月刊『CGWORLD + digital video』vol.336(2026年8月号)の特集「Mori Calliope MV」より、一部を抜粋してお届けする全3回連載。第1回では、実写のライブハウスと3Dモデルを交錯させたMV「Die For You」を取り上げる。自作のLEDトラッカーを用いた実写撮影、HDRIやフォトグラメトリーを活用した空間把握、Unreal Engine(以下、UE)上でのルック開発など、“そこにMori Calliopeが存在する”映像を成立させた制作手法に迫る。全46ページにわたる本誌特集から、その制作の舞台裏を紹介しよう。
実写空間に宿した、Mori Calliope本人の存在感
MV「Die For You」は、東映ツークン研究所(以下、ツークン)にとって、Calliopeの実写ベースMV表現を大きく前進させた作品となった。前半は実写ドラマ、後半はライブハウスでのパフォーマンスを軸に構成され、ツークンは全体のプロデュースに加え、劇中のCalliope登場シーンと、そこから派生したPerformance Videoの3D制作を担当している。
制作は2025年3月頃から本格化し、5月17日の公開まで実質約2ヶ月という短期間で進められた。ツークンではUEでのルック調整、モーション・フェイシャルキャプチャ、アニメーション調整、実写撮影との連携、ライティング調整などを、各工程の進行に合わせて積み重ねていった。
本作で大きなテーマとなったのが、実写のライブハウス空間へ3DモデルのCalliopeをどう馴染ませるかだ。使用モデルは新規制作ではなく、カバーから提供された既存モデルをベースにしている。ただし元のモデルはUnity環境での運用を前提とし、セル調のルックに設計されていた。そのためUEへ読み込んだ上で、実写背景の中で浮きすぎないように、肌や衣装の質感、ライトの影響具合を細かく調整している。
特に難度が高かったのは顔まわりだ。セル調前提のモデルに、実写空間を前提としたライトを当てると、鼻や口元の陰影が不自然になりやすい。形状そのものは変えず、マテリアルやライトの調整によって、実写空間に馴染む見え方を探っていった。現実感を強めすぎると人形のように見え、弱すぎると2D的な印象が残るため、その中間を探る作業となった。
さらに本作では、実写空間へ馴染ませながらも、Calliopeを"異界の存在"として成立させる必要があった。そこで、強い逆光によってCalliopeのシルエットを際立たせ、赤く発光する瞳を強調することで、怪しさや神々しさを印象づけている。撮影現場のライト配置を参考にしながら、UE上では追加ライトも用い、顔や身体の見え方を細かく調整していった。
Calliopeのパフォーマンスは、当初からMV本編用としてフル尺で収録されていた。収録時には、ボディとフェイシャルに加え、指先やマイクスタンドの動きまで同時にキャプチャしている。指先の使い方や、マイクスタンドを扱う仕草には本人らしさが出るため、後から手付けで再現するのではなく、できる限り本人の動きを活かす方針が採られた。
その後、撮影済みのフル尺素材を活かすかたちで、途中からPerformance Videoの制作も決定した。ツークンでディレクションまで行い、カメラワークはUEとLive Linkを用いて、スマートフォンの動きをUE上のカメラへ反映するバーチャルカメラ的な手法で付けている。Performance Videoは当初ワンカット想定だったこともあり、どの角度から見ても破綻しないアニメーションが求められた。アニメーターは全体をクリーンナップした上で、カメラ確定後にシルエットや指先、マイクスタンドの位置を再調整。フェイシャルも本人の演技を活かしつつ、音源とのズレや口元のニュアンスを整えていった。
こうした工程を経て、「Die For You」はMVとPerformance Videoの双方で、Calliope本人の存在感を3Dモデルへ落とし込む試みとなった。実写空間との馴染ませ方、キャプチャデータの活かし方、UE上でのライティングとカメラワーク。その全てが、後続のMVや3D LIVEへつながる重要な知見となった。
ライブハウスでの実写撮影と、自作のLEDトラッカーによる2Dトラッキング
撮影時には、Calliopeが立つ想定位置へ簡易的なトラッカーを設置。天井と床をテグスで結び、その中央へトラッカーを固定することで、後工程の2Dトラッキングへ利用している。ライブハウス内へ大規模なトラッキング設備はもち込まず、固定カメラや簡易的なドリー移動を前提に撮影を進行。ロケ地交渉や撮影チームとの連携も、野村貴宏氏(プロデューサー)、田副太一氏(制作進行)などのツークン側で担いながら、MV特有の短い制作期間の中で、実写と3Dを接続するための撮影設計を組み立てていった。
THE27CLUBでは、服部純矢氏(テクニカルアーティスト)がHDRI撮影とフォトグラメトリーも実施。ただし目的は、空間全体を高精度に再現することではなく、Calliopeを実写素材に近いライティングで成立させるための補助情報を取得することにあった。ライブハウスは反射物が多く、フォトグラメトリーには不向きな環境だったため、ライト位置や高さ情報、ステージ寸法などを中心に取得。その情報を基にUE上でライト配置を調整し、Performance Videoの制作時には、ロケハン写真や実写素材と組み合わせながら、板ポリベースの背景制作へ活用している。
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.336(2026年8月号)
特集:Mori Calliope MV
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年7月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue