12月6日(日)、第20回アニメーション神戸賞の授与式が行われた。各賞は11月10日(火)に発表済みだったことから、会場の「デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)」ホールは、この日を待ち望んでいたファンたちで埋まっていた。

<1>作品賞は、『SHIROBAKO』と『攻殻機動隊 新劇場版』

1996年から20年続いてきたアニメーション神戸賞は、特徴として「アニメージュ」「ニュータイプ」「アニメディア」といった3大アニメ誌の編集長などが審査委員を歴任してきたことも挙げられる。今回の受賞は、個人賞が水島精二氏、特別賞が安彦良和氏、作品賞が『SHIROBAKO』と『攻殻機動隊 新劇場版』、主題歌賞(ラジオ関西賞)が『ジョジョ その血の記憶 ~end of THE WORLD~』というラインナップに決定した。

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式は作品賞からスタート。受賞作のひとつめは『SHIROBAKO』で、P.A.WORKS代表取締役の堀川憲司氏が登壇した。堀川氏はまず「みなさんこんにちは。『SHIROBAKO』の監督をさせていただいた水島です。努の方です」と、水島努監督から託されたコメントを代読し、会場は笑いに包まれた。

代読のコメントはもちろん水島精二氏の個人賞を前提にしたもので、堀川氏は「このたび作品賞をいただき大変光栄に感じており、この喜びを多くの仲間たちと分かち合おうと思います。そして今この時も全力でアニメ制作に勤しんでいる人たちがいます。もちろん作品が面白い、つまらないは別の問題ですが、『SHIROBAKO』を観て、その人たちのことを気にかけていただけたら幸いです。本当にありがとうございました」と続けた。

さらに堀川氏は、水島精二氏を『SHIROBAKO』の登場キャラクター・木下誠一のモデルとしたことへのお詫びかと思わせながら、「水島精二監督の次回作『ぷるんぷるん天国』に期待してください!」と作中をネタにしたジョークを言い会場内を湧かせた。

「第20回 アニメーション神戸」授賞式

水島 努監督のコメントを代読する P.A.WORKS代表取締役の堀川憲司氏

続けて堀川氏自身も「1本のアニメーション作品をつくるには、何百人というスタッフが毎日ドタバタしながらつくっております」とコメント。「もの静かなスタッフが1日中机に向かって描き続け、創作意欲が一体となって同じ目標に向かっているときに、彼らをワクワクさせる創作エネルギーが現場を包んでいく瞬間があります。その現場の熱意が必ず作品から滲み出てくるものだとご覧になった方にも伝わるんじゃないか。それを同じ現場でスタッフと感じる瞬間が訪れると思います」と感謝した。

そして堀川氏は制作を蝋燭に喩え、「100年技術が継承され続けてきたことで、アニメーションの蝋燭は今でも輝いています。僕らがこの炎を絶やすことなく輝き続けるために長い長い蝋燭をつくろうと、その中心には彼らの夢と情熱を一筋に真っ直ぐ立てようと思います。そして僕らが情熱を持ってドタバタと苦しみながらつくったアニメーションを観てくれた世界中の人々の明日を照らす光になればと思います」と語った。

「第20回 アニメーション神戸」授賞式

『SHIROBAKO』を企画・制作したP.A.WORKS代表取締役の堀川憲司氏

もうひとつの作品賞『攻殻機動隊 新劇場版』では、Production I.G取締役の黄瀬和哉氏が登壇。本作で総監督ならびにキャラクターデザインを担当した黄瀬氏は「本来なら監督した野村(和也)さんに来ていただいた方が良いのではないかと言っていたんですが、今回は野村さんが仕事で忙しいということで、僕も別に暇ではないんですが代表して行って来い、と言うことで来させていただきました」と挨拶をした。
黄瀬氏は続けて「いただいた作品賞は僕個人のものではなく、多くのスタッフと一緒に積み上げて来たものです。つくってる間は地獄のような日々を送っていましたが、終わってしまえば本当にあっという間だったという感想です」とこれまでをふり返った。

『攻殻機動隊 新劇場版』劇場本予告

「第20回 アニメーション神戸」授賞式

『攻殻機動隊 新劇場版』総監督・キャラクターデザインの黄瀬和哉氏

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<2>特別賞、個人賞、そして主題歌賞

今回特別賞を受賞した安彦良和氏は、ビデオコメントでの紹介に。安彦氏はアニメ業界からキャリアを積んでいったものの、いったん退いて再度の復帰になった経緯に触れ、「そういう風変わりな人間が、こういう賞を頂いていいのだろうかと非常に悩みました」と明かした。昨年度まで神戸芸術工科大学で教授を務めていた縁もあり、「できればみなさんの前に出て、直接賞を頂こうと思っていたのですが時間の都合がつかず、残念ながらこういうかたちでお会いすることになりました」と謝辞を述べた。

ビデオコメントの中では「今携わっている『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』という作品は、もしかするとかなり長丁場になるんじゃないかという予感がしています。僕の作家寿命からすると長いのか短いのかわかりませんが、予想外にもアニメーションとの関わりをこれからも持っていくような気がしております」と、気になる情報も聞かれた。

「第20回 アニメーション神戸」授賞式

ビデオコメントで出演した安彦良和氏

次の登壇者は個人賞を受賞した水島精二氏。「僕は自分であまり作家性がある監督だとは思っていないので、個人で賞をいただく日がくるなんて思ってもみなかったのでとても嬉しいです」と謙遜した。最近の監督作品において、昨年の『楽園追放 -Expelled From Paradise-』のアニメCGや今年の『うーさーのその日暮らし 夢幻編』第12話のデジタル作画など、技術的な面も受賞理由に含まれている。

さらに水島氏は「ただアニメーションは本当に様々なスタッフが関わっていて、作品はみんなの力の集大成なので、共に色んな作品をつくってくれたスタッフと受賞したんじゃないかなと思っています。とは言え個人にいただいた賞なので、これを励みに今後もみなさんに愛していただける作品をつくっていけたらなと思います」と意気込みを語った。その一方で、「この賞をいただいたときに喜んでくれた櫻井(孝昌氏)が、不慮の事故で亡くなってしまって、この場で一緒に喜べなかったのが非常に残念です」と述べ、哀悼の意を表した。

コンテンツメディアプロデューサーの櫻井孝昌氏は、授賞式直前の12月4日(金)に急逝。アニメーション神戸でも第16回より審査委員を務め、業界への貢献ははかり知れないものがあっただけに惜しまれている。

「第20回 アニメーション神戸」授賞式

個人賞で登壇の水島精二氏

最後は主題歌賞(ラジオ関西賞)の『ジョジョ その血の記憶 ~end of THE WORLD~』。歌唱するJO☆STARSのTOMMY氏、Coda氏、JIN氏、作曲の田中公平氏も壇上に上がった。4者を代表してTOMMYは「本当に光栄で嬉しく、足元がちょっと震えるくらいです。みなさんに選んでいただいたということが本当に今、ひしひしと感じられてとっても嬉しく思ってます!」と感極まった様子。
「本当に(田中)公平先生、そして藤林(聖子)先生の素晴らしい楽曲を僕たちが歌うことができて、本当に嬉しいです!!」と咆哮した。

「第20回 アニメーション神戸」授賞式

左から田中公平氏、 Coda氏、TOMMY氏、JIN氏

この主題歌賞(ラジオ関西賞)については他の賞とはちがい、リスナーの最多得票が賞に反映される。毎回受賞曲のライブも会場を沸かせてきた。

「第20回 アニメーション神戸」授賞式

JO☆STARSの「ジョジョ その血の記憶 ~end of THE WORLD~」で会場は最高潮に

JO☆STARS~TOMMY,Coda,JIN~『ジョジョ その血の記憶~end of THE WORLD~』MV試聴

▶次ページ:恒例企画「アニメーション四方山話」

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<3>恒例企画「アニメーション四方山話」

阪神・淡路大震災の翌年より開始された「アニメーション神戸」。震災からの復興だけではなく、デジタルコンテンツ産業振興の先駆としてモデルケースになっていた。なかでもアニメーション神戸賞は、国内の商用アニメーションを対象として、優れた作品やクリエイター、長年アニメーション業界に貢献した者などを表彰してきた。

授賞式の前には、声優で実行委員長の神谷 明氏とアニメ監督の大地丙太郎氏による、恒例の「アニメーション四方山話」も実施された。折しも制作に2人が関わっている『DD北斗の拳2 イチゴ味+』が放送中であることから、その裏話が展開された。

「第20回 アニメーション神戸」授賞式

左から神谷明氏、大地丙太郎氏

2人の「アニメーション神戸」への参画は神谷氏が第2回から、大地氏が第4回からと長い。神谷氏は司会を担当した翌年から声優ワークショップ、そして第11回からは実行委員長も務めてきた。一方の大地氏は個人賞の後、Eクリエーターズフェスティバルデジタルクリエーターズコンテストの審査委員長であった。トークでは大地氏が、デジタルクリエーターズコンテストで受賞した中から印象に残った3作品を挙げた。

第13回愛ある音楽そして美術大賞『wireless FINAL opening animation』(代表:西田章二)

第18回最優秀賞『Fireworks Beads』(はしもとまさむ)

第19回最優秀賞『黄色い気球とばんの先生』(幸洋子)※トレーラー

ちなみに「アニメーション神戸」は第20回を節目に、このような開催形式は終了になるとのこと。締めの総評で神谷氏は、前任の故・浜野保樹氏から実行委員長を引き継いだ経緯や、東日本大震災の翌2012年から始まったKOBEぽっぷカルチャーフェスティバルが成長しつつあることなどに触れ、「これからも神戸のみなさんにアニメを支え、そして神戸をどんどんどんどん素晴らしい街に、そして世界に冠たる街にしていっていただきたいと思います」と話した。

「第20回 アニメーション神戸」授賞式

総評中の神谷明氏

神谷氏は続けて「私のバトンも、その意思を継いでくれる方にお渡ししたいと思います。でもバトンを渡した後も、しばらく一緒に走っていようかなと思います。ぜひこれからもたくさん神戸にやって来たいと思います。今まで本当にたくさんの方に支えられてきた「アニメーション神戸」。その思いが一番強いですね。改めて皆々様方に御礼を申し上げます。本当に長い間ありがとうございました」と深く一礼した。

TEXT & PHOTO_真狩祐志 / Yushi Makari



  • 「第20回 アニメーション神戸」授賞式
  • 「第20回 アニメーション神戸」授賞式
    日程:2015年12月6日(日)
    場所:デザイン・クリエイティブセンター神戸 (KIITO)
    神戸市中央区小野浜町1-4

    www.anime-kobe.jp/