手がけてきた作品の経験値が高いサンジゲンでは、若手の成長も著しい。本記事では前編に引き続き『ブブキ・ブランキ』のメイキングから、若手実力派アーティスト自身に、こだわりのカットについて解説してもらった。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 212(2016年4月号)からの転載となります
TEXT_サンジゲン / SANZIGEN
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
TVアニメ『ブブキ・ブランキ』
©Quadrangle / BBKBRNK Partners
No.001 アニメーターに任された芝居プラン
物語、初登場のリュイスが見栄をきるカットです。中途半端に振っている最中の画にならないように、「振りきった!」という感じを大事にして作成しました。7秒の尺に対して絵コンテは4枚だけで、ト書きに「カッコよくアクション足してください」と書いてありました。リュイスはブーメランを持つキャラクターで、ブーメランはアニメーターとしては自由に使えるおいしい道具なので、楽しんでアイデアを出しました。一方、リュイス自身は表情変化が少ない設定なので、眼力が強いと解釈して、1カットの中で2回も目に寄るなど工夫しています。このカットではカメラは固定し、キャラクターがカメラ前で回転、移動しながら芝居するアニメならではの手法を採りました。また、セリフのテンポに合わせて芝居のタメツメも同調させるという、誇張表現も取り入れています。
8話C143完成カット
自作のアクションプラン。フレーム外ではどんな動きをしているのかなども考える
カメラをFIXしてキャラクターを移動させる。シンプルな手法のため、修正も簡単
作画アニメのような迫力のある画をねらう場合、3DCGでは身体に繋がっているボーンを制御して、各パーツを異なる大きさや長さに変形させることで成立させる
No.002 声によって芝居も変わる
本カットは別のアニメーターが担当しており、すでにOKが出ていたのですが、声優の演技が予想を上回り、用意していた動画とのテンションに開きが生まれてしまいました。声を活かした芝居にしたいとディレクターが悩んでいたので、私がギリギリのタイミングで修正を請け負いました。TVアニメの制作は作業時間が少ないですが、このカットの場合も、3ds Maxのシーンファイルを受け取るまでに時間がかかることが予想できたので、3DCGではなくまず静止画をPhotoshopでコラージュして完成形をイメージし、その後3DCG上できめ細かくつくり込んでいきました。芝居上達のためには、実際に鏡の前で演技してみたり、スマホなどで動画を撮影して参考にすることが重要だと考えています。また、ボンズさんなどのアニメーション技術が巧みな作品を観て、アニメ表現を学ぶことも多いです。
Photoshopのワープで修正イメージを固める
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NO.003 偶然性に頼らない、ねらったエフェクトの作成
NO.003 偶然性に頼らない、ねらったエフェクトの作成
銃撃からブブキが主人を守るカットですが、コンテではどう守るかの指示はなく、自分で芝居を組み立てさせてもらいました。エフェクトに関しては、サンジゲンの社内には豊富なライブラリがあります。それらを使って未経験のエフェクトを勉強したり、自分でも追加したりしますが、このシークエンスの場合は既存のものではなく、エフェクト開発から依頼されたので、バリアに沿って弾かれる火花と火線を合わせた、今までにない表現を考えました。火線は短い火線を繋がっているように配置して1本の長い線に見せていますが、破裂のタイミングでずらすなど、完成した画からの逆算です。そのためにはラフ画像を描くなどして、描きたいものや伝えたいことを明確にするようにしています。また短い尺の中で回転していることを観客に伝える工夫として、作画で言う「オバケ」表現を選択しました。
4話C249完成カット
火花エフェクトは3DCGのオブジェクトで作成。エフェクトのほとんどは3ds Maxの標準機能だけで構成されている
2Dで描かれる残像表現(オバケ)
NO.004 アニメーションさせやすいモデリング
本作では女性キャラクターの制作を多く担当しましたが、そのなかでも間 絶美は非常に豪華なキャラクターな分、髪型の立体感がどうなっているのか、髪の色がどこから変わっているかの把握など、苦労も多かったです。3DCG独特の苦労として、絶美は髪の房が多いので角度によって破綻して見えないよう、設定画のニュアンスを汲める絶妙の位置をなんとか見つけました。フェイシャル用のモーフターゲット作成もモデラーの役割なのですが、サンジゲンでは80種類以上あるので、仕込むのが大変でした。設定画に合わせる工夫としては、いつも斜め顔を最も大事にしています。正面顔ももちろん大切なのですが、横顔については実は少なく、表情や口の空き方などによって大きく変化するので、逆にアニメーターにカットごとに調整してもらうつもりで仕上げています。
キャラクターデザインを担当するコザキユースケ氏による間 絶美の設定画
完成した3Dモデル
Pencil+を使ったセルシェーディング画像
[[SplitPage]]NO.005 熱量感のあるアニメーションの工夫
今石アニメを観てアニメに携わろうと志した自分が、本作オープニングで今石洋之さんコンテのアニメーションを担当できることになり、「熱量のある画」をめざしてカットをつくりました。ポイントは、打ち合わせ時からオーダーを受けた「熱苦しい顔」をつくるために用意した自作フェイシャルリグ、「熱い要素」として噛み締めている歯のモデル、「熱量感」を増幅させる2つのタッチです。ひとつめのタッチは、ディレクターの今さんが作ってくれた動くタッチ線(通称・今タッチ。After Effectsにて作成されている2D素材)、もうひとつは、同僚アニメーター敷島くんが作ってくれた3DCGのオブジェクトのタッチ線です(マッピングではなく配置がCUTごとに変えられるため、使い勝手が良い)。ねらった画をつくるにはあらかじめ用意されたものだけでは近づけられないので、自分で事前に用意することを心がけています。
オープニングC019完成カット
モデルのシェーディング画像
NO.006 マッピング表現によるディテールの追求
主人公の母親である一希 汀は、何重にも重なるスカートを履いています。これを正直に薄いポリゴンを重ねた3Dモデルでつくると、芝居をさせたときのめり込みやリグの制御が大変になることが予想できたので、マッピングで処理しました。モデラーとしては、モデリングは1体ずつの作業ですが、アニメのカットの中には複数キャラクターが芝居をするので、少しでも3DCGモデルが軽くなるよう、リグやアニメーションなどその後の工程の作業効率も考えて制作しています。同じくマッピングでは、髪の毛の生え際を丁寧に描く方法を見つけ、今回初めて導入してみました。これは汀で上手く表現できたので、本作のキャラクターの多くにも導入しました。一瞬ではわからないちがいですが、このような工夫を積み重ねていくことが、作画アニメのようだと評価してもらえているのだと確信しています。
スカートの3Dモデルのアップ
スカートのワイヤーフレーム。モデル全般において、できるだけローポリゴンでモデリングすることを心がけている
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TVアニメ『ブブキ・ブランキ』
TOKYO MX / AT-Xほかにて放送中!
原作:Quadrangle
監督:小松田大全
キャラクターデザイン:コザキユースケ
制作:サンジゲン
製作:BBKBRNK Partners
bbkbrnk.com
©Quadrangle / BBKBRNK Partners