『劇場版モノノ怪唐傘』（2）ツール開発篇〜物語の舞台となる大奥を浮世絵風に3DCGで再現！

2024年7月26日（金）に公開された、大奥を舞台に物語が展開する『劇場版モノノ怪唐傘』。続いて、2025年3月14日（金）には『劇場版モノノ怪第二章火鼠』が公開された。

さらに、シリーズの最終章となる、『劇場版モノノ怪第三章蛇神』は2026 年春に全国公開が予定されている。いずれの作品も日本画のエッセンスと3DCGを組み合わせた独特のルックが大きな特徴になっている。

今回はその中から、シリーズの第一章となる『劇場版モノノ怪唐傘』の3DCGメイキングを紹介。本作ならではのルックはいかにして制作されたのか、3DCGの側面から全3回にわたり紹介したい。

記事の目次

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 320（2025年4月号）からの転載となります。

Information

『劇場版モノノ怪唐傘』
2024年7月26日（金）公開
監督：中村健治／配給：ツインエンジン、ギグリーボックス／制作：ツインエンジンEOTA
www.mononoke-movie.com
Ⓒツインエンジン

レイアウト作成からレンダリングまで多数のツール開発による効率化

左より、テクニカルディレクター・長嶺明音氏、リードモデラー・宜保みつき氏、CGディレクター・白井賢一氏（以上、Peakys）
www.peakys.jp

本作では監督・演出陣の多くがBlenderを使用して演出を組み立てたという。モデリングはMayaで行い、Blenderに読み込んでレイアウト。その結果をMayaで受け取って原図作成以降に進むというながれだが、Blenderシーンは全て監督・演出陣の手によるものだ。「もちろん従来の手法で演出する方もいましたが、監督もBlenderを使えるメンバーに都度、使い方を教わったりされていました。今回が初の試みでしたが、かなりの手応えを得ることができました」（白井氏）。

本作ではこれにあたり、CGツールの操作に慣れていなくてもBlenderでレイアウト作業ができる「EOTA_Tools」がテクニカルディレクター・長嶺氏によって整備された。

また、本作では背景がほぼ3DCGとなるため、レンダリングが必要なカットは実に約2,500カットにのぼり、レンダリング自体は軽量なものの、Book分けやレンダーレイヤー設定、ラインの設定など手数は多い。そのため、同じく長嶺氏の開発した「原図作成ツール」「レンダーレイヤー作成ツール」によって徹底した効率化が図られ、シンプルなカットはCGアーティスト以外でも作業可能にしているとのことだ。

カット制作のワークフロー図

本作におけるカット制作のワークフロー図。Blenderでレイアウト作業ができる「EOTA_Tools」の開発により、CGソフト初心者、もしくは未経験の監督や演出スタッフたちがBlenderでレイアウト作業をしている点が本作の大きな特徴だ。

ツールを活用し効率化されたワークフロー

▲演出側で作成されたBlenderシーンデータ。レイアウトを作成できる「EOTA_Tools」やカメラエクスポートツールを用いて次工程へFBX形式で出力される
▲「原図作成ツール」を使用してMayaで原図作成

▲ひき続きMaya上での作業。手前の襖を開けるなど、自動化できない作業を行なって原図を入れ替え
▲提出された原図に監督・演出の指示、Book分け指示が記入される

▲「レンダーレイヤー作成ツール」を使ってレンダーレイヤーやライン設定などを作成。カットによってはその前にカメラワークやエフェクトなどアニメーション工程も加わる
▲合成された背景レンダリング素材

CG未経験者向けのBlender用レイアウト作成ツール「EOTA_Tools」

▲前述のように、本作では3DCGに慣れていなくともBlenderで演出作業が行えるようにツールが整備された。画像はBlender内の関連機能を一箇所に集めた「EOTA_Tools」の操作画面

▲「EOTA_Tools」は「操作」「カメラ一覧」「解像度」「カメラへの設定」「保存」「印字」「マニュアル」の7セクションに分かれている。「操作」の各ボタンはドラッグすることでカメラを移動させたり、数値を打ち込んで微調整したりと、CGツールのビュー操作に慣れずともレイアウト作業が可能
▲本作用の作画用紙に貼り付けて画像出力することもできるようになっている

Pickup！
Blender用レイアウト作成ツール「EOTA_Tools」は現在ベータ版を公開中です。詳細はリンク先からご確認ください。

Mayaデータからボタンひとつで原図を作成できる「原図作成ツール」

▲「原図作成ツール」はBlenderから出力されたカメラを読み込み、原図作成用シーンを構築するMaya用ツール。カメラは読み込み時にMaya用に最適化される

▲MayaからAEを起動、画像を配置する機能も備えるなど、原図制作を効率化。AEからPSD出力すれば原図が出来上がる

▲原図作成ツールのUI。シーン名、カメラ、BG、データを選択し「BG作成」を実行すると諸データが用意されAEが起ち上がる
▲左画像、枠内の拡大

Maya未経験者にも正確なレンダリングを可能にした「レンダーレイヤー作成ツール」

▲「「レンダーレイヤー作成ツール」（図中の右側のパネル）。複雑なレンダーレイヤーの作成からレンダリングまでをこのツール内で完結させることができ、シンプルなカットであればMayaに慣れていなくても作業ができる。「ツール内でレンダラ、尺、レンダリングサイズをレイヤー別に設定することが可能です」（長嶺氏）

▲ツールを起動した時点でシーン内のカメラが読み込まれ、そこからカットの視点となるカメラを選択する。またここでオブジェクトを選択し、レンダーレイヤー作成セクションでレンダーレイヤーをつくることも可能

▲レンダーレイヤーの手動作成のほか、「庭」「七つ口外」などのBGプリセットボタンが用意されており、レンダーレイヤーを一括作成でき、すぐ下のレンダーレイヤーリストでレンダーレイヤーを切り替えることができる
▲ レンダラの切り替えや「1フレームのみレンダリング」「タイムラインをレンダリング」の切り替えも可能