2024年7月にリリースされる『ファイナルファンタジーXIV』の最新拡張パッケージ『黄金のレガシー』のティザートレーラーが公開され、新たな冒険へといざなうハイスペックなビジュアル表現が大きな話題を呼んだ。メイキング第2回は、過去に類を見ないほどリッチなつくり方をしたというアニメーションをピックアップ!

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 307(2024年3月号)からの転載となります。記事内容は2023年12月の取材を基に構成しています

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    Information

    「ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー」予約受付中
    発売日:2024年7月2日(火)
    予約特典:インゲームアイテム「ミニオン ジタン」「アクセサリ アーゼマイヤリング」、アーリーアクセス権
    アーリーアクセス開始日:2024年6月28日(金)18:00(予定)
    © SQUARE ENIX
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    過去最大の物量で活気に満ちた世界を創造

    アニメーションではプリビズ・レイアウトでも掲げた「キャラクターらしさの表現」というミッションを徹底した。アニメーションリーダーの松原健太氏は演出意図を理解するため、ディレクターの池上氏と半年以上にわたってほぼ毎日ミーティングを実施。さらに『FFXIV』を再びプレイして作品を見つめ直し、ユーザーと同じ目線に立った上で制作に移った。

    • 松原健太氏/アニメーションリーダー
    • 石塚優一郎氏/フェイシャルアニメーションリーダー

    キャラクターをゲームモデルに似せることもこだわったポイントだ。IMS部のモデルはゲームモデルに比べるとディテールが追加されている分、必要以上にリアルに見えてイメージが乖離してしまうことがある。そこでゲーム側の参考データをムービー側の環境に入れて、その差を突き詰めるといったアプローチも行われた。

    本作のアニメーションチームは与えられた素材だけで仕事をこなすのではなく、より良い表現ができるのであればセットアップやキャラクターにオーダーを出し、上流工程に戻れるようなフローが組まれている。レンダリングはアニメーションの工程で初めて行われるため、そこで判明するトラブルも多い。その気づきをどの工程まで戻すのか、それともアニメーションだけで片付けられるのかを逐一判断していくという重責も担っていた。

    最終的にアニメーターが手がけたモーションアセットの総数は約2,300個。前拡張パッケージ『暁月のフィナーレ』では約380個だったことを考えると、かなり大がかりなプロジェクトだったことがわかる。1ショットで80個以上のアニメーションを出荷した実績もあり、松原氏は「今回は過去に例がないほど豪華なつくり方でした」と太鼓判を押した。

    フェイシャルは基本的にキャプチャした素材に対して、足りない要素や表情を補完していくのが作業の中心となっている。IMS部ではキャプチャ収録当日中に、スタジオ側からトラッキングまで処理したデータが上がってくる体制が整っており、作業の効率化に大きく貢献したそうだ。

    アニメーション

    楽しそうな光の戦士

    本作での光の戦士は、アニメーションでシワの入り方をコントロールすることで、歴戦の冒険者らしい雰囲気が表現された。

    トラル大陸を目の前にして笑みを浮かべる光の戦士。10年の歴史を刻み込んだようなシワもしっかりと表現
    「強大な敵とのバトルを見せつつ、楽しんでいることをどう描くのかにこだわりました」と松原氏が語るように、本作では光の戦士の楽しげな表情が際立つ。なお当初戦闘パートは鍔迫り合いで終わる構成だったが、新ジョブ・ヴァイパーをさらに盛り上げようということで、現在の演出に変更された

    暁メンバーのキャラクター性の表現

    暁の血盟メンバーについては、自然体の様子を収めたオフショット感が意識されている。普段のメンバーはこんな感じなのだろうと思えるような動作や仕草を入れつつ、ユーザーの中にあるイメージを損ねないように注意が払われた。

    • 「随分と楽しそうだな」と光の戦士に語りかけるエレンヴィル
    • マムージャ族と狩りに出かけるエスティニアン
    • 新たな大陸の果物を物珍しそうに見つめるアリゼー
    • 屋台が建ち並ぶ一角で情報収集をするサンクレッド。光の戦士と同様、それぞれがどこか楽しげな印象を受ける

    新ジョブ・ヴァイパーのアクション

    バトルパートはローブをまとって剣1本で戦う前半と、ヴァイパーの特徴である二刀流を披露してからの後半に分かれる。2本目の剣を手にかけるショットでは、視聴者の目が自然に剣に向くようにミリ単位でフレーミングが調整されている。

    ローブが燃え落ちてヴァイパーの衣装が露わに。肩回りのコントローラが細かいことや、爽快感を重視した派手なポージングゆえに、めり込みの回避が課題に
    • 2本の剣を合体させて……
    • 新アクションを披露

    新エリアのコザマル・カ

    狩りの舞台となるコザマル・カは草木が生い茂るジャングルだ。キャラクターの臨場感をしっかりと出すため草木を配置した状態でアニメーションを付けたため、非常に重たい作業となった。マムージャ族は獲物を求めて道なき道を進んでいくが、「まさに私たちも同じような感覚で大変でしたね(笑)」(松原氏)。

    鬱蒼としたジャングルをかきわけるマムージャ族
    実際のアニメーションシーン。大量の草、木、枝などが配置されている

    筋肉表現を意識したアニメーション付け

    密林で出会う巨大モンスターの表現には、既出のZivaによる筋肉シミュレーションを導入。アニメーションを付けた後に筋肉表現がプラスされるので、アニメーターは仕上がりを想像しながら作業する必要があった。体全体に揺する動きを足し、皮膚表面が揺れる様子をイメージ。モンスターの巨大感の表現にも貢献した。

    モンスターの俯瞰ショット。肉付きの良い体がブルンブルンと揺れる
    アニメーター作業用のLODモデルとリグ

    生きた街の構築

    トラル大陸のプレーヤータウンとなる街・トライヨラは、リアルな生活描写を重視。トレーラーでは暁の血盟のメンバーが訪れたときの出来事が映し出され、視聴者も本当に旅行している気分を味わえる街づくりに挑んだ。

    • 巨大モンスターを仕留めたマムージャ族たちがトライヨラに帰還。剣を高らかに掲げる様子が誇らしげだ
    • マムージャ族の子どもに歓迎されるエスティニアン。可愛らしいデザインがスタッフの間で好評だったこともあり、ムービーには子どもたちが様々な場所に登場する
    トライヨラの市場も活気にあふれている

    美味しそうな食の表現

    その土地の魅力を伝えるなら、食をアピールするのが一番ということで、食事は最もこだわった要素のひとつである。

    肉の柔らかさを表現するため、網に接した部分の凹みをひとつひとつ手作業で調整。完全にリアルにするのではなく、弾力などに若干のデフォルメを加えることで、より美味しそうに見せている
    タコスは手の指先制御によって柔らかさを表現した。リガーと相談して関節の曲げ具合をより細かく調整できるよう、シチュエーションに特化した仕込みを用意。指先にコリジョン用のコントローラを付け、生地の表面が押されている様子まで表現している

    専用モーションをもった群衆

    街で必須となる群衆表現。今回はレイアウトが手置きで入れた群衆は、全て専用モーションで動かすことに。それぞれがきちんと目的をもって生活をしているような生命感が宿っている。

    群衆によって活気が感じられる街並み
    リファレンスエディタ。右側に表示されているのはアニメーションの要素を含んだアセット数。「これだけの数が専用モーションで動いているのは過去にないレベルです」(松原氏)。獣人のキャラクターが多いこともあって、モーションキャプチャを流し込むだけでは作業が終わらず、足の関節や尻尾、耳なども手作業で動かす必要があった

    フェイシャルアニメーション

    キャラクターごとの表情作成

    本作では汎用的な表情集は作成せず、レイアウトのデータを参考にしながら各ショットに特化した表情を制作している。短編のムービーはキャラクターの登場回数が限られているため、ゲームのように表情集を作成するコストを省いて各ショットの表情を魅力的にする方が合理的だからだ。

    • レイアウトの表情を配置して……
    • 方向性が合っているか比較
    1ショットであっても、複数パターンを作成して最もそのキャラらしい表情を探る。最終ルックをレタッチで作成し、実際のモデルでどうやって表現するのかという試行錯誤も行われた

    カスタムリグによるショットバイ調整

    ベースのコントローラだけではキャラクター性が担保できない場合は、アニメーターが造形にも手を加え、そのデータをセットアップチームに渡してコントローラ制御できるように依頼する。アニメーターは出荷されたデータをただ使うだけではなく、必要であれば上流工程に戻って完成度を高めていく。

    • エスティニアンの表情作成
    • カスタムリグを用いたショット
    左はベースのコントローラで作成した表情。顔のエラが強く出たせいでガッシリしているように見え、ゲームの印象と差が生まれてしまった。右はアニメーターが手を加えたもの

    モーションキャプチャデータの修正

    モーションキャプチャデータを流し込んだ上で、各ショットのシチュエーションや演出に合わせた調整を行う。左側はMCデータを流し込んだ状態、右側はアニメーターが手を加えたもの。フードを取ってトラル大陸を見つめる光の戦士の表情は、ムービーのラストショットで使用された。太陽の光を浴びて眩しそうにするというリアクションを入れるため、アニメーターが調整した方では目を少し細め、口元もわずかに歪ませている。

    「『ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー』ティザートレーラー 第3回アート篇」につづく。

    CGWORLD 2024年3月号 vol.307

    特集:『ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー』ティザートレーラー
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年2月9日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT _遠藤大礎
    EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada