもお伝えできれば幸いである。
TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada