月刊『CGWORLD + digital video』vol.336(2026年8月号)の特集「Mori Calliope MV」より、一部を抜粋してお届けする全3回連載。最終回では、Mori CalliopeのMVや3D LIVEを技術面から支える東映ツークン研究所(以下、ツークン)の制作基盤に迫る。モーションキャプチャ環境、内製のフェイシャルキャプチャシステムFCS、モーションアセット販売サービス、LEDウォールを用いたバーチャルプロダクション(以下、VP)環境まで、多様な映像表現を実現する技術と思想を紐解く。より多くの作品メイキングを収録した全46ページの特集も、ぜひ本誌でご覧いただきたい。
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※石原氏、および樋口氏は、東映東京撮影所 バーチャルプロダクション部所属
※CGアニメーター(Facial)・久田春花氏、CGアニメーター(Facial)・北原采音氏、CGデザイナー・大野貞雄氏、プリンシパルリサーチャー・Toby Chong氏、配信スーパーバイザー・安川貴志氏は写真非掲載
収録からリターゲット、アニメーション調整まで一貫して対応する、モーションキャプチャ体制
ツークン内のモーションキャプチャスタジオの常設カメラは48台構成で、VICONのVantageシリーズ24台とTシリーズ24台を組み合わせて運用している。必要に応じてレンタル機材を追加し、最大70台程度まで増設可能。例えば、指の収録精度を高めたい場合や、10人前後のフォーメーション収録を行う場合には、後処理負荷も考慮しながらカメラを増設する。
近年はカメラ台数やスペックを大幅に高める方向性のスタジオも増えているが、ツークンでは単純な機材競争には寄りすぎず、日本の映像業界の予算感や納期感に合わせた運用を重視。収録時には、アクターの動きによってマーカーがカメラから見えなくなる遮蔽が発生するため、後処理やノイズ除去を含めたワークフロー全体で、安定した品質を維持している点が特徴だ。モーションキャプチャ担当者は、収録だけでなく、ノイズ除去、MotionBuilderでのリターゲット、アニメーション調整までひと通り担当する体制を採っており、「モーションキャプチャ屋はアニメーターでもある」という思想の下で制作が進められている。
演じやすさを追求した独自グローブ
ツークンでは、アクターがマイクスタンドや木刀、ボールなどのプロップを自然に扱えるよう、独自設計のモーションキャプチャ用グローブを使用している。一般的なグローブとは異なり、手のひら側の布を取り除いた構造にすることで、物を握りやすくしつつ、指の可動域も確保。片手につき10個、各指へ2個ずつマーカーを配置することで、指関節ごとの動きも取得している。
『THE FIRST SLAM DUNK』などで培ったノウハウも活かされており、「演じやすくなければ良いモーションは出ない」という思想が反映された設計だ。
内製のフェイシャルキャプチャシステム
ツークンでは、内製のフェイシャルキャプチャシステムである FCS(Facial Capture System)を開発・運用している。FCS開発リーダーであるToby Chong氏(プリンシパルリサーチャー)が中心となり、案件ごとのチューニングや技術調整も担当。独自設計のHMC(Head Mounted Camera)もあり、頭部へ装着した小型カメラによってアクターの表情を撮影し、その情報をリアルタイムでCGキャラクターへ反映できるしくみだ。HMCはフルHD/60fps収録に対応しており、ワイヤレス構成のため移動制限が少ない点も特徴。軽量化にも注力しており、「演じやすく疲れにくい」設計を目指して開発されている。
希少な国産システムとして社外にも提供されており、収録から解析、リターゲット、アニメーション出力までを一貫して行える点も特徴だ。
アニメーション制作を効率化する、モーションアセット販売サービス
「名もなきモーション」は、ツークンが展開するモーションアセット販売サービスだ。歩行や会話、スマートフォン操作といった日常芝居のほか、戦闘やダンスなど、群衆表現にも活用しやすい多彩なモーションデータを提供している。モーションはFBX形式で販売されており、MayaやMotionBuilder、UEなど各種DCCツールへ読み込み可能。映像制作やゲーム開発、VTuberライブなど幅広い用途を想定しており、既存のキャラクターモデルへのリターゲットサービスも行なっている。
Calliope関連では、 MV「LET'S JUST CRASH」や、3D LIVE「DISASTERSHOW」で使われた、Dead BeatsとWeird Catのモーションも販売されている。アニメーションをゼロから制作する負荷を軽減しつつ、必要に応じてカスタマイズして使用できる点が特徴だ。ツークンでは、こうしたモーションアセットの整備も進めることで、CG映像制作の効率化を進めている。
[BOOTH] zukun-lab.booth.pm
[オフィシャルサイト] namonaki.motion.toei.co.jp
LEDウォールとリアルタイムCGを統合した、東映東京撮影所のバーチャルプロダクション環境
東映東京撮影所のNo.11スタジオには、LEDウォールを用いたVP設備が整備されている。スタジオ面積は120坪/400㎡、有効高は6m。メインビジョンにはAOTO RM1.5(ピッチ1.56mm)を採用し、全幅30m×高さ5m、270度ラウンド型のLEDウォールを構成している。さらに天井側には、AOTO MXH3.7H(ピッチ3.75mm)による11m×12mの可動式LEDビジョンも設置。天井パネルは4分割で可動でき、演出内容に応じてレイアウト変更にも対応している。LEDプロセッサはBROMPTON Tessera SX40、メディアサーバはdisguise VX4+/gx3、レンダリングサーバはdisguise rxIIを採用。カメラトラッキングにはMo-Sys StarTrackerを使用しており、カメラ位置やレンズ情報と連動しながら、UE上の背景CGもリアルタイムに更新される。VP撮影時には、LEDへ背景CGを表示した状態でライティングや反射、演者との馴染みまで含めて確認しながら演出を調整できる点も特徴だ。
ツークンでは、モーションキャプチャやリアルタイムCG制作で培ったノウハウを活かしつつ、VP撮影時のCG背景制作やUE運用にも対応している。MV「Gold Unbalance feat. 中島健人」では、樋口純一氏(VPプロデューサー)、石原翔太氏(VPスーパーバイザー)も参加。もともと本撮影所のVPはツークン内での取り組みとしてスタートしており、2022年のVP部設立以前は両氏もツークン所属だったため、ツークン側ともスムーズな意思疎通や連携が実現していた。
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INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.336(2026年8月号)
特集:Mori Calliope MV
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年7月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota