月刊『CGWORLD + digital video』vol.336(2026年8月号)の特集「Mori Calliope MV」より、一部を抜粋してお届けする全3回連載。第2回では、MV「Die For You」における3Dモデルとアニメーションの制作工程を掘り下げる。Unity仕様の既存モデルをUnreal Engine(以下、UE)向けに最適化し、揺れものや相貫の破綻を抑えながら、Mori Calliope本人の身体表現を磨き込んだ東映ツークン研究所の制作陣。独自システムFCSによるフェイシャル調整、実写空間に馴染ませるライティング設計、野田智雄監督が語る“異界のライブ空間”の演出意図も紹介する。
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Unity仕様の既存モデルをUE向けに最適化し、揺れものの破綻対策を施す
既存モデルはライブ用途も想定した構造になっており、ジャケットを脱がせた際の内部形状までつくり込まれていた。本作では、楽曲や画づくりとの相性をふまえ、細身のシルエットになるようジャケットを外した状態で使用している。衣装の質感面では、セル調処理のままではレザー感が弱く見えてしまうため、日髙凪沙氏(CGデザイナー)がハイトマップやマテリアルの調整を実施。実写空間のライティング下でも、レザー素材として自然に見えるよう仕上げていった。
特にスカートは脚との相貫回避が大きな課題となったため、UE上でコントロールリグを構築し、脚の動きに合わせてスカートのボーンを補正している。
さらにシーケンサー上では、フレーム単位で補正用のパラメータを細かく調整することで、自然な揺れ表現と破綻回避の両立を実現させている。
モーションキャプチャをベースに、カメラに合わせて身体表現を磨き込む
キャプチャデータにはCalliope本人の動きが反映されているが、そのままではカメラアングルによっては顔へ指が重なりすぎたり、身体のシルエットが平坦に見えたりする場合があった。そのためカメラ位置や画角を確認しながら、ポーズ、指先の位置、身体のひねり方などを細かく調整している。特にPerformance Videoでは長回しのカメラワークが多用されていたため、腕や指先のシルエットがどのアングルでも潰れないよう、画面上での見え方を重視してブラッシュアップが行われた。
スタンドを傾ける、身体へ引き寄せるといった動きでは接触が起こりやすいため、3D空間内で干渉範囲を確認しながら位置関係を調整している。なお、髪やスカートなどの揺れもの表現にはKawaii Physicsを用いており、そのセットアップは杉浦慶政氏(プログラマー)が担った。
パフォーマンスの収録時にはフェイシャルキャプチャ用のHMC(Head Mounted Camera)との接触を避けるため、マイクスタンドを通常より低い位置に設置していた。そのためアニメーション工程では、Calliopeらしい動きのニュアンスを残しつつ、カメラから自然に見える位置になるようスタンドの高さや軌道を調整している。
FCSによるフェイシャル調整と、実写空間へ馴染ませるライティング設計
ここでは眉のターゲットを表示している。フェイシャル制作はMayaベースで進行しており、FCS側でアクターであるCalliope本人の表情と3Dモデルのブレンドシェイプを対応づけながら調整を行なっている。久田春花氏(CGアニメーター)によってCalliope専用のチューニングも施されており、本人らしい表情のニュアンスを反映しやすい構成になっている。
元モデルはセル調前提で設計されているため、現実のライティングをそのまま適用すると、鼻や口元に不自然な落ち影が出たり、"おばけライト"のような印象になったりしてしまう場合があった。そのため本作では、撮影現場のライト配置をベースにしつつ、追加ライトも併用しながらルックを調整している。
不自然な影の回避は主にマテリアル側で行い、ライティング側では顔へ過度に光を当てすぎず、Calliopeの質感やシルエットが自然に見えるバランスを探っていった。特に顔まわりは、フェイシャルやモーション側の調整量も大きかったため、その演技を損なわずに見せることが重視されている。
[Interview]監督・野田智雄氏:実写と3DCGを交錯させ、"異界のライブ空間"を構築する
Q1:楽曲を最初に聴いた際、どのような映像イメージを思い描きましたか?
ダークで雰囲気のある楽曲だったので、自分の中で映像イメージが次々と浮かんできました。実写主体で見せたいという思いもあり、心臓を奪うような衝撃的なシーンを盛り込みつつ、Calliopeさんと連動する、KAMIYAさん演じる死神を軸にしたホラーストーリーとして構成しています。ある男の事故シーンの前後を交差させながら、螺旋状にループしていく構造で物語を組み立てました。
Q2:実写のKAMIYAさんと、3DモデルのCalliopeを交錯させる演出は、どのように設計したのでしょうか。
死神と標的になった男との関係性を、コンテンポラリーダンスで表現したいというアイデアが最初にありました。その上で、ライブ空間の中では、Calliopeさんに魅了されていく人々を、赤く発光する瞳や奇妙なダンスによって描いています。KAMIYAさんには、Calliopeさんとリンクしながら人々を"感染"させていくような死神役として参加していただきました。世界観そのものを体現できる存在だったと思います。
Q3:Calliopeという存在を、どのように捉えながら演出を組み立てましたか。
3DCGのVirtual Artistだからこそ、単純に現実空間へ馴染ませるのではなく、"異界の存在"として特別に見せることを重視しました。楽曲の不気味さや妖しさを損なわず、実写空間の中でも異質な存在感が立ち上がるよう意識しています。
Q4:実写と3DCGを組み合わせる上で、特に印象に残っている課題を教えてください。
アニメ的な可愛らしさをもつVirtual Artistを、どう実写ベースのMVへ馴染ませるかは大きな課題でした。そこで、逆光のスポットライトによってCalliopeさんのシルエットを強調し、全体のトーンを落としながら、赤く発光する瞳を際立たせています。さらに動きについても、人間離れした海老反りのポーズや、不穏なニュアンスを感じさせるコンテンポラリー寄りのパフォーマンスをKAMIYAさんやダンサー陣へリクエストしました。
Q5:本作をふり返って、特に印象に残っていることを教えてください。
独特な雰囲気をもつ楽曲だったので、何度もくり返し観たくなる映像にしたいと思い、ループ構造を取り入れました。参加してくれた全スタッフが世界観を深く理解した上で、一丸となって制作へ向き合ってくれたので、自分にとっても非常に印象深い作品になっています。
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.336(2026年8月号)
特集:Mori Calliope MV
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年7月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue