就職面接で必ずといって良いほど聞かれる「志望動機」。回答するには深い自己分析が必要だ。この自己分析をテーマとしたユニークな学生向けセミナー「駿馬 NAGOYA DAI-KAIKOU『大邂逅』」が開催された。2日間にわたり、盛りだくさんの内容で行われた模様を取材した。

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アーティストだけじゃない! 全職種に役立つファリアー流ポートフォリオ作成講座

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

仮想ベンチャー企業のパンフレットを作成する

首都圏や関西圏に企業が集中するゲーム産業。就職活動における地域格差を是正しようと、精力的な活動を続けているのが株式会社ファリアーだ。「アーティストだけじゃない! 全職種に役立つファリアー流ポートフォリオ制作講座」をはじめ、2017年から学生向けセミナー「駿馬~ゲームクリエイター養成講座~」を各地で開催してきた。この「駿馬」が30回を迎えたのを記念して、「駿馬 DAI-KAIKOU(大邂逅)」が9月21日(土)・22日(日)に名古屋で開催された。

タイトルの「邂逅」とは「思いがけない巡り合わせ」のことで、講義・ワークショップ・会社説明・トークセッションなどを通して、参加者に新たな出会いが提供されている。これがこのたび「大邂逅」とパワーアップし、「駿馬」で初めて2日間の内容で展開された。参加者は中部地方の専門学校生を中心とした約40名で、プログラマー・アーティスト・ゲームデザイナーなど志望は様々。中には京都・大阪・岡山の学生もみられた。

DAY1 グループワーク

初日はファリアー代表の馬場保仁氏による座学を経て、グループワークが行われた。テーマに掲げられたのは「ベンチャー企業のパンフレットを作成する」ことだ。自分たちが新たにゲーム会社を興すと仮定して、社名、企業理念、制作しているゲームのイメージ、社員の声(=自己紹介)などを考え、スライド資料にまとめるというもの。8チームにわかれた学生たちは、お互いに自己紹介を行いながら、手探りでディスカッションを始めていった。

通常ポートフォリオといえば、自分をアピールするために、個人で制作するものだ。にもかかわらず、なぜグループワークで、しかも仮想のベンチャー企業のパンフレット制作なのか。馬場氏はイベント中、「ポートフォリオ制作を通して、自分たちがなぜクリエイターになりたいのか、その動機を掘り下げてほしい」とくり返した。自分自身の心根を1人で深掘りするのは存外難しい。グループワークで想いをぶつけ合うことで、自己分析の助けが得られるというわけだ。

もっとも、メンバー間でバラバラの志望動機を1つにまとめて、会社名や企業理念としてパッケージングするのは、プロであっても容易ではない。見ず知らずの参加者同士が集まって、いきなりグループを組み、作業を行う「ゲームジャム形式」であれば、なおさらだ。馬場氏は「いきなり資料をつくるのではなく、アイデアを発散させてから、絞り込んで欲しい」と話した。学生たちも付箋を活用するなどして、必死に食らいついているようだった。

ファリアー代表・馬場保仁氏

当日に発表された即席チームで「仮想ベンチャー会社」の企業パンフレットを作成する参加者たち

中間発表

初日の最後には馬場氏ら審査員(参加企業:三洋物産・ツェナワークス・ドリコム)を前に、中間発表が行われた。数時間という限られた時間の中で、会社名や企業理念だけでなく、ロゴまで作成したチームがあったのには驚かされた。もっとも、企業パンフレットであるからには、社名・企業理念・ゲーム・社員の声などの各コンテンツで、互いに整合性がとれていることが求められる。フォント・色彩・レイアウトといったデザイン面に注意することも重要だ。何より、どこまで深く物事を考えられているかが問われることになる。

審査員からの質問も、資料の背後にある「考え方」に関するものが目立った。グループワークで「なぜクリエイターになりたいのか」が具体的に議論されていれば、それが各自のこだわりや特徴となり、会社のアピールにもつながる。逆にスライド資料を見て、内容が通り一遍だったり、読み手に熱く問いかけてくるものが乏しければ、議論が深まっていない可能性が高い。審査員は皆、ベテランの業界人だけあって、これらを的確に指摘していた。

中でも多かったのが「具体性の欠如」だ。企業理念に「ジャンルにとらわれない、新しいゲームをつくる」ことを挙げたチームは、「具体的にどんなゲーム?」と返された。他に「あなたの勝ちたいをつくる」を企業理念に上げたチームに対して「勝つとは何か。何に対して勝つのか。勝者は敗者を生むが、そこに対するフォローは?」といった質問もあった。このように「正しい・間違いではなく、自分たちなりに考えた、論理的な一貫性がほしい」という指摘が続いた。

大手ゲーム企業のホームページに影響を受けたものもみられた。これらのサイトには耳障りの良い、キラキラしたコピーが並ぶ。しかし、ベンチャー企業が大手サイトと同じメッセージを打ち出しても、埋没してしまう。求められるのは、よりニッチで尖ったメッセージで、就活に望む学生にとっても同じことだ。「今は説明できなくても、面接では必ず聞かれる。自分の言葉で説明できるように、言語化する訓練にしてほしい」と馬場氏は語った。

中間発表で審査員から質疑応答を受け、それをもとに内容を改善していく。審査員はファリアーの馬場保仁氏、三洋物産の木村修氏、ツェナワークス川野忠仁氏、ドリコムの人事担当者が務めた

では、なぜ面接に志望動機が必要なのだろうか。なぜ資格・技術・希望年収といった客観情報だけでは不足するのだろうか。様々な理由が挙げられるが、結局は企業が人の集団であることが大きい。特にエンタメ産業では、ひとりひとりの熱意や姿勢の総量が、作品や業績を左右する。そうした想いを束ねる指針となるのが企業理念だ。企業は学生に志望動機を尋ねることで、自社の企業理念との整合性や、モノづくりに対する姿勢、論理的な説明力などを確認しているのだ。

もっとも、学生が考える文言は上滑りしがちだ。この理由に「具体的なレベルまで深く考えていない」、「まとめるときに抽象化の罠に陥ってしまう」などがある。特に後者は頭の良い学生ほど陥りがちで、言葉の上滑りにつながりやすい。馬場氏は「抽象化するのではなく、自分の深層心理まで降りていって、モノづくりに対するドロドロした部分を見つめてほしい」とくり返した。そこまで降りていかなければ、本当に相手の心を打つメッセージは打ち出せないというわけだ。

DAY2 プレゼンテーション

翌日は午前中からチームごとのプレゼンテーションが始まった。制作途中のコンテンツに対して、プロが専門的なアドバイスを加えることで、さらなるクオリティアップが期待できる......これが2日間にわたるワークショップが企画された理由だ。中間発表では社名やロゴが未定だったチームもあったが、発表では8チーム全てで盛り込まれており、内容も深みを増していた。夜間に各チームが思い思いのスタイルで作業が継続されたことが想像された。

自分たちが考えた企業パンフレットを発表する参加者たち。審査員は中間発表を引き継ぎ、馬場氏と三洋物産の木村修氏・ツェナワークスの笹平大介氏・ドリコムの人事担当者が務めた。また、会場からも様々な質問が寄せられた

企業理念はチームごとに多彩だったが、共通するキーワードが聞かれた。中でも多かったのが「つながり」だ。「ストーリーを語ることで、ユーザーがつながれるゲームをつくる」、「他人と関わりたくても、関われずに寂しい思いをしている人に対して、友だちづくりに役立つゲームをつくる」、「AIがファシリテーションしてくれるゲームをつくる」などだ。スマートフォンやSNSに慣れ親しんだ世代ならではの発想のように感じられた。

中間発表と同じく、具体性に関する質問も多く聞かれた。興味深かったのがチーム「遊創」におけるやりとりだ。企業理念に上げられたのは「ゲームをつくる/細かいつくり込み/余裕のある生き方」で、制作ゲーム(と称した、チームメンバーが自分でつくりたいゲーム)のひとつに「眠ることを楽しくする放置ゲーム」が上げられていた。これに対して審査員から「具体的にどのようなゲームなのか、どのように収益化するのか」と質問が投げかけられた。

ここでチームメンバーが急遽差し込んだスライドには「女の子と添い寝するスマートフォン向けのゲームで、寝返りの振動を検知して睡眠の質が良いと、女の子のAIが賢くなっていく。起床後、通勤・通学時に女の子と会話が楽しめ、衣装などの課金要素を盛り込む」と記されていた。説明を受けた審査員から「内容が具体的で類似ゲームとの差別化が伝わってきた。はじめからこのスライドが盛り込まれていると、もっと良かった」と講評された。

実はこのメンバーの社員紹介ページには、「女の子のキャラクターが好きで、ゲームづくりを通して次元の壁を超えたい」といった内容が記されていた。これに対して中間発表で「具体的にどういうことなのか。もっと自分の内面を見つめてほしい」と指摘された経緯がある。その結果、具体的な説明が加えられたというわけだ。馬場氏はスライド内容を「自分自身に向き合った内容になった」として評価。企業賞としてファリアー賞の授与にもつながった。

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企業紹介

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企業紹介

午後からはイベントに協賛し、審査員も務めた三洋物産・ツェナワークス・ドリコムで、各々の担当者から会社紹介が行われた。エリアごとに分かれた説明会では、会社概要や主力タイトルの説明などに加えて、インターンなど就職活動につながる情報や、会社での働き方、職種問わずの質疑応答などが行われた。学生たちにとっても、企業パンフレットの内容を考えた後だけに、こうした会社の説明を、また違った角度で捉えることができたように感じられた。

●三洋物産

ロングセラーを続ける『海物語』シリーズを筆頭に、パチンコでシェア30%を占める業界最大手。本社を名古屋に構え、オリジナルタイトルとIPタイトルをバランス良く開発している。「インターンに参加することで、ポートフォリオをじっくり見てもらえる。企業側も親心のようなものがわく」と強調。10月19日に名古屋、11月2日に東京で開催される自社インターンの告知もなされた。
www.sanyobussan.co.jp

●ドリコム

『みんゴル』などスマホゲームでIP戦略をとるドリコム。「with Entertainment」をモットーに、ユーザーの期待を超えたモノづくりを進めている。毎年10名程度の採用を予定しており、プログラマー向けには2週間、ゲーム企画向けには3日間のインターン、アーティスト向けには1日のワークショップを実施しているという。入社後は1ヶ月間でアプリの企画からリリースまでを行う、グループワークでの新人研修も実施している。
www.drecom.co.jp

●ツェナワークス

コンシューマからスマートフォン向けまで幅広く開発を行なっている同社。社員数も数十名規模と、高い技術力とアットホームな社風がもち味だ。通年採用を実施しており、インターンも随時受け付けている。地方の学生に対して、交通費や滞在費の補助制度もあるとのこと。会社説明の大半は参加者からの質疑応答に充てられ、応募作品の形式や1日の働き方など、様々なディスカッションが行われた。
www.zener.co.jp

KAIKOUトーク

三洋物産の木村 修氏・ツェナワークスの笹平大介氏・ドリコムの人事担当者を回答者に迎えたパネルディスカッション「KAIKOUトーク」も行われた。興味深いやりとりが行われたので、内容を抜粋して紹介する。

ファリアー馬場保仁氏(以下、馬場):学生の印象は?

ドリコム人事担当者(以下、ドリコム):最初は大人しい印象を受けたが、グループワークの後半から付箋が飛び交い、自分なりの意見が言えるようになっていった。その変化が印象的だった。

三洋物産・木村 修氏(以下、木村)いくつかの学校でセミナーも行なっているが、そのときと比べて真剣度がちがっている印象を受けた。そろそろ就活について考えないといけないといった具合に、皆さんスイッチが入っているようだ。

ツェナワークス・笹平大介氏(以下、笹平):いよいよ、うちの娘よりも下の世代が就活する時代になってきたと実感した。今回の課題は起業がテーマで、本当に難しかったと思う。皆さん自分なりに考えて発表していて、今後が楽しみだ。

馬場:プレゼンテーションの最終講評を聞きたい。

木村:中間発表のときは「大丈夫かな」というチームがほとんどだったが、一晩で必死につくり上げてきてくれた。すごく成長していると思う。惜しむらくは、全体の整合性が不十分なチームが多かったこと。開催前の1時間で資料を確認して、整合性を取ることができれば、100点がもらえたと思う。

ドリコム:どのチームも自分たちなりにつくりきっていた。中途半端ではなく、つくりきることが大事。社会に出たら納期がついて回る。そこを意識したものづくりを行う力が少しはついたのかなと思う。

笹平:「読み手のことを考えて書く」ことに苦労していたチームが多かったのではないか。仕事でも「相手の思考をコントロールするような書面にしろ」と良く言っている。自分の企画を通すための書類と、クライアントから仕事をもらうための書類では、書き方や順番が違う。次はもっとわかりやすく、伝わるような資料をつくれるようになってほしい。

馬場:参加者のプレゼンを聞きながら、ゲームはすごく人を救っているんだなと思った。その一方で、ゲーム以外の普段の生活で感動していることは何か?も知りたくなった。自分は「いつもより1つで良いから新しいことに感動できる自分でありたい」と思っている。実際、ゲーム業界には趣味人が多い。皆さんの趣味は何?

笹平:昔から釣りを続けている。しばらく忙しくてできなかったが、最近また楽しむようになった。

木村:毎年新しい遊びをやっている。昔ハマっていて、その後止めてしまったことを、改めて遊びなおしてみるなどもしている。長く人々に楽しまれているものには、必ず理由がある。自分で遊んでみて、それを分析するのが楽しい。

ドリコム:自分の家のまわりの、良く知っている道を散歩するのが好き。いろいろな人と会う仕事なので、いろいろなことを発見できる自分でありたいと思っている。

馬場:欲しい人材像について教えてほしい。

笹平:技術よりも人柄重視で、その人と一緒に仕事をしたいと思える人を採っている。スキルは入社後にいくらでも教えられるし、まったく新しい技術が生まれて、それが主流になることもあるので、学生に求めてもしかたがない。ゲームをつくりたいという熱意をもっている人と仕事をしたい。

木村:遊技機は大人しか遊べないが、高齢者まで幅広く遊ばれている娯楽でもある。自分の両親や祖父母にも楽しんでもらえるような遊びが考えられるような人が理想。とはいえ、なかなか難しいと思うので、新しい遊びをつくれる人と一緒に仕事をしたい。

ドリコム:会社的には「真摯であること」、「変化に挑戦できること」、「本質を捉えること」を上げているが、結局は「ユーザーが遊んでいるときの顔が思い浮かべられるか」だと思う。それができれば先の3つも必ずできる。特に弊社はIPモノが多いので、ファンを想像できるか否かが重要。

馬場:新卒の育成方針について教えてほしい。

ドリコム:入社後2ヵ月間、アプリ制作などの新人研修を行い、6月から現場に入る。その後も1年目の間はメンターをつけて育成し、2年目から主力として活躍できるようにしている。実際にエンジニアリーダー、3年目から主力ゲームのディレクターやプロデューサーになる者もいる。全体的にフラットな組織体系で、どの部署の誰に話を聞いても良いと徹底している。

木村:3年前から新卒の採用に力を入れるようになった。メーカーとして新しい遊びをつくってヒットさせるには、起業家マインドが必要で、そのためには生え抜きを育てなければ上手くいかない。我々は会社から多額の開発資金を投資してもらい、その何倍にもするのが役目で、かなりハートが強くないとできない。そうしたビジネスが一緒にできるような人材を目指して育成をしている。

笹平:社会人研修はするが、現場に出て、現場に触れることが一番大切だと思っているので、メンターをつけて入社した翌日から現場に投入する。会社の規模が小さいため、教えるのではなく、自分で触れてもらうほうが効率的。OJTだけに任せるのではなく、四半期に一度、面談する機会なども設けている。

馬場:インターンの受け入れなどは行なっているか?

笹平:通年採用で通年インターン募集をしている。学校の単位を認めるものと、アルバイト型の両方を行なっていて、内定前も内定後もインターンができる。地方の学生も交通費や滞在費などについて相談してほしい。自腹で来いとは言わない。

木村:短期のワークショップインターンは行っているが、長期の就業体験的なインターンの受け入れはしていない。内定後は月に1回何かしらの行事や、翌年のインターンのサポートなどをしてもらっているが、学生のうちは様々な体験をしてほしいと思っている。そのためアルバイトも弊社以外で行うことを推奨している。

ドリコム:IPタイトルが多いためその時々で受け入れが変わるが、希望者については内定者アルバイトを受け入れている。最近あったのは、自分たちでボードゲームをつくったので、社員の人に遊んでもらって感想が聞きたいというもの。内定前の学生でも、自分の体力が続く限り見るようにしている。

会場から質問:ゲームの楽しさは人によってちがう。皆さんの「楽しい」を教えてほしい。自分の「楽しい」と比較したい。

木村:他人の「楽しい」について聞くよりも、自分自身がどんなときに楽しいと感じるのか考えて、それを整理して、友達と比較して、分析してみると良い。それによって自分自身が見えてくる。ただ、最終的には自分の価値観しか頼るところはないと思う。

ドリコム:自分も同じで「楽しい」を「何となく楽しい」で済ませずに、分析することが大事。その上で他人の「楽しい」を知りたいのであれば、人気コンテンツを体験したり、人気スポットに行ったりして、比べてみると良い。

笹平:ものづくりが好きでゲーム業界に入った。プラモデルも、料理も、ゲームづくりも、何でも好き。ただ、つくるだけではなくて、つくったものに対して他人から感想が返ってくることが総じて楽しい。そんな風に自分の「楽しい」を分析して、他人と比べてみてほしい。

会場から質問:ゲーム以外のことも体験したいが、なかなか時間がとれない。1万円以下の予算で楽しめる、ゲーム以外のオススメの娯楽について教えて欲しい。

笹平:できることは何でもやってほしいし、忙しいことを言い訳にしてほしくない。友人と徹夜で飲んだり、ゲームをしたりするのに、時間がないことを言い訳にしちゃう子がいると、おかしくないかな?と思ってしまう。その上で自分が嫌いなこと、興味がないことに積極的に触れてほしい。自分も一人芝居、ウィンドウショッピング、嫌いなジャンルの映画などに触れるようにしている。

木村:6,000円あったら馬場さんのように乗馬体験ができる。馬にまたがると視点が高くなる。逆に視点が下がる例で言えば、カートレースもできる。好きなゲームの題材になっていることを現実でやってみるのも良いかもしれない。ネットで人狼をするのが好きなら、実際に人狼をやってみるとか。「1万円あったら何をしよう」リストをつくって、上から順番に制覇していくと良い。

ドリコム:19年新卒への入社前課題が「これまで触れたことのないエンタメを体験する」というもの。歌舞伎や能を見に行ったり、京都で舞妓体験をしたりした学生もいた。普段と違う体験をすると、新しい発見がある。

馬場:前職では毎週、メンバーに各自の趣味についてプレゼンテーションをしてもらう時間を取っていた。ときにはそれがきっかけになって、みんなで体験したりもした。そんな風に最初は熱心に説いてくれる人と一緒に体験するのが良いと思う。クリエイターは人から変わっていると思われたいところがある。しかし、人と同じ体験を踏まえた上で、ちがったことをやるのが良いと思う。

最後に「自分が好きな道を究めるのか、好きな道を多少あきらめてでも、就職するのが良いのか」という質問があった。これに対して笹平氏は「ちょうど一昨日、娘と同じ話をした」と前置きした上で、「父親の立場でいえば、自分の好きにしたら良い」と述べた。「自分の好きなことだけを選択したら、かなり厳しい責任がついて回る。そのかわり、就職すれば好きなこと以外も求められるが、ある程度の収入が保証される。だからこそ好きにすれば良い」。

ちなみに「好きなことだけをしているように思われるかもしれないが、自分もゲーム業界に入って、好きなゲームだけをつくって生活しているわけでは、決してない」と補足した。それでも笹平氏が仕事を続けているのは、特定のジャンルやタイトルではなく、ゲームをつくること自体が楽しいと思えるからだ。「特定のジャンルをつくるのが好きという気持ちが、自分には良くわからない。もしそれを求めるなら、かなり狭き門になる。その覚悟があるなら、突き進めば良い」。

また木村氏は「会社で働いていても、自分の好きなようにつくれるチャンスはいずれ来る。ただし、それまでは修行の時間。早く『好きにつくって良い』と言われるよう進むことが、多くの人にとって幸せに近づく方法だと思う。ただし、中には自分のやりたいことだけをやって生活できる人もいる。その可能性を否定するものではない」とコメント。ドリコムの人事担当者は「なりたい自分になるために、何が必要か分解できれば、嫌なことでも必要性が見えてくる」とした。

馬場氏は「結局はお金の重み」だとして、精神の安定を得る材料のひとつになるのが収入だとした。もちろん、お金がすべてではないが、お金がないとできないことが多くなり、且つ、心が荒む......苦笑。また、奨学金を得て進学している学生に対して(会場でも半数の手が挙がった)、「奨学金は未来の自分からの借金」だとして、奨学金を返済するために就職するという考え方もあるとした。「奨学金を返しながら、会社で働いてスキルを磨き、返済し終わったところで、自由に選択すれば良い。その頃には、それだけのスキルや人脈もついてくる」。

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表彰式

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表彰式



  • 三洋物産賞:株式会社メモリーカプセル/宇津野 峻・小川隼矢・高橋曜平・松田青弥


  • ドリコム賞:株式会社イエローセンス/青木孝憲・秋山直輝・日比一也・藤田 明



  • ツェナワークス賞:株式会社Knock Out/市川千尋・都築悠馬・林 紀元・吉田遼太郎


  • ファリアー賞:株式会社遊創/尾崎直哉・栗本春佳・中村竜斗・結城稜大

特別賞:株式会社Sense/一井元紀・市来エリク祐二・小出修基・佐藤謙心

イベントの最後に表彰式が行われ、三洋物産・ツェナワークス・ドリコム・ファリアーから企業賞が贈られた。

三洋物産賞には「子どもの頃の想い出になるゲームづくり」を企業理念に挙げたメモリーカプセル。ドリコム賞には「動画を見て満足するのではなく、実際に遊んで感動できるゲームを、コンシューマで目指す」を掲げたイエローセンス。ファリアー賞には前述の通り、「遊びをつくる」を掲げた遊創に、それぞれ賞状などが贈られた。また、インディゲームのパブリッシュを行う学生ベンチャーを理念に掲げたSenseに特別賞が贈られた。

学生に自己分析を行わせる就活セミナーは多いが、「他人同士で」、「グループワークで」、「2日間にわたって」、「自分たちでゲーム会社を起業する」という立て付けで行われたセミナーは、他に類を見ない。それだけに学生にとっては負荷が高かった半面、大きな学びにつながったように感じられた。実際、今回のプレゼンテーションで求められたように、自分の志望理由を「具体的に」、「論理的に」説明できれば、面接でも大いに役立つだろう。

その上で馬場氏が強調したのは「ワークショップを体験するだけでなく、その日のうちに『振り返り』をすること」だ。表彰式でも「今日から精進します」と応えていた学生が多いのが印象的だった。セミナーでも語られたが、就職活動には運の要素もからむため、必勝法はない。しかし、負けないための対策や、そのための準備は行える。「ゲームで『攻略を考えてプレイする』ように、就活も攻略を考えて行動しよう!」という馬場氏の指摘はもっともだ。彼ら・彼女らの今後の活躍を期待したい。

Information

「駿馬」今後の開催予定

第32回 駿馬 KANSAI 京都
11月24日(日) 京都コンピュータ学院

第33回 駿馬 KANSAI 邂逅
12月7日(土) TKPガーデンシティ大阪梅田