これからのアニメ制作を目指す次世代アニメファンを対象とした、アニメ制作技術に関する総合イベント「あにつく2015」が、9月19日(土)に東京・秋葉原のUDX GALLERY NEXTで開催された。アニメをつくる楽しさや、その手法として2D作画ソフトの運用や3Dアニメーション技術から、作品のメイキングとマーケットアピール、人材発掘、育成まで、イベント内容は多岐にわたっていた。デジタル作画や3DCGを活用したハイブリッドな作品に関する話題が盛り上がった、本イベントをふり返る。

<1>あにつく2015 基調講演

まずは、手描きのアニメーションから『009 RE:CYBORG』(2012)のようなフルCG作品まで豊富な監督キャリアをもつ、神山健治氏の基調講演からスタート。アニメ評論家の藤津亮太氏が聞き手となるかたちで進められた。

最近のアニメーション作品の傾向として、もう少し3DCGの作品が増え、今までよりもフレキシブルなフローが出来るのではないかと期待していたが「そうでもなかった」というのが神山氏の印象だ。
特に、個人と短編という枠では増えているものの、予算内で完結させ、3DCGを含めた作業工程を読みきれるような監督、プロデューサーがまだ存在していないため、TVシリーズのように量産する必要のある作品では、まだ3DCGの導入が少ないようだと、神山氏。

また3DCGと作画を同じ予算で比較した場合、3DCGでは事前の仕込み作業が必要となったり、背景を全部モデリングするのか、描き割(マット画)にするかによっても大きく変わり、「制作工程に入ってから気がつく壁」があって、絵コンテが上がってから新たに必要が生じる要素も多く、余計にコストがかかってしまうこともあるとのこと。現在は過渡期であって、自身の場合は消去法で手法を選択しているとのこと。

絵コンテ作業に関しては、Toon Boom「StoryBoard Pro」を使用しており、従来は職人の勘に頼っていた部分を可視化し、編集しながら仮声を入れたり、カメラワークも指定したりできるようになった。
また、複数人での脚本合宿のように「揉んでいくことで作品の強度を上げる」という絵コンテ合宿を試みており、共有化され人の目に触れやすくなる事で、スピードアップや効率化を図っている。ただ、単独作業による作家性が失われる懸念はあるという。
アフレコ工程をプレスコに変え、声のニュアンス(芝居)からアニメーターが画をつくるというような、新しいフローの可能性にも手応えは感じていると語る。

タブレットを用いたデジタル作画に関しては、より手軽に行える面もあるが、今までの物理的なカット袋での管理方法からデジタルツールに乗り換えた結果、バックアップ等のコストがこれまで以上にかかるようになったり、デジタルになったからといって、画が上手いアニメーターが増えるわけではないことなども悩ましいところだと語った。
2Dアニメーターは人材不足だと言われているが、若い人が責任あるポジションでまわすような爆発的な作品は少ない気がしているそうで、「これはスタジオの世代間の問題なのかもしれない」と指摘。
また、デジタルで面白いことができそうなので、クリエイターは新たな表現を自分でやってみたいと考えているはずだが、同時に3DCGであっても基本的な絵心は必要になってくることにはかわりないとも。

最後の質疑応答では、「学生時代に何をすべきか?」という質問に対しては、「自分のビジョンを個人単位でもっていなくてはいけない」と回答。神山氏自身も中学2年生の頃から「『スターウォーズ』をつくりたい」という夢を今も追い続けており、20年前は1人でつくり上げるという選択肢はゼロだったが、今は有り得る話である。また、作品の披露の場として動画配信という選択肢も現れた今、「個人としても可能性が広がっていると感じる」と語っていた。

▶次ページ:<2>『神撃のバハムート GENESIS』メイキング(サブリメイション)

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<2>『神撃のバハムート GENESIS』メイキング(サブリメイション)

タイトルのとおり、TVアニメ『神撃のバハムート GENESIS』メイキングを中心に、3DCGを手がけたサブリメイションの制作スタイルが披露された本講演。
この作品では、馬やバハムート、天使や悪魔等のキャラクターの表現に3DCGが使われており、それ以外にもエフェクトを含め1話あたりCGが介在するカットを100ほど制作したという。メインツールはLightWave(以下LW)とAfter Effects(以下AE)が使用された。

【神撃のバハムート GENESIS】プロモーションムービー第2弾

バハムートのモデリングに関しては、1枚の設定画を下にZBrushでモデリングし、MODOでリトポロジーを済ませたモデルをLWへインポートし、セットアップを行なったとのこと。
アニメーション作業は全て手づけで行なっており、通常の原画から動画を仕上げていく工程を踏んでいるが、嘘パースのような極端な見た目にも対応できるように、セットアップ段階で関節以外の部分でも曲げ伸ばしが出来るようにボーンの設定を施しており、アニメ作品にマッチする表現に対応できるよう、フローが最適化されていたそうだ。

そのほかには、馬の足元から煙を出す場合は「LWtoAE」機能を使い、LW側からカメラ、レンズ、ヌル情報を出力してAEの3Dレイヤーに読み込み、Trapcode Particularでボリューム感のある煙を追加したとのこと。3DCG側でボリュームレンダリングを行うよりも、AE上で加工した方が手間と時間が省けトライアンドエラーがしやすいのが利点とのこと。3DCG側でカメラワークを付ける場合も同様のかたちで作業を進めているそうだ。

あにつく2015

「『神撃のバハムート GENESIS』メイキング」講演の様子

背景CGとしては、海の制作事例を紹介。まずLWでライティングした素材と波のシルエットの素材をAEで合成し、シルエットに関しては入射角にグラデーションを割り当てて表現しており、グラデーションの素材を色指定に合わせてAEで色を置き換えている。
アニメ作品ならではと言えば、平面のセル情報もヌルとして指定し、後工程での素材の差し替えを可能にするなど、3DCGで全部完結するのではなくできるだけワークフローをシンプルにすることを心がけているとのこと。そうしたワークフローを構築することで試行錯誤が行いやすくなったと、須貝氏は語っていた。

▶次ページ:<3>「アニメ業界の歩き方」(ラークスエンタテインメント)

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<3>「アニメ業界の歩き方」(ラークスエンタテインメント)

スタジオ雲雀のCG制作部が発展的に分社化したラークスエンタテインメントは、海外作品、外部プロダクションからの受注、自社作品と幅広いタイトルを手がけている。本講演では、スタジオ雲雀内に新しく結成されたアニメーションチームラルケの紹介から始まった。

あにつく2015

「アニメ業界の歩き方」講演の様子(写真提供:ラークスエンターテインメント)

登壇したのは、ラークスエンタテインメントの奈良岡智哉CGプロデューサー、アニメーション監督の岸 誠二氏、そしてラルケの比嘉勇二アニメーションプロデューサー。3氏がコラボレーションしたTVアニメ『暗殺教室』を題材に、様々な角度からの検証がなされた。まずはアニメーションの企画の立て方。企画・予算・シナリオ・コンテ・監督演出を踏まえた上で、作品の難易度が決まり、予算が決まっている場合の内容の調整は、主にシナリオ段階で行なったという。

『暗殺教室』の場合、岸監督は26人のクラスメートを真っ向から描きたいと考えていたため、モブも含めて3DCGを取り入れる手法を採った。
そこでまず、全生徒のモデルを、カメラが中距離まで寄っても作画と同じレベルになるように作成。同時に背景の教室も3DCGで作成することで、あらかじめ生徒の配置まで仕込み、完全に作画と3DCGが融合するようなハイブリッドな制作フローが構築された。
また、OPのダンスアニメーションの制作は2週間というタイトなスケジュールの中で進められたとのことで、絵コンテアップ後すぐに3D LO(レイアウト)でシーンを組み、同時に26人の生徒のダンスのパターンを26人の作画スタッフに振り分け、素材を差し替えていくことによって、効率的かつ3DCGのパワーを感じさせる画に仕上げたそうだ。

【アニメ暗殺教室】1クール振り返りPV

続いて、アニメーション制作の職種について。一般的な予算例を例題として読み解いていかれたのだが、ここでサンジゲン代表取締役の松浦裕暁氏が飛び入り参加というサプライズ。各氏の親交の深さが伝わってきた。

手描きの作画部分に関しては単価は上がっておらず、デジタル化で効率性とクオリティは上がっているが、その場合、設備投資が必要になってくるため、フリーランスの立場から組織化の流れも発生するのではないか、という予測も出てきているという。

奈良岡氏は、デジタル作画を導入することで動画と仕上げを同時並行で作業を進めるすることによって素材の流用等が円滑に行えるようになり、結果として作業効率を上げられると、持論を展開。そして「今までになかった表現も生まれ、新たな作家性が求められるようにもなる」、と期待を込めた。 岸氏は、アナログからデジタル作画が増えつつあり、その対応が焦点となるという。その中で、作画の価値自体はむしろ上がっていき、デジタルに対応できる人材は重宝されていくはずであり、また作業効率化が進むことにより少人数化が進む可能性について言及した。
比嘉氏は、デジタル化によって画の劣化を抑えられ、今後は改めて職人性も求められてくるのではないか、と続けた。そして、3氏の発言を受けるかたちで松浦氏は、原画動画仕上げを一緒に行うことで合理化でき、デジタル化によって機材や人材への投資も組織単位でやりやすくなってきたと語っていた。

TEXT & PHOTO_峯沢琢也