3DCGによるセル調を武器にアニメ業界を牽引してきたサンジゲン。同社初となるオリジナル作品のTVシリーズとして展開中の本作は、クオリティと効率化を高い次元で両立させるべく、多くの新しい試みがなされている。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 212(2016年4月号)からの転載となります

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TEXT_峯沢★琢也 / Takuya★Minezawa、平 将人 / Masato Taira
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

TVアニメ『ブブキ・ブランキ』
©Quadrangle / BBKBRNK Partners

制作・管理体制を強化して挑むオリジナル作品

『ブブキ・ブランキ』『蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-』(以下、『アルペジオ』)に続く、サンジゲン制作の3DCGによるTVアニメ作品だ。本作は同社初となるオリジナル作品であり、全ての要素をゼロから構築して膨大な物量をこなすべく、今までの3DCGによるアニメ制作ノウハウを総動員した上で新たな試みにも取り組んでいる。

  • 新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)
  • CGスーパーバイザー
    鈴木大介氏(サンジゲン)

1話、約20分のTVアニメーションのカット数は300カットを超え、キャラクターは『アルペジオ』と比べて2倍程度、加えてロボットが複数体登場するため、アセットの数だけでも今までを大幅に超える量になっているという。アニメーション作業に関しても社内だけでなく外注する必要があり、ワークフローや情報伝達に関しても従来の方法から進化させる必要に迫られた。また、基本的に多くの動画部分が3DCGで作成されるため、手描きのアニメーションではお馴染みのタイムシートはアニメーションの工程では使用せずに、コンテ撮(コンテを繋げたムービー)からセリフを収録というプレスコ方式を採用している。このあたりは、スタンダードなアニメーションと3DCGアニメーションを両方知っている同社ならではのハイブリッドなフローになっている。

さらに本作では、撮影部に渡すデータにRLAを採用。作品中で各キャラクターが特殊能力を使う際、髪や衣服の一部が発光する表現があるため、通常であれば素材ごとの連番データを別々に出力していた工程を、素材ごとのマスクとしてRLA連番の内部に内包させる方式に変更することで、データのやりとりの簡素化にも成功している。制作管理面でも各セクションごとの全体の要素を示す香盤の確認や素材の発注、作業ステータスの確認、チェックに対するフィードバックと連絡手段としてデータベースを基盤とした制作管理システムを社内で独自開発しており、本作から本格的に運用を始めている。

新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)

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BOOST 01
サンジゲン流ワークフロー

サンジゲンでは3DCGがワークフローに入ってくるのは絵コンテ後からで、出来上がったらすぐに打ち合わせに入る。これはそのほとんどの作業が最初から3DCGで行われるためであり、どこを3DCGにするか決める必要がないからだ。打ち合わせ時に各話数のアニメーションディレクターが工数の割り出しとスタッフの分担を済ませ、こぼれそうであれば制作に相談して外注に振り分ける。その後、監督を含めた話数演出と制作を交え演出処理打ち後に作打ちを行い、決まり次第アニメーションディレクターを中心にアニメーターとの個別の打ち合わせとなる。そして、レイアウトモデルと引きで全体が見られるカットを基準とし、シーンに必要な素材やキャラを配置したマスターショットモデルを用意してなるべく早くアニメーション作業に入れるように準備する。

レイアウト作業時には、余白の枠を付けるプラグインを作成して使用。表情はアニマティクス時に付けることもあるが、そのほとんどはレイアウト時に決めてしまうという。これはレイアウト後に作業が別スタッフに移行する場合も考慮してのことである。アニマティクスでは芝居が固まるまで、なびき・めり込み処理・色替えは行わないが、表情や口パクは完成まで近づける。タイムシートは使用しておらずアニメーターの作業となり、プレスコ状態で口パクを合わせる。芝居がOKとなったらセルルックに仕上げ、なびき・めり込み処理・色替えを行い、撮影へと渡すことになる。

チェックやモデルの管理に関しては、全体を通して『アルペジオ』と比べてモデルの数もシーンも多いこともあり、後述する自社開発した制作管理ツールを使い、モデルの受け渡しからシーン管理、チェックなど全てがここで管理されている。

3DCGの作業を特別扱いするのではなく通常の作画アニメのように扱うには、監督演出を含めて制作も3DCGのことを知っている必要があるが、アニメ業界の制作はどこも入れ替わりが激しく、同じようなレベルで知識を共有することは難しい。それができるのは今までのノウハウの蓄積によるもので、わかっていてもできるものではない。3DCGと作画混合の場合は作画と絡める特別な工程を踏む必要があり、通常の作画工程で3DCGを扱うということがサンジゲンならではのワークフローと言えるだろう。

ワークフロー図

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※工程を一部簡略化して表記しています

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BOOST 02 独自開発による制作管理データベース

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サンジゲン流ワークフロー

本作ではFileMakerを使用し、香盤情報や作業進捗のデータベース化に着手した。スタッフが多くなってきたことでの情報の整理、例えばデータの所在を明確にすることでミスを減らすといった制作管理システムのニーズがあり、現在ではTVシリーズの運用に必要不可欠な存在となっている。

[香盤表]
独自の香盤表で素材と工数を俯瞰する

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アニメーションの映像制作において絵コンテが設計図とするならば、香盤表は設計図から素材や予定工数を割り出した情報を分解した指示表である。本作よりデータベースを使用して制作管理情報をデータ化・みえる化して共有することで、管理フローそのものの進化を図っている。香盤表ではまず制作スタッフが絵コンテからカットの情報を読み解き、1カットずつ登場キャラクターや必要な要素を記入していく。サンジゲンではそれを基にアニメーションディレクターがスタッフの割り振りや工数見積もりといった実務的な処理を加えるという、制作管理の基になる工程だ。従来は表計算ソフトを使用して同じように全部のカットの要素を個別に記入していくケースが多かったが、データベース化することで書式も統一され、複数のスタッフが情報の更新を同時に行える点が大きなメリットになっている

[モデル一覧&モデル詳細]
全体から細部までモデルの状況を把握する

新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)

新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)

モデルの一覧にはキャラクター、プロップ、メカなど種別ごとに登録が可能で、概要と作業工数の見積もり、現在の作業進捗状況がひと目でわかる仕様になっている。細かく項目が分かれているのは、キャラクターモデルを例に挙げてみると、基となるモデルの制作、リギングなどのセットアップ、フェイシャルのパターン作成、パーツごとに作成と、各工程でも並行して作業可能な箇所があるため、別々のスタッフが担当しているケースも多く、細かな進捗の把握が必要になっているのが理由だ。もちろん、発注から予定工数、消費している工数の日数まで自動計算されており、膨大な量のアセットが必要なTVシリーズでは進捗が一度に俯瞰で確認できることも重要な点である。ここから各アセットの情報に紐付いたファイルパスやチェック状況、完成のリリース情報についてマクロからミクロまで深く追跡することもできる点が、データベースによる管理の大きなメリットと言えるだろう

[発注書]
作業発注から進捗管理まで網羅する

新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)

モデリング、アニメーション、全ての工程に関して「作業発注」という段取りを採用していることも特徴のひとつだ。これは社内の作業であっても便宜上「発注」というシステムを使用しており、アニメーションディレクターと制作スタッフが相談して作業を発注し、作業者はその登録されたタスクを受注してステータスを更新していく。もちろん外部のスタッフやプロダクションが参加する場合は制作スタッフが代理としてステータスを更新することで、全ての要素をタスクとしてデータベースに登録し、進捗管理を行うことが可能だ。発注書の中身としては、作業内容はもちろんのこと、参考資料や、担当スタッフの休日予定、チェック担当者の割り当てまで、非常に細かいデータが記載されている。発注したタスクは作業者のPCにポップアップメッセージによって通知され、発注があったことをすぐに確認できるようになっている。また、作業者側は「作業開始」のボタンをクリックすることで進捗記録スタートとなり、データベースに情報が反映されるしくみだ

[チェック&チェックバック]
フィードバックもカバーすることで確実に

新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)

新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)

各工程からのチェックに関しても必ず記載を行うシステムになっているが、これは同一のデータベースに情報を全て上げることによって一覧で管理できるだけでなく、あるときは伝票で、あるときは口頭で、といったフィードバック情報のバラつきで起こる情報の確認漏れを防ぐと共に、同じフォーマットで履歴を重ねていくことでチェックの内容自体の把握を明確化させることが目的になっている。また、アセットだけでなくカット数も膨大になっていくため、アニメーションのチェック工程でもこちらのシステムがフル活用されている。例えば個別のカットのステータスを細かく追うことも可能だが、一覧のページからチェックの内容を記載することも相互に記述することもできる。このデータベース機能によって何百というカットのムービーの閲覧からフィードバックの記載まで、ディレクターや管理側の負担を軽減することが可能になっている

[アップローダー]
データのアップロードはツール経由で効率的に

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チェック用データのやりとりにおいても、チェックする側、される側、管理する側と三者がデータの把握がしやすい方法を採用している。まず、作業は発注情報と香盤情報から最新の該当データを読み込んで行い、チェック段階に入った時点で作業者自らがあらかじめ指定されているチェック担当者に見てもらうデータをアップする。このアップ作業ではファイルパスを自動的に添付してデータも送信できるようになっているため、画像やムービーだけでなく3ds MaxAfter Effectsのデータまで、特定のチェックフォルダに送信することが可能だ。そのタスクを受け取ったチェック担当者も文字ベースのフィードバックだけでなく、あらゆる形式のデータをフィードバックできるようになっている。これはビューアで立ち上げるのではなく、あえて該当データのファイルパスの指定をすることで、必要な情報は文字情報だけでなく「何でもやり取りできる」ようにという、業界ならではの仕様になっているのが特徴だ

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COLUMN
より良いものを生み出すための環境整備

プロジェクト単位での管理情報からスタッフひとりひとりの状況、アセットやアニメーションの進捗状況まで、データベース化したことによるメリットは大きい。表計算ソフトとアナログな情報管理システムだけに頼っていた従来は、どうしても情報の抜けや最新バージョンのデータの所在確認等で管理面でのロスが起こっていた。そこでデータベースに情報を全て移行することで管理負担が軽減され、スタッフ間の意思疎通もしやすくなり、データの差し替え等のミスも格段に減ったという。もちろん、現在進行形で開発継続中であり、高速なデータ転送やコードの軽量化、運用ハードも含め強化を図っているとのことだ。

語弊のある表現かもしれないが、映像業界では決して「派手で目立つ」部分ではないものの、デジタルで何かを運用する場合は当然ながら運営管理もデジタル化して合理化できないと管理コストだけがかかってしまう。それを開発できる環境も重要であり、「オリジナルのツールを開発できる」という資産はデジタルの現場においては非常に強力な武器になる。制作現場とR&D部門が密接な関係を保てているがゆえに地道なベースを構築することができるサンジゲン。無駄な管理コストの圧縮だけでなく、ひいてはスタッフが画づくりにより集中できる環境の提供につながり、デジタルでアニメーションをつくる上での生産性の向上に大きく貢献していると筆者は感じた。

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BOOST 03 新たな制作技法と作画表現

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新たな制作技法と作画表現

本作は過去のサンジゲン作品と比べてキャラクター数も多く、シーンもよく変わり、また武器を持っているなど、制作におけるハードルが格段に上がっている。3DCGのさらなる活用と表現力向上のため、技術的にもいくつもの新しい試みが行われた。その進化した部分について一部紹介しよう。

RLAファイルの活用

本作では通常よりレンダリングのレイヤー数を減らし、キャラクター1体に対してほぼカラーとラインの2種類のみのレイヤー構成となっている。それを可能にしたのがRLAだ。RLAはファイル出力時のフォーマットで3Dにおける要素を多数含められるが、よく使われるZ深度ではなく、本作ではマテリアルIDとオブジェクトIDを使用している。キャラクターをIDで要素分解してレイヤー数を最小にまで減らした上、Z深度を使用しないためレンダリングも軽い。懸念していた目などのテクスチャマスクで色を分けている部分に使えるかテストしたところ、マスクを切っていた瞳のハイライトなども細かくIDで分けられることがわかり、部分的にオブジェクトの一部が発光する場合にはオブジェクトIDを使用、ジャギーの問題についてはアンチエイリアスのプラグインを使用して対応した

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3Dモデルとレンダリング設定

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    セルルック

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    マテリアルID

各ID

豊かな表情づくり

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生き生きとした表情をつくるため、キャラクターの表情には全キャラ個別に約80種類もの3Dモーフが用意されている。それに加えバーテックスの移動やポリゴン編集、FFD変型にレタッチとアレンジを加えることで表情をつくっていく。作成する際は、キャラクター性に合った表情となるように表情集<A>を参考にしながらモーフ<B>を作成。大事なのは、誰がつくっても一定のクオリティを保てる基準となるモーフを最初に作成しておくことだという。当然目パチ口パクもあるが、細かいところでは目はテクスチャでマスクを切って色を付けているため、ハイライトや影なども個別に動かして位置を調整することが可能で、横アングルや顔のアオリに対応できるように鼻と顎にはコントローラが仕込まれている。基本的にはモデルの差し替えなども行わず、特殊な表情として、3Dのライトでは再現できない作画のようなフットライトの影用テクスチャマップも全キャラクター分用意されており、マップの切り替えによって自動でフットライトになるように仕込まれている。<C>はフットライトの影の入り方を指示したもの

線の作画的アレンジ

Pencil+では線に強弱をつける、作画で言う入り抜きの設定をすることができる。しかしサンジゲンはこれだけでは満足せず、3DCGのレンダリングで入り抜きの設定をした線を出力した後に、撮影工程でさらに強弱のメリハリをつけるべく、After Effectsの「チョーク」エフェクトによって2ピクセルほど太らせる処理が加えられた

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    Pencil+入り抜き処理済みの線

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    After Effectsで2ピクセル太らせた線

新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)

撮影処理を施した完成画。なおアップ時にはよりいっそうメリハリを出し、さらにラフエッジなどでの強弱も追加される。この処理によって作画のタッチを再現し、見ている人に印象づけることが可能だ。実際に見てみると、何も処理されてない画像では線の印象が薄く、作画の線のような「強さ」は感じられないが、処理後の画像を見ると入り抜きだけではなく線のかすれ具合も再現されており、その粗さによって作画の線のような雰囲気が感じられる

  • 新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)
  • TVアニメ『ブブキ・ブランキ』

    TOKYO MX / AT-Xほかにて放送中!
    原作:Quadrangle
    監督:小松田大全
    キャラクターデザイン:コザキユースケ
    制作:サンジゲン
    製作:BBKBRNK Partners
    bbkbrnk.com
    ©Quadrangle / BBKBRNK Partners

  • 新しい試みによるオリジナルTVアニメシリーズ『ブブキ・ブランキ』の3DCG(サンジゲン)
  • 月刊CGWORLD + digital video vol.212(2016年4月号)
    第1特集「カメラの基礎知識」
    第2特集「アニメCGブースト」ほか

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:160
    発売日:2016年3月10日
    ASIN:B01AO0ZESI